暗く、カビた空気が漂う――。
ユリはひとり、牢屋に入れられてしまった。
途中までエルシスと一緒だったが、彼は勇者という大罪のため、今日中に死刑にすると兵士が宣告した。
彼女は関係ない!彼女を解放しろ!!――別れる寸前までそう叫んでユリの身を案じてくれたエルシス。
(どうしよう……エルシスが死刑されちゃう……!どうして……。何故、エルシスがこんな目に――)
彼はユリの命の恩人で、優しく穏やかで純朴な青年だ。
そんな彼が『勇者』と名乗っただけで……!!
「……助けなくちゃ……」
エルシスが死刑になる前に。こんな所で落ち込んでいる暇はない――ユリは立ち上がり、鉄格子を衝動的に揺すった。
どうにかここから出る方法を見つけるんだ!
「――おい、何してんだ?」
そんな声が聞こえた気がした。ユリは構わず鉄格子を調べる。
どうにかこの鍵穴をぶち壊して開けられないだろうか。
「落ち着きな。じたばたしてもどうにもならんぜ。…うるさいヤツが来たもんだ」
「…………」
牢に似つかない、若い涼やかな青年の声である。
ユリは暗い中、目を凝らす。
声は反対側の牢の中から聞こえたような気がするが、眼を凝らすも暗くてよく見えない。
「牢屋に入れられたぐらいでオロオロ、ビクビクしやがって。しけた野郎だな」
「……あなたは?」
ユリが声をかけると、青年は驚いたようだ。
「っと、女か。これは失礼」
軽い謝罪が返ってきた。
「で、そのお嬢さんがなにをやらかしたんだ?ここは牢の最下層だ。よほどのことをやらないと、ここまで入れられねぇ」
「知らない。勇者ってだけでいきなり……」
理不尽な出来事に、ぶっきらぼうに答えてしまう。
「うん?なんだって!?ただ勇者と名乗っただけだと!?マジかっ!」
その返答に驚愕の声を上げる青年。驚くのも無理はない。この国は、あの王はおかしい。
「こいつは驚いた!まさか、勇者さまが同じ牢だと……」
続けて青年は何やら呟いてるが、ユリはそれより近づいて来る足音が気になった。
「おまちかねの食事の時間だ。取りに来い」
兵士が青年に食事を運んで来たようだ。
ユリがその様子を眺めていると、いきなり兵士は呻き声と共に床に倒れた。
「!?」
何が起きたのか分からず、呆然とする。青年の手が檻から伸びて、兵士の懐をあさっていると思えば、程なくして向かいの鉄格子の扉がゆっくりと開いた。
「オレの前に勇者が現れるとはな……すべてはあの預言の通りだったってワケか」
(?預言……?)
奪った剣を肩におき、出てきた青年がそう呟きながらユリの牢に近づいてくる。見ると、もう片方の手には鍵束があり、兵士から奪ったらしい。
鉄格子の扉が開いて、青年が中に入ってきた。
「…………」
青年はユリの姿を見て、何やら驚いてるようだった。再びこちらに足を進めてくる。
「?あ、あの…っ」
今度はユリが驚き、後ろにたじろぐ。
ひんやりとした壁の感触が背中に伝わった。
剣を持ってない方の青年の腕がユリの頭の横に付き、その際に鳴った鍵束のチャリ…という音が耳を掠める。
しまった、逃げ場がない。
(ち、近い……!)
すぐ近くに男の顔がある。感じる息遣いの生々しさと、まじまじと見られている視線に、ユリは恥ずかしさに顔を熱くなるのを感じた。
「………へぇ?」
囁かれたような声に、びくっと肩が震える。
気づけば、心臓がドキドキと高鳴っていた。
何かがおかしい。その剣で殺されるかもという恐怖からではない。
――この緊張感はなんだろう。
ユリは意を決して、ゆっくりと視線を上げた。
息を呑む。予想以上に近い距離。
フードの中の暗闇から青い瞳と目が合った。
エルシスよりもっと、深い青い色のような気がする。(例えば、深い海のような……)
綺麗な色だと場違いなことを考えていると、彼は意外にもその瞳を柔らかく細めた。
「まさか、勇者さまがこんなお姫さまのような女の子だったとはな……。俄然やる気が出てきた」
……勇者さま?待って。どうやら勘違いされている。
「いえ、あの……」
「うん?」
「私は勇者じゃなくて……」
「……は?」
勇者はエルシスだ。
そして、その彼に死刑の危機が迫っている。一刻も早く助けなければ、
(エルシスがドラゴンに食べられてしまう……!)
牢屋から脱出できたこの人なら――
「お、お願いします!どうか力を貸してください……っ!」
ユリは目の前の青年に事情を話した。
本当の勇者はエルシスで、死刑を宣告されたこと。
死刑の方法はこのさらに下にある、地下水路に棲みついたドラゴンに食べさせると兵士が言っていたこと。
一緒にいた自分は共犯者としてこの牢に入れられたのだということ。
ユリの話に青年は再び驚いた。
「……話はわかった。即日処刑だけでもありえねえが、ドラゴンに喰わせるなんてまともじゃねえな……。まあ、落ち着け。今日中にって言ってたんだろ?死刑にするにも色々と準備があるはずだ。のんびりしてる暇はないが、猶予はある。焦るのは……――」
そこまで言って、青年は何かに気づいたように振り返る。
「ちょっと待ってろ」そうユリに言い残し、剣を構えて牢屋から出て行った。
「き、貴様はっ!……ぐわっ!」
すぐにそんな声が耳に届き、再び静寂が訪れた。なかなか戻って来ない青年に、ユリは心配になって牢から恐る恐る顔を出す。
「殺してはいない。ただ、しばらく起きないだろうな」
戻ってきた青年は、彼女が何かを言う前にそう言った。
「これ、お前たちの荷物じゃないか?向こうの部屋に置いてあったから、ついでに取り返しておいたぜ」
ありがとうと青年から自分とエルシスの荷物を受け取る。
二人の武器もちゃんとあるようだ。
「この先、手ぶらじゃ危険だからな。武器をちゃんと装備しておくんだ。オレも愛用の短剣を取り返すことができた。こいつがあれば百人力だぜ」
青年は短剣を腰の布に差すと、壁の松明を手に取る。
「さて、勇者さまを悪いドラゴンから助けに行くか。お姫さま、準備ができたら声をかけてくれ」
そう言って彼は自身が入っていた牢屋に入っていく。
ユリは片手剣を腰に、矢筒を背中に、弓を肩にかけた。馴れた手つきになったもの。
準備ができたと青年に声をかけると。
彼は床の敷物をどかし、そこには大人ひとりが通れるぐらいの穴が現れた。
「ずっとこの穴を掘ってたんだ」
「すごい……」
「今日脱獄しようと思っていたが、そんな日にまさか出会うとはな……」
青年はユリの方を向くと、フードの下でにっと笑った。
「どうやらあの預言通り、オレは勇者――エルシスだったか。そいつを助ける運命にあるらしいな」
「……預言って?」
ユリは首を傾げて訊ねる。
「今は詳しく話してる時間はねえだろ?さあユリ、先に降りられるか?」
先ほど教えた名前を呼ばれ、彼女はしっかりと頷いた。
彼から松明を受け取ると。穴の中、背中と足を両壁にくっつけ、ゆっくりと下に降りていく。
穴はそう深くはなく、程なくして地面に足が着いた。
ユリが無事に着地をしたのを確認にすると、青年はすぐに滑るように落ちて来る。
「へぇ、見た目に反して運動神経はいいな。才能あるんじゃねぇか?」
「何の?」
「盗賊」
からかうように言いながら、青年はユリから松明を掠め取った。
前をすたすたと歩く青年に、ユリは慌てて後ろをついて行く。
「行き止まり……?」
松明の灯りが隙間のない壁を浮き上がらせる。
「いや、」
青年はそう言い、ゆっくり手で煉瓦を押した。
煉瓦は下に落ち、出口が生まれる。
どうやらこの先は水路のようだ。
牢屋にいた時より生暖かい湿気が体にまとわりつき、異臭が鼻につく。
ユリは自然と眉をひそめてしまう。
「この水路のどこかに処刑場があるはずだが、自力で探しだすしかねぇ。とりあえず道なりに進むぞ」
今までの無駄のない動きに青年は地理があるのかと思ったが、そうではないらしい。
青年を先頭に早足に水路を進む。
何度目かの角を曲がった時に、水路を挟んで向こうの通路を歩く兵士達と、二人はばっちり視線があってしまった。
「おい、見つけたぞ!こっちだ!」
「くそ!逃げるぞ!」
青年は素早く松明の灯りを消すと、ユリの手を掴み、走り出す。
彼に引かれるまま走り続ける。
ふと後ろを振り返ると、もう追っ手はいないようだ。
距離もあったおかげで上手く撒けたらしい。
「待て、」
急に彼は立ち止まり、ユリはよろけそうになった。
その肩越しから様子を伺う。
(見張りが……)
大きな通りに兵士は一人だけだが、辺りを警戒するように歩いている。
先ほどの兵士達といい、すでにユリ達が脱走したことを知られていると思っていいだろう。
「見つかるとやっかいだ。………いや。ユリ、ここで向こうを見張っておいてくれ」
「え?あっ……」
青年はそう言い残し、ユリが何か言う前にさっさと行ってしまった。
残されたユリは仕方なく言われた通りに見張りをする。
そういえば名前、まだ聞いてなかったな――咄嗟に呼ぼうとして、彼の名前を知らないことに気がついた。
(あとで教えてくれるかな……?)
「――動くな」
青年はユリと別れた後、忍び足で兵士の背後を取り、兵士の首筋に愛用の剣を突き立てた。
「……ッ!貴様は、」
まさかと兵士は息を呑んだ。
ちょうど鉄仮面と鎧の僅かな首の隙間に短剣の刃が滑り込んでおり、ひんやりとした冷たい感触に身震いする。
一瞬で僅かな急所を突くとはこの男はいったい……、
「大人しくオレの質問に答えてくれればいい。オレもムダな殺しはしたくねえ。ああ、でもあんたが暴れたら躊躇はしねえから覚えておいてくれ。躊躇してたら盗賊業はできねぇからな」
まだ若い声色なのに、つらつらと出る言葉は本気だと分かった。いくら国に身を捧げる兵士でも、死にたくはないものだ。
兵士は静かに口を開いた。
「……何が知りたい」
「勇者の処刑場はどこだ」
「!?まさか、助けるつもりかよ…」
「なあ、誰が質問以外を答えろと言ったんだ」
兵士の首の皮膚にちくりと痛みが走る。
兵士は恐怖に駆られた。
「こ、ここから進んだ所に大きな橋があるっそこを渡れば地下に続く階段があるから、降りれば後は道なりにいけばわかるはずだ……!」
「なるほど。処刑時刻は?」
「……今からちょうど一時間後と聞いた」
一時間後……ぎり間に合うか。
「情報提供、ご苦労さん」
知りたい情報を得ると、青年は兵士を気絶させ、ついでに火のついた松明を奪ってユリの元へ戻る。
「待たせたな。処刑場の場所が分かった。行くぞ」
「え、どうやって!?」
「企業秘密」
軽くあしらわれながら、ユリは青年の背中を追う。
「あの橋を渡るぞ――っ追っ手か!」
「後ろからも……!」
前と後ろ、ちょうど橋の上で二人は挟まれる。
「ちっ……しつこいヤツらだ……」
戦うしか――そう二人が覚悟した時、足元から不吉な音が耳に届いた。
「なんかミシミシ言ってる……?」
「おいおい、マジか……」
橋が崩れ落ちたのは一瞬だった。
「きゃああぁぁーーっっ!!」「うわああああーーっっ!!」
二人の悲鳴が水路に木霊する。
心構えも何も出来ず、ユリと青年、兵士も含めて全員落下した。
幸運だったのは、二人が落ちたのは水中であったこと――泥臭い水の中、ユリは青年に支えられ、地面に這い上がる。
「無事か?」
「なん、とか……」
ユリはよろよろと立ち上がり、水を吸い込んで重くなった服の裾を絞った。
「おかげで兵士達を振りきれたな」
ついでに下に降りる手間も省けたってわけか――続けて青年はそう言い、苦笑いを浮かべる。
「急ぐぞ。処刑の時刻が迫っている」
「うん!!」
重い体に鞭を打ち、二人は再び走り出す。
「エルシス――!!」
処刑場はすぐに分かった。
円形で巣のように開かれた場所。
天井からエルシスがロープで吊らされているのが見えた瞬間、ユリは走りながら彼の名を叫んだ。
「はっ!…ユリ!?」
エルシスもユリに気づいて驚きに声を上げた。もがくも両手ごとぐるぐるにロープで縛られ、どうにもならない。
そんな無防備なエルシスに、悠々とゆっくりした足取りで近づくのは、黒い鱗で全身覆われた巨大なドラゴン。
急がないと、鋭い牙が覗く大きな口にエルシスは丸呑みにされてしまう……!
「っく!間に合うのかっ!?」
走りながら青年が苦々しく叫んだ。
――いや、間に合わない。
全速力で走ったところで距離がある。
その間に勇者は喰われてしまうだろう。(くそっ何か方法は……!!)
その時――ユリがその場に立ち止まった。
背中に背負った矢筒から、取り出すのは一本の矢。
「!……おいおい、まさか」
真っ直ぐに弓を構える彼女に、青年は目を見開く。
まさか、この距離であのロープを矢で断ち切るつもりか。
きりきりと弦が張りつめている。
彼女は本気だ。強い集中力が青年にも伝わる。
なら――青年は再び走り出した。
同時に、ユリも矢を放つ。
(私が、エルシスを助ける――!!)
思いを乗せて、真っ直ぐに。
彗星のように放たれた矢は、エルシスのロープを裂く。
落ちるエルシスに、寸前で喰らおうとしたドラゴンの口は見事に空を噛み締めた。
「っぐ!」
だが、受け身を取れず、彼は地面に叩きつけられた。
そして、間一髪ドラゴンの口から逃れたものの、代わりにドラゴンの大きな足が踏みつけようと――
「エルシスーー!!」
ユリが悲痛に叫んだ。
その場にどしんッと地鳴りが響く。
「っ…間一髪、てかっ?」
そこに滑り込んだ青年によって、ぎりぎりにエルシスは救出されていた。
青年はすぐさま短剣でエルシスを縛っていた縄を切り、解放する。
「君はっ……?」
「話しは後だ!立てるな?まともに戦って勝てる相手じゃない!さっさと逃げるぞ!」
青年に背中を強引に押され、足がもつれながらもエルシスは駆け出す。
獲物が寸前で逃げたせいか、雄叫びを上げ、ドラゴンは怒り狂ってるようだ。
背後からの凄まじい咆哮に二人の身体はすくみ、膝をつく。
「エルシス!」
ユリは何とか逃げる隙を作ろうと矢を放つが、ドラゴンの強靭な鱗によってダメージを与えられない。
「ユリ、逃げるぞ!」
三人は走り出し――すぐに足が止まる。
段差にしては高く、崖にしては低いそれに、一旦三人は立ち止まった。
「飛び降りるぞ」
二人の顔を交互に見て、青年はそう言った。
確かに、先ほど落ちた橋よりはどうってことない。
ユリは頷き、エルシスも同意した。
三人は同時に跳ぶ――
綺麗に着地をした二人と比べて、ユリは足がよろけ、地面に両手をついた。
「ユリ、大丈夫か!?」
すぐさま彼女に駆け寄るエルシス。
「なんとか……」
ユリは苦笑いを浮かべる。足に少し痛みが走ったが、異常はなさそうだ。
「エルシス。私、結構タフみたい」
そう、新しい自分に気づいたと。
その言葉にエルシスはふっと笑みを浮かべて、ユリの手を掴み彼女の体を引き上げた。
そして改めるように、ユリと青年を見る。
「二人とも、助けてくれてありがとう」
ユリは大したことないと首を横に振り、青年はフードの下から歯を見せて笑った。
「間一髪だったな。さすがにここまでは……」
言いかけた言葉は咆哮に遮られる。
ドラゴンは軽々と飛び降り、追いかけてきた。
「チッ!しつこいヤツだ!逃げるぞ!」
再び三人は走り出す。
前方の岩に、大人一人が入れる隙間。
三人はそこに逃げ込み、それぞれ左右に腰を降ろす。
「……行ったか。ふう。危ねえ危ねえ。なんとか振りきったな」
反対側で青年が息を切らし、ユリとエルシスも同じように肩で息をしていた。
「しかし、なんだってドラゴンが城の地下にいるんだ……」
「兵士達は勝手に住み着いたって言ってたけど……」
エルシスは呟くように答えた。
「勝手に?なんか怪しいが……、とにかく先を急ごうぜ」
「早くここを抜け出したい…――!?」
背後から再び聞こえた咆哮に、驚き振り返る三人の目に映るのは。
「なんだ!?」
「まずいっ……逃げよう!!」
ドラゴンの肺から噴き出された灼熱の炎。
今まさに迫りくるそれに、三人は悲鳴を上げて全速力で逃げた。
「助かったか……。やれやれこんな所にいたら命がいくつあっても足りねえ」
「さすがに……もう追っては来ないよな?」
「私……もう走れないかも……」
それぞれ地面に座り込む。
さすがにくたくただった。
少し休憩したい――ユリがそう思った矢先、今度は兵士の声が響く。
「見つけたぞ!悪魔の子だ!」
「おいおい!マジかよ!逃げるぞ、ユリ!エルシス!」
「もう…っ、走れないって……言ったのに……!」
「大丈夫だユリ!走れてるから!!」
三人が走る先に光が見える。
出口だ――眩しい光に、ユリは手をかざす。
やっとここから抜け出せる!
「やられたな……」
やっと外に出られたと思ったら、抜けた先は行き止まりだった。
遥か下は川が流れており、そこは滝壺である。
「いたぞ!この先だ!」
「くそ!もう追っ手がっ!」
カミュが振り返って叫んだ。
多数の兵士が詰め寄せて来る。
「追い詰められたのか……?」
エルシスが苦々しく呟いた。
「た…戦う?」
ユリは腰の片手剣に触れる。
まだ剣術はなれないが、そうも言ってられない。
「勝てるか?多勢に無勢。しかもオレ達は万全な状態じゃない」
青年はそう言って、ユリとエルシスに向き合う。
「よく聞くんだ。ここで捕まったら今度こそ三人とも終わりだ……」
そして、意味深に後ろの崖をちらりと見る。
理解したのか、エルシスが「あぁ」と重々しく頷いた。
「……え、まさか」
そのまさかだ。二人はここから飛び降りる気だ。確かに下は滝壺で、上手くいけば橋から落ちた時のように助かるかも知れない。
だが、あの時よりも高さが何倍も違う。
「行くぞ。エルシス、オレは信じるぜ。勇者の奇跡ってヤツを……」
「……なら、今度は僕が君たちを守る」
いつの間にかできた二人の友情に挟ま れ、ユリは一人オロオロする。
何故か本能的に高所から飛び降りるのに恐怖がある。
もしかしたら自分は落ちて記憶を失ったのかも知れない。
どこからどう落ちてかは分からないが。
「おいキサマら!何をするつもりだ!?」
(あ…………)
兵士の叫ぶ声がどこか遠くのよう。
ユリとエルシスは、今、目を奪われている。
目の前にいる青年に――目深に被っていたフードを取り去る仕草から。
深い青い瞳と同色の青い鮮やかな髪。
隠しきれてなかった露になった端整な顔立ちが、二人に笑みを浮かべる。
「オレの名前はカミュ。二人とも、覚えておいてくれよな」
カミュ、カミュ……教えて貰った名前を頭の中で反復する。
今度は忘れないように――。
「えっ、なに?」ユリは突然、カミュに腰を引き寄せられた。
「ひとりで落ちるのが怖いんだろ?掴まえといてやる」
「いや、そうじゃなくてそうかもだけど……っ!」
「行こう、カミュ!!」
「まっまだ心の準備がああぁぁーーっっ!!」
三人の絶叫が空に響く。
長すぎる落下に、ユリは意識を飛ばした。
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勇者死刑展開は、何故あんな所にドラゴンが?から生まれました。
あと実際なら速攻処分しそうだなと。
そして冒頭にしてカミュ名シーン。