さて……どうするか。
カミュはベッドに座ると足を組み、先ほどベロニカに言われたことを思い出していた。
(こういうことはないようにって言われても、エルシスだって男だしな。……田舎育ちの純朴青年だと思ってたら、なかなかやるじゃねえか)
「なあ、カミュ。さっきのことなんだけど……」
カミュが何か言う前に、エルシスから口を開いて来た。
「ぱふぱふしただけで、ベロニカとセーニャが怒ってたんだ……」
「……まあ、そういう反応になるだろうな」
「何も言わず、勝手にマッサージしちゃったのがそんなにまずかっただろうか……」
………………………………。
「ちょっと待て。マッサージ!?」
カミュは自分の耳を疑った。(この田舎育ちの純朴青年がぱふぱふに…、さらにはマッサージだって!?)
「うん、マッサージ。とっても気持ち良かったよ」
「……………………………」
清々しいスッキリした笑顔を見せるエルシスに、さすがのカミュも動揺した。
(どこまでしたんだ、こいつは……。いや、このスッキリした顔は……おいおい、マジか!)
「一応、聞くが……お前、最後までしたのか……?」
「最後まで……?うん、最後までほぐしてくれたよ」
「……なんだって?」
カミュは驚愕した。いきなりエルシスが自分の知らない男に見える。(最後までほぐすとはどういうことだ……?そんなマニアックな淫語、オレだって知らねえぞ……)
「あのお父さん、上手でびっくりしたよ」
「お、お、お父さんんん………!?」
相手はまさかの……!?
カミュは頭に大樹が落ちてきたようにショックを受けた。なんということだ!
(ベロニカ、すまない……オレがついていればこんなことにはならなかったのに……!!変なプレイまで強要されて……オレたちの勇者はっ……!)
「カミュ?おーい、大丈夫ー?……………あ、戻ってきた」
「……おい。お前にそんなことをしたのはどこのどいつだ……?」
「え?君、今度は目が怖いんだけど。まるで暗殺者みたいだよ。なんか、言葉のチョイスもおかしいけど……。カミュ、そんなに肩凝りがひどかったの?」
……………………………。
「………は、」
「だから、肩凝り。さっき首ごきごきやってただろ?あのお父さん、肩もみのマッサージがすごく上手くてさ。僕の肩凝りすっかり良くなったんだ」
「……………………………」
肩もみかよッ――!――!――!?
「え、カミュ今度はどうした?腰に手をあてながらもう片手は目を覆って天を仰いじゃって。大盗賊バージョン?」
「………恥ずかしい呪い」
壮大な勘違いをした自分にカミュは恥じた。
いや、辿れば紛らわしい言い方をしたエルシスが悪いのだが。そこを攻めればカミュが勘違いしたことを認めることになり、何を勘違いしたか聞かれることにもなる。
やめてくれ、オレのHPはもう0だ。
「……ところで。お前、ぱふぱふは何か分かるか?」
力尽きる前にカミュにはやっておかねばならないことがある。
この先のことを考え、エルシスの認識を正すことだ。
別にそのままでも良いかと思ったが、この先ぱふぱふに会った時にマッサージ(健全)だと思い、エルシスがぱふぱふしてしまったら、ベロニカの炎が自分に襲いかかるだろう。
エルシスがぱふぱふの本来の意味を知り、ぱふぱふに興味をもったとしても、せめてぱふぱふをするには、女性陣に隠れてぱふぱふしてもらいたい。
そのためにも、正しい世のぱふぱふの意味を知ってもらえねばならない。(……?ぱふぱふの単語が頭に浮かび過ぎてワケわかんねぇ!)
「肩もみのマッサージだろ?ぱふぱふ、うぷぷぷぷって」
カミュがぱふぱふのゲシュタルト崩壊を起こしていると、エルシスから予想通りの答えが返って来た。
いや、予想通りではない。(??肩もみでぱふぱふも分からんが、うぷぷぷぷはもはやなんだ!?笑い声なのか!?擬音なのか!!)
カミュは深呼吸をすると、落ち着いて。
エルシスに、ぱふぱふとはなんたるかを説明する。
「……エルシス。ぱふぱふの本来の意味はな?……女の……で……したり……時には…それで……だったりも………いや、オレは違うぞ?……──が、本来の一般的なぱふぱふだ」
カミュによる一般的な世の常識のぱふぱふをエルシスは知って、デインが直撃したような衝撃を受けた。
「〜〜〜ッ!!」
今度はエルシスが顔を手で覆い、頭を下げて落ち込む番だった。
「恥ずかしい呪いがッ!」
「ああ、分かるぜ……その気持ち」
「カミュ、助けて。ベロニカもセーニャも超誤解をしている。僕がしたのは健全な肩もみなのに」
「そうだな。だが、オレはもうそんな気力がねえ。自分で誤解を解いてくれ」
「そんなぁ」
「そもそも、お前はどこまで知識を持ってるんだ……?」
それはカミュの純粋な疑問だった。
この純朴青年にはどこまでムフフがあるのか。
エルシスは困ったように答える。
「いくら僕が田舎育ちだからって、一般的な知識ぐらいはあるよ……たぶん。認めるのは癪だけど、いくら女顔でも僕だって健全な男だ」
最後は力強く真っ直ぐに言ったエルシスに、カミュは「それを聞いて安心した」と答えた。
変にムフフが無さすぎてもそれはそれで心配だし、あり過ぎてもそれはそれで厄介だ。
何事もさじ加減が大切なのだ。
(英雄、色を好むという言葉があるぐらいだから、勇者のこいつをちょっと心配しちまったぜ)
「……そうだな、たとえば」
「たとえば……?」
「つい先日、オアシスでユリの服がぴったりした姿を見て、これが巷で噂のラッキースケベか!って喜ぶぐらいの」
「……リアルだな。じつに健全だ。合格」
カミュに親指を立てられ、無事に何かに合格を果たしたエルシスだったが、これからベロニカとセーニャの誤解を解かなければならない。
頭を抱えて、う〜んう〜んとどう説明するか考えるエルシスを横目に。
いざとなったら仕方ねえ、助けてやるかと考えながらカミュは先にシャワーを浴びることにした。
できることならば、あらぬ誤解をした自身の心の汚れを洗い流したい。(紛らわしい言い方をされたとはいえ)
冷たい水をカミュは頭からかぶると、少しスッキリした気がした。