「ボウッ!ボウガンとは愛。ガンッ!」
――夜までの空いた時間。
サボテンボール狩りをすることになった一行は、サマディー城と城下町を繋ぐ大橋の上を歩いていた。
その途中、謎の口癖と共に声をかけられたのはユリだった。
「私はボウガンだ・い・す・き……ボウガンマスターユミルだ。ボウッ!何故、そなたは弓を扱うのだ?ボウガンは素晴らしいのに」
フードを被った大男はユミルと名のり、そう彼女に尋ねる。
「……弓を、持っていたから」
ユリはその問いに真面目に答えた。
なんだ、その「そこに山があるから」みたいな返答は――と。
エルシス、カミュ、ベロニカは思ったが、ユリの返答はなんら間違ってはいない。
「なんと……深い言葉……」
彼は感銘を受けたらしい。
「そなたは弓の名手とみた……。ぜひ、私とボウガンで勝負してくれないか?」
いきなりの対戦の申し込みだった。ユリが戸惑っていると、代わりにカミュが答える。
「おい、オッサン。勝手なこと言ってんじゃねえ。こいつに危険な目にあわせられるか」
その言葉に、ベロニカとセーニャも同意と頷く。
「うん、ユリを危険な目には……」
エルシスの言葉に「危険な目にはあわせぬ……」とユミルは答え、どういう勝負をするかを説明し始めた。
彼の弟子たちが的を不規則に上げるので、それをボウガンと弓で打ち合い、どちらが多く当てたかで競うというものだという。
自分に勝ったら各種『まほうのたね』をくれるらしい。
それなら……と、ユリも皆も了承し、街の外へ出た。
場所はオアシスの一角だ。
「彼らが私の弟子たちだ。ここからあそこまでの間で、彼らはこの的を自由に上げるから、上がった的をどちらが早く…多く…打てるか……勝負してくれ」
ユミルは弟子のリリーパットたちを紹介した。
男と似たような格好をしている魔物だが、今はつっこみたいところはそこではない。
ボウガンの弟子なのに、リリーパットの手に持ってる武器は、どう見ても弓である。
だが、きっとつっこんではいけない気がすると、エルシス、カミュ、ベロニカの三人は口を閉じた。
「ユリさま、頑張ってください!」
なんとも言えない顔をしている三人の横で、セーニャがユリにエールを送った。
「ありがとう、セーニャ!頑張るねっ」
それに笑顔で応えるユリと、あの二人の間だけ、砂漠でも花が咲いてるようだとエルシスは思う。
「ユリ、頑張れ!」
「お前の弓の腕は相当なものだと思うぜ」
「アンタなら勝てるわ!」
三人の応援に、彼女はにこりと笑顔で応えると……弓を構え、合図を待つ。
「スタート!!」
リリーパットの一人が言った。次々と的が上がる中で、ユミルは的確に上がった的を当てていく。
ボウガンの長所は弦を引く溜めがないことと、力がいらないことだ。
ユミルは片手で次々と矢を当てていく中、ユリは弓を引き絞り、狙いを定めて一つずつ確実に当てていく。
素早さでは圧倒的に弓が不利だった。
「ユリさま……」
祈るように両手を握るセーニャに「大丈夫だ」とカミュが言った。
「ユリは弓の名手だからね」
続けて、自信満々にエルシスも言う。彼女の弓には何度も助けられてきた。
思えば、デルカダール地下でドラゴンに食べられそうになったときが最初のきっかけだ。
それからどんどん腕が磨かれ、彼女には弓の弱点を補える技術があった。
同時に的が上げられると、三本の矢を取り、放つ――!
三本打ちで一気に三点を取った。
「やったわ!」
ガッツポーズをするベロニカ。勝負の行方は――
「ボウッ!負けてしまったが、素晴らしかった……そなたの弓の技術。これは受け取ってくれ。ガンッ!」
ユリはユミルから各種"まほうのたね"を受け取った。
「気が向いたらボウガンも使ってみてくれ……ボウガンとは愛」
そう最後に言い残し、彼は去っていた。
結局なんだったんだろうと疑問に思うが、貴重なまほうのたねが手に入ったので良しとしよう。
リリーパットがひとり、ユリに弟子入りしたそうにしていたが、彼女は丁重にお断りしていた。
「――じゃあ、改めて!ゴールドサボテンを倒し、サボテンゴールドを手に入れるため、サボテンボール狩りにいざ!」
「……うん。ゴールドサボテンとサボテンゴールドが逆だね、ユリ」
「ややこしいわね!」
「ふふ。ユリさま、気合い入ってますわね」
「っくく……全然改めてねぇな」
「……。じゃあ、改めて。サボテンゴールドを倒し、ゴールドサボテンを……」
飛び武器対決もユリの勝利で終わり。
一行は本来の目的を果たすべく、サボテンを目印に砂漠の道を進む。
サボテンボールはサボテンに擬態してることが多いからだ。
「サボテンボールだ!みんな、トゲに注意して!」
エルシスはそう声かけをし、サボテンボール狩りを始める。
「かえん切り!」
片手剣を装備したカミュは一番に切り込む。植物系なので炎はよく効いた。
エルシスも同じくかえん切りを繰り出す。
そこにユリの剣での通常攻撃、ベロニカがメラ、セーニャがバギを唱えれば、二体のサボテンボールは倒れた。
「この感じで、サボテンゴールドが出るまで頑張ろう!」
エルシスの言葉にカミュ以外が「おー!」と元気よく返事をした。
順調にサボテンボールを発見し、狩りを行う中、
「……私もかえん切りを使いたいのに、全然覚えない……」
自分の剣を見ながらユリはぽつりと呟く。
その言葉にベロニカが「もしかして……」考えながら口を開いた。
「ユリはヒャドが得意そうだし、魔力が氷属性だからじゃない?」
「魔力に氷属性とかあるの?」
エルシスが驚いて彼女に聞いた。
「ええ、体質みたいなものね。エルシスは炎系の魔法を覚えているでしょ?だから反対の属性の氷魔法は覚えない、もしくは覚えにくいはずよ。……ま、あたしぐらいの大魔法使いになれば、どっちの魔法も使えるけどね」
最後は得意気にベロニカは鼻を鳴らして言った。それでも本来、彼女は炎系の魔法の方が得意らしい。
「へぇ……オレらは炎属性なのか」
「だな」
カミュとエルシスは顔を見合わせる。
「じゃあ……逆に氷でかえん切りみたいなこと、できるかな?」
「たぶん……剣に氷の魔力をまとえば良いのよ」
ベロニカの言葉にユリはぱあぁと顔を明るくさせる。
「やってみる!ありがとう、師匠!さすがね」
「ユリさまならきっと成功できますわ」
喜ぶユリは早く試してみたいと、サボテンボールを探した。
「ユリ、サボテンボールだ!」
エルシスに呼ばれて、さっそくユリは皆にフォローされながら、魔法剣の開発を試みる。(この間、氷の魔力を手にまとった感覚で……)
「ヒャド切り!」
氷をまとった剣をサボテンボールに降り下ろすと、切り裂いた部分から凍りついていった。
「やったじゃない!」
ベロニカの喜ぶ声が響く。
「できた……!」
剣を見ながら喜ぶユリだったが、油断したところに、もう一体のサボテンボールから体当たりをかまされ痛い思いをした。
「大丈夫ですか!?ユリさま、トゲが刺さらなくてよかったですわ」
すぐにセーニャがホイミを唱える。
「油断禁物だぞ!」
カミュはユリに注意しながら、見飽きた魔物に切りかかった。短剣なら間合いが短いが、剣ならリーチもあり、トゲも心配ない。
エルシス、ベロニカの攻撃もあり、サボテンボールたちは倒れた。
「は……これで15体目だぞ……。いつになったらサボテンゴールドとやらは出てくるんだ……」
カミュは息を吐きながら言った。
サボテンボールはその身体にトゲを持つため、攻撃力が高い。
ホイミで対処できる傷ではあるが……痛いわ転がる攻撃のローリングアタックは厄介だわで、最初に思ったよりなかなか骨の折れる魔物だった。
「はい、カミュ」
エルシスから渡された水をカミュは受け取る。
「次こそは出てくるかも……」
ユリの言葉に「さっきも聞いた、その言葉……」と、カミュは項垂れた。
「……!ちょっと、あれじゃない!?あの金ピカの!」
ベロニカが指差し、叫ぶ。
大きなサボテンの後ろから、こちらの様子を伺うようにひょっこり覗いている魔物がいる。
本人は隠れているつもりだろうが、身体が金ピカなため、めちゃくちゃ目立っていた。
「逃がすかオラアァーー!!」
気づかれたと逃げ出すサボテンゴールドを、カミュが素早く追いかける。
ここでヤツを逃してまた一からサボテンボール狩りはごめんだと、カミュの走りには鬼気迫るものがある。
テケテケと走るサボテンゴールドは、逃げ切れないと悟ったのか……
「「!?」」
いきなり振り返ると、ぎゅるんと身体を高速回転させ、彼らに襲いかかってきた。
「うおっ!」
土埃が舞う勢いで転がる魔物を、カミュは持ち前の反射神経で横に飛び退いて避けたが、サボテンゴールドはそのまま後ろの四人も襲う。
「うええ!?」なんとかユリは避けて「くっ!」エルシスは剣で弾き返した。
だが、意思を持って転がるサボテンゴールドは、ベロニカとセーニャにローリングアタックをかます。
二人の悲鳴がその場に響いた。
「ベロニカ!セーニャ!」
エルシスが慌てて二人の名を呼ぶ。痛みに呻きながら倒れている二人を見て、エルシスとユリはそれぞれホイミを唱えた。
「っ……ありがとね。やられたわ……。あいつサボテンボールより強いみたい……」
癒やしの光に包まれ、ベロニカは顔をしかめながら起き上がろうとする。
「ありがとうございます……もう、大丈夫ですわ。あとは私が回復を……。お二人は攻撃に専念してください」
最後の言葉を、普段大人しいセーニャはサボテンゴールドを睨みながら言った。青いオーラを放ち、彼女はゾーンに入る。
「まかせてくれ!」
「すぐに倒すから……!」
セーニャの言葉を受け、エルシスとユリもサボテンゴールドにキっと向き合った。
先ほどの逃げの体勢とは一転。
サボテンゴールドは戦う気満々でこちらの様子を窺っている。
「ベロニカ、セーニャ!大丈夫か!?」
走って二人の方へ戻ってきたのはカミュだ。
「ええ……なんとか大丈夫よ。アンタたち頼んだわね!あたしも魔法を唱えるわ!」
「無理すんなよ」と、カミュは傷ついたベロニカに言うと、エルシスとユリと共に、
三人はサボテンゴールドに駆け出す――!
サボテンゴールドは三人の攻撃を避けるように高く飛び上がった。
「……っ」眩しい……!!
思わず見上げた三人は目を眩ませる。魔物の金色の身体が、西日の光を反射しているのだ。
サボテンゴールドは、そのまま宙でぎゅるぎゅると回転し、トゲを尖らせ、地上の三人に向かってトゲを放った。
「くッ」
「うぁっ!」
「ちっ!」
まるで肌を切り裂く雨だ。エルシスは剣、ユリは腕で防御し、カミュは避けようとするが、確実に攻撃は当たり、血が滲む。
「ヤロウ……」
カミュは剣を構える。短剣なら少なくとも弾き返せる自信があったが、剣術はまだまだだ。
逆に剣でやり過ごしたエルシスは二人よりは傷が少ない。
傷が多いユリだったが、ゾーンで回復魔力が上がったセーニャのホイミが彼女を癒やした。
「カミュ!」
エルシスが落ちてきたサボテンゴールドより高く飛び上がり、上から叩き落とすように剣を降り下ろす。
「おう!」
落ちてきたサボテンゴールドを下からカミュが迎え撃つ。変型的なシャドウアタックも、二人は息ぴったりに成功させた。
「ヒャド切り!!」
叩きつけられたところを、ユリの新しく覚えた剣技が追撃する。
「さっきの恨み……倍にして返してあげるわよ!!」
セーニャ同様にゾーンに入ったベロニカのメラが、吹っ飛ばされ、地面に仰向けに倒れているサボテンゴールドを襲う。
ゾーンにより魔力が上がったメラだ。魔物に大ダメージを与えた。
「よし、虫の息だ。次の一撃で仕留めるぞ。早く休みたいんだ、オレは」
カミュの言葉に三人は同時にサボテンゴールドに向かって走る。
誰が最初に攻撃しても、きっと倒せるだろう。
そのとき、サボテンゴールドは一体どこに持っていたのか、男性用の下着を二枚、取り出した。
…………は?
これには全員唖然とし、三人の足がピタリと止まる。
いわゆる青と白の縦じまのステテコパンツだ。エルシスはテオが穿いていたのを思い出した。そして、自分も昔は穿いていたことを思い出してちょっぴり恥ずかしくなった。
サボテンゴールドはこれを振りながら奇妙な躍りを踊る。
(……なんだ!?……この踊りはっ……!)
エルシスが警戒するのも束の間、その場にいきなりドっと笑いが起きた。「!?」
「あははっ!」
「もうやめてよー!!」
「腹がいてぇ!」
「うふふふっ!」
「みんななんでそんなに笑ってるの!?」
お腹を抱えて笑う四人。
何故、そんなにおかしいのかエルシスにはわからない。しばらくして、これがサボテンゴールドの状態異常系の攻撃だと分かった。
彼らはずっと笑っているからだ。
どうやら、たまたま自分だけがかからなかったらしい。
「……」
楽しげに笑う四人をよそに、エルシスは無言でサボテンゴールドにかえん切りを振り落とし、静かにとどめを刺した。
「ぜえ…ぜえ……、笑い過ぎて……死ぬかと思った……」
「……はあ……無駄な体力……使わせやがって……」
ユリとカミュが地面に座り込みながら、苦しそうに言った。双子も似たようにぐったりしている。
あれは『ステテコダンス』と言って、
成功すると強制的に1ターン笑わすという技らしい。
苦しそうな四人を見て、恐ろしい技だとエルシスは悟った。
「でも、これでゴールドサボテンは手に入ったわね。さっそく酒場のマスターに渡しに行きましょう」
「その後は夜まで時間がまだ少しありますし、皆さまゆっくり休みましょう」
無理は禁物ですわ、とベロニカに続いて言ったセーニャの言葉に、エルシスはこくりと頷いた。
「やあ、お客さんじゃないか。うちにカオを出したってことは、ゴールドサボテンが手に入ったのかい?」
サマディー城下町に一行は戻り、イカしたマスターに、エルシスはゴールドサボテンを渡した。
大きく、その名の通り金色に輝く立派な丸いサボテンだ。
「こ……これがゴールドサボテンか!すごいな、普通のサボテンとはツヤが違う!厚みもあって、食べごたえがありそうだ!」
イカしたマスターは大喜びで受けとる。
「とりあえず生でひとクチ……。ふむふむ、この糸引くようなねばり気も、舌を刺すような酸味もすばらしい!よしよし、これなら考えてた通りの最高のサボテンステーキが作れそうだ!」
その言葉に「最高のステーキ!」と、ユリも喜んだ。
「ありがとうよ、お客さんたち!おかげで良い料理が完成できそうだ。夜になったらまた食べに来てくれ。ご馳走するよ。あと、こっちもお礼に持っててくれ」
エルシスは『みかわしのカード』を受け取る。
「サボテンゴールドみたいな転生モンスターは他にもいるからな。目撃情報を集めて、戦いの経験を積みながら探してみると良いさ」
イカしたマスターの最後の言葉に、彼らは「もうこりごり」と言うように、そろって苦笑いを浮かべた。