ファーリス杯・後編

「えー……。本日はお日柄もよく……」

 そうサマディー王の挨拶が始まったが、エルシスの耳には届かなかった。

「キャーーーッ!!ファーリスさまが来たわよー!!」

 沸き起こる歓声という歓声が、かき消したからだ。

 トランペットが鳴り響き、色とりどりの紙吹雪が舞うなか、ファーリス――エルシスが入場する。

「ファーリスさまーーー!!」
「キャーーーッ!!かっこいいーーー!!」

 その声は老若男女問わず、皆がエルシスに向かって叫ぶ。

 エルシスはその光景を兜の隙間から見渡し、驚きに満ちていた。(ユリたちはどこにいるだろう……)

 特別席にいると言ったが……すると四人はすぐに見つかった。
 エルシスに扮したファーリスの姿も一緒だ。

 声は聞こえないが、彼らの身ぶり手振りの様子に、応援してくれてるのが分かる。
 エルシスは力をもらったように感じた。

 そこからさらに上に視線を向けると、そこは王と王妃の特別観覧席が目に入る。(サマディー王と王妃………)

 視線に気づいた王が、深く頷く。

「すごい歓声じゃない。さすがは騎士の国の王子さまね」

 声をかけられ、エルシスは振り返った。
 後ろから派手な装飾の馬に乗った騎手が近づいて来る。

 彼には見覚えがあった。

 昨日のサーカスの華麗なパフォーマンスを見せた、流浪の旅芸人――

「アタシ、シルビアっていうの。騎士のひとりが怪我しちゃって、代わりに参加することになったのよ〜」
(まさか、この人とは………)
「王子さまだって、手加減しないわ。正々堂々勝負しましょうね」

 驚くエルシスをよそに、シルビアはすっと馬を前に進める。(意外だったな……)

 実力はいかほどか未知数だが、相手が誰だろうとエルシスは負けるわけにはいかない。

 先に行くシルビアを追いかけるように、エルシスもスタートラインにつく。
 司会の言葉やトランペットが開始の音楽を奏でるが、その耳には入らない。

 深く集中し、目の前の旗だけを見る。
 降ろされたと同時に走れ。

「3、」
 カウントが始まると、エルシスは踵を馬の腹につける。
「2、」
 まだだ。きゃくの合図に走り出したい馬を手綱を強く引き、押さえる。
「1、」

 その瞬間、エルシスは手綱を一気に緩ませた――!!

 旗が降ろされると同時に、馬は駆けるというよりもはや矢のように飛び出す。

「王子がスタートダッシュを決めたあぁぁぁ!!」

 観客からどっと大歓声が湧くなか、エルシスたちは先頭を突っ走る。

 いける――そう思った瞬間、横から猛スピードでド派手な馬に追い抜かされた。……は……。

「お先〜♪」

 通り抜ける瞬間、そんな声が鼻歌混じりに聞こえたような気がする。
 気のせいか、空耳か、そんなことはどうでもいい。

(マジかーーー!?ありえねえ!!)

 相棒の口癖が移っただけでなく、口調までも乗り移ったようだ。

(どんだけの加速だっ!)

 エルシスは馬に合図を送り、こっちもさらに加速させ、後を追う。
 ペース配分などあるが、今は彼を野放しにできない。
 そのまま距離を離される可能性がある。

 前方姿勢を保ち、細かな手綱加減で調整しながら、ぐねぐねしたコースをなるべく直線で走る。

 前を走るシルビアたちが、まるでこちらにお手本を見せつけるようにそう走っていた。…今に追い越してやる。

 何度目かのカーブが見えてきた。
 少し強引だが、やれるか?いや、やれるかじゃなくやるのだ。

 エルシスは手綱操作だけでなく、重心を内側に移動させ、馬を壁にすれすれに寄せると。
 速度はそのままに、強引に内レースとシルビアたちの間に割って入った。

「来たあぁぁーー!!シルビアと王子がついに並んだあぁぁーー!!」
「王子ーー!!素敵ーー!!」
「シルビア〜頑張ってーー!!」
 
 エルシスの馬とシルビアの馬が、ほぼ並走すると同時にスタート地を越える。

 あと二周。残りの二人は追い付けない。

 早々にエルシスとシルビアの一騎討ちだ。

「フフ、強引な男は嫌いじゃないわ」

 そうウインクをされた。
 色々とつっこみたいことがあるが、エルシスはそれどころではない。(余裕綽々だなぁもう!)
 そう思いながらも、騎手が心を乱してはいけない。
 馬に伝わってしまうから。

 心を落ち着かせ、前だけを見据える。
 今は自分がレースの内側を走っているので有利だ。

 しばらくそのまま並走する。

 すると、シルビアが馬の体力を考えてかスピードを落としてきた。
 エルシスも同様に落とす。
 馬の体力が心配なのはこちらも同じだ。

 ここで無理に突っ走るより、彼に合わせてスピードを落とし、一気に勝負に持ち込もうと考えた。

 さらにシルビアたちがスピードを落としたので、エルシスも重心移動に手綱を少し引き、同じぐらいに落とす。

「アデュ〜♪」

 その瞬間。シルビアの馬はぐんっと一気に加速し、エルシスたちを追い抜いて行った。(っ!?やられた……!!)

 まんまんとエルシスはフェイントに引っ掛かった。

「シルビアが王子を抜いたぞおぉ!!」
「どうなるんだ!?この勝負!!」
「最後まで分からないわ……!!」

 すぐさま追いかけようとするが、スピードを落とさせた間際だ。
 馬だって急には加速はできない。
(くそっ……どうする!?)
 むこうがスピードを落とさない限り、今のペースで走っても追い抜かせない。

 つかず離れずの変わらない距離のまま、二周目に突入する。
 一向にシルビアたちはスピードを落とす気配を見せない。

(…………頼む、ファルシオン2世。僕はお前に賭ける――!!)

 エルシスは馬の手綱を大胆に緩ませ、踵で合図を送る。口元の馬銜が緩み、楽になった馬はどんどん加速する。
 この方法はオレンジで試したものだ。

「……ふぅん?そんなに手綱を緩ませて、カーブを曲がれるのかしら?アタシは二度も遅れを取らせるほど、優しくなくてよ?」

 知るか!!並んだシルビアがそう話す。
 よくもまあ舌を噛まないものだ。

 もうすぐカーブに差し掛かる。
 エルシスはさらに勝負に出た。
 身体を内側に少し向け、外側の脚で馬の前腹を抑え込み、内側の脚で後腹を抑え込んだ。

「まさか……!?」

 シルビアの睫毛が飛びそうなほど、彼はパチパチと瞬きする。
 エルシスは手綱を操作せずに、脚だけで馬を曲がるように誘導したのだ。

 絶妙なタイミングと、繊細な重心移動。

 優秀な馬ほど、背中に乗った騎手のわずかな重心移動を敏感に察知する。
 エルシスたちは速度はそのままに、流れるようにカーブを曲がった。

「なんて、バランス感覚なの……」

 エルシスたちを見送ってしまうほどにシルビアは驚いた。

「――やった!!ファルシオン2世!追い抜かしたぞ!先頭だっ!」

 前に誰もいない解放感。
 思わずエルシスは声を上げる。
 大丈夫、この大歓声だ、誰にも聞こえちゃいない。

 エルシスは馬の首筋を叩き、褒めてあげた。

(ファルシオン2世の体力はまだ大丈夫そうだ。このまま自由に走らせるようにして、ゴールを目指そう)

 最後の周で先頭は大きかった。
 このまま逃げ切れば、エルシスたちの優勝だ。

 再びカーブが差し掛かる。

 最後のカーブだ。馬のスピードを落とさずに、エルシスは内側に寄せて、曲がらせようとする。

 重心移動をしようと、右の鐙を踏み込んだ。
 あ――と思った時にはもう遅い。

「……っ!」

 少し大きめのサバトンの中で、足が滑り、鐙が彼の足から抜ける。

 尻を鞍から浮かし、両脚のみで支えた騎乗に、片方の脚の支えが無くなれば、必然的に体勢は崩れる。

 ましてや、駆け抜けている馬の背の上で。

(前に倒れっ………)


 落ちる―――。


 観客が一斉に息を呑んだ。
 レース会場は今までの大歓声が嘘のようにぴたりと静まり返った。


 ……――馬の地面を駆ける蹄の音が、やけに強く、エルシスの耳に聞こえる。

 その音で、馬は止まらず走り続けていると知った。
 自分は無意識に手を伸ばし、そのたてがみを掴んで、その背にしがみついているらしい。
 揺れを一身に受け、がちゃがちゃと鎧が音を立てているのが耳障りだ。
 思うように動けないのは慣れない鎧のせいか。
 今まで夢中だったからか、感じなかった暑さに気づく。鎧の中で汗が全身に吹き出して、喉がカラカラだ。
 落ちかけた身体は、支えている左側の鐙に体重をかけてしまい。馬の駆ける振動に合わせ、鞍が徐々に下にずれていくのが分かる。

 鞍がひっくり返るのが先か、エルシスが力尽きて落ちるのが先か。

 馬の蹄の音も、鎧が鳴る音もだんだんとゆっくり聞こえ、ついにエルシスの耳に届かなくなった。

 すべてがゆっくりに感じられるような時間の感覚もなく、静まり返った空間。

 だからこそ、届く声もある。

「王子ッ!!頑張れーーーっ!!」

 歓声が止んだ観客席から、ただ一つの声援。届くよう張り上げた声に、聞き間違えるはずかない。

(ユリっ………!)

 エルシスは目を開ける。兜の狭い視界からでも、ちゃんと光は射し込んでいる。
 必死にたてがみを掴んでいる自分の手が見えた。

「諦めんじゃねえーーっ!!」
(カミュ………!)

 いつもはクールな声が熱く叫ぶ。

「負けたら許さないからっ!!」
「頑張って……っ!!」
(ベロニカ、セーニャも……!!)

 エルシスはぐっとたてがみを掴む手に力を込める。(毛が抜けたらごめんよ……っ!)

 汗が気持ち悪いとか、喉が渇いたとか、朦朧とするとか――そんなこと、どうでもいい!

(勝つんだ………ッ!)

 エルシスは鐙が抜けた方の脚を馬体に押し付け、全身に力を入れ、強引に上体を起こす。

 その瞬間、再び大声援が沸き起こった。

 会場が一つになったように、ファーリスの名前を叫ぶ。

「ファーリス王子ーー!!」
「負けるなっ!!王子!!」
「ファーリス王子!!頑張ってぇ!!」

 その中に、自分の名前がなくても良い。もう十分、仲間からの声援をもらった。

 上体を起こしたエルシスは、素早く鐙に足を入れ、踏み込み、完璧に体勢を立て直した。
 いつの間にか追い抜かされていたシルビアたちの背を追う。
 エルシスが体勢を立て直したことで、走りやすくなった馬はぐんぐんと加速する。

 シルビアたちが目と鼻の先だ。
 ゴールもすぐそば。
 シルビアが馬に合図を入れ、逃げ切ろうとするのが分かった。

(行くぞ――ファルシオン2世!!)

 ゴールの少し手前、エルシスは狙った。

 前方姿勢を深くし、踵をぐりっと腹に押し付けた。踵を深く下げる。
 同じ失敗は二度としない。

 馬は背に乗る騎手の意図を素早く感じとり、力強く踏み込んだ――。


 ――シルビアと馬に黒い影が差す。

 思わずシルビアは見上げた。

 青天を背に。飛躍する馬と、その上に跨がる騎士の姿がゆっくりと目に映る。


 障害物もないのに、馬が跳んでくれるかはエルシスの賭けだった。

 そして、エルシスは賭けに二度勝ったことになる。

「土壇場で王子がシルビアを追い抜かしたああぁぁぁーーっ!!」 
「ファーリス王子が勝ったぞッ!!」
「ううっ王子ーー!!うわあぁんっ!」
「ファーリス王子ーー!!素敵よーー!!結婚してぇーー!!」
「うぅ……こんな素晴らしいレースを見れて、ワシにもう悔いはない……ッ!」
「シルビアもかっこよかったぜーー!!」

 着地も体勢を崩すことなく綺麗に決まり、エルシスたちはゴールを過ぎてもそのまま走り抜ける。

 四方八方から聞こえる声の洪水。

 自身のうるさく高鳴る心拍数と混ざり、エルシスは上手く状況が把握できずにいた。

(僕は………勝ったのか?)

 徐々に馬のペースを落としていき、最後はゆっくりと落ち着かせるように歩かせながら、彼はぼんやりしていた。

「王子さま、おめでとうございます!見事な走りでした!まさに人馬一体とは王子さまとシュテルテハイム=ラインバッハのこと!私も王子さまを見習ってこれから猛特訓します!」
「王子さまぁ!優勝おめでとうございます!素晴らしかったですっ!こんな王族の歴史に残るレースに、一緒に走れて私は…私は……うぅ!」
 
 一緒に走った二人の騎士の言葉に、エルシスはやっと自分が優勝したのだと理解した。(僕、優勝したのか……あ、ファーリス王子のところへ行かないと……)

「王子さまー優勝おめでとうございます!お疲れさまでした。王子さまも馬も喉がカラカラでしょう。さあ、水分補給をしてから表彰式に出ましょう」

 集中の糸が切れたエルシスが、ふわふわした気持ちでいると、どこからかユルい側近がやって来た。

 馬の手綱を掴み、誘導してくれる。

 気がつけば、ファーリスとの待ち合わせ場所の通路に来ていた。
 柱に隠れていたファーリスが、エルシスたちに駆け寄る。

「すごいぞ!エルシスさん!あんな手に汗握る波乱の展開に、まさか優勝するとは思わなかったよ!もう観客は大盛り上がりで、父上も母上も泣いて喜んでる!やはり、キミには馬術の才能があるな!」

 ボクの目に狂いはなかったとファーリスは大興奮に言う。

「さあ!代わってくれ!これからみんなの前に出ないといけない!今度はボクが馬に乗る番だ!」

 エルシスとファーリスは身に付けている物を交換した。
 その間にユルい側近はちゃんと馬に水を与えており、エルシスも水を貰い、ごくごくと飲み干した。(……生き返る……)

 ファーリスはユルい側近の手を借り、颯爽と馬に跨がった。

「キミのおかげで助かったよ。虹色の枝の件は、ボクがなんとかしよう。それじゃまた後で」

 そう言って出口に向かう彼は。
 ゆっくり歩く馬の上でフラフラしていた。
 今「おわっ」という声が聞こえたような……。

「あちゃー大丈夫ですかねえ。表彰式までに王子が落ちないといいけど」

 他人事のようにユルい側近が言った。


 こうして、勇敢な走りを見せたファーリス王子は表彰され、サマディー王国中の人々からの称賛を浴びた──……


「ふぅ……。ここまで来れば大丈夫だろう」

 表彰式も無事終わり。王族控え室で、ファーリスは兜を取りながら言う。

「ありがとう、エルシスさん。キミのおかげで面目を保てたよ。さっそく虹色の枝のことだが……」

 ん………?

 エルシスとファーリスは同時にドアの方を向く。ドドドドと何か凄まじい音が聞こえてくる。

 バーーーン!そんな音が部屋に響いた。
 
「騎士の国のお坊ちゃん!さっきの走りやるじゃない〜!アタシ、感動しちゃったわ〜!」

 両手を広げ、勢いよく入って来たのはシルビアだ。その後ろから「王子ー止められなくてすみませーん」とユルい側近が顔を覗かせた。

 シルビアは並ぶエルシスとファーリスを交互に見る。
 ふ〜ん、同じ身長に体格ねぇ。
 呟くシルビアの言葉にぎくっとファーリスから音が出た。

「……やっぱり。アナタたち、入れ替わってズルしてたのね」
「なっ……何を根拠に!彼はボクの友人だ。こうしてレースを走り終えたボクに、会いに来て……」

 動揺しながらも強気で言うファーリス。
 エルシスはポーカーフェイスに黙っている。
 
「昨日の夜。サーカスの後ろの席でこっそり話してたのは、この打ち合わせだったのかしら?」
「……!?」
「特別観客席にいた可愛いお姫さまと青髪の彼は、アナタのお仲間ね?」

 そう言ってシルビアはエルシスを見た。
 いつの間に二人と知り合いで……?

「レース中。その隣で、アナタの服を着て、ストールで顔を隠していたのはお坊ちゃん」

 アタシ、サーカスで演じる時に観客席の反応を確認するから、目はいいのよね〜シルビアは続けてそう言った。

「………っ」
 黙るファーリスに答えは明らかだった。

「……ガッカリだわ。せっかくいいレースができたと思ってたのに」

 ため息混じりの呆れた声。
 シルビアは心底ガッカリした様子だった。

「な……なんだよ。あなたに何が分かるんだ?王子が馬に乗れないなんてバレたら、国民たちの期待を裏切ることになるんだぞ」

 ファーリスはむっとしてシルビアに言い返す。

「全員がイヤな気持ちにならないためにこうしてるだけだ。これで、すべてが丸く収まるんだから問題ないだろ?」

 そう彼は言ってのける。
 エルシスは黙ってその様子を見守っていた。(虹色の枝のことがあるといえ、影武者の役を引き受けた僕が、口出しする資格はないな…)

「ふ〜ん。そうかしら?勝てない勝負でも正々堂々と戦うのが、騎士道ってものではなくて?」

 シルビアが見下ろすように言ったその言葉は。
 どれがいけなかったのか、全部なのか、ファーリスの怒りを買った。

「だまれ。ボクはこの国の王子だぞ!流れの旅芸人が王子であるボクに、騎士道を語るんじゃない!」

 声を荒げるファーリスに、ユルい側近が「まあまあ」と宥める。

「王子、落ちついてください。騒ぎに外の兵士が気づいちゃいますよ?」

 その言葉に、ファーリスは無言でシルビアを睨んでから視線を外す。
 シルビアは余裕の態度のままだ。
 すると、コンコンとドアを叩く音が部屋に響いた。

「王子さま、失礼します」

 慌ててファーリスはエルシスの背中を押す。「二人並んでまた感づかれたらマズイ。こっちで隠れててくれ」エルシスはパーテーションの裏に押し込まれた。

「入れ」ファーリスの一言にドアが開く。

「国王さまがお呼びでございます。ファーリスさまの勇敢な走りにたいへん心を打たれたご様子です」
「ああ、分かった。すぐに行くよ」

 伝令の兵士の言葉に頷き、出て行くのを確認してからファーリスはエルシスに言う。

「エルシスさん。キミには世話になった。虹色の枝の件はボクがなんとかするから、後で玉座の間に来てくれ」
「王子がどうもすみませんでしたー」
「おい!行くぞ!」

 ファーリスはユルい側近を連れて、部屋を後にした。

「あっエルシスさん。お連れさんたちはレースハウスの前で待ってますよー良いお仲間さんですねえ」

 最後にひょこっと顔を出して。
 ユルい側近がファーリスの後を追いかけると、部屋に残ったのはエルシスとシルビアの二人だけ。

「アナタ、エルシスちゃんっていうのね。アナタの走り、とってもシビれたわ。また、どこかで会ったらよろしくね」

 シルビアは片目を閉じてそう言うと、彼も部屋を後にした。

(……ファーリス王子、あんな激情するんだ……。それに、なんだか……)

 ファーリスの意外な一面を見た気がする。

 エルシスもずっとこの部屋にいてもしょうがない。
 四人と合流しようと、部屋を出た。


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