砂漠の殺し屋

「ど、どうしたんだ?みんな」

 エルシスがレースハウスを出ると、すぐに四人と合流できた……が。

「うっうう……エルシス〜感動したよぉ……優勝おめでとうっ!」
「もうっ……ハラハラさせるんじゃないわよぉ〜ぐすん」
「エルシスさまっ……素晴らしい走りでしたっ……私…涙で前が見えませんっ!うええんっ」

 ユリ、ベロニカ、セーニャ。
 三人とも号泣している。

「……まあ、見ての通りだ」
 カミュが苦笑いをしながらエルシスに言った。
「エルシス、お疲れさん。それに優勝おめでとう。後半のお前の走りにこいつら感動して、ずっとこの状態だよ」

 …………おや?
 そう言うカミュの顔を見て、あることにエルシスは気づく。

「……カミュ、泣いてる?」
「っ泣いてねえよ!涙が出てねえだろ、ほら!」

 カミュはそう言うって、自身の目を指差した。
 エルシスには、その海のような青い瞳にうっすら涙が覆っているように見える。

「泣いてないのか」
「…………泣いてはないが、ちょっと感動はした」
 ぽつりと言うカミュに、エルシスはくすくすと笑う。
「ありがとう、みんな。みんなの声援、届いたよ。僕が優勝できたのは、みんなの応援のおかげだから」

 エルシスが満面の笑顔でそんな風に言うので。
 再び女子三人は声を上げて泣き、カミュは目元を片手で覆った。

 その光景に町の人は「よっぽど王子が優勝して嬉しいのね」と微笑ましく眺めていたとか。


 ――白熱した試合で、体力も精神も酷使したエルシスは、宿屋で休ませてもらっていた。

「………ふあぁ。ごめん、すぐに虹色の枝の件で城へ行くつもりが……僕、結構寝てたかな?」

 エルシスが起きると、部屋にはカミュの姿があった。

「二時間ちょっとてところか?気にすんな、あんなレースした後なら疲れてるのは当然だろうからな。ユリたちは町に遊びに行ったみたいだが、そろそろ帰って来るんじゃないか?」

 カミュの言葉にエルシスは「そうか」と呟き、何かを思い出してあっと声をあげる。
 ベッドから降りると、袋からある物を取り出す。

「これ、カミュにあげる。昨日のレースの優勝賞品なんだけど、一つしかないからさ」

 そう言ってエルシスはカミュにきんのブレスレットを渡した。

「いいのか?」というカミュに「僕はちからのゆびわを装備してるし」とエルシスは笑って答えた。

「サンキューな。さっそく付けてみるか」


 カミュの読み通り、少しして三人は帰って来た。
 エルシスは仮眠を取って元気になったので、一行はサマディー城へ向かう。

 城下町はファーリスとシルビアの一騎討ちの話で持ちきりだった。

「走ったのはエルシスなのに。あのヘタレ王子が持ち上げられるのは、確かに面白くないわね」とベロニカは不満げに呟く。

 話題はウマレースについてだけではない。

 特別観客席に観戦してた女性は、ファーリス王子の婚約者のどこぞの姫君だ――という根も葉もない噂話を耳にして、カミュは顔をしかめた。

 城に着いた彼らは、私室にいるファーリスに会いに行く。
 約束通り、虹色の枝をサマディー王に交渉してもらうためだ。

「やっと来たな。待ってたよ」

 ファーリスと共に、五人は玉座の間に訪れる。

「父上。じつはお願いがあります。あちらの旅の方の頼みを聞いてはくださいませんか?」
 サマディー王に、後ろの五人を紹介するファーリス。
「ほう。人助けとはさすがは我が息子。騎士道をよく心得ているな。なんだ、言ってみろ」

 ウマレースでのファーリスの見事な走りにご機嫌な王は、快い返事をした。
 やっと、この暑い国ともおさらばだとカミュは思った時――。

 耳が良い彼は、慌ただしい足音がこちらに近づいて来るのにいち早く気付いた。

「はい。そのお願いというのは、あちらの旅の方に、虹色の……」
「王さま、大変です!」

 その足音の兵士はまっすぐと玉座に向かい、急ぎ王に報告する。

「サソリの化け物です!バクラバ砂丘にまた、あのサソリが現れました!巡回中の兵士が怪我をした模様です!」

 ……サソリの化け物?

 伝令の兵士のただならぬ言葉に、その場にいた全員の顔が曇る。

「ええい!あの砂漠の殺し屋か!毎年、この時期になると決まって現れるな!」

 サマディー王は玉座から勢いよく立ち上がった。
 忌々しいと言うように怒りを露にし、たんっと杖を床につく。

「砂漠の殺し屋って、すごく物騒な名前……」
「殺し屋ってつくほどだから、たくさんの人が犠牲になってるのかも……」

 小声で話すユリとエルシス。

「自国の平和を守るのは騎士の務め!二度と現れぬよう、よりすぐりの騎士を派遣し、今度こそ息の根を止めてくれるわ!」

 そう意気込む王は「……うん?待てよ」と何かに閃いたように続けて言うと。

 その視線はファーリスへ。

「そうだ!我が息子に魔物を捕らえさせよう!騎士として成長したお前ならば今回の任務もきっと、こなせるであろう!」

 なんという、むちゃくちゃな思いつきだった。

「れ…歴戦の騎士を次々と亡き者にしてきたあの魔物を私がですか……?わわわ、私ではかないませんよお……」

 王の無茶振りに、ファーリスは声と足を震わせながら答える。

「わはは!実力者ほど謙遜するものだ!それに、戦いを前にして武者震いも止まらぬとみた!頼もしい限りだな!」

 対して、陽気に笑うサマディー王。

「王さまは王子さまの様子に気づかないみたいですわ……」

 可哀想にというようなセーニャに、確かに…とエルシスも憐れみの目でファーリスを見た。

 明らかにあれは恐怖からの震えで、声も動揺しているのに。そんな息子の姿にまったく気づかず、王はファーリスに命令を降す。

「よし、ファーリスよ!行けい!砂漠の殺し屋を見事に捕らえてまいれ!」

 その時のファーリスの顔は五人には見えないが、きっと絶望してたに違いないと――彼らは思った。

「は……はい。承知しました。準備のため、一度、自室に戻りました。それでは……」

 震える足で回れ右をし、歩くファーリスの顔は予想通り青ざめていた。
 彼はエルシスの前に立つと、すがるような目を向ける。

「すまない……。虹色の枝の話は後だ。話があるから、後でボクの部屋に来てくれ」

 震えるファーリスの言葉に、エルシスは頷いた。

 よろよろと階段を降りる彼に、むしろ一緒に部屋まで行った方が良いのではないか?とも思うが……。
 突然、重大な任務を言い渡され、ひとりで落ち着きたいのかも知れないので、大階段を降りるまで見守ることにした。

 ちなみにこの後の展開はなんとなく読めている――。五人はゆっくり、王子の自室へと向かうことにした。

「言わずともエルシスの気分、分かるわ。王子の部屋に呼ばれてイヤな予感がするのよね。じつはあたしもおんなじ気持ちよ」

 廊下を歩くなか、そう言ったベロニカに「予感というより確信してるけどね」とエルシスは苦笑いを浮かべて答えた。

「そうね、そうだわ」とすぐに納得するベロニカ。

「あともう少しで、虹色の枝が手に入りそうだったってのに……。砂漠の殺し屋って魔物も間が悪いぜ」
「王さまは毎年この時期になると出ると言ってましたが……恐ろしい魔物のようです。放ってはおけませんわ」
「ファーリス王子、大丈夫かな?真っ青な顔色してたから、部屋で倒れてないといいけど……」
 
 王子の私室前に着くと、つい先ほどぶりのユルい側近は変わらず扉の横に立っていた。「あ、エルシスさん。まだ城にいらしたんですねー」とへらりと笑う彼に、すっかり顔馴染みだなぁとエルシスは思う。

「王子がこの世の終わりみたいな青ざめた顔して部屋に戻って来ましたが、何かあったんですか?」
「じつは…………」

 エルシスはユルい側近に、先ほどの出来事を話した。

「ひえー今度は砂漠の殺し屋ですか。王子が行くならボクも行かなきゃならないし……でも、エルシスさんたち強そうだから安心ですねー」

 そうユルい側近はすでにエルシスたちの同行を前提に話した。

 そして、彼らもたぶんそうなるんだろうなと確信して部屋まで来ている。
 まだ王子からは何もお願いされてないが。
 あの様子なら、きっと扉を開けた瞬間にでも頭を下げられるのではないか。

 エルシスはノックをし、声が返ってきてから、扉を開けた。

「頼む!一生のお願いだ!魔物を捕まえるのに、協力してくれ!」

 ――土下座だ。しかもただの土下座ではない。
 扉を開けた瞬間、ジャンピング土下座。
 エルシスの頭を下げるという予想を遥かに越えた。

 無言が続くなか「……。良かった、王子が倒れてなくて」そう困惑気味な声でユリは呟いた。

「ファーリス王子、困るよ。君、一国の王子だろ?そんな土下座とかしちゃだめだよ……」
 論すように言う。エルシス。
「しかも、騎士の国の王子だろ?少しは自分の力でなんとかしろよ」
 一方、見下ろしながら厳しく言うカミュ。
「うう……。それが、ダメなんだ……。今まで訓練のクの字もやったことがなく、実戦は全部部下にまかせていたんだよ」

 情けない声かファーリスから出た。

「部下に…。それでよく今までバレずに……」

 きっと優秀な部下なのだろう。
 ファーリスは床に膝をついたまま、自分自身のことを話す。

「……ひとり息子のボクは、幼い頃から過保護に育てられ、父上と母上からどんな小さなことでも褒められてきたんだ。ボクは両親や民衆の期待を裏切らぬよう出来ないことでも、さも出来るかのようにやり過ごしてきた。そうこうしているうちに、ボクの評価は実力に見合わぬほど高くなってね……。いつの間にか後戻りできなくなっていたんだ」

 最初は小さなことだったが、積み重なって、ファーリスも越えられない高さになってしまたらしい。

 そして、ウマレースと来て。

 今回、砂漠の殺し屋の捕獲にまで来てしまったと。(ここまで来れてしまったのが、ある意味彼の不運だったのかも知れないな……)

「でも、今回ばかりはとてもごまかせない!あのサソリを捕らえるなんてボクにはムリだ!だから、力を貸してくれ!頼む!」

 顔をあげて懇願するファーリス。
 ここに来る前から彼らの答えは決まっていた。(土下座は驚いたが)

 エルシスはファーリスに手を伸ばす。

「力なら貸すから……立ち上がってくれ、ファーリス王子」

 エルシスさん……とファーリスは感激するようにその手を両手で掴み、立ち上がる。

「ありがとう!キミたちはこの国の救世主だ!魔物を捕まえることができたら、今度こそ、虹色の枝の件は父上に掛け合うと約束しよう!」

 薄々気づいていたが、どうも彼は切り替えが早い性格のようだ。

「では、さっそくボクの部下に砂漠の殺し屋を捕獲しに行く準備をさせなければ!待ち合わせは城門の前にしよう!準備ができたらキミたちも来てくれよ!」

 急にやる気満々になり、ファーリスは颯爽と部屋を飛び出して行ってしまった。

「ホント、情けない王子ね。この国の将来が心配だわ……」
 その後ろ姿に、ベロニカは腰に手を当て困ったように呟く。
「お姉さま、あまり悪く言うのもいけませんわ。きっと王子としての重圧があの方を苦しめているのでしょう……」

 そう窘めるセーニャは、ファーリスの話をしっかりと受け止めたらしい。

「オレはエルシスが決めたことだから、サソリの捕獲には協力するけどよ。この国とヘボ王子のためにはならねえよな」
 カミュのその言葉に、それはエルシスも少し思うところはあるが。
「でも、あのまま放っておいたら、ファーリス王子がサソリの餌食になっちゃいそう……」
 何気に恐ろしいことをユリは言った。
「うん。凶悪な魔物なら放っておくわけにはいかないし…、砂漠の殺し屋を捕獲して、今度こそ虹色の枝を手に入れよう」

 さあ、僕たちもちゃんと準備をしないとね――そうまとめて四人を引っ張るエルシスの姿は、すっかりリーダーとして板がついてきた。


 五人が城下町に戻ると、王子と一緒に魔物捕獲の遠征に行くであろう兵士たちを見つける。

「トホホ……。砂漠の殺し屋に向かう王子さまの護衛をやることになったよ。騎士としては栄えある任務だけど、あの王子さまのお守りをしながら、砂漠の殺し屋と戦うなんて憂鬱だ……」
「魔物捕獲の遠征隊に任命されてしまった……。もう生きては帰ってこれぬかもしれない。だが、これも騎士の悲しき定め。ああ、どうせ死ぬのならウマのレースで優勝して、黄金の山に埋もれて死にたかった……」
「フフ……日頃の訓練の成果がついに試される時が来た!砂漠の殺し屋を必ずや捕らえて手柄を立ててみせようぞ!」

 約一名はやる気で満ちているが、他の二名は士気が低くて大丈夫だろうか。
 彼らはしぶしぶと荷台の準備をしている。

「あ、エルシスさーん。ちょうど良かった」

 そう声をかけて来たユルい側近はいつもとまったく様子が変わらない。肝が座っている。

「ボクたち騎士なんで、道中は馬に乗って行くんですけど、助っ人であるエルシスさんたちの分も用意しようと思うんですよー。五頭で大丈夫ですかね?」

 彼の言葉に五人に笑顔が浮かぶ。
 馬で移動ができるのはありがたい。

「助かるよ。一頭、馬は持ってて、ベロニカは相乗りになるだろうから…三頭で頼むよ」

 エルシスはそう答えてから「ファーリス王子はどうするんだ?」と気になったことを聞いた。

「王子は荷台ですよぉ、あちらです」

 そう彼が指差したのは、他の兵士が準備をしていたものだった。
 車輪がついた大きな荷台で、馬に引かせるらしい。

「アレ、捕獲したサソリを乗せる荷台で、ついでに王子も乗っけちゃいます。他の護衛がいなければ、馬に乗ったボクの後ろでも良いんですけど。歩きじゃあ騎士なのにおかしいでしょ?それに、あの王子が砂漠なんて歩けないですしー」

 そう言って屈折なく笑う彼の肩に、エルシスは手を置いた。

「君……すごく苦労してるんだね」

 ファーリスの馬事情を知ってるのは彼だけらしいので、全部ひとりで考えて手回しているのだろう。

「やだなぁ、今ごろ気づいたんですか?じゃあボク、馬の手配してくるんでまた後ほどに」

 そう言ってユルい側近は颯爽と行ってしまった。
 優秀な部下は彼だったのかも知れない。

「道具に、食料に、水に……うん、準備は大丈夫かな?」
「全部用意はできたと思うぜ。あとで王子に領収書を渡して、きっちり金額を請求しろよ」

 サソリ捕獲に必要経費だと言ったカミュに抜かりはない。

「もう王子は待ち合わせ場所にいるみたいね。すぐ分かったわ」

 あそこ見てと言うベロニカに。
 城門の方を見ると……なるほど。
 確かに、人だかりができている。

「きっとエルシス効果でますます王子の人気が上がったんだね…」
「恐るべしですわ……エルシスさま効果!」

 エルシス効果とはエルシスが扮した王子がウマレースで優勝したため、さらに人気が上がったことを指すらしい。

「良いご身分なこった」
「あそこ抜けるのはちょっと大変だな」

 カミュが呆れて、エルシスは困った笑みを浮かべる。
 気が引けるがしかたない――エルシスは四人を見回してから言う。

「じゃあみんな、行こっか」

 準備も整い、五人はファーリスの元に人をかき分け向かった。

「やあ、エルシスさんたち!待ってたよ。城の兵士は外に待たせているからキミたちも来てくれたまえ」

 そう言ってファーリスが開いた門を通り、彼らもそれに続くと……

「ファーリス王子!なぜ魔物を捕らえると言ってしまったんです!戦うのは私たちでしょう!?今回ばかりはいくらなんでもムリですよ!」

 ひとりの兵士が、王子の姿を目にするや否や抗議する。
 その場に不穏な空気が漂った。

「待て待て。心配しないでくれ、お前たち。とびきりの助っ人を用意したんだ。紹介しよう。エルシスさんとその仲間たちだ。彼らに砂漠の殺し屋を捕まえてもらう」

「助っ人……?」と兵士たちは首を傾げている。どうやら詳しく説明されずに彼らは集められたらしい。

「砂漠の殺し屋がいる魔蟲のすみかはバクラバ砂丘という場所の一番奥にある。まずは西の関所を抜け、バクラバ砂丘に行こう」
「案内はボクたちがするので、エルシスさんたちはついてきてくださいねー」

 話を進めるファーリスに、ユルい側近が補足する。
 不満を持つ二人の兵士は諦めたようだ。

 大きな荷台を馬四頭が引くことから、砂漠の殺し屋は巨大な魔物だと予想できる。
 ファーリスはその荷台の前にちょこんと乗り込んだ。
 ユルい側近が隣に座り、馬たちの手綱を持つ。(あ、ちょっと楽しそう)
 残りの兵士三人は馬に跨がり、いよいよ出発である。

「よし!行くぞ、お前たち!」

 荷台の上に立つファーリスは、拳を上げ、勇ましく言った。

「おー!」と元気よく返したのは、やる気ある野心家の兵士だけ。

 荷台が動き出すと、おっとと…と早速落ちそうになるファーリス。
 
「……。あんなへっぽこ隊と一緒で本当に大丈夫なのか?」
「言わないでくれ、カミュ……。僕も不安になってくるから」
「私たちも行こう?置いてかれちゃうよ」
「……そうね。あたしたちも馬に乗りましょう。セーニャ、一緒に乗せてちょうだい」
「ええ、もちろんですわ。お姉さま」
「ねえ、サソリちゃんを捕まえに行くんでしょ?楽しそうじゃな〜い」

 ごく自然に続いた声に、五人は「!?」と見上げる。
 声は上から聞こえた。

「アタシも交ぜて〜」

 サマディー守り像の頭に立っていたシルビアが、宙を跳ぶ。
 しゅたっとポーズを決めて、彼らの前に華麗に着地した。

「シルビアさん?」

 ユリがその名を呼ぶと、シルビアはパチンとウィンク。
 腕を組んだカミュが、シルビアを見て口を開く。

「サソリちゃんなんて楽しいもんじゃないぜ。だいたいあんた旅芸人だろ?サーカスの方は良いのか?」
「ふふ〜ん。サーカスよりも、あのお坊ちゃんのことが気になってね〜」

 彼はその問いに、どこか含みをもった言い方をして答えた。

「ね?アタシもついていってもいいでしょ?」

 そう言ってシルビアはエルシスを見る。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよ〜エルシスちゃん。アタシけっこう戦いには自信あるの。それじゃ張り切って行くわよ!」
「(いや、恥ずかしがってはないけど…)」

 強引に押しきられたが、エルシスは悪い気はしなかった。
 ウマレースで熱戦した相手だ。
 彼のことをもっと知りたいと気になるし、実力は馬術だけではない気がする。

「おいおい、強引についてくことになっちまったが、オレたち仮にも追われる身なんだぜ。こんな派手なヤツと一緒にいたら目立って仕方ねえぞ……」

 確かに、いかにもな旅芸人の装いもそうだが。

 スラリとした長身や体型、華やかな容姿は目を引かれる。彼とすれ違ったら少女からマダムまでもが一同に振り返るだろう。(カミュとはまた違う色気だ)

 ……………だからだろうか。

「シルビアさんが一緒なら楽しい道中になりそうだね!」
「シルビアさまがお手伝いしてくださるなんて心強いですわ!」
「戦いにも自信あるみたいだし、シルビアにサソリ捕獲を一緒に協力してもらいましょう!」

 女子三人からシルビアが大歓迎であるのは。
 その様子に驚愕する二人。

「マジかよ……いつのまにこいつらシルビアのファンになったんだ……」
「僕にも何がなんだか……。あのベロニカまで……え、こわい」

 いったい彼はどんな魅了を使ったのか。

 どうやら、エルシスが休んでる間、町の散策中に出た三人は、あるトラブルに巻き込まれたところをシルビアに助けてもらったという。
 ちゃんとした理由があると知り、二人は安心した。

「馬で行くのね?アタシのナカ馬のマーガレット号ちゃん、おいでなさ〜い」

 シルビアが指笛を吹くと、どこからともなく白い馬がドドドドドと駆けてくる。
 馬はシルビアの前に止まった。

「「…………………」」

 派手だ。その馬はレースで走った時と同じく、派手な装飾をされている。
 レースのための特別装飾かと思っていたが、どうやらこれが通常らしい。

「これは……目立つね。砂漠のどこにいても分かりそうだ……」
「逆にあいつが一人目立って、オレたちに注目がいかねえんじゃ……?」
「ほ〜ら、早く行くわよ〜エルシスちゃんにカミュちゃん!」

 エルシスとカミュが気づくと、自分たち以外すでに馬に乗っている。
 慌てて二人は馬に跨がった。

 シルビアを加えた一行。

 ファーリスたちを追いかけ、まずは西の関所を目指す――。


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