ファルシオンに久々に乗るエルシスは誰が見ても楽しそうだ。
その隣をシルビアのド派手なマーガレット号が走り、反対側を走るのはオレンジだ。
野生の馬は群れで行動して走るので、バクラバ砂丘に向かう時と同様に、オレンジは周りの馬についてくように走っている。
ユリの馬術でも安定して走らせられるだろうとカミュは思いながら、後ろから彼女を見守っていた。
時々飛び出してくる魔物を、エルシスとシルビアの馬たちは豪快に突き飛ばす。
だが、オレンジは違った。
二頭に比べて小柄な体格だからか、魔物が飛び出して来ると、自身の意思で飛び跳ねて避ける。
「きゃ……っ」
ユリは突然の衝撃にバランスを崩すが、すかさずカミュの左腕がしっかり抱き留めた。
「二人とも大丈夫!?」
エルシスの呼び掛けに「問題ねえ」と涼しい顔で答えるカミュ。
ユリも続けて「大丈夫」と返事した。
「オレンジは魔物に近づかれるのが嫌みたいだな」
カミュの声がユリの耳許で聞こえる。
「ありがとう、カミュ。危なく落馬するところだったかも」
「オレが後ろに乗ってて、そんなこと起こさせねえよ」
笑いを含んだ声がくすぐったい。
抱き留められているため、自然と密着してしまう。
カミュが後ろで良かったとユリは思った。
きっと顔が赤いので、それを見られなくてすむからだ。
だが、風で靡いたユリの髪の隙間から。ちらりと見えたその耳が、ほんのり赤いことにカミュは気づいた。
自分にも移りそうになってさっと視線をそらす。
意識してしまうとこちらも色々まずい。
カミュは左腕をゆっくりと離した。
オレンジは何事もなく順調に走っていく――。
途中で見つけたキャンプ地で、馬たちを気遣い、少し休憩を取ることにした彼ら。
そこで偶然にも見つけたのは、赤い色をしたヨッチだった。
こんなに目立つ色をしているのに、エルシスとユリの二人以外には見えないとは不思議だ。
久しぶりのその存在に、その二人もすっかり忘れていたのはヨッチには内緒だ。
「やあ、ヨッチ」
エルシスは片膝を立てしゃがみ、ヨッチに挨拶した。
「やあっ!勇者さま、よく来たね!合言葉ならボクが見つけておいたよ。えへへ、偉いでしょー。えっへん!今からこの合言葉を教えてあげるから忘れないようによく聞いていてね!それじゃ、いっくよー……」
「どうしたんだ?エルシスは」
何やらしゃがみこんでいるエルシスを見て、隣に立つユリにカミュは声をかけた。
「赤い色したえっへんヨッチが……」とユリがカミュに教えると「ああ、いたな。そんなやつが」と、やはり彼もすっかり忘れていたらしい。
合言葉を教えるとじゃあねーとえっへんヨッチは消えてしまった。せっかく教えてもらったが、ヨッチ村に行くのはまだまだ先になりそうだ。(その時は他の三人にもヨッチを教えなくちゃな)
ヨッチの存在に驚くだろうが、彼女たちならすんなり受け入れてくれそうだ――エルシスはくすりと笑って、体をほぐす三人を見た。
「ダーハルーネの町へ、行かれるんですか!それは、うらやましい……!ダーハラ湿原は、サマディーとは大違いで雨が降る緑の豊かな場所なんです。こことの差にビックリすると思いますよ。そういえば、七色にかがやく枝を持った商人がしばらく前にここを通っていきました。あの者も、ダーハルーネに向かったのでしょう」
西の関所に着くと、通れずに立ち往生していた商人から七色の枝の情報を得た。
やはり、ダーハルーネに向かったのは間違いないらしい。
「緑豊かなのは良いけど、雨は嫌ね」
「この暑さとやっとおさらばできるぜ」
商人の話を聞いて、それぞれ感想を口にするベロニカとカミュ。
関所を通るのに、エルシスが一旦馬から降りると、一人の兵士がこちらに近づいて来た。
「私はアポロ。ここで門番をしている者だ。旅の方よ……ダーハルーネの町に向かうのならひとつ私の話を聞いてくれ」
アポロと名乗った兵士の話に、エルシスたちは耳を傾ける。
「私にはディアナという妹がいてな。ダーハルーネにあるケーキ屋で、パティシエとして働いてるんだが……近頃は忙しくしているようで、顔も見せに来ないから、こうして手紙を書いたんだよ」
そう手紙を見せるアポロ。
「……そこで、旅の方に頼みがある。ここを離れられない私の代わりに、妹のディアナにこの手紙を届けてくれないか?」
「良いですよ」
ちょうどダーハルーネに行くわけだしと、エルシスは軽く二つ返事で頷いた。
「おお、引き受けてくれるのか!見ず知らずの私の頼みを聞いてくれるなんてキミは優しいな。では、この手紙を受け取ってくれ。分かってると思うが、大事な手紙だからくれぐれも無くしたりしないでくれよ」
エルシスはしかと頷いて兄からの手紙を受け取る。
大事な物として腰のポーチに入れた。
「ディアナは、ダーハルーネの町の中の北西にあるケーキ屋で働いているはずだ。では、よろしく頼んだぞ」
北西……覚えておこうと、エルシスはしっかりと頭に刻み込む。
「ケーキ屋……」そう、ユリとセーニャの二人が呟いたのを彼は聞き逃さなかった。
「この先はダーハラ湿原。サマディー国王さまの許可なき者は、ここから先へ通してはならぬ決まりだ。通りたくば、国王さまの許可をいただいたと証明するものを見せるがよい。何か持っているのか?」
関所の前に立つ兵士に、エルシスはサマディー王の書簡を見せた。
「おおっそれはサマディー国王さまの書簡!国王さまの許可をいただいたのであれば、通さないワケにはいかぬ!」
そう言って兵士は門を開けてくれると同時に、道を教えてくれる。
「この先の洞窟を抜けると、ダーハラ湿原――水と緑に包まれた豊かな大地だ。さらに道沿いを進めば世界有数の貿易都市、ダーハルーネの町へと至るだろう。気を付けて行かれるがよい」
エルシスは兵士に頭を下げ、一行は関所を通ると再び馬に跨がった。
エルシスたちが先頭に、道を走り抜ける。
洞窟を抜けると、そこには海辺が広がっていた。
噂通りの美しい砂浜と海に、彼らは感嘆の声を上げる。
「砂ばっかり見てたから、やっと解放された感があるな」
オレンジを誘導し、波打ち際を走らせるユリにカミュは言った。
「……ねえ、カミュ」
ふと、ユリが静かに後ろの彼に声をかける。懐かしい気持ちで海を眺めていたカミュはなんだ?と返事をした。
「………、」
ユリが何かを言いかけようとした時――、それぞれの会話が耳に届く。
「サマディー地方の砂漠を渡っている間は、暑すぎて帽子が焦げるかと思ったけど……。抜けてみるとあの暑さが恋しいわね」
「これから港町に向かうから海が近くなるんだな」
「ウフフッアタシの船ちゃんがエルシスちゃんたちを待ちわびているわ。早くダーハルーネの町へ向かいましょ」
「上手く虹色の枝の情報が掴めれば良いですが」
四人のそんな会話を聞いて、ユリは「やっぱり何でもない」と明るい声で言った。
「なんだよ?」不思議がるカミュに「えっと、カミュは船に乗ったことがある?」そう質問して彼女は誤魔化す。
「そりゃあな。しかし、シルビアのおっさんが個人で船を持っているとは意外だぜ。人間、見た目で判断するもんじゃないな」
カミュの言葉に、そんなにすごいことなの?とユリは聞き返した。
「造らせるにせよ、既製船を購入するにしろ、莫大な金がかかるし、維持費やら停泊の利用料だって常にかかるだろ。それに、ダーハルーネの町は特に金持ちしか船を泊めておけない場所だったと思うが……あのおっさん、何者なんだろうな」
カミュがシルビアを見ながら言うので、ユリもならってシルビアを見る。
シルビアもカミュ同様にミステリアスな人だ。
旅芸人ということ以外、何も知らない。
人工的な橋を渡り、大きな木の根の下を通ると、そこからダーハラ湿原だ。
湿地帯の上にかかる木道を進んでいくため、彼らは一旦馬を降りて引き馬で進む。
馬たちを置いていき、後で馬呼びのベルなどで呼び寄せる方法もあるが、エルシスとユリの良心がその方法は却下した。
高い木や緑豊かな景色が新鮮に映る。
水辺にはこの地域独特の水生植物がたくさん生えており、興味深そうに見ているのはセーニャだ。
「この辺りは地面がぬかるんでいるわね。転けないように気を付けましょう」
「特にエルシスとユリな」
シルビアの言葉に続いて言ったカミュに「名指しされた…」と二人は少々不満げな顔をした。
エルシスは引き馬をしており、ユリはなんとなくである。
そんなカミュは、左手はオレンジを引き連れ、右はシルビアから貰った地図を眺めながら先頭を歩いている。
「カミュちゃんこそ、橋は狭いから気を付けてね」
シルビアが労るように言ったが「そんなヘマはしない」と、彼は地図を見つめたままあっさり返した。
オレンジが前を進むのを嫌がるので、姿が見えなくとも、魔物が近づいてくるのだとすぐに分かった。
ぬかるんだ地面から何体もの泥の手が現れる――マッドハントだ。
「こいつは仲間を呼ばれると厄介な魔物だ。一気に倒すぜ」
カミュが取り出したのはブーメラン。
「じゃあ、アタシはこれね!」
シルビアは鞭を手に構えた。
仲間を呼ばれる前にと、カミュはユリと連携し《フライトターン》でマッドハントたちを行動不能に。目があるかは分からないが、ぐったりしているのでこれで良いのだろう。
次にシルビアが鞭で華麗に薙ぎ払い、ベロニカが「ギラ!」セーニャが「バギ!」と唱えれば、マッドハントをあっという間に一掃してしまった。
エルシスは自分の出番がなくて、ちょっぴり寂しかった。
「六人もいるとなると、さすがにこの辺の魔物とは余裕で勝てるな」
エルシスはふむと考える。シルビアが加わったほか、デスコピオンと戦闘を得て、皆強くなったせいもあるかも知れない。
「いっそのこと、魔物と戦うヤツと控えを決めちまうのも手だぜ。あとは二つにメンバーを分けるとかな」
カミュのアドバイスに「なるほど」と思案するように頷くエルシス。
「エルシス、あれ!」
考えをまとめる前に、ユリの声が彼を呼んだ。
「あのハチの魔物、キラキラしてるみたい!」
そう言ったユリの目もまたキラキラしていて、エルシスの目もキラキラと輝き出す。
「本当だ!だけど、池の上を飛んでて近づけないな……。向こうから来てくれると良いけど……」
エルシスがそこまで言うと、あっと何かに気づき、ユリもその存在を思い出した。
オレンジにぶら下げた、まもの呼びのボウガン。
「確かにあの魔物、ちょっとキラキラしているけど……二人とも張り切っちゃてどうしちゃったの?」
不思議そうに首を傾げるシルビアに「見てれば分かる」とカミュは諦観した顔で言った。
「あんなキラキラした魔物を見たのは初めてですわ。ねえ、お姉さま?」
不思議そうにするセーニャに、彼女も知らなかったかとベロニカは気づく。
「あたしは一度、荒野の地下迷宮でちょっと見たから知ってるけど。まあ、あんたも見てれば分かるわ」
ベロニカもカミュと同じように言った。
「じゃあ、エルシス。打ってみるね」
「頼んだよ、ユリ!」
ユリはボウガンを構え、キラキラ光るあおバチ騎兵を狙う。
「――当たった!」
見事にボウガンの矢は当たった。
これでユリは、晴れて『ボウガンガール』だ。
プンプンと怒ってあおバチ騎兵はこちらに向かってくる。
「まかせて!」
エルシスは久しぶりに大剣を装備しており、縦に構えると。
新しく覚えた特技『渾身斬り』を放った。
あおバチ騎兵の頭に大剣が叩き落とされて、そのまま魔物は倒れる。
「まあ……魔物は倒れたのに蜂だけ消えずに残ってますわ!」
「あら、びっくり!」
驚くセーニャとシルビア。
「キラキラした魔物は何故か倒しても消えずに、乗り物にできるんだ」
こうやってと――エルシスは自ら蜂に跨がり、二人に説明する。
「アタシも長く旅をしているけど、乗り物にできるなんて初めて知ったわ!」
「あたしも魔物については図鑑で勉強したりしたけど、初めて知った時は驚いたというか……それに乗ろうと思った二人に驚いたわ」
シルビアにベロニカが続いて言った。
そんなエルシスとユリの二人は「私も乗りたい!」「あ、ユリ、あそこにまたキラキラしたのいるからあれを倒そう!」と、もう一体を倒すつもりらしい。
「最初に乗ったのはユリな。それからエルシスもノっかった」
カミュの遠い目をした説明に、ベロニカは「あぁ、なんか分かるわ。その流れ」と同じく遠い目をして、楽しそうな二人を見つめた。
思えばきっかけはデルカダール神殿のからくりエッグだ。
カミュが宝箱の仕掛けに頭を悩ませていた時、気づけばユリがエッグの中に乗っていた。
あの時は危機管理能力がないと、ユリに怒るのを忘れたほどにカミュは驚いた。
結果的に宝箱は回収でき、キラキラ光る魔物は活用出来ると分かったが。
「カミュ!このハチに乗れば、池の向こうの宝箱も取れるみたい!」
ユリがエルシスと同様に蜂に乗ってスイスイ飛んでいる。
「そんなに高くは飛べないけど、池の上なら問題なく飛べるよ!」
エルシスも飛びながら、カミュに言った。
「お前ら、オレたちは先に進むからな!あまり遠くに行かず、ちゃんと合流しろよ!」
カミュは二人に言い聞かせるように、大きな声で。二人から元気の良い返事が来て、彼は「道はこっちだな」と何事もなかったように足を進める。
「行こうぜ。あの二人は満足したら戻ってくるだろ」
残りの三人を促すカミュに、さすがあの二人の扱いに慣れてるわとベロニカは少しだけ彼を見直した。
「カミュちゃんって……」
「なんだ」
シルビアに名前を呼ばれ、カミュは前を見据えたまま答える。
「お母さんみたいね」
「は!?おい、ふざけ……」
「なら、アタシはママになるわ!」
「意味わかんねえよ!?」
なら、そこはお父さんじゃないのかとカミュは危うくつっこむところだった。
その思考がすでにシルビアに毒されている。
「私はカミュさまはお兄さまみたいだと思っていましたわ」
「そのさまは勘弁してくれ……」
相手がセーニャなので、カミュは静かに抗議した。
兄のように慕われるのはまあ悪くはないが、お兄さまという呼ばれ方はキツい。
「まあ、何にせよ。アンタはあの二人の保護者なのは変わりないわね」
ベロニカがクスクスと笑う。まあ、この中ではその立場が一番妥当かとカミュは諦めた。
「エルシス、水の上を飛ぶって楽しいね!」
「うんっすごっく気持ちいい!」
二人は並んで飛び、水上の散歩を楽しむ。
高い木々で光が届きにくく、池の水が濁っているように見えたが、よく見ると澄んでいて魚が泳いでたりもする。
蓮の葉の花が咲いていたら綺麗だろうが、残念ながらその時期ではないようだ。
ユリは水面に手を伸ばし、手で水を切って飛んだ。冷たい水温が心地よい。
「お、宝箱だ!」
エルシスは宝箱を発見し、中身を回収。
「中身はなんだった?」
「打ち直しの宝珠だ!」
嬉しそうに答えたエルシス。最近のエルシスは新しい物を作るだけでなく、打ち直しにも力を入れている。
ユリが今着ているいつもの服も、エルシスに打ち直して貰ったものだ。
二人は宝箱を回収するだけでなく、見つけた素材も集めて行った。
「エルシスも短剣を使ってるんだね」
素材になる草を、エルシスは短剣で手際よく一太刀で切っている。
「うん。ナイフだと小さすぎるし、こういう素材集めに適してるんだ。邪魔な草木を切ったりとかも出来るし、ユリも一つ持ってると便利だよ」
なるほどとユリは頷く。カミュみたいに武器として扱えないが、こういう日常的に使うには良いかも知れない。
それから二人は、小さな滝の側をぎりぎりに飛ぶなど、楽しみながら前に進む。
途中、ナプガーナ密林でも出会った不思議な牛に再び出会して、二人は驚いた。
もしかしたら世界各地にいるのかも知れない。話しかけると、今日の夕方から雨になるらしい。
――二人が出会したのは天気予報の牛だけではなかった。
どこからか声が聞こえる……
「ああ、ヨッチヨッチ、どこへ行く〜♪昨日はアッチ〜今日はコッチ〜明日はきっと、キミの町〜♪」
本日、二人目の黄色い色をしたヨッチだ。
「……おや。勇者さま、こんにちは。気分転換に気持ちよく歌ってたんだ。さあ、ボクの見つけた合言葉を教えてあげる!」
歌い手ヨッチに、エルシスは合言葉を教えてもらった!
「ヨッチ、歌上手かったね」
「うん、上手かった」
歌うヨッチがいるなら踊るヨッチもいるのだろうか。
エルシスがそんなことを考えていると、四人の後ろ姿が見えてきた。
飛んでいるため、歩いている彼らに追い付くのは容易い。蜂から降りて、木材でできた階段を上がって行く。
合流すると、宝箱だけじゃなく、素材もたくさん手に入れたと二人は満足げに報告した。
「あ、シルビアが二頭引いてくれてたのか。ありがとう」
エルシスはシルビアからファルシオンの手綱を受け取る。
「良いのよ。サーカスで馬を扱ったりするから慣れてるしね。エルシスちゃんとユリちゃんは楽しんで来たかしら?」
シルビアの言葉に、二人は同時に笑顔で頷いた。
先程、カミュからエルシスとユリはいつもあんな感じだと、はなしを聞いていたシルビア。
呆れたような諦めたような彼の様子に、確かに大きな使命があるにも関わらずマイペースではあるが。だからこそ、皆が和気あいあいと良い雰囲気で旅を続けているのだろうとシルビアは思う。
シルビアの旅の目的でもある自身の夢は、簡単に言えば世界中の人々が笑顔でいてほしいのだ。その為には、その笑顔を奪う邪神とやらの排除も大事であり、自分自身が笑顔でいることも大切だ。
彼らと一緒ならその夢は叶う――そう思い。少々強引だったが、シルビアは彼らの旅に同行した。(それに、アナタたちに興味が沸いたしね♪)
――特に、あの三人には。
「へぇ、灯台自体が町の入口になってるんだ」
灯台を目印に進んでいたが、それ自体が門となっていたようだ。港町らしい発想だ。
「前半、馬で移動したから思ったより早く着いたな」
エルシスの後に、カミュも白い灯台を見上げながら言う。
「あ、何か看板があるね。どれどれ……『霊水の洞くつに行かれる方へ。ダーハルーネの町で準備して行きましょう。そなえあればうれいなし』だって」
ユリは看板を読み上げた。この看板の先の道が、霊水の洞くつに繋がっているらしい。
「霊水の洞くつ?なんだか分からねえが、どっちにしろ虹色の枝が先だ」
行くぞとカミュに言われて、彼女は大人しくついて行く。
気づくとエルシスは聖騎士のよろいを脱いだらしく、いつの間にとユリは驚いた。
扉を開けると、長い通路の先にさらに扉が見える。
「この先の扉を開ければ、もうそこがダーハルーネの町なのよ」
案内するように先頭を歩くシルビア。
彼が扉を開ければ――。