行方不明事件

 予選が始まる少し前――。

 ユリはベロニカとセーニャと共に、観客席に向かっていた。チケットは、昨日の夜に買えたんだとエルシスからもらったものだ。
 向かう途中、誰が優勝するか、誰を応援するか――。誰もが皆、その話をして盛り上がっていた。

「う〜ん、誰がいちばんか……。ビビアンちゃんもかわいいし、サイデリアちゃんもセクシーだし……。でも、今回のおれっちのイチ押しは長い髪を束ねた謎の女武闘家で決まりさ!あのミステリアスな雰囲気がたまらんね!」

 中には邪な会話も。あのぴしゃりとベロニカが言ったピンクの鎧を着た剣士だ。
 ベロニカは再び「ケッ」とガンを飛ばし、慌ててユリとセーニャが止めに入る。

 そんな彼女たちに話かけたのは、謎の男だった。

「押忍!麗しの三人娘さん!」

 おす?謎の掛け声にユリは首を傾げる。
 対して「麗し」という単語に反応したベロニカは「あたしたちに何か用かしら?」とご機嫌に答えた。

 分かりやすすぎですわ、お姉さま――と、現金な姉に呆れるセーニャ。
 
「お嬢さんたちはグロッタ格闘技通信は読んでくれたかな!?」

 グロッタ格闘技通信――?
 知らないと三人は同時に首を横に振る。

「それはいけない!私が書く武闘会のありとあらゆることについての記事さ!押忍!」
 はあ……と三人は生返事した。
「麗しの三人娘のお嬢さんたちのために、特別に私が今回の注目闘士たちを紹介をしてあげよう!」
「まあっ!それは勉強になりますわね!」

 喜ぶセーニャ。そんな彼女の反応に気をよくして、記者の男はノリノリで彼女たちに話す。
 
「まずは、ガレムソンとベロリンマンのふたり!キングスライム級の巨漢で相手をリングに沈める、荒ぶる暴走マッスル列車だ!」
「列車……」
「あんた、妙なところに反応したわね…」

 ユリの呟きにベロニカがつっこんだ。

「そして、ドゥルダの飛竜ミスター・ハンと、白きカリスマ貴公子、マスク・ザ・ハンサム!正反対のモンスターたちの死闘を見逃すな!」
「ミスター・ハンさまは、以前ユリさまを助けてくださった方ですわね」
「カリスマ貴公子ねえ。ただのキザったらしい男じゃないかしら?」
「師匠、手厳しい」

 ベロニカのお目にかかる男性はいるのかな…とユリは思う。
 仲間のエルシスとカミュ(シルビアは例外)でさえ、ベロニカにかかればダメ出しされる。

「さらにあのビューティ・ペアも参戦!愛と美の仮面天使ビビアン&サイデリア!もはや説明不要!カワイイは正義!以上ッ!」
「あたしたちの方が可愛くない?」
「そ、それは……ちょっと……」
「ええ、自分からそんな風に言うのは……」

 最後に「そうそうたる猛者がそろう今回の武闘会。勝利の女神は誰に微笑むのか?この超仮面旋風に乗り遅れるな!押忍ッ!」と言って記者の男は去って行った。

 勢いで話を聞いたけれど、なんだったのかしら…と残された三人は不思議に思う。


 観客席に座ると、ユリはウマレースを思い出していた。
 あの時はファーリス王子に扮するエルシスを応援した。(そういえば…王子は元気かな?)
 今回はカミュとシルビアの応援もある。

「エルシスの出番は一番最初だからドキドキするね…!」
「は、はい……。また、緊張し、してきてしまいましたわ……。エルシスさまに教えてもらった……手のひらにカボチャと書いて……頭をヒトと思って……」
「セーニャごっちゃになってるよ!」

 当事者じゃない彼女がやっても効果があるのかは謎だ。
 我が妹ながら大丈夫かしらこの子――と、ベロニカが本気で心配し始めた時。

「お待たせいたしました!ただ今より、予選第1試合を行います!」

 仮面武闘会が始まった。

「ハンフリー・エルシスチーム!ガレムソン・ベロリンマンチーム!舞台へ!!」

 名前を呼ばれて、仮面を付けたエルシスがハンフリーと共にステージに。

「エルシスーー!ファイトー!」
「エルシスさまー!が、頑張って!!」
「ぶちかましなさーーい!!」

 ウマレースの時とは違い、三人は堂々と名前を叫んで応援する。
 エルシスは気づいてこちらを振り返ると、片手を上げて答えてくれた。

 試合はエルシスたち優勢で進んだ。

 途中、ガレムソンとベロリンマンの息がぴったりのれんけい技は驚異だったが。(あれがキングスライム級のお尻……!まさに!)

 守りに徹していたエルシスが攻めに出たことによって、最初にガレムソンを倒し、次にベロリンマンを倒した。

 よって。

「勝者!!ハンフリー・エルシスチーム!!」

 司会者の言葉にわあああと歓声が飛び交う。

「やりましたわ!ユリさま、お姉さま!!」
「エルシスーーおめでとう!!」
「ま、当然の結果ね!」

 三者三様に彼女たちは喜び合う。

「次はカミュさまですわね」
「うん!カミュもきっとエルシスに続くよ!」
「そうね、パートナーはドゥルダの飛竜らしいし勝ってもらわないと!」

 先程の記者が注目しているという闘士の名前で上がった男だ。

「カミュ・ミスター・ハンチーム対ロウ・マルティナチーム!!予選第2試合……はじめ!!」

 だが、期待とは裏腹に真っ先に倒れたのはミスター・ハンだった。

(あの女の人……強い!)

 二人同時の攻撃も足技一つで防いでしまう。
 まず、あのカミュの攻撃に軽々と対応できるだけで驚きだった。

「カミュさまがおひとりになってしまいましたわ……!」
「一撃で倒れるんじゃないわよ〜!飛竜でしょう!?」
「でも、重い蹴りだった……」

 ミスター・ハンの身体が軽々と宙に吹っ飛ばされたぐらいに。

 カミュ――ユリはぎゅっと両手を組んで見守る。

 二人は一歩も退かず近接戦を繰り広げるが、ややカミュが劣勢のように見えた。

 その時――あのカミュが背後を取られる。
 ユリが息を飲んだ瞬間、何故かマルティナの方が距離を取った。

 いつの間にかカミュの右手にもナイフが。
 それは昨日、カミュが新しく買った『どくがのナイフ』だ。

 両手にナイフを逆手に持って、臨戦体勢を取るカミュ。
 マスクの下の口許が不敵に笑みを浮かべている。

「カミュさまは二刀流だったのですね…!すごいですわ!」
「私も初めて見る……!」
「ほんっと、あいつってかっこつけ屋がりなんだから!」

 カミュが昨日言ってたのはこれだったんだと、彼の言葉通り驚きながらユリは思い出す。(すごいよ…カミュ!)

 再びマルティナに向かって駆け出すカミュ。
 先程よりも激しい二人の戦い。
 今度はカミュが優勢に見えた。

「カミューー!!勝って!!」

 ユリは両手を口許に、声を張り上げる。

 カミュが大きく攻め込んだ。
 反撃するのではなく、横に避けるマルティナ。
 思わぬ彼女の行動にカミュの体勢が崩れる。

 あ――と思った時には決着は一瞬だった。

 マルティナは華麗に回転し、その爪先は的確にカミュの顎を蹴り上げた。

 後ろに仰向けに倒れるカミュ。

 倒れてもなお、彼は起き上がろうとしたが……その手が力なく落ちて、意識を失ったのだと分かった。

「そこまで!!勝者!!ロウ・マルティナチーム!!」

 司会者が勝敗を告げる。

「っ何やってんのよ……!!」
「あのカミュさまが負けるなんて……」

 ベロニカの後に信じられないと呟くセーニャ。
 直後、マルティナが膝をつくが、ユリはそれよりカミュのことが心配だった。

「……ほら、さっさと行ってあげなさい。ホイミの一つでも唱えれば大丈夫でしょう」
「ユリさま、カミュさまをお願いしますわ」

 心情を見透かされ、二人に背中を押されたユリは「行ってくる……!」と急いで
観客席を後にした。


 ――医務室のベッドの上で寝かされたカミュ。
 ベロニカの助言通りユリはホイミを唱えた。
 医者が言うには顎を蹴られた際に、いわゆる脳震盪を起こした状態だという。
 後は自然と目覚めるのを待つだけなので心配はいらないという言葉に、ユリはほっとした。

 ベッドの横に置いてあるイスに座り、彼が目覚めるのを待つ。


「……っ、ユリか……」

 しばらくして起きたカミュは、彼女の顔を目にして、ほっとしたような気持ちで目覚めた。

「痛む……?」
「いや……大丈夫だ……」

 起き上がろうとするカミュを支えるユリ。

「……また、カッコ悪いところを見せちまったな」

 次いでばつが悪そうに髪をかき上げ、出た言葉。自分は負けたのだ。魔物相手とはまた違う、圧倒的な力量の差で。「どうして?」と、ユリは不思議そうな顔をする。

「どうしてって、お前……」
「カミュ、かっこよかったよ。…ううん、いつだってカミュはかっこいい」
「………………」

(どストレート過ぎるだろ……)

 直球過ぎて避けられず、逆にカミュは戸惑う。

 嬉しくないわけではない。決して嬉しくないわけではないが、どう受け止めて良いか分からないのだ。
 褒めるという行為には、下心がセットについてくる場合が多い。
 自分をよく思ってほしい、気を許してほしい……。単純なその場かぎりのお世辞もある。

 だが、ユリは、純粋に思ったことを口にしていると分かるから困った。

「はああぁ〜〜」
「だ、大丈夫?」

 カミュは片手で顔を覆い、長いため息を吐いて消化した。(まあ……、カッコ悪いと思われるよりはいいか)そう結論づける。

「お前の目から見えるオレを見てみたいよ」
「?カミュは…カミュに見えるよ」
「……。だよなぁ」

 彼女の心が綺麗だからこそ、それを通して見る世界は、同じように綺麗に見えるのだろう。
 目の前の男の姿が虚像だとは、夢にも思っていないはず。

(……きっとオレは、軽蔑されるのが怖いんだ)


 ――カミュが目覚めたのは、ちょうど予選が終わり、明日の決勝に出場する8チームが決まった頃だった。

「予選を突破し、決勝トーナメントに勝ちあがったのはこのチームです!」

 ステージにずらりと並ぶ彼らに、観客はたくさんの拍手を送る。

「ハンフリー・エルシスチームがこのまま勝ち進み、チャンピオンの座を防衛するのか!」

 司会者の言葉に二人に集まる視線。

「それとも華麗な足わざで他を圧倒した、今大会のダークホース、ロウ・マルティナチームが阻止するのか!」

 エルシスも二人を見た。
 今回、最大のライバルである。

「果たして優勝の栄冠を勝ち取るのはどのチームなのか!?それでは皆さま!決勝トーナメントをお楽しみに!」

 こうして、予選トーナメントは終了。

「あんたと組めたのはラッキーだったぜ。おかげで今回も優勝できそうだ」
「はい!明日も頑張りましょう!」

 ハンフリーの言葉に気合い十分にエルシスは答える。

「それじゃ、オレはこれで失礼するぜ。孤児院で子供たちが待ってるんでな」

 本当に孤児院の子供たちを大切に思ってるんだな――エルシスは立ち去るハンフリーの大きな背中を見送る。

「フ……フン。初出場のわりにはなかなかやるじゃないか。しかし、まぐれは二度も続かないぞ。次はもっと強い相手と当たるから、用心しておくことだな。フン!」
「あんた、おとなしそうカオして結構強いんだなー見直したよ!早くあんたのチームと戦いたいなあ!」
「ボウヤだと思っていたら、すごいじゃない。早くあなたと戦いたいわ……そしたら、たーっぷりかわいがってあげちゃうわん!」

 一人になったエルシスはさっそく絡まれ、色んな人に声をかけられていた。

 トーナメント戦を敗退した神経質そうな神官。逆に勝ち抜いたサイデリアとビビアンの二人。

「おっエルシスさん!いい試合だったなあ、お疲れさま!町はあんたのウワサで持ちきりだよ。今回のチャンピオンの相棒は無名のルーキーだけど、なかなか強くてホネがあるってなっ!」

 闘士以外に観戦した人たちからも、エルシスはたくさん声をかけられた。
 気さくに名前で呼ばれ、褒められるのは慣れずにこそばゆい。

「ちょっとあなたすごいじゃない!あのガレムソンとベロリンマンに勝っちゃうなんて!」
「私はね、もともとあなたはただ者じゃないと思ってたのよね。次の試合も応援するからがんばってね!」
「こんにちは、スーパールーキーさん!みんながあなたをそう呼んでるから私もマネしてみました、えへへ」
「あ、ありがとうございます……」

 次々と声をかけられ、皆と合流したいのになかなか前に進めない。

「いやあ、あなたもすっかり有名な闘士になったようですなあ。もはや町で知らない者などいないですぞ」
「あはは…」
「私もあなたを用心棒として雇いたいが、さすがにこれ以上金を使うと妻に怒られますからな、残念だなあ」

 用心棒、か。その言葉に、かっこいいなぁとエルシスは思うが、追われる身の自分には叶わぬ夢である。

「どうやら、キミを見くびっていたようだ――」

 次にエルシスに声をかけてきたのは、マスク・ザ・ハンサムだった。
 相変わらず彼の周りにはファンの女子がきゃーきゃー言っている。

「キミはボクが思っている以上の可能性を秘めてるらしいね。でも……それもボクのチームと当たれば終わる。あの人とボクの華麗なワザを前に、キミたちは完全にひれふすだろうさ」

 そう宣戦布告を受けた。彼のチームも油断ならないだろう。
 なんせ、彼のパートナーはあのシルビアだ。(シルビアとノリノリで戦ってたもんなぁ……)

 そして、やっとのことエルシスは仲間の元へやって来た。

「ちょっとアンタ何やってんのよ!あんな女に負けちゃってさ!予選落ちなんて見損なったわ!」
「待て待て!相手が強すぎたんだ!あの女タダモンじゃなかったぞ!」

 どうやらカミュとベロニカがまた口喧嘩してるようだ。
 それをユリとセーニャが困った笑顔を浮かべて、よく見るいつもの光景がそこに。

「でも、本当にあの女の人、強かったね」

 そうフォローするように言ったユリを、ベロニカは彼女を見て「ふ〜ん」と何やら思い付いたような声。

「どうかしら?そんなこと言っちゃってさ。ホントは見とれてたんじゃないの?あの人、すごいセクシーだったし……」

 ニヤニヤとわざとらしく言うベロニカに、コイツ性格悪ィとカミュは笑顔を引きつらせる。(むしろ、あの時は……ユリの声援が聞こえて)

 応えようと、かっこつけたからとは――それこそ彼は口が裂けても言えない。

「んなワケっ」
「確かに、すごく美人でセクシーなのに強くて……かっこよかったね、マルティナさん!」
「「………………」」

 カミュとベロニカは「憧れちゃうな」と純粋に言うユリを、同じような表情で見た。

 ――もしかしたら、ヤキモチを焼く所が見られるかもって思ったけど……。
――余計な誤解を生まなかったのはよかったが……。

 そう来たか――。二人は無邪気には勝てねえと敗北感を覚える。

「あっ、エルシスさまですわ」

 一人、三人の行く末をくすりと見守っていたセーニャがエルシスに気づいて、そちらに手を振る。

「エルシス、予選突破おめでとう!」
「ま、当然の結果ね!」

 ユリとベロニカに続いて、カミュは申し訳なさそうに口を開く。

「お疲れさん。……悪いな、エルシス。オレは負けちまったからあとは……」
「カミュ……!」

 エルシスはカミュに対し、珍しく怒っていた。

「君ってば本当にずるいよ!二刀流だったなんて!手合わせした時に僕にも教えてくれたら良かったのに!」
 
 そっちか――今度は全員が思った。

 エルシスはカミュが負けたことなんてちっとも気にしてなかった。むしろ「でも、かっこよかった!」「やっぱりカミュはすごいや!」「君の敵は僕が討つから安心してくれ!」など、興奮気味に話し、カミュは呆気に取られる。

 どうやら、自分が負けたことに対して非を感じていたことは無意味だったようだ。
 この勇者さまにも勝てねえな――カミュは二度目の敗北感に笑った。

「……でも、確かにあの女の人、何者なんだろう?」

 ただの女武闘家、というだけではない気がする――エルシスの疑問に、全員同感だった。

「皆さま……!あの方たち……!」

 再びセーニャが気づいて声を上げる。こちらに歩いて来るのは、ちょうど噂をしていたマルティナとロウだ。

「すまんのう、おぬしたち。ちょいと道を開けてくれんか?」
「あっ!ごめんね、おじいちゃん!」

 ベロニカの言葉に、五人はさっと道を開ける。

「姫よ。では、行くとしよう」

 ロウは隣のマルティナを姫と呼んで、二人は悠然と彼らの前を歩いた。

「――ハンフリーに気をつけなさい」
「!」

 マルティナはエルシスとすれ違う際に、そう彼に忠告した。エルシスは振り返り、そのまま立ち去る二人の後ろ姿を眺める。(ハンフリーさん……?)

「ハンフリーに気をつけなさいって、いったいどういうこと?」

 皆の疑問を口にしたのはベロニカだった。
 
「もしかして、今この町で話題になってる行方不明事件のことでしょうか……」

 セーニャが不安げに口を開く。

「今、グロッタでは大会に参加してる闘士が次々と姿を消す事件が起きているそうです。もし、ハンフリーさんの身に何かあったら……」
「大会参加者を狙ったぶっそうな事件ってやつか。やっかいなことが起きなきゃいいが……しっかし」

 カミュが神妙に呟いたあと、わざとらしくため息を吐いて「なんでどいつもこいつも意味深に言うのかね」やれやれと言う。
 知ってることがあれば詳しく教えてくれればいいものの――その言葉は明らかにいつぞやのベロニカにも向いており。
 先ほどの仕返しも兼ねて、とカミュは抜かりない。
 
「……ちょっと気になるし、みんなで調べてみない?」

 ぐぬぬと唸ったベロニカが何かを言い返す前に、ユリはそう提案した。

「ベロリンマンさんの姿もないみたいなの。ハンさんが探してて……」
「そういや、そいつのパートナーだったガレムソンを探してる声も聞いたな……」

 続けて目を伏せ、心配そうなユリに、カミュも思い出したように言った。

「うん。僕も気になるし、ユリの意見に賛成だ」
「そうね、あたしもよ。そしたら、手分けして聞き込みしましょうか」

 エルシスとベロニカの言葉に、セーニャも頷く。

「この町に行方不明事件が起きてるなんておどろきですわね……。ハンフリーさま、大丈夫でしょうか?」
「もし、ハンフリーが狙われてるなら、ハンフリー自身が最近怪しい人とか見かけてないのかしら……」

 じゃあ……と、エルシスは口を開く。

「僕はハンフリーさんに話を聞いてみるよ。孤児院になってる教会にいると思うから」
「じゃあそっちはお願いね。さあ、情報収集を始めるわよ!」

 それぞれ歩き出す五人に……
「エルシス」
 カミュがその背中を引き留めた。

「お前も大会参加者なんだから気をつけろよ」
「分かってるよ。……自分の身は自分で守るさ」

 芯の強い声で彼は答える。

「……いつの間にか、いっちょ前のツラになりやがって」

 手合わせした時にもカミュは感じたが、エルシスは確実に強くなっている。
 あのチャンピオンと肩を並べて共闘してたし、そんじゃそこらのレベルの者には遅れは取らないだろう。
 カミュが心配してたのは、実力ではなかった。

「ハンフリーにもだ」
「……!」

 彼は曖昧にせずに、はっきりとエルシスに言った。

「『ハンフリーに気をつけろ』という言葉には別の意味にも取れる」

 彼自身を警戒せよという意味に。

 もちろんあの女闘士の言ってることが正しいとも限らない。(お人好しな上に純粋だからなぁ)

 それが、エルシスの良い所だ。

 今もカミュの言葉にあまり表情に出してないが、驚いているのだろう。
 だが、それで構わないとカミュは思っていた。
 真意を探り、本質を見極め、疑うのは自分の役目だ。

「まあ、可能性としての話だからな。頭の隅にでも入れておけ」

 打って変わって笑顔で言うと、エルシスの顔が緩み、その表情で強ばっていたのだとカミュは気づく。

「うん、わかった」

 それでもエルシスは、カミュの言葉に真剣に答えた。

 正直……エルシスはあの孤児院の子供たちを大切にする姿もあり、思いもよらない考えだった。が、何よりカミュの忠告だ。
 言われた通りにエルシスは頭の片隅にその可能性を入れておく。

 そして、今度こそ階段を降りて下層にある教会へ向かう。

 ――その一連の二人のやりとりを。

「…………」

 ユリは階段の途中で足を止め、眺めていた。

 彼女もカミュが言った言葉について考えながら、エルシスとは反対に上層へ向かう。
 考えるといっても自分が考えて分かることではないが。

 そもそも、この行方不明事件自体が分からないことだらけである。

 参加者の闘士が行方不明になる真相。
 もし、噂されるように誰かが故意でさらっているとしたら……。
 闘士のみをさらう理由も分からなければ、彼らほどの闘士をさらうとなると、犯人はかなりの実力者を持つ者になる。

 一体、何者だろうか。

 それに、闘技会中は運営の者たちが――今もユリの目の前で厳重に警備をしているのに、まるで霧に包まれたように闘士たちはいつの間にかいなくなっているという。

(まずは、情報収集だよね……)

 そうユリは頭を切り替え、近くにいた商人に話しかけた。


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