仮面武闘会〜決勝戦

「皆さま、お待たせいたしました!いよいよ、仮面武闘会、決勝戦!」

 次は決勝戦と、観客席はさらなる盛り上がりを見せていた。

「シルビアさんとエルシスのどちらかが優勝できればと思っていたけど…。まさか二人が戦って、エルシスが勝って、決勝戦に上がるとはね」
「エルシスのやつ。上手くシルビアの虚をついたな」
「真剣勝負だったけど、二人とも楽しそうだったね」
「それにしても……シルビアさまのパートナーの方。なんだか生き生きしてましたわね。シルビアさま以外にあんな奇妙…いえ、楽しげな方は初めて見ましたわ」

 ベロニカ、カミュ、ユリと、セーニャが最後に本音が垣間見えた感想を言い合っていると。

「勝ち上がったのは、この2チームです!」

 いよいよ、決勝戦が始まる――。

「ハンフリー・エルシスチーム!舞台にお上がりください!」

 司会者が左手を向ける先にいるのはエルシスとハンフリー。階段を上がる二人。

「優勝候補の筆頭!堂々とした歩きぶりです!まさしく王者のカンロク!このまま、チャンピオンの座を守りきれるのでしょうか!?」

 次に司会者は右手を向ける。

「ロウ・マルティナチーム!舞台にお上がりください!」

 呼ばれた二人がステージ場に上がり、二チームは向かい合った。

「あまり動かない老人と豪脚一閃の女闘士!すべてが謎に包まれた異色のコンビは果たして新チャンピオンとなれるのか!?」
「オレも格闘家のはしくれだ。こいつらの強さをひしひしと感じるぜ……。エルシス。気を抜くなよ」
「はい…!絶対に勝って、僕らが優勝しましょう!」

 そして――ハンフリーは再び小さいビンを取りだすと、中身を一気に飲み干した!

「……姫よ、見たかね?」
「はい。間違いないかと」

 その姿を見て何やら小声で呟くマルティナとロウ。

「さあ、エルシス!勝てば優勝だ!全力でいくぞ!」
「さて、お手並み拝見じゃな」

 構えながら言うハンフリーとロウに、マルティナが左足を上げる。

「それでは、仮面武闘会決勝戦……はじめ!!」

 先に動いたのはハンフリーだった。突っ込んでくる彼に応戦するマルティナ。

「ウィングブロウ!」
「しんくうげり!」

 互いの風属性の技が炸裂し、その場に風が巻き起こる。

 エルシスはちらりと老人を見ると、今回も動かず、様子を伺っているようだ。なら、まずはマルティナの方を――

「ヒャダルコ!」

 ハンフリーに加勢しようとしたエルシスの足元に氷の刃が次々と突き刺さり、

「っ!」

 彼は咄嗟に後ろに跳ねて避ける。ヒャドの上位呪文――初めて老人が攻撃を仕掛けてきた。

「せっかくの決勝戦じゃ。わしも本気を出すかのう」

 ロウは杖を手にしている。もしかしたら、かなりの魔法の使い手かも知れない。

「ハンフリーさん!避けて!」
「!」

 エルシスはギラを唱えて、氷を溶かすと同時に、その炎はマルティナにも襲いかかる。

 マルティナも引き、形勢は振り出しに戻った。

 エルシスとハンフリーはお互いに顔を見合わすと、今度は同時にマルティナに向かって駆け出す。

「眠るがよいぞ」

 すかさずロウがラリホーを唱えるが、エルシスは眠らない。

 二人の攻撃を二本の脚のみで凌ぐマルティナ。

 やはり、強い――だが。

 ハンフリーの攻撃がマルティナに届き、彼女は初めて仮面の下で表情を歪める。
 いける――とエルシスが思った瞬間、視界にマルティナの姿が消えた。

「ぅわ!」

 低くした体勢から、マルティナは素早く足払いをし、エルシスはすっころんだ。「くっ」続けざまに今度はハンフリーを後ろに蹴り上げ、彼は後ろに下がる。

「あんた……何者だ」
「あなたこそ」

 ハンフリーの言葉に、意味深に返すマルティナ。

「両チーム!実力は互角か!?」

 審判の男の声が響く。再び距離を取った両チーム。

「ベホイミ」

 その間に、ロウがマルティナに癒やしの呪文を唱えた。

「標的変更だ。先にあのご老人を倒すぞ」
「はい……!」

 小声で言ったハンフリーの言葉に、エルシスは頷く。続けて二人は何やら話し合うと――再び駆け出した!

「デイン!」

 エルシスが聖なる雷の呪文を唱え、二人が呻く。その隙に、ハンフリーは素早くロウとの距離を詰めた。
 素早く、下から振り上げたツメ攻撃。杖を手放し、後ろにのけ反るロウ。

「ロウさま!!」

 すかさずエルシスが追撃しようとするのを、マルティナが素早く割り込み蹴りで攻撃を弾いた。

「くっ……!」

 強烈なそれに剣を弾かれたエルシス。さらなるマルティナの目にも止まらぬ蹴りが連続で襲う。
 エルシスは剣だけでなく右手でもガードする。

 足払いを、今度は跳んで避けた。

 なんとか剣を構えるものの、再び大きく後ろに弾かれる。(攻撃を仕掛ける隙がないっ……!)

 横に回転しながら勢いをつけて詰め寄るマルティナ。エルシスは次に来る攻撃に、顔の前に腕をクロスさせて防御した。

 ――マルティナの動きが止まる。

「そ……そのアザは!」

 動揺するマルティナ。その様子にハンフリーと体型に似合わず、近接戦闘を行っていたロウが視線を向けると……

 すっぽり覆う仮面の下で、彼の目も見開く。

「な…なんということじゃ……。おぬしは、まさか……」
「スキあり!!」

 重いハンフリーの飛び蹴りだ。大きく吹っ飛ばされ、尻餅をつくロウはそのまま気絶した。

 残るは――

「どこ見てんだ!試合中だぜ!お嬢さん!」

 今度は未だ動けないでいるマルティナの背中に、ハンフリーは一撃をお見舞いする。彼女は大きくよろめいた。

「エルシス!今だ!」

 ハンフリーがしゃがんだと同時に飛び出したエルシス。渾身の一撃――その剣はマルティナに届き、彼女は床に叩きつけられた。
 
「しょ……勝負あり!!」

 司会者がジャッジをする。
 
「勝者!!ハンフリー・エルシスチーム!!」

 高々と告げられた言葉に、拍手と歓声が湧き起こる。

 右手を上げて答えるハンフリー。

 エルシスはすぐに優勝したと実感が湧かずにいたが、やがて口許に笑みを浮かべ、観客からの拍手と歓声をいっぱいに受け止めた。

「優勝はこのチームに決定しました!これより、表彰式を始めます!」
「やったな、エルシス!ついに優勝したぞ!」

 ハンフリーの嬉しそうな言葉に、エルシスも笑顔で頷く。
 優勝したんだ――これで大樹への手がかりである虹色の枝が、やっと手に入る!
 優勝の証として、ハンフリーは立派な金のトロフィーを受け取った。

「今回はどの対戦相手も手強かった。もしお前がいなかったら、優勝することはできなかっただろう」
「いえ、それは僕の方です。ハンフリーさんがいたからこそ優勝できました。あなたと組めて良かった」

 エルシスの素直な言葉に、ハンフリーは「よせよ」と照れくさそうな笑顔を浮かべる。

「優勝賞品は虹色の枝という貴重な物らしい。売れば結構な金になるだろうからな。そいつをふたりで山分けしよ……」

 そのハンフリーの言葉にあっと思い、エルシスは虹色の枝が必要と彼に説明する前に――、

「うっ…………!!」

 いきなり胸を押さえて苦しみだすハンフリー。手からトロフィーが落ちる。彼自身も床に倒れた。

「!ハンフリーさん!?ハンフリーさん……!!」

 エルシスは必死に倒れたハンフリーに呼びかける。
 会場がどよめくなか、司会者は急いで救護を呼びに行った――……


「エルシスさま、優勝おめでとうございます!しかし、表彰式の途中でハンフリーさんが倒れてしまうとは災難でしたね……」

 急遽、表彰式は中止になり、エルシスも混乱のまま控室で待機していた。

「ハンフリーさんの容態ですが、命に別状なし……ということだそうです。おそらく、試合の疲れが出たんでしょうな」

 命に別状ないという言葉に、とりあえずひと安心する。

「本日、行われるはずだった表彰式の続きはハンフリーさんの様子を見て後日行われることになりました。エルシスさまには申し訳有りませんが、こちらで宿屋に部屋をお取りしましたので、今晩はそこでお休みくださいませ」

 続けざまの大会スタッフの言葉に、エルシスは「分かりました」と笑顔で答えて、その場を後にした。

 とりあえず、仲間と合流しようと考える。

 戻る道中、優勝したとあって、以前よりも多くの人たちに声をかけられた。

「……おお。誰かと思えばウワサのスーパールーキーじゃないか。おれっちのオススメだったマルティナちゃんを負かすなんて。あんたも罪なオトコだぜ……」
「ルーキー、優勝おめでとうございます!これで、優勝賞品の虹色の枝はあなたたちのモノですね!準優勝のふたり組も惜しかったですけど、イエローオーブがもらえるんですからね。出場したかいがあったってもんでしょうよ」
「おお、エルシスさん!初出場での優勝おめでとう!表彰式、絶対見にいくからなー!」

 エルシスは軽く手を振りながら笑顔で答える。
 まさか自分がこんな風に注目されるなど、夢にも思っていなかった。

「町中、お前の話題ばかりだ。くやしいがお前のその強さは認めざるをえないな。それでその……」

 その中には、あの神経質そうな神官の姿もあり、彼は何やらもじもじとエルシスに話しかける。「?」

「大きな声じゃ言えないが……。あ、後でサインくれないか?友人たちに自慢したいんだ」

 ――デレた。

 どうやら、これがいつぞやのユリが言ってた「ツンデレ」というやつらしい。
 エルシスは笑って「僕で良ければ」と答えると、神経質そうな神官はほっとして、彼も笑顔を見せた。

 町中の会話は、エルシスに対しての称賛だけではない――。ハンフリーに対する心配の声や行方不明事件を不安視する声も多かった。

「ハンフリーさんが倒れちゃうなんて……。よっぽどムリしてたんでしょうね。私たちの知らない心労があるんだろうし」
「あんたたちが優勝したのはすごくめでたいんだが……。行方不明になった闘士のことを考えるとな」
「あんたたちには悪いけど、素直に優勝を祝う気分にはなれないよ。早く、みんなが見つかるといいな」

 ――そうだ。優勝も果たしたし、行方不明事件を調べないと。行方不明になってる闘士たちが無事だと良いけど……。
 エルシスがそう考えていると「エルシスー!」と彼を呼ぶ声が響く。
 前方に仲間たちの姿が目に映り、ユリが大きく手を振っていた。

「みんな!」

 エルシスはそちらに駆け寄る。

「よっチャンピオン!……なーんてな。まったくおそれいったぜ。まさか、ホントに優勝しちまうとは」
「ふふ、もうすっかりエルシスはこの町の人気者だね」

 カミュとユリの「おめでとう」という言葉に「ありがとう」と、エルシスは照れ臭そうな笑みを浮かべて返した。
 
「エルシス、優勝おめでとう!これで虹色の技はあたしたちの物ね!」

 誇らしげに言うベロニカは「でも」とつけ加えると、表情を曇らせる。

「ハンフリーは大丈夫かしら。大会の途中で急に倒れちゃうなんて……」
「そうね。せっかくエルシスちゃんが優勝してめでたい時だっていうのに……なんか素直によろこべない雰囲気だわ」

 続いて言ったシルビアの言葉は、エルシスも他の者たちも感じていたもの。しばし、その場は神妙な空気になる。

「エルシスさま……。本当にお疲れさまでした。ひとまず、優勝おめでとうございます」

 気を取り直すように、口を開いたセーニャ。

「ハンフリーさまのことは心配ですが……今はエルシスさまのがんばりをねぎらいたいですわ」
「ありがとう、セーニャ。ハンフリーさんのことは……僕も心配だからちょっと教会に行ってみようと思う」

 それに行方不明事件のこともしっかり調べたいんだと、エルシスは続けて彼らに言った。

「ハンフリーちゃんの体調のこともそうだけど、行方不明事件や孤児院に入った賊のことも何ひとつ解決していないものねえ」
「仮面武闘会が終わったら、事件はもう起こらないのかしら?」
「このままだと迷宮入りになっちゃう」

 シルビア、ベロニカ、ユリが考えるように口にするなか。

「……それにしても、あの女武闘家とじいさんはいったいなにもんなんだろうな?あそこまで戦えるヤツはそうそういねえぞ」

 カミュだけがまた違う疑問を口にする。あの二人組も謎の一つだ。

「それに、なんか途中で不自然に動きが止まってなかったか?」
「うん、僕も気になってたんだ。あの時――そうだ、このアザを見て……」

 エルシスは自身の左手の甲を見た。マルティナだけでなく、ロウも驚いてるようだった。

「そういえば、昨日……」

 ユリはエルシスにも、昨日のロウとの出来事を話した。
 その時に「エルシス」という名前に「同じ名前の知り合いがいる」と、彼が反応したことも。

「……そうか。二人ともちゃんと話をしてみたいな。とりあえず、ハンフリーさんのお見舞いに教会に行ってくるよ」

 エルシスは五人と別れ、階段を降りる――。

「よう、もう一人のチャンピオン!ハンフリーの見舞いにでも行くのか?」

 住人らしき男の問いかけにエルシスははいと答えると、何やら声を潜める男。

「あんまり、大きな声では言えんがな。じつは、ハンフリーが倒れたのは今日がはじめてじゃないんだ」

 えっ、そうなんですかと、エルシスは驚きに聞き返した。

「チャンピオンになった頃くらいからよく体調を崩すようになってな。今回早く治るといいんだが……」

 となると、やはり普段から様々な苦労が疲労となって溜まっていたのだろうか。
 心配だ……ハンフリーの身を案じながら、エルシスは教会へ向かう。

「――あらん、ボクちゃんじゃない。このビビアンちゃんを負かすなんて、あなた、なかなかやるじゃな〜い?」

 すると、ビビアンとサイデリアのコンビと出会した。
 勝ち負け関係なく、いつもの調子で彼女たちは笑顔で接してくれて、エルシスはなんとなくほっとする。

「ビビアンちゃん、もーっと強くなってボクちゃんをコテンパンにしてあげるからまたよろしくね〜ん。ウフフ」
「あはは……お手柔らかにお願いします」
「あんたの攻撃、イナズマみたいにビリビリきてシビれちゃったよ!また一緒に戦ってくれよな!」
「はい!サイデリアさんのかえん切りもかっこよかったです」

 二人と別れて歩くエルシスに、今度はどこからかキザった声が聞こえてきた。
 
「とうとう終わってしまったな。シルビアさんに出会うことのできた夢のような仮面武闘会は……。」

 ――マスク・ザ・ハンサムだ。彼は腕を組み柱に背を預け、どこか夢うつつである。
 
「シルビアさん……あなたと一緒に戦えたこと。本当のボクを見つけてくれたこと……。すべて、かけがえのない思い出ですよ」

 ……。シルビア?独り言のように呟くマスク・ザ・ハンサム。

「次にお会いする時、ボクは飾らない真実の姿で登場してみせます。待っててください、シルビアさん……!」

 ……。飾らない姿?よくわからないが、どうも彼はシルビアに心酔しているらしい。
 エルシスは軽く会釈だけしてその場をそっと離れた。

「……優勝したエルシスって闘士も身につけてたパワーストーンがあってな。これを持っていればあんな風に強くなれ……」

 ……。おやおやおや?

「今度はパワーストーンかぁ〜しかもエルシスくんが身につけてたものなら、買うさぁ〜買うさぁ〜」

 続いて見覚えがあるやりとりが聞こえてきて、エルシスは通り過ぎようとしたところをバックして行き返す。

「……何してるんだ?」
「こ、これは、これはエルシスさん。やましいことは何もしてませんぜ。えへへ、えへへ……」
「僕、そんなパワーストーン身につけてないけど!」

 怒るエルシスに怪しい男は「すっ、すんませんでしたーー!!」と、脱兎のように逃げていった。
 どうやらチャンピオンになったエルシスに、恐れをなしたらしい。

「君も気をつけないと……」
「エルシスくん!決勝戦見たさぁ〜!すごかったさぁ〜!」

 エルシスの言葉を遮り「優勝おめでとう!」と無邪気に笑う純朴な青年に、彼は頭を抱えそうになった。
 再び注意を促し、純朴な青年と別れたエルシスが教会に訪れると……すぐに心配そうな子供たちの顔が飛び込んできた。

「エルシスにいちゃん……。ハンフリーにいちゃん、だいじょうぶだよね?し、しんじゃったりしないよね?ね?」
「ハンフリーにいちゃんはだいじょうぶ!だってぼくらのヒーローだもん……。ヒーローはぜったいにしなないんだよ!」

 泣きそうな子供たちの言葉に「うん、大丈夫だ。ハンフリーさんは君たちを置いて行かないよ」と、エルシスも安心させるように答える。

「オレたちの面倒を見ながら試合をこなして、その上、こないだの泥棒騒ぎだろ?そりゃあハンフリーさんも倒れるワケだよ」

 そうエルシスに話しかけたのは、年長の少年だ。

「ハァ……本当にオレたちって、ハンフリーさんに頼りっきりなんだなあ……」

 項垂れる年長の少年。エルシスは、泥棒に入られる心当たりやハンフリーが誰かに狙われていたりしなかったかと、尋ねた。

「ハンフリーさんは人に恨まれるような人じゃないからなあ……」

 確かに…、とここ数日の彼の人柄を見て、エルシスも納得する。あるとすれば、逆恨みかも知れない。

「あっエルシスにいちゃん!ハンフリーさんはいまねてるからしずかにしてね!しーっだよ!」

 女の子にそう言われ、エルシスは面会を控えた。どうやら今はすやすやと眠っているらしい。

「ハンフリーさんにお大事にと伝えといてくれるかい?」
「うんっわかった!」

 エルシスは教会を後にすると、そのまま宿屋へと直行する。
 連戦の疲れに、このまま今日は休むことにした。


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