不思議な根っこ

 ユリはゆっくりと目を覚ました。

 上体を起こし、背伸びをする。
 カミュの姿はすでになく、エルシスはまだすやすやと眠っている。

 まるで眠り姫ならぬ眠り王子だ。

 気持ち良さそうに眠っているので、ぎりぎりまで寝かせてあげたい。
 ユリは静かに立ち上がり、寝床を出た。

 あの牛の天気予報通り、清々しい朝だ――。

「おう、おはよう」

 すでに起きて、身支度を整いたであろうカミュがこちらに微笑んだ。
 清々しい朝に似合う、爽やかな笑みだ。


「ゆっくりしていたらすっかり陽が昇っちまったな。さあ、イシの村を目指して進もうぜ」

 久しぶりにそれぞれまとまった睡眠を取って体も軽く、二日目のナプガーナ密林を歩く。
 ――が、すぐに三人は足止めを食らうことになった。

「橋が……」
 酷い有り様の橋の姿が、ユリの目に映る。

「こりゃあひでぇ……。橋がメッタメタに壊れてるぞ。これじゃとても渡れそうにないな……」
「誰がこんな……魔物だろうか」

 唖然とするエルシスの肩に、カミュの手がぽんと置かれる。

「仕方ねぇ。ほかに向こう側に行く方法がないかこの辺りを探してみようぜ」

 確かにそれしか方法はない。
 来た道を戻りながら他の道はないか探すが、結局三人はキャンプ地まで戻ってきてしまった。

 すると、黒い犬が三人の元に駆け寄ってくる。

「あれ……さっきは犬なんていなかったよね?この子どこから来たんだろう」

 エルシスは犬を見つめる。「くぅ〜ん……」と悲しげな声で鳴き、表情も悲しげだ。

「野性……でもなさそうだね。迷子になっちゃったのかな」
「おいおい、犬より今は別の道を探すのが先決だぞ」
 カミュが呆れたように二人に声をかける。
「あ、じゃああの脇道は?なんか不思議な気配がして……」

 そう言って、ユリは小屋の横の脇道を指差した。

「あそこか。行き止まりっぽいから無視してたが、一応行ってみるか」

 ユリの意見に従い、狭い道を進む。
 彼女が言ったように、エルシスも不思議な気配を感じていた。

「あれは………」

 カミュが不思議そうに呟く。
 やがて行き止まりになったが、そこには不思議な形をした大きな根が生えていた。

「――エルシスの手の甲が光ってる…?」
「!」

 ユリに言われて気づき、エルシスは自分の手の甲を見て驚く。
 正確にはそこにあるアザが光っているようだ。

「どういうことだ……?」
 カミュも驚きながらエルシスのアザを見つめる。
「わからない……あの根っこにアザが反応してる……?」

 エルシスは恐る恐る根っこに手をかざしてみると、さらに光は眩しくなり、三人は思わず目を閉じた。
 次にゆっくり開ければ、不思議な光景が目の前に広がる――……


「カッコンカココン木を切るべ〜♪」

 そんな陽気な歌を歌いながら木を切るのは一人の木こりだった。

「なにぃーーっ!!昨日直したばかりの橋がまっぷたつ!またいちからやり直しだ!誰だべやこんなヒドイことするヤツは!」

 壊れた橋を見て木こりは怒る。
 彼らが見た壊れた橋と同じ橋のようだ。

「ジャジャーン!それはこのオレ……いたずらデビル!せっかく壊した橋を直されてたまるか。これでもくらえ!いたずら変身ビィ〜〜ム!」

 突然現れたデビル系の魔物は、なんと木こりを犬の姿にしてしまった。

「ケッケッケー!いたずら大成功!木こりを犬にしてやったぞ!オイラやっぱり天才かもね〜。さーてとっ!次はどんないたずらをしよっかなぁ〜♪」

 そう楽しげに独り言を言いながら、どこかへ向かういたずらデビル。

「そういや、この宝箱は空っぽだったな。しめしめ……。それじゃあお次はこの宝箱の中に隠れて……♪」


 ――そこで、光景は終わった。


 変わらず三人は森の中だ。
 目の前の不思議な根っこは、ぼんやりと光を放ち、ただ静かにそこに佇んでいる。

(なんだろう、この感じ……不思議な、だけど暖かくて清らか……)

 ユリは自分の中の記憶を探る。

「……今の光景はいったいなんだ?エルシス……お前、この光る根っこに……何かしたのか?」
「あ、うん。僕のアザと根っこが反応したみたいだったから、かざしてみたんだ。そしたら……」

 カミュが困惑しながらエルシスに聞いた。
 彼の手の甲のアザは、もう光ってはいない。

「みんな、同じものを見たのか?木こりが出てきて、魔物に犬にされちまう……」
「僕もその光景を見たよ。ユリはどうだった?」

(私は……どこかで……知っている?)

「ユリ……?」

 エルシスはもう一度ユリに声をかける。返事はなく、様子がおかしい。

(思い出せない……記憶を思い出そうとすると、いつも頭が痛くなるんだ――)

「ユリ!しっかりしろ!」
「………あ」

 カミュがユリの両肩を掴み、無理やり意識を覚醒させた。
 ぼんやりしていたユリの目がしっかりとカミュを捉える。

「お前、どうしたんだ?かなりぼーとしてたぞ」

 目の前のカミュが心配そうに眉をひそめているのが分かり、ユリは慌てて笑顔を浮かべた。

「だ、大丈夫!今の光景にびっくりしちゃって…」
「……いや、少し顔色が悪いな」

 そう言ってカミュは左手でユリのおでこに触れる。「っ!」次に暖かいその手は、頬を滑るように移動し、首筋に当てられた。

「脈は正常か…………ん?ちょっと早く、」
「あ、ああ、もうっもう大丈夫だからっ!」

 ユリはカミュから離れるように慌てて後退りした。

「ユリ、顔が赤いな。やっぱり熱があるんじゃ……」

 心配そうなエルシスに「熱とかないよ!本当に大丈夫だから!」慌ててユリはそう伝える。
 はぁ…とため息を吐いて、自分の頬を両手で包んだ。確かに熱い。頬だけじゃなく身体中が。

 ……カミュに触れられて恥ずかしくて赤くなったなんて、それこそ恥ずかしくて言えない。もう一度自分を落ち着かせるように、ユリは深呼吸をした。

「ほら、ね。大丈夫そうでしょう?」

 訝しむ二人にユリは再度もう平気だとアピールする。本当に体調は悪くないのだ。
 ただ少し、記憶を辿ろうとして意識がぼんやりしただけで。

「……どう思う?」
「まあ……、さっきの様子は心配だったが、今は大丈夫そうには見えるな」

 エルシスとカミュは顔を見合わせる。

「……あ!エルシス、カミュ。あの光景の通りなら、このわんちゃんは木こりのおじさんじゃないかな?」

 何か話をそらせられないかと考えていると、いつの間にか後ろにいた犬の存在にユリは気づいた。

「わんっ……!」

 犬はそうだというように吠え、三人に助けを求めるように見上げている。

「マジか……このワンコロが木こりのおっさんだってのか……?」

 そういえば何となく人間の時の姿と似てるような……。
 やれやれとカミュが再び口を開く。

「牢を出てからおかしなことばかり起きやがる。勇者さまとの旅は退屈しそうにねえぜ……」
「これも勇者の力なのか……?」
 エルシスはまだ実感がわかないというように呟いた。
「過去を見る力……なのかな?あの出てきた橋って、さっきの壊れた橋だよね……」

 顎に手をかけ、うーんと考えるユリにカミュが続ける。

「まあ、どのみち橋が直らなきゃオレ達はこの森から出られないな。さっきの光景が本当なら、このワンコロが橋を直せる木こりなのかもしれねえ」
「なら、魔物を僕達が倒せば木こりのおじさんも元に戻るかも」

 口元に笑みを浮かべ、エルシスは二人に言う。
 この後の三人の行動は決まった。

「宝箱を探してみよう!」「宝箱を探そう!」「宝箱を探すぞ!」

 エルシス、ユリ、カミュ。
 顔をつき合わせた三人の声が見事に重なった。


 ――ケケケケ、来たな、来たな♪
 
 断崖の道を進んだ先に、ぽつんと一つ置かれた宝箱がある。
 隠されたように置かれたその宝箱に、旅人はさぞ中身は貴重な物だろうと期待に胸を膨らませながら開けるだろう。
 
「ジャジャジャ、ジャーンッ!参上!オレは……いたずらデビル!」

 だが、中身はこのオレさまさ!
 怖〜い魔物が潜んでいたのだ!
 旅人はさぞびびって、腰を抜かしているに違いない――……

「ふ〜ん…………で?」

 最初の橋を戻り、道をそれた先に、三人は件の宝箱を見つけた。
 先ほど見た通りの光景に、代表して宝箱を開けたカミュの声が呆れきっている。

 カーーカーー……

 何故かユリは、ここにはいないカラスの切ない声が聞こえた気がする。
 きっと幻聴だろう。
 この場の空気がいたたまれないせいだ。

「ウゲーッリアクションが悪いぞ!なら、これでびっくりさせてやる!いっくぞー!!」

 いたずらデビルは指をくるくる回して、ビームを出した。

 エルシスとカミュの間でバチっと弾ける。

 無反応な二人に、ユリだけが「わっ」と色気のない声をあげた。

「おいおい、どうした、それで終わりか?もっとびっくりさせてくれよ」

 最初にいたたまれない空気にした張本人のカミュが、今度は挑発するように言った。

「なんだとー!生意気なヤツらめ!なら今度はオイラの強さでビビらせてやる!いくぞぉっ!」

 怒ったいたずらデビルが攻撃姿勢を見せ、三人は一斉に武器を手に取り臨戦態勢をとる。
「油断するなよ」
 そう打って変わって慎重にカミュがエルシスとユリに声をかけ、二人は強く頷いた。

 カミュが先陣で攻撃を仕掛ける。
 その手には『せいなるナイフ』を装備をして。

 それに気づき、嬉しく思いながら。怯んだところをエルシスの大剣が追撃し、追い討ちをかけるようにユリの矢が射ぬく。

 いつもの三人の攻撃パターンだ。

「くらえ!」

 いたずらデビルは反撃にビームを打ち込んだ。びりっとするが、重傷を負うようなダメージではない。

 大丈夫、僕ら三人なら勝てる――エルシスは剣を振りかざしながら思った。

 だがらと言ってカミュの言葉通り、油断してはいないが、予期せぬ攻撃を彼らは受けた。

「ギラ!!」

 魔物の炎の魔法が三人を襲う――!

 攻撃呪文は、唱えるだけで簡単な高火力の攻撃になる。
 反面、魔力を消費するので唱えられる回数は制限があるという短所と、魔力の高さに威力が依存するという特徴があった。

 例えば回復魔法のホイミ。

 エルシスも覚えて使えるようになったが、回復魔力が高いユリの方が、その分癒しの効果も高い――これは今までの戦いの中でエルシスが学んだことだった。

「うっ……!?」
「きゃっ!」
「くっ……!」

 そして今、敵が使ってくる魔法は厄介なことこの上ないと身を持って知る。
 今まで魔法を使う魔物に出会したことがなかった。もしくは使う前に倒せていたか。

「ど〜だ!オレさまの魔法は!!」

 しかもギラは全体魔法だ。エルシスも最近覚えた魔法。三人がそれぞれそれなりのダメージを受けた。

「チッ……魔法は厄介だな」

 カミュは苦々しく舌打ちをした。
 一旦全員回復をし、立て直したものの、連発されたら堪ったもんじゃない。

「丸焦げになれッギラ!!」
「マジかよっ!」

 思ってる側から再び、いたずらデビルが呪文を唱える。

「させるかっ――ギラ!!」

 間髪いれずエルシスが同じ呪文を唱えた。
 エルシスの唱えたギラが壁になり、二つの炎は相殺される。

「やるな!エルシス!」
 カミュに褒められ、エルシスは嬉しそうに笑顔で返す。
「二人とも頑張って!!」

 その元気なかけ声に「「おう!」」とエルシスとカミュは応えれば、身体の奥から力が湧く。

 二人はゾーンに入り、オーラをまとった。
 三人のれんけい技《ゾーンバースト》である。

「ありがとう、ユリ!」
「こりゃあ速攻で片付けねぇとな!行くぞ、エルシス!!」

 二人は同時に走り出しす。

 頭上高く飛び上がり、大剣を振り降ろすエルシス。その隙に素早く後ろに回ったカミュが、エルシスとは逆に飛び上がりながら短剣で斬りつけた。

 炸裂する二人の《シャドウアタック》

「うぐっ……!」

 二回の高ダメージを受け、いたずらデビルが怯んだ。

「くそぉ……ホイミ……!」

 いたずらデビルはすぐさま指を回し、今度は回復呪文を唱える。

「!あいつ、回復魔法まで……!」
「焦るな、回復したっつうことは重傷を負ったってことだ。休まず攻撃を叩き込むぞ!」
「ああ!」

 カミュの言葉にエルシスは力強く頷き、剣を強く握り直すと、再び攻撃を仕掛けた。

「ちくしょう…!本気で怒ったぞぉ!お前ら全員、動物に変えてやるッ!まずはそこの女からだ!お前はウサギだ〜!」
「え、ウサギ!?」
「「ウサギ!?」」

 ユリが驚くと同時に、エルシスとカミュも"ウサギ"という単語に強く反応し、彼女を見る。

「いたずら変身ビィ〜〜ム!」
「っ……!!」

 不思議な色をした光線がユリを襲う!

「ユリがウサギだと……!?」
「どうしよう、ユリがウサギに……!」

 カミュとエルシスが慌てるなか、
「あ、あれ?」
 という困惑ぎみのユリの声が響いた。

「な……っ!オレの変身ビームが効かない!?」

 動揺するいたずらデビルに、なんだかわからないがラッキーとユリは弓を引く。

「これでっ……!!」

 力強い光のような矢は、会心の一撃となっていたずらデビルに命中した!

「ウゲーーー!!」

 断末魔と共に、いたずらデビルは倒れる。

「「マジか」」

 唖然とする二人は同時にハモった。
 思わずエルシスもカミュの口癖がうつってしまったらしい。

 まさかのとどめはユリの会心の一撃とは……。

「うわぁ!な…なんてこった……。いたずらビームを無効化するなんて……オイラの方がぶったまげたぁぁーー!」

 最後にそう叫んで、いたずらデビルは消滅する。
 跡形もなく消え去るのが、魔物の最後だ。

「やったね、二人とも!勝っててよかった……」

 無邪気に喜び、安堵するユリをよそに。

「……なあ、エルシス。ユリがウサギになるかもって時、邪なことを考えなかったか?」
「実は……ユリって綺麗な銀髪だけど、ウサギになったら真っ白な可愛いウサギになるんじゃないかって」
「…………………」

 次元が違った。田舎の純朴青年をなめていた。瞬時にうさぎと聞いてセクシーなバニーガールのユリを想像した己の煩悩さにカミュは恥じた。

「え、カミュどうしたの?腰に手をあてながらもう片手は目を覆って天を仰いじゃって」
「………恥ずかしい呪い」


 三人がいたずらデビルを倒した直後、一人の男がこちらに手を振りながら駆け寄ってくる。


「おーい!おーい!旅人さんがたー!!」
「……まさか。アンタあのワンコロか?」

 カミュの問いに木こりは「ワンッ」と答えた。

「……じゃない、おうっ!オラは木こりのマンプク。アンタらのおかげで、人間さ戻れただ」

 戻れてよかったとユリとエルシスは、顔を見合わせて喜ぶ。

「いやあ。ありがとうなんて言葉だけじゃオラの気がすまねぇだよ。何かオラに手伝えることはねえか?」
「……手伝えることか。ああ、あるぜ。あの魔物が壊しちまった橋を早いとこ修理してもらいたいんだ」
「それならお安いごようだべぇ〜!橋の修理さ終わるまでオラの小屋で休んでいくといいべや」
「へへっありがとな、木こりのおっさん。そんじゃお言葉に甘えるとするか」

 なかなかの強敵との戦いであったため、小屋で休めるとはありがたい――三人は橋が直るまでゆっくりと身体を休ませた。

「お腹空いてねぇか?待ってる間、保存食だが好きなだけ食べてくれていいべ」という木こりの言葉に、さらにお言葉に甘えて食事も済ませる。

 保存食という薫製の卵や鳥肉はとてもおいしくて。「なるほど、薫製か……今度試してみるか」というカミュの独り言に、ユリとエルシスは期待を込めた瞳で彼を見た。
 

「やーやー。お待たせしてすまんかっただ。壊れた橋はオラがバッチリ直したぞ。前の何倍もじょうぶにしてやったべぇ〜!」
「おおっ仕事が早いじゃねえか。おかげで助かったぜ」
「前のより立派な橋!」

 直った橋は見事な出来栄えだった。
 迷惑な魔物のせいでとんだ道草を食ったが、これで先に進めると三人は木こりに感謝する。

「ここの地図も持っていくといいべ。旅人さんがた、急ぎの旅なんだろ?ここの岩を登れば近道べさ」

 地図を指差し道を教える木こりの、早ければ数時間で抜けられるという言葉に、三人の表情がさらに明るくなる。

「本当にありがとう、マンプクさん!」

 エルシスは再度礼を言うと、恩返しができたようで何よりだべとマンプクは答えた。

「それにしても兄ちゃんが木の根に近づいたら、オラが犬になんのが見えたってあの話だがよ……ありゃあよく考えたら命の大樹の導きに間違いねえべぇ〜」
「命の大樹の導き……?」

 マンプクの話にエルシスは首を傾げる。

「んだ。大樹の導きはオラが子供の頃から今は亡きじいさまからよく聞かされてただ。世界の真ん中に浮いてる大きな木。あれは命の大樹さ、言うもんだ。その葉っぱのいちまいいちまいに全ての生き物の命を宿し、世界の調和を保つと言われる神木たな」

 その話は世界中を旅してきたカミュも初めて聞くらしく、彼の話に静かに耳を傾ける。

「そして、この森にあるかがやく木の根。あれは世界中にはり巡らされた大樹の根っこがカオを出したもんなんだ。そして、あの根は選ばれし者だけに大樹の意思を伝える。オラのじいさまは不思議な奇跡を……大樹の導き、そう呼んでいただ。ダハハ。オラがいくら根っこに話しかけてもなんも起きなかった。じいさまのホラ話だと今の今まで忘れてたぐらいだべ。兄ちゃん……あんた命の大樹に愛されてんだな。髪の毛もサラサラだし羨ましい限りだべ」

 そこまでマンプクの話を聞いて「ふ〜ん」とカミュは口を開いた。

「サラサラ髪の勇者さまは命の大樹に愛されし者ってワケか」
「エルシスのサラサラの髪にはそんな秘密が隠されていたのね」
「あのね、君達……」

 茶化すような二人の言葉に、エルシスはじと目で見た。

「ダハハ!仲が良いべな!兄ちゃん、旅の途中で何か困ったことがあったら大樹の根っこを探してみるといいべ。きっと大樹の根っこが旅人さん方を正しい道へ導いてくれるだろうさ。なんたってサラサラヘアの兄ちゃんは大樹に選ばれし者なんだからな!」

 マンプクは豪快に笑う。最後の茶目っ気がある言い方に、エルシスは苦笑いを浮かべた。

 マンプクに手を振り、別れると。

 橋を渡り、森を進み、教えてもらった近道の岩を彼らは登る。
 エルシスとカミュが手を貸してくれたので、ユリも難なく登れた。

 マンプクの言葉通り、わずか数時間で三人はナプガーナ密林を抜けることとなる――。


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