夜が明け――しばらく経って、雨は上がったようだ。
「ピキー!辺りにはもう誰もいないみたいだよ!」
「ありがとう、スライムくん」
「助かりましたわ、スライムさん」
偵察に行ったスライムは、ユリとセーニャに褒められて頬を赤く染める。
「外に出てみましょう。広場で待っていれば、みんなと合流できるかもしれないわ」
ベロニカの言葉に、四人は空き家の外に出た。
昨日の出来事が嘘に思えるような柔らかい陽射しが届き、すっきりした晴れ間が広がっている。
徘徊していたドラゴンは、一匹残らずグレイグが倒したらしく、スライムは「これで安心して暮らせるよ!」と、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回った。
「あの数のドラゴンをすべて倒すとは……さすがグレイグじゃな」
「誰もいないみたい……」
「ええ、他の四人もまだ来てないだけならいいけど……」
「エルシスさまとマルティナさま……カミュさまとシルビアさま……一体どちらに……」
「呼んだかしら?」
「「…?」」
どこからか、確かにシルビアの声が聞こえた。
四人はきょろきょろと辺りを探す。
「ここよ!ここ〜!」
すると、近くの井戸から「チャオ〜」とシルビアの顔が飛び出した。
「「!!」」
思い思いに驚く四人。
「シルビアさま、ご無事だったのですね!」
「お前らも無事で何よりだぜ」
「カミュ!」
シルビアが井戸から出ると、次にカミュの姿も現れた。
二人は隠し通路にもなっているこの井戸の中に隠れていたらしい。
「よう、怪我はねえかユリ」
「大丈夫!危ない目にも合わなかったよ」
シルビアとカミュと合流を果たし、残るはエルシスとマルティナ――。
「お二人を探しに行った方が……」
「探すって言ってもな……」
「エルシスちゃんたちも、まだどこかに隠れているかも知れないものね」
皆で考え合っていると、ベロニカがはっと気づき、目を見開く。
「あっ!見て!」
彼女が指差す方向には……
「みんなーー!」
元気よく手を振るエルシスと、その隣にはマルティナの姿があった――。
時は少し前――ユグノア城下町にたどり着き、リタリフォンから降りる二人。
「急に乗ってごめんね」
リタリフォンの首筋をぽんぽんと撫でながら優しく話しかけるエルシス。
「ここまで僕たちを乗せてきてくれてありがとう」
長い手綱が足に引っ掛かぬよう束ねてから「さあ――主人の元へお帰り」そう尻を押して合図する。
エルシスの言葉に従うように、元来た道を駆けていくリタリフォン。
馬に罪はない――リタリフォンは名馬と言えるほど、良い馬だとエルシスは思った。
「みんなと上手く合流できるといいわね……」
その様子を微笑ましく見ていたマルティナは、ユグノア城跡を見上げながら呟いた。
二人はスロープを上がりユグノアの門を潜る。
すぐに彼らの姿は目に飛び込んできた。
それに合わせて、上がっていくエルシスの頬。
「あっ!見て!」
ベロニカが気づき、こちらに指差す。
「みんなーー!」
エルシスは皆に大きく手を振った。
彼らは笑顔を浮かべ、二人に駆け寄る。
「エルシス大丈夫!?怪我はない?」
「ユリ!君の方こそ。僕はマルティナさんに助けてもらったから大丈夫だよ」
「全員無事にそろって、言うことねえな」
「ウフッ本当ね!」
「無事じゃったか、ふたりとも」
「ロウさま……。ご心配をおかけしました。グレイグの襲撃を受けましたが、なんとか逃げきることができました」
ロウに詳しく話をするマルティナ。
「――うむ。グレイグには確かめたいことがあったが、それには及ばぬようじゃな……」
残念そうな口振りの後、ロウは自身の見解を皆に話す。
「やはり、今のデルカダール王国には魔物がはびこっておると見て、間違いないだろう」
「魔物……」
「デルカダール王国の地下にはドラゴンがいたし、ホメロスは魔物と繋がっていたものね……」
神妙に呟いたエルシスに、ユリが思い出して同じように言う。
「はるか昔……栄華を誇ったとある王国は魔物が化けた奸臣によって滅ぼされたという。その魔物の名は……」
ロウを中心に。皆がごくりと息を呑んで、次の言葉を待った。
「ウルノーガ……!!」
ウルノーガ――エルシスがその名を声に出さず繰り返す。
「そやつこそ、はるか昔より暗躍し続ける邪悪の化身よ。おそらく、今のデルカダールもその魔物が牛耳っておるのじゃろう」
「じゃあ、その魔物を倒せば……」
エルシスの独り言のような呟きに、ロウは頷いた。
「よいか、エルシスよ。この世に生きるすべての者たちのために、おぬしはウルノーガと戦わなければならぬ」
エルシスは真剣な顔で話を聞く。
「邪神なきこの時代に勇者としておぬしが生まれたのは、そのために違いない」
それが――僕の使命。
「……だが、ウルノーガは未知にして強大。闇のチカラをまとったおそろしいヤツじゃ。無策でヤツに立ち向かうことはできまい」
「闇のチカラ……。私、聞いたことがあります。命の大樹には闇のチカラをはらう何かが眠っていると……」
ロウの話に心当たりがあると口を開いたセーニャは、ベロニカを見る。
「やはり、お姉さま。エルシスさまを連れ、命の大樹に行かなくては……」
「ええ……、そうね!」
「エルシスよ。この枝を持て。この虹色の枝はかつて、命の大樹の一部であったもの……」
ロウはエルシスに虹色の枝を差し出した。
「勇者のチカラを持つおぬしならば、大樹への道のりについて、何かを知りえるやもしれぬ」
虹色の枝を受け取るエルシス。
「どうだ?何か見えないか、エルシス?」
カミュが問う隣で、シルビアも興味深く見つめる。
エルシスは目を閉じて、念じてみる――……
しかし、何も見えなかった。
「何も……見えない」
エルシスは期待の目を向ける皆に、落胆しながら答えた。
「何も見えないって……その枝、ニセモノ!?まさか、あの情報屋にガセネタつかまされたってこと!?」
声を荒げるベロニカ。
「ここまで、引っ張っといて……ありえないわ!」
「ほっほっほ。まあ、仕方あるまい」
憤るベロニカとは反対に、ロウは穏やかに笑う。
「これからは、わしと姫も同行し、命の大樹への生き方を見つけるとしよう」
「ということは……」
シルビアの言葉にロウとマルティナは肯定するように微笑み、六人を見回してから。
「よろしく頼むぞ、エルシスよ」
「ふふ……皆さん、よろしくお願いします」
ロウとマルティナ――頼もしい二人が仲間に加わった。
二人を歓迎するように五人は笑顔を向ける。
「ロウのおじいちゃんとマルティナさんが仲間になれば百人力だわ!これでますます旅がラクになるわね」
「ええ、頼もしいお二人が仲間になって心強いですわ」
「この旅も、ずいぶんと大所帯になったもんだ」
「何人まで増えるかな?」
「いや、これ以上増えるのかよ」
「みんなでサーカス団ができそうね!」
わいわいと会話が広がるなか、エルシスは二人と向かい合った。
「マルティナさん。あなたが仲間になってくれて心強いです」
「マルティナでいいわ。これからは対等にいきましょう」
「……わかった。マルティナ」
エルシスの返事に、マルティナは満足げに微笑する。
次に、彼は隣のロウに視線を移した。
「これから、よろしくお願いします。ロウ…おじいちゃん」
まだぎこちなさが残るが、照れ臭そうにそう呼んだエルシス。
見開いたロウの目が、みるみるうちに潤んでいく。
「僕の父と母のことを……教えてほしいんだ」
続けてのエルシスのその言葉に。
答えるロウの声は、涙を堪えるようなものだった。
「……二人のことを語ることなどもうないと思っておった。口に出したら悲しみしか生まれんからのう。だが、これからは違うのじゃな。二人は、おぬしの中で生きることができる――」
ロウはエルシスを優しい眼差しで見つめる。
「ありがとう、エルシス。生きていてくれて、本当にありがとう……」
「……ロウおじいちゃん……」
二人の会話に、その場からはすすり泣く声が。
「エルシスもロウさんも良かった……」
「ああ……わかり合えるに越したことねえからな」
ユリはもちろん、あのカミュも微かに声を震わせて。
――新しい絆も生まれたところで、問題は次の行き先だ。
「虹色の枝のことは残念じゃったの。勇者のチカラを持つエルシスならば何か見えると思ったのじゃが……。とはいえ、長居は無用じゃ。いつ追っ手が来るとも限らんし、とりあえずここから出ようかの」
新しい仲間を迎えた一行は、追っ手から逃れるためにも、一旦シルビア号に戻ることにする。
「じゃあね、スライムくん」
「スライムさん、お元気で」
「何はともあれ、これから君はのびのび暮らせるね」
スライムに挨拶をするユリ、セーニャ、エルシス。
「ピキー!近くに来たら遊びに来てね!」
プルプルと体を震わせながらぴょんぴょん跳ねるスライム。
廃墟だったこの場所が、少しだけ明るさを取り戻したような気がした。
ユグノア城を後にしながら、これからのことを彼らは話し合う。
「デルカダール王国に魔物が……。だから最近のあの国はうさんくさくなっちまったワケか。あんな大国ですら、影で操っちまうなんて、どうやらすげえヤツらしいな。その……ウルノーガってのは」
ウルノーガ――なんだか胸がざわつく名前だとユリは思っていた。
そして、その名だけで恐ろしく感じる。
自分はこの名前をどこかで聞いたことがあるのだろうか?
ユリが人知れず考えているなか、カミュの言葉に続いて、マルティナが口を開く。
「デルカダール王国で暗躍している邪悪の化身ウルノーガ……。ロウさまと16年間、調べまわってもウルノーガというヤツの名前しか暴くことができなかった」
「ロウさまとマルティナさまでさえ……」
「私たちのチカラではこれが限界。でも、エルシス。あなたがいればきっと道は開ける……そんな気がするの」
道は開ける――それは、どうすればいいんだろう。
何も起こらなかった虹色の枝を見つめながら、エルシスは考える。
「かつて、ラムダの長老さまが言ってました。命の大樹には闇のチカラをはらう何かが眠っていると……それを手に入れるために、エルシスさまを大樹に導くのが私たち双子の使命なのかもしれません」
そして、セーニャもまた、自分たちには何ができるのか考えていた。
「ロウちゃんは大樹への道のりを虹色の枝が教えてくれるって言ってたけど、残念ながらダメだったわね……」
虹色の枝を見つめたまま歩くエルシスに、シルビアが声をかける。
「でも、きっと何か方法があるはずよ!諦めないで探しましょ!」
励ますシルビアに、エルシスも笑顔で頷いた。
「不思議な根っこはエルシスが手を翳すだけで、不思議な光景を見せてくれるのに……」
ぽつりと言ったユリの言葉に、エルシスは不思議な根っこの時のことを思い出す。
そういえば……不思議な根っこはいつも左手のアザに反応していた。
……もしかして……
エルシスは試しに虹色の枝を左手に持ち変えてみる。(……そんな単純なものじゃないか)
「おい、エルシス、枝が……」
「え?」
何事もなく歩くエルシスに、カミュが驚きながら指差した。
エルシスは枝に目を落とす。
先程まで、静かに輝いていた虹色の枝は、今は目映い輝きを見せている。
――そして、不思議な光景が見えた。
どこかの森にある祭壇。
そこの台座に色とりどりのオーブが捧げられる。
それぞれのオーブは光輝き、その先には命の大樹が――。
そこで、光景は終わった。
立ち止まり、全員、困惑している。
「ちょっと!なによ、今の!?アタシにも見えたわよ!」
シルビアが驚きに真っ先に声を上げた。
「ああ、オレにも見えた」
カミュの言葉に続き「私も…」「わしもじゃ」と次々とその場に上がる同意の声。
「お姉さま!もしや、あの祭壇に6つのオーブを捧げれば、命の大樹への道が開かれるということでは!?」
「すげぇ……大樹への行き方がわかっちまった。これが虹色の枝のチカラか……。ここまで探し求めてきたかいがあったぜ」
「すごいわ……あなたのそのチカラはまさに選ばれし者の証。未来を紡ぐ勇者のチカラだわ。エルシスがいれば、私とロウさまが16年、たどり着けなかった真実を知ることができるかもしれない……!」
「ユリのおかげだよ!ありがとう!さすがだよ!」
「え、え?あ…どういたしまして」
興奮気味な声が続くなか、ユリだけはエルシスにえらく感謝され「私、何かしたかしら…」と、ますます困惑した。
「今見たオーブって、コイツのことだよな……。デルカダール城から盗んできたコイツに、そんな意味があったとはな」
カミュがそう言いながら、どこからか取り出したのはレッドオーブだ。
どこかで見覚えあると思ったら、それだとエルシスもユリも気づく。
「オレにはオレの使い道があったんだが、そういう話なら、これはお前にやるよ。大事に使ってくれよな」
あっさりと手放そうとするカミュに、エルシスの方が慌てた。
「ま、待ってよ!それ、ずっとカミュが追い求めてきた大事なものだろ?そんな、簡単に受け取れないよ!」
いくら命の大樹に行くのに必要なものでも、カミュがそれを手に入れることに真剣だったのは知っているから。
カミュの意思を曲げてまでももらいたくない。
それなら他の方法を死ぬ気で探してみせる――と。
「ったく……。あのなぁ、命の大樹へ行くのがオレらの目的だろ。その方法を探すためにこれまで旅をしてきて、やっと知ることができたんだ。オレがいいって言ってんだから素直に受け取れ」
エルシスは無理やりカミュからレッドオーブを押し付けられた!
納得いかないエルシスは、不服そうにカミュに何かを言いたそうにしたが、ベロニカが宥める。
せっかくの手がかりを、この勇者はカミュに気を遣って棒に振るのではないかと彼女はハラハラしていた。
「……命の大樹に行ったあと、またカミュに返すことはできないのかな…?」
ユリの提案にカミュはふ…と笑みを溢す。
「これでいいんだよ。一度ならぬ二度も手にすることができた……それだけで満足さ」
「……カミュ……」
――これはただの身勝手な罪滅ぼしで、手に入れたところで無意味なことだとカミュはずっと前から知っていた。
いい加減、己の弱さから逃げるのは止めて、本当に必要とするエルシスに渡すべきだと……そうカミュは決意したのだ。(……悪いな)
――マヤ。
「ロウさま。売らなくて正解でしたね。仮面武闘会でもらったそのオーブ」
「うむ。あやうく真の価値もわからず路銀にかえるとこじゃったわい。さあ、エルシスよ。受け取るがいい」
今度はイエローオーブをエルシスは受け取る。
「祭壇のあった場所は命の大樹の真下……おそらく『始祖の森』と呼ばれる秘境じゃろう」
「始祖の森……」
「エルシスよ。道は決まったな。残り4つのオーブを集め、始祖の森の祭壇に捧げるのじゃ」
ロウの言葉に、エルシスは深く頷く。
「残り4つのオーブ……。でも、いったいどこから探せば……」
セーニャの言葉に、問題はそこだった。
偶然二つは手に入ったが、なんの手がかりもなしにこの世界を探すのは不可能に近い。
その手がかりもどう掴めばいいのやら。
「虹色の枝にはさんざん振り回されたけど、まさかあんなチカラがあったとはね。大樹への行き方がわかっちゃったわ。どうせだったら、残りのオーブの場所もパパーッと教えてくれればラクなのに。いったいどこを探せばいいのかしら……」
肩を竦めて話すベロニカは、そういえば……と思い出す。
「オーブといえば、子供の頃、海底に沈んだオーブがあるって聞いたけど、そんなの雲をつかむような話だしね……」
「海底……」
もしその話が事実なら、海底に行く方法なんてエルシスには検討もつかない。
どうやら次の目的は、虹色の枝以上に困難を極めそうだ。(ベロニカの言う通り、他のオーブの場所も示してくれればいいのに……)
「ねえ、ユリ。君、じつは人魚だったりしない?」
「私、自分が泳げるかどうかも……」
真面目に疑問に思っているらしいユリの返答に「じゃあ今度海で泳いでみよう」とエルシスは答えた。
「とにかく、今は手がかりがない。世界中、くまなく回って情報を集めるほかなさそうだな」
「うむ。世界中をくまなく回るにはまず、ソルティコの町にある水門を抜け、外海へと出るのがいいじゃろう」
カミュの言葉にロウが続く。
「幸い、ソルティコの町にはジエーゴという知り合いの領主がおる。わしが頼めばこころよく水門を開けてくれるじゃろうて」
「さすがロウおじいちゃん、顔が広い!」
「ホッホッホッ。わしにまかせよ、孫よ!」
孫に褒められ張り切る爺の姿がそこに。
「ロウさま、張り切りすぎて腰を痛めないといいけど……」マルティナが眉を下げた笑みを浮かべながら、心配そうに呟いた。
「………………」
「……?」
いつもなら明るく会話に入ってくるシルビアだったが、浮かない顔をしている――。
その横顔に気づいたセーニャは、不思議そうに首を傾げた。(シルビアさま…?)
「よし!それでは、オーブ探しの旅に出るぞ!ウルノーガを倒すため、6つのオーブを手に入れ、命の大樹への道を開くのじゃ!」
杖で遠くを指し、意気揚々と言うロウ。
「じゃあ、まずはシルビア号に戻ろう。シルビアの船が大活躍だね」
「………………」
「……シルビア?」
「……あら、エルシスちゃん。ごめんなさい、なんでもないの。ちょっと考えごとをしてただけよ」
シルビアが深刻そうな顔で考え事……?
珍しいと思うのは失礼だろうか。
「……あ、ロウさん。何か落としましたよ」
張り切るロウから落ちた本を拾い上げるユリ。
「ピチピチギャル……??」
ユリが不思議そうにタイトルを読み上げた瞬間。
ぴたっと全員の動きを止まり、その場に戦慄が走った。
「これは呪いの本ね。さっさと燃やしてしまいましょう」
「ええ、お姉さま」
「呪いの本……!?」
ユリの手から素早く奪い取ったベロニカは。手からボゥッと炎を生み出し、一瞬にしてそれを消し炭にした。
「わしの秘蔵のコレクションがあぁぁ!!」
がくっと地面に両膝両手をつき、泣き叫ぶロウ。
「……ロウさま……」
「「…………」」
片手で額を押さえ、呆れるマルティナ。
引いてるセーニャとシルビア。
そんな二人とは比べ物にならないぐらい、ドン引きしている者がいると――カミュは気づいた。
「………………………」
田舎育ちの純朴青年である――。
初めて見るエルシスの蔑んだ目よ。
まるでくさった死体を見るような目だ。
「……僕の……」
エルシスはふつふとしながら口を開く。
「僕のおじいちゃんはそんないかがわしい本なんて読まない!!」
「エルシスや…!誤解じゃ!このムフフ本はとても高く売れるからユグノア復興の資金にするために持ってきただけじゃ!」
「言い訳なんて聞きたくないよっ!」
エルシスとロウの間に生まれた絆も、一瞬にして消し炭になった。
「あっエルシス!」
いかがわしい本?呪いの本じゃなくて?――ユリが止める間もなく「テオおじいちゃんは読んでなかったーーー!!」と叫び、魔物もびっくりにエルシスはすごい勢いで走って行ってしまう。
「おいおい、あいつ走り出しただけでなく、ルーラでどっか行っちまったぞ…」
一連に呆然とする、ロウとユリ以外の五人。
先程の二人の感動的なやりとりは一体……。
自分たちの涙を返してほしいと彼らは思う。
「エルシス、どうしちゃったの……!?ロウさんが呪いの本を持っていたのがそんなにショックで……」
「……。そうだな」
ユリの誤解はそのままにしておくことにカミュは決めた。
五人は同じようなため息を吐く。
どうやらこれからは、旅の目的だけでなく、エルシスとロウの関係も前途多難そうだ――。
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ロウとマルティナが仲間になった!
新しい仲間と共に新しい目的を目指し、まずは船旅です。
ちなみにリタリフォンはちゃんとグレイグの元へ帰ったのでご安心を↓
「リタリフォン!何故だ、何故なのだ!?」
「…」
「何故、悪魔の子を乗せて走ったのだ!?リタリフォン!!」
「…」
「……グレイグ将軍、どうしたんだ?」
「なんでも主のグレイグ将軍しか乗せないリタリフォンが、悪魔の子を乗せて走ったことによって逃げられ、二重のショックを受けられている」
「……そ、それは……なんという……」
「リタリフォーーーン!!」
「「…………………」」