ソルティアナ海岸

「エルシス、大丈夫よ。デルカダール兵士たちがいたってきっとなんとかなるわ!」
「うむ。いざとなったら、わしの特大魔法で追い払ってやるわい」
「あっおじいちゃん、それはあたしの専売特許だからだーめ!」
「そこをなんとか……!わしだってエルシスに祖父としての活躍っぷりをもっと見せたいんじゃ……!」


 ――ダーハルーネが見えてきて、準備をする彼ら。何やら若干揉めているのはベロニカとロウだ。

「いや、二人は留守番だから」

 フードを被りながら言ったカミュの一言に、二人はガーンっと揃って同じような顔をする。

「ちょっとなんでよ!?」
「カミュよ、納得できる説明を求むぞ」
「何であんたが行ってあたしが留守番なのよ!」
「やつらにあまり顔を知られてないわしは適任じゃと思うのじゃ。まさか、前王が生きていて旅人とは思わんじゃろ」
「一番危険なエルシスが行くならあたしだって行ってもいいじゃない!」
「あーもう!うっせえ!」

 交互に言う二人に匙を投げたカミュ。
 彼に代わってマルティナが口を開く。

「船を降りる目的は買い出しだからよ。つまり、荷物持ち。可愛いベロニカと腰痛持ちのロウさまにはそんなことを頼めないわ」

 マルティナの上手い言い方に大人しくなるベロニカとロウ。
 さすがマルティナ、大人だ――と、様子を見ていたエルシスは思った。

「師匠。シルビアさんがトランプを借してくれたの。みんなでゲームをして待ってよう?」
「ええ、ぜひロウさまも」

 極めつけはユリとセーニャの言葉だ。

「トランプ!?楽しそうねっ」
「どーれ、わしも娘たちに混ざっちゃおうかのう」

 あっさりそちらに気が移った二人に、カミュとマルティナは苦笑いを浮かべる。
 エルシスはユリに二人をまかせたと目でお願いすると、彼女は笑顔で頷いた。

 ベロニカとロウが行く気満々だったのはわかっていたので、二人を船に留める作戦は成功だ。

「アタシはアリスちゃんのお手伝いをするから、三人とも買い出しよろしくね」
「うん、まかせてくれ」
「おう」
「ええ、慎重に行動するわ」

 シルビアの言葉に答える、エルシスとカミュとマルティナ。
 ローブを着た二人も、カミュと同じようにフードを被った。


「おや、あなたは……コ、コホン……。今から言うことはただのひとりごとです。いやーホメロス将軍は悪魔の子を見つけ次第連絡せよって言いましたが、ドックを使う人をいちいち確認するなんてやってられませんよ!まさか、ここに悪魔の子が戻ってくるなんてありえないし、ドックを使いたい人は全員通しちゃえばいいかなー」

 ――というドックを管理する男の言葉通り、第一関門はあっさり突破し。
 シルビア号は無事、ダーハルーネのドックに停泊した。

 どうやら町にはまだデルカダール兵士が数名残っているようだが、目立つ行動をしなければ大丈夫そうだ。

「まったく、ホメロスさまも心配性だよな。あんな大騒動があったってのに、悪魔の子がこの町に戻ってくるはずないぜ」
「あ〜早く夜にならないかな。ここの酒場にあるお酒はおいしいって聞くし、仕事終わらせてぐいっと飲みたいもんだぜ」

 何故なら兵士たちもこのやる気のなさである。
 三人はフードで顔は隠していたが、足取りは堂々と人をかき分け歩いていた。

 海の男コンテストの時ほどの熱気はないが、ダーハルーネは以前と変わらず活気に溢れている。

「食料を買ったら、スイーツも買わない?みんなのお土産に」
「いいわね。みんな喜ぶと思うわ」
「この分だと大丈夫そうだしな」

 まずは、目的の買い出しをするために市場へ。
 その途中――海風が吹き、エルシスのフードが脱げる。

「そこの君――」
「「!」」

 すぐにフードを被り直したが、デルカダールの兵士に見つかってしまった。
 カミュは短剣に手をかけ、マルティナも身構える。

「すごいサラサラ髪だな!私はゴワゴワだから羨ましいよ」
「あ、ありがとうございます……」

 そっちか――カミュとマルティナは気が抜けたように緊張をほどいた。

「私は将軍ホメロスさまに言いつけられて、この町で悪魔の子という青年が戻ってこないかどうか見張っているんだ。けど、厳重に見張ってる場所に、ノコノコと戻ってくるはずがないよな〜。早くデルカダール王国に帰りたいよ」

 最後にトホホ…と愚痴を溢した兵士。

 その探している青年は、ノコノコ戻ってきて目の前にいます――とはもちろん言えないので。「ご苦労さまです」と兵士に告げて、エルシスは二人と共にその場をそそくさと離れた。

「ったく、気を付けろよ?」
「ごめん」
「エルシスの髪ってかなり特徴的だと思うけど、案外気付かれないものなのね」

 その後は危なげなく、三人は買い出しをする。

「サンドフルーツが売ってる!サマディー王国で飲んだジュースおいしかったし、買っていこうよ!」
「ええ、そうね。船旅ではビタミン不足が命に関わるし」
「えっそうなの?」
「壊血病だな」


 一方、留守番組のユリたちは――


「やったー!またあたしの勝ち!」
「すごい師匠!トランプ強いんだね」
「ムムム…」
「うぅ…」
「ふふん♪ねえ、一番勝負に負けた人は罰ゲームするってのはどう?」
「だ、断固反対ですっお姉さま!」
「わしも反対〜!」
「…師匠、好きだね…罰ゲーム」


 楽しくトランプをしていた。


 買い出しを済ませたエルシスたちは、荷物を持ちながらスイーツを買いに向かうと、見知った少年の姿が。

「あれって……」
「ああ、ラッドじゃねえか」
「あら、知り合い?」

 マルティナに簡単に事情を説明しながら、エルシスはラッドに話しかけた。

「久しぶり、ラッドくん」
「よぉ」
「ん……!?ア、アンタたち…っ」

 驚いて大きな声を上げそうになったラッドは慌てて口を塞ぎ。
 辺りを伺って、デルカダールの兵士たちがいないことを確かめてから、今度は小声で口を開く。

「アンタたち、あのデルカダールの将軍ホメロスから逃げきるなんてスゴイよな!アンタたちのことソンケーしちまうぜ!」

 興奮気味に話すラッドに、エルシスは優しく微笑んだ。
 ラッドはその時の出来事がきっかけで、今は父親の手伝いをしていると言う。

「あ、そういやあ、ヤヒムの所で働く姉ちゃんがアンタに会いたがってたぞ」
「誰だろう…?」
「なんかキレイな目をした郵便屋さんがどうとか……」

 ――ディアナさんだ。
 エルシスは「ありがとう、会いに行ってみるよ、ラッドくんはお父さんのお手伝い頑張ってね」そう最後に言ってラッドと別れると、その足でラハディオの屋敷へと向かった。

「――あっキレイな目をした郵便屋さんたち!良かった、無事に逃げおおせたのね。でも、まだデルカダールの兵士たちが見張ってるから気を付けて」

 案じるディアナの言葉に、エルシスは笑顔で頷く。続けて、彼女はラハディオもヤヒムも元気だと教えてくれた。

「ラッドくんに会って、ディアナさんが何か僕に用があるみたいで……」

 エルシスがそう切り出すと、ディアナは「そうそう」と思い出したように頷く。

「あなたにお願いしたいことがあるの。この手紙をソルティコの町にいるセイドンという初老の紳士に届けてくれないかしら?」
「ちょうど僕たち、これからソルティコの町に向かうところなんです」

 エルシスの言葉にディアナはまあ、それは良かったわと喜ぶと、すぐに真剣な顔になった。

「……私がパティシエをやめてここで働いていたのも、すべてその手紙をセイドンさんに渡すため……。そのくらい大事な手紙だから、信頼できるあなたたちにお願いしたかったの」

 深刻そうでもある彼女に、エルシスは「分かりました」としかと答える。

「必ず、そのセイドンさんという方にお届けします」
「ありがとう、郵便屋さん!はい、それじゃあこれがセイドンさんに渡してほしい手紙よ」

 エルシスはディアナから手紙を受け取り、大事なものとして腰のポーチにしっかりしまった。
 ラハディオさんとヤヒムくんにも宜しくと、エルシスたちはディアナに別れを告げる。

「お前はまた厄介なお願いを引き受けて……」
 歩きながら、呆れてエルシスを見るカミュ。
「いや、でも乗りかかった船だしさ」
「キレイな目をした郵便屋さんなんて素敵ね。ソルティコの町に着いたら、忘れずその彼を探しましょう」

 マルティナは優しく、お人好しな彼を見て微笑みながら言った。
 お土産のスイーツも買って、三人は無事にシルビア号に戻る。

 ちょうど船の整備も終わったようだ。
 帆を広げ、出航するシルビア号。

(あの町に訪れるのは何年…いえ、何十年ぶりかしら……)

 ――シルビアは、ソルティコの町がある北西に舵を切った。


 ダーハルーネが世界有数の大きな貿易都市なら、ソルティコは人々が憧れるリゾート地だという。
 その近くのソルティアナ海岸へ上陸した一行は、美しい砂浜を歩いて行く。


「この辺りも変わらないわねえ……」
「?」
「……はっエルシスちゃん!な…なんでもないわ!おーほっほ、気にしないでね!」
「??」

 シルビアのおかしな言動に、エルシスは大きく首を傾げた。
 そして、彼は小声でカミュに話しかける。

「なあ、カミュ……シルビア、なんか妙にソワソワしてない?」
「まあ、してるかしてないかと聞かれればしてんな」
「ユグノア城跡でもソルティコって聞いたとたん急に黙っちゃうし、具合でも悪いのかな?」
「まあ、具合が悪いならそう言うんじゃねえか」

 エルシスの問いに、適当に答えるカミュ。
 彼には、シルビアの様子がおかしい理由がなんとなくわかっていた。
 もともとシルビアは自分のことや、過去を話したがらなかったし、察しがつく。(まあ、オレみたいな理由じゃないだろうが――)

 マジックリップスがうようよする砂浜を通り抜けるなか、ユリは綺麗な青いサンゴを拾った。赤いサンゴは素材として使えるようだが、このサンゴは普通に旅の思い出として取っておこうとポーチに入れる。

 案内の看板を見つけ、「ソルティコの街、丘をこえてすぐそこ」と文字を読み上げたエルシス。

 看板通りに、彼らは小高い丘を登ると……――

「キラキラしたスライムナイトだ!」

 見えたのはソルティコの町ではなく、キラキラした魔物。
 つまり、乗り物にできる魔物だ。

「キラキラした魔物?エルシスはあんなにはしゃいでどうしたのかしら?」 
「確かにあのスライムナイトだけキラキラして、珍しいのう」

 あ、前にも見たことあるようなやりとり――。
 不思議そうなマルティナとロウの二人に全員が思い、カミュはため息混じりに口を開く。

「二人も見てりゃあわかるぜ」
「そうね。それが一番ね」
「ええ」
「ウフ、百間は一見にしかずと言うものね」

 四人の言葉に、ますます不思議そうな顔をするマルティナとロウ。

 エルシスはユリと共に、スライムナイトと戦い「ドラゴン斬り!」ドラゴンではないが、新しい覚えたての技を使って倒した。

「!倒したのに魔物が消えないわ……!?」
「うむ……不思議な現象じゃ!」
「キラキラした魔物は何故か倒しても消えなくて、ああやって乗れっ……おいおい!?」

 律儀に二人に説明するカミュが、途中で驚きに声を上げた。

「エルシス…!スライムナイトのナイトの方が大変なことになってるよ……!」
「お前、乗り方はそれでいいのか!?」

 エルシスはスライムに跨がって乗っているのだが、その側面にナイト?が可哀想な感じに引っ付いている。

「……わ、本当だ!」

 普通は乗り物だけ残り、騎手?の魔物は消えるのだが、また新しい現象にマルティナとロウ以外も驚いた。

 慌てて降りて「ごめんよ、ナイトくん……」と謝るエルシス。
 ナイトはいいよと言うように身振り手振りをする。

「え?一緒に乗ろうって?いいの?」

 こくこくと頷くナイト。さらには自身の剣と盾を差し出す。

 これでエルシスも晴れてスライムナイトの仲間入りだ。

 ナイトはスライムの側面に引っ付き、エルシスは再びスライムに跨がった。「結局その乗り方が正しいのかよ!?」カミュが再びつっこんだ。

「でも、カミュ。私もスライムに乗ってみたい。ナイトくんと乗りたい」
「…お前もそう言うと知ってたよ」
「カミュさま、私も乗りたいですわ」
「ええ、ちょっと面白そうよね」
「あら、じゃあアタシも!」

 ユリに続くセーニャとベロニカとシルビア。
 仕方ない。四人分のキラキラしたスライムナイトを探して倒すことにした。

「カミュ。わしも乗ってみたい。移動する時、楽でよいのぅ」

 五人分になった。

「みんな、楽しそうね」
「あんたは乗らなくていいのか?」
「フフ…私は遠慮しておくわ」

 カミュとマルティナ以外がスライムナイトに遊ぶように乗っていると、美しい光景が彼らの目の前に飛び込んできた。

「見て!一面、黄色の花畑よ!」
「わあ、綺麗な花畑!」
「なんて素敵な場所なんでしょう!」
「ええ、素晴らしい景色ね」

 花畑にうっとりする女性陣。
 ユリはスライムから降りると、まじまじと黄色い花を観察した。
 爽やかなレモンカラーに、花弁がレースのように重なる可愛いらしい花。

 すると、シルビアがユリに声をかける。

「その花はマリーゴールドと言うのよ」
「マリー?名前も可愛いね」

 ぴったりの花の名前だ。
 風が吹き、舞う花弁。飛び交っている蝶は、ユリが人指し指を差し出すと、その指に止まる。

 ふと、ユリがシルビアの横顔を見ると、彼は懐かしそうに目を細めて、花畑を眺めていた。

「シルビアさんって、もしかして……」

 ユリの言いかけた言葉はキシャー!という魔物の声にかき消される。

 彼女たちが美しい花畑を堪能してる間、エルシスたちは現れたひぐらしそうと戦っていた。花の魔物で、一見美しい魔物かと思いきや、大きな花の中心は牙がむき出しの口になっており、見た目は怖い。

 無事にひぐらしそうも倒し、先に進むと、目的のソルティコの町の入り口は花畑に囲まれるようにあった。
 リゾート地と聞いていたが、町の入り口の門は砦のように厳格な印象を受けると――エルシスは思う。
 
「あ!アタシ、ちょっと花摘みしてくるわ」

 門を潜ろうとした際、その声に一斉に彼らは振り返る。

「シルビア?」
「あっちにキレイな花畑があったのよ〜」
「え、花畑には今さっき……」
「町の外で待ってるから終わったら呼んでね」

 エルシスが何か言う前に、シルビアは行ってしまう。
 ぽかんとする一同。

「いったいどうしたのかしら。シルビアさんったら急に……」
「うん…何かあったのかな……」
「まあ、いいんじゃねえか?」
「終わったら呼びに行こう」
「カミュとユリは何か知ってるの?」

 あっさりとした二人に不思議がるエルシス。
 まったく……あのおっさん。もう少し上手く誤魔化せよ――とカミュは思いながら「行こうぜ」と足を進める。

 門を潜ると、そこからさらに石橋を渡って、ソルティコの町に入るようだ。
 ――いや、これはただの橋ではなく、この橋こそが巨大な水門であった。

「エルシス、見て!あんなに大きな船が橋の下を通り抜けていくよ!」

 橋の上からユリが段差に足をかけ、見下ろす先には――
 海から来た大きな帆船が、今まさに水門橋の下を通り抜けようとしていた。

「すごい!よくぶつからないな!」
「ああ、見事なもんだ!」
「私たちもこれからこの下を通るのね」
「帆が引っ掛からないか、なんだかハラハラしてしまいますわ」
「ねえ、あたしにも見せて!見えないわ!」
「どれ、ベロニカ。わしが肩車してあげようかのう」

 皆で壮観な光景を眺めていると、商人が彼らに話しかける。

「この水門橋の下を流れるソルッチャ運河は、ここソルティコとメダチャット地方、さらには外海とも通じてるんですよ」
「へえ、ソルッチャ運河っていうんだ」
「ソルッチャ運河はロトゼタシアの門戸とも呼ばれてましてね。この川のおかげで外海と内海の国々が自由に交易できるんです」
「とても重要な運河ということじゃな」

 エルシスは海とは反対側のソルッチャ運河を眺めた。
 船が並んで二隻は通れそうなほど、広大な運河である。

「やあ、旅の方。ここはソルティコの町だ。この町はカジノであることで有名でね。カジノのために多くの旅人が訪れるんだ。キミもぜひ寄っていってくれよな」

 次に声をかけてきたのは、ギターを奏で歌う吟遊詩人だ。

「カジノって話には聞いたことがあるけど行ったことないや」
「今までの町ではなかったからな」
「カジノ……確か、大人の愛と狂喜と欲望が渦巻く場所だっけ?」
「「なんか違う」」

 再度門を通ると、厳格だった入り口とは違い、町は美しい景観が広がっていた。
 青い空に青い海。映えるような白亜の邸宅が建ち並ぶ。

「わぁ、綺麗な町だ……!」
「ええ、リゾート地って呼ばれるだけあるわね!」
「へぇ、噂通りだな」
「素敵な海の町!」
「町行く人も観光客でしょうか?皆さん楽しそうですわね」

 エルシス、ベロニカ、カミュ、ユリ、セーニャ。
 ソルティコの町を見渡しながら感嘆の声で言った。

「この町は……デルカダール王国とも密接な関わりがあるの」
「そういえば、地図上ではデルカダール王国地方と面してるな」

 カミュの言葉にマルティナは頷く。
 デルカダール王国と関わりがある町なら追手は大丈夫かとカミュは心配になったが、リゾート地だけあって、ここにいる兵士たちはほとんど休暇で来ているらしい。

「ここの領主は名門の騎士であるジエーゴさま。デルカダールの騎士見習いの多くはここで訓練を行うのよ」
「ジエーゴさんって人、そんなにすごい騎士なんだ……」
 気になるという風に呟くエルシス。
「かつては……、グレイグもここで修行を積んでいたらしいわ」
「あのグレイグが……」

 エルシスはユグノア城跡でグレイグと対峙した時のことを思い出した。

 彼の強さは確かであった。

 あの力強い一振りで、自分の剣技が手も足も出せなかったのだ。
 そんな彼の強さは、もしかしたらここでの訓練にあるのだろうか?(僕も、指南をしてもらいたいな……)

「ジエーゴ殿はこの町でいちばん大きな屋敷にいるぞ。では、行くとしよう」

 ロウの案内に、六人はついていく。

「そうそう。わしがユグノアの前王であることは、ジエーゴ殿には伏せてあるんじゃ。バレると何かと面倒じゃからのう。ここでは、旅人のロウとしておる。そんなわけで、そのように話を合わせてくれ。よろしく頼むぞい」

 彼の言葉に皆は了解というように頷いた。

 元国王のロウが顔が広いのは、その地位を生かしてだけではなく、その自由な人柄が大きいようだ。


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