if .もしもロミアに手紙を渡せていたら

 白の入り江には、以前と同じ岩に腰かけ、ロミアが彼らを待っていた。

 幻想的な空間に、たった一人、想い人を待つ後ろ姿。

 ずっとこうして、彼女はキナイのことを待っていたのだろう。ロミアはエルシスたちの姿に気づくと、ぱぁと顔を明るくさせる。
 
「おかえりなさい!ずいぶんとお戻りが遅いから、私とっても心配していましたわ!」

 彼女がいかに待ち焦がれていたのがよく分かった。
 その様子はさらにエルシスの胸を痛ませたが、彼はロミアに真実を話すと……決めていた。


「……キナイが死んだ?エルシスさん、何を言っているの?イヤよ……そんなことってないわ」

 ロミアのその反応は当然のものだった。愛した人は亡くなっていましたと突然言われても、到底受け入れられるものではないだろう。

「……あら、エルシスさん。その手に持っている物はなんですか?」
「これは……キナイさんが最後に――」
「……えっ?あの人が…?キナイがこのベールを握って死んでいった……?」

 エルシスから約束のベールを受け取るロミア。

「ウソよ!だって……だって、あの人は必ず迎えにくると約束してくれたもの!」

 誰にではなく訴えるロミアの姿はつらく、マルティナはそっと目を伏せた。
 ユリやベロニカも悲しみに顔を歪ませる。

「ロミアさん……。私、キナイさんの言葉を聞いたんです。あなたに伝えてほしいって――」

 ユリは、しじまヶ浜で聞いた言葉をロミアに伝えるが……
 
「ごめんなさい、エルシスさん、ユリさん。私は彼の死をこの目で確かめるまで、とても……信じられない……」
「…………」
「……あなたが会ったというキナイに会わせてください。キナイに、会わせてください。私を……ナギムナー村に連れていって!」

 きっと、ロミアがキナイの死を乗り越えるには必要なことだ――そう思いエルシスは「わかりました」と、頷いた。

 ベロニカがロミアをナギムナー村に連れていくことに心配だと口にしたが、ロミアの意思は固く、一人で行ってしまうよりは同行した方がいいだろうという結論になった。

 問題は、人魚であるロミアの姿を、他の者たちの目に触れぬようにしなければならない。
 その点、しじまヶ浜ならキナイと会わせるのにはうってつけではと計画を練る。
 
「エルシスさん、私にかまわず船を出してください!私は後からついていきます!」
 
 海に飛び込んだロミアは、船に向かって叫んだ。
 エルシスは操縦するアリスに合図をし、シルビア号はロミアと共にナギムナー村へと出発する。

 人魚は泳いが得意というロミアの言葉通り、彼女は船の後ろをしっかりついてきた。
 ナギムナー村付近に近づくと、漁船が増え、姿が見せぬようロミアは水中にもぐってやり過ごす。

 彼らがしじまヶ浜に着く頃には、夕刻から夜になろうとしていた。
 空は雲に覆われ、月明かりがなく、暗い夜に――。

「ここなら人が来ないようですから、私はここでキナイを待っています」

 波打ち際の岩影に身を潜めるロミア。大勢で押し寄せるのも…と、エルシスが一人、キナイを迎えに行く。

「……今さらだが、キナイってヤツは人魚を恨んでんだろ?ロミアはともかく、キナイに人魚を会わせて大丈夫なのか?」
「彼が何か危害を加えるような人には見えないけど……。万が一何か問題が起きたら、私たちが間に入ればいいわ」

 そのためにもいるのよ――と、カミュの疑問にマルティナが毅然と答える。

 それ以外では、私たちは見守ることしか出来ないのかな……ユリがそう考えていると、再び声が聞こえた。

 彼女しか聞こえない声が――

 ……ロミアに……ロミアに、渡してくれ……

(キナイ・ユキ……!)

 何を?ロミアさんに何を渡せばいいの?
 ユリは心の中で、声に語りかける。

 ……手紙を……アトリエの……

「手紙――?」
「手紙?急に声を上げてどうしたんじゃ、ユリ嬢」

 様子がおかしい彼女に、皆の注目が集まる。

「声が聞こえたの……!」
「ユリちゃんにしか聞こえない声……もしかして、キナイ・ユキの声?」

 以前、ユリがこの場で聞いたという声。シルビアの問いにユリは頷いた。

「ロミアさんに手紙を渡してほしいって……」

 アトリエの――そこで声は途切れてしまい、耳を澄ましても、もう何も聞こえない。

「アトリエとしか……」
「アトリエ……キナイが住んでいた小屋のことじゃないかしら?」
「きっと、キナイ・ユキさまにとって大事な手紙ですわ」
「探してみましょう」

 ベロニカの言葉に皆無言で頷いて、崖の上にあるキナイ・ユキの小屋に急いで向かった。

「鍵がかかっている……」
「そっか……いくらオンボロ小屋でも鍵はかけるわよね……」
「鍵はキナイが持ってるんじゃないかしら?」
「じゃあ、キナイさんを待つしか……」
「まあ、待て」

 ユリの言葉にそう言ってカミュは、ショートブーツの折り返しの間から細い針のような物を取り出して、鍵穴に差し込む。

 数秒のうちにカチリと音が鳴った。

「んまあ!」
「なんとまあ……」

 驚き声を上げたシルビアとロウをよそに「開いたぜ」とカミュは得意気に言って、ドアを開ける。

「アンタ、不法侵入する気!?」
「緊急事態だろ?なら、仕方ねえな」

 ベロニカの言葉に開き直るように答えるカミュ。

「でも、そうね。ロミアがキナイと会う前に急いだ方が良いと思うわ」

 マルティナは神妙に言ってから「それにしても……さすが、元盗賊ね」そうつけ加えて小さく笑った。

「小さな部屋だ。探せばすぐに見つかるだろ」

 ユリに手紙について伝えた時点で、キナイ・ユキも了承済みなはずだと――カミュは部屋に足を踏み入れる。
「キナイ・ユキさま、お邪魔いたします」
 セーニャは丁寧に挨拶してから、先に入った彼らに続いた。

「………なんか、カミュちゃんになった気分だわ」
「おいおい、どういう意味だおっさん。言っとくがオレは空き巣なんてちんけな真似は一度もしたことねえからな」
「もうジョーダンよ、ジョーダン。シルビアジョーク」
「全然面白くねえ」

 キナイ・ユキの部屋を探しながら軽口を交わすシルビアとカミュ。カミュはわりと本気で不本意に思いながら、次に棚を開ける。

(お、ブラックパール)

 中からは高価な真珠が出てきた。
 思わず目利きをすると、さすが真珠で有名なことだけある。良い質だ。
「……ネコババするんじゃないわよ」
「しねえっての!……ったく、どいつもこいつも……」
 すかさずベロニカが目を光らせた。
 
「この布の下にあるのは……」

 手分けして探すなか、ユリは部屋の奥にある、布をかけられたキャンバスが気になった。
 だが、さすがに勝手に見るのは…と気が引けていると……

「ユリさま。ここまで来たら見てみましょう。もしかしたら、何か手がかりがあるかも知れませんわ」
「……そうだね」

 セーニャの言葉に同意し、ユリは決心して布を取り去る。

「まあっ、この絵は……」
「ロミアさんの絵……?」

 そこには満月の海を背景に、約束のベールを被ってこちらに微笑むロミアの姿が描かれていた。

「キナイ・ユキが描いた人魚の絵……。ロミアにそっくりね。思いのこもった美しい絵だわ……」

 目を奪われるセーニャとユリの後ろから、同じようにマルティナはその絵を眺める。
 そして、何気なくキャンバスの後ろへと回り――。

「これは……手紙?」

 そこに挟まれた色褪せた手紙に気づいた。

「きっと、キナイ・ユキさまからロミアさまへ宛てた手紙ですわ……!」

 マルティナはそれを引き抜くと、ユリに渡した。
「……………」
 この手紙を渡するのは、きっと彼女の役目だ。

 
「こんな所に連れてきて、いったいなんだってんだ?」

 ――キナイに人魚であるロミアのことは伏せて、エルシスは彼をしじまヶ浜に連れてきた。

 キナイはあんな寂れた場所に…?と怪訝に思ったものの、彼らには人魚にベールを渡してもらった恩があると、言われるままついて来たのだが、やはり何も――

「キナイ、キナイなの?」
「ああ、俺がキナイだが?」

 自分の名が呼ばれ、彼は反射的に答えたが、直後に違和感を感じる。
 声は波音と共に海から聞こえた。

 雲から満月が顔を出し、月明かりが照らす。
「……!」
 そこには、微笑みを浮かべ、岩に腰かける――

「そ、そんな……人魚。本物…なのか……?」
「あなた、キナイじゃないわ……」

 驚くキナイにロミアは悲しそうに呟いた。……そういうことかとキナイは把握する。

「あんたが探してるのは、俺の祖父だ。あの人はもういない……。ここで……死んだ」

 そっけなく言ったキナイの指の先を目で追うロミア。
「…………っ!」
 そこには、浜辺にぽつりと建てられた墓があった。

「キナイは……こんなさびしい所で……。ひとりぼっちで……死んでいった」

 胸が苦しい。そんなことを知らず、自分はずっとただ待っていたのだ。
 もっと早く気づいて、自分から会いに行っていたら――。

「人魚は500年の時を生きる。人間の一生は、私たち人魚にとって一瞬であることを忘れていたわ」

 どのみち、埋められない時の流れの別れは二人に必ず訪れる。
 それすら忘れるほどに、二人は恋をしたのだ。
 
「……あれから、そんなにも時が過ぎていたのね……」

 ロミアはそう呟いたあと、何を思ってか海に飛び込んだ。エルシスとキナイは、慌てて浜辺に駆け寄る。

「エルシスさん、最後まで私のわがままに付き合ってくださって、本当にありがとう」

 ロミアは悲しげにエルシスに微笑みかけた。

「お礼の品は白の入り江に置いてきました。直接渡せなくてごめんなさいね」
「ロミアさん、それは……」

 戸惑うエルシスの目の前で、ロミアはあの約束のベールを被る。

「私、もういくわ……」
「いくってどこへ……」
「――ロミアさん!!」


 夜の静寂に、必死なユリの声が響いた。


「ユリさん……?」

 こちらを不思議そうに見るロミアは、あの絵のようにベールを被っていた。

「これを……キナイさんからあなた宛の手紙です」
「キナイから……?」

 ロミアは、ユリから事情を聞き、手紙を受け取る。
「じいさんが……」
 話を聞いてキナイも驚いた。どうやら手紙の存在は、彼も初めて知ったらしい。

「キナイの文字……。ごめんなさい、人間の文字は読めなくて……。読んでもらえますか」

 ユリはキナイに視線を向けた。この手紙を読み上げるのは、キナイ・ユキの孫である、彼が相応しいと思ったからだ。

 キナイは無言で頷き、ロミアから手紙を受け取る。

「愛する人へ……」
「……………」

 その言葉から始まった手紙。ロミアは真剣にキナイの声に耳を傾けた――

『君に助けられたあの嵐の日から、君を迎えにいくことだけを、支えに生きてきた。
 それはもう終わりにしようと思う。
 すまない。俺は約束を守れそうにない。
 あれは、俺が村を追われて数年後のことだ。
 ひどい大嵐でたくさんの人が死んだ。
 村長とダナトラの夫も犠牲になった。
 その数日後、しじまヶ浜の崖の上に 赤ん坊を抱いて立ってある女がいたんだ。
 その女は……かつての許嫁、ダナトラだった』

 そこに書かれていたのは、キナイ・ユキが遺した新たな真実だった。

 ロミアはすべてを知り、ぎゅっと胸の前で手を握り締める。

 彼が自分を迎えに行けなかった理由。
 彼が恋をしたことによって、傷つけた人がいたこと。
 悲惨な事故は人魚の呪いだと噂が立ち、彼が周りからどう見られていたか。
 罪悪感に苛まれ、償うように、赤ん坊を育てようと決意したこと――。

 自分たちの恋は、知らず知らずのうちに周りを不幸にしていたのだと知った。
 人魚の呪いと云われても仕方ないのかも知れない。

(ねえ、キナイ――。アナタと私は出会わなければよかったのかな。あの日、アナタを助けずに、アナタの笑顔に恋をしなければ……)

「俺はもう君を迎えにいく資格がない。だが、これだけは信じてほしい」

 最後の言葉を目にし、キナイは一呼吸置いてから、ロミアに伝わるように。

「……君を、愛している」
「………っ」

 ロミアの目から真珠のような涙が溢れる。

「…………ずっと、待っていたわ」

 それが答えだと、ロミアは声を絞り出して言った。

 その言葉に、すべてが詰まっていた。

 ずっと、彼女は待っていたのだ。長い時も感じぬほどに。ずっと、待っていられた。

「……今までの無礼を許してくれ。ロミアに会わせてくれて、ありがとう」

 そうエルシスたちにお礼を言うキナイの言葉に、ロミアは不思議そうに顔を上げる。
 月明かりに照らされ、初めて彼の顔をはっきりと見た。
 キナイに似ていないのに、何故か彼を彷彿させる。
 
「ロミア……。俺は、祖父――キナイ・ユキが育てた赤ん坊の息子だ。だから、あんたを……人魚を恨んでいた」
「……ごめんなさい……」
「謝らないでくれ。今なら、じいさんの気持ちがわかる……」

 キナイは濡れることも厭わず、片膝をつき、ロミアの手を取り手紙を渡した。

「この手紙はあんた宛のものだ――持っていてくれ。じいさんのあんたへの想いは本物だったと……俺からも信じてほしい」

 ロミアは手紙を受け取る際、その手をそっと握る。

「手は……同じなのね。キナイと同じ…………手をしているのね」


 優しくて、暖かい。人の手だ――。


「エルシスさん、ユリさん……。皆さんも、本当にありがとう。アナタたちのおかげで、私はキナイの気持ちを知ることができたわ」

 ロミアは浅瀬に座りながら彼らを見回して言う。

「本当は……このまま海の泡になろうと思ってたの。あの人の……キナイがいない世界なんて私には考えられない」

 そうロミアから語られる言葉に、エルシスは彼女が何故あんな風に言ったのかわかった。

「でも、キナイが最後に贈ってくれた言葉も……。私がキナイに恋して幸せだったって気持ちも……泡になったら一緒に消えてしまう」

 だから……と、ロミアは前を向くように、再び彼らに顔を向ける。

「生きてみようと思うの……」

 キナイからの手紙が、ロミアの生きる支えになった――。手紙を渡せて良かった……ユリは目尻の涙を拭う。

 ロミアはもう少しこのしじまヶ浜にいたいと言い、彼らは夜明けと共に出発することにした。

「俺が責任を持って、彼女を送っていく」

 人魚の呪いの誤解も解け、キナイなら安心してロミアを任せられる。

「忘れずにお礼の品を受け取ってくださいね」

 ロミアのお礼の品は『マーメイドハープ』という人魚の秘宝らしい。

「海にそびえる光の柱でマーメイドハープを使えば、人魚たちがあなたの船を泡で包み、たちどころに未知なる世界へ導きましょう」
「ありがとう、ロミアさん。大事に使わせてもらいます」

 海底に行くことができれば、オーブへの道に一歩近づくと、エルシスたちは顔を見合わせて喜んだ。

「ソルッチャ運河を抜け、内海の中心にそびえる光の柱でハーブを使ってください。不思議な形の岩場がその目印になりますわ」

 出会った時のように、再び不思議な力で地図に印をつけてくれるロミア。

「一つだけ……お願いがあります」
「お願い?」

 続いて、気まずそうな……困った顔で言う彼女に、エルシスは首を傾げて聞き返す。

「手紙を、一緒に置いてきたの。そちらはどうか読まないで捨ててくださいね」
「わかりました。手紙は読みません」

 きっと彼女にとって、遺書のようなものだったのだろう。すぐに気づき、はっきりと答えたエルシスに。

「……ありがとう」

 ロミアはほっと安堵の笑顔を浮かべた。


 ――予定通り、夜明けと共にシルビア号はしじまヶ浜から出港する。
 ロミアとキナイへの別れの挨拶は短かった。

 何故なら、またきっと会えるから。


「ねえ、ユリ……」
「どうしたの、師匠?」

 遠くなるしじまヶ浜を眺めながら、ベロニカはユリに話す。

「キナイはきっと、ロミアのこと――」

 そこでベロニカは言葉を切って「口にするのは野暮ね」とその口を閉じてしまった。

「途中で終わられると気になる…」
「ふふっ、ユリが恋を知ったら教えてあげるわ」
「…………師匠は恋をしたことがあるの?」
「さぁてね?」
「あっその言い方はずるい!」

 じゃれあうような二人に、くすくすとセーニャが笑う。

「セーニャ、セーニャならきっと知ってるよね?」
「お姉さまの恋の話なら……」
「セーニャ!余計なことを言ったらアンタが部屋にこっそり隠しているお菓子、ぜーんぶあたしが食べちゃうからね」
「お姉さま、何故それを……!ユリさま、ごめんなさい。お菓子を人質に取られてはこれ以上お話はできません…!」

 三人の楽しげなやりとりを、今度はエルシスがくすくすと笑う。
「相変わらず賑やかだな」
 そうカミュも小さく笑いながら言った。


 誰もいない白の入り江。


 お礼の品というのは、ロミアがいた岩の上に置いてある、あの宝箱のことだろう。

 エルシスはユリを見て「ユリが開けて受け取ってほしい」そう彼女に言った。「私?」ユリはどうしてというように、首を傾げる。

「ユリがキナイ・ユキの言葉を聞いて、あの手紙をロミアさんに渡すことができたから……」

 ユリのおかげだ――微笑むエルシスの言葉に、次々と仲間たちも続いた。

「ええ、ユリちゃんのお手柄よ!」
「あの手紙がロミアの生きる支えになってくれて本当に良かったわ」
「うむ。懺悔の手紙といえ、彼女に贈られたキナイ・ユキの最後の言葉でもあるからのう」

 戸惑うユリに「さっさと開けようぜ」と、カミュがぽんっと優しく背中を押す。

「じゃあ、開けるね」

 ユリが宝箱を開けると、中から美しいハープが出てきた。そっと手に取る。

「これが、マーメイドハープか」
「とても優美なハープだわ。きっと奏でる音も美しいのでしょうね」
「これを使えば、私たちは海底に行くことができるのですね!」

 エルシス、マルティナ、セーニャが、ユリの左右から覗き込みながら言った。
 繊細な造りのハープは芸術品のように美しい。

「奥に入っているのは……手紙ね」
「ロミアさんが読まないでほしいって言ってた……」

 読むか、読まないか。そんな選択肢が生まれる前に、ベロニカがユリの手から手紙を奪った。

「これはもう、ロミアにもあたしたちにもいらないものよ。燃やしてしまいましょう」

 ベロニカの手から生まれた炎が、一瞬にして手紙を燃やす。


 最後は灰になって、空に舞い上がった。


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