夏目あさ子





雨が降っている中、ハルと俺と水谷は傘をさして歩いていた。今日ももんじゃを食いにいく予定だ。因みに俺はハルとお揃いの傘。ザ、双子スタイル。歩いてもんじゃの店へと向かっている途中、水谷がハルを呼んだ。雨音で掻き消されそうである。



「アナタ、まえに私を、す、好きだと言っていましたが、」

「おう、好きだぜシズク」

「俺居るんだけどよ……」



隣で話しているハルと水谷。内容的にすんごく気まずい。俺、最近空気になりつつある。少し、ずきずき。
水谷がハルに異性として好きかと直球に聞くと、ヤれと言われればヤれる、とハルは答えた。下品だなおい。じゃあ今すぐヤっちまえ、と俺は心の中で毒づいた。
ぼーっとしながら雨音を聞いていると、いつの間にか話題も変わりにわとりの話になっている。
水谷は唐揚げにしてもいいなら飼ってもいいと言い出した。じゃあダメ、と俺はハルの隣から口出した。残酷なことしやがって。残酷女!鬼!!



「み、みすだにさ、」



その時、後ろからかわいらしい声がしたので振り返った。
水谷の事を呼び止めた女は、慌てて飛び出てきたせいで足を滑らせ、水溜まりにダイブした。俺もハルも水谷も、誰もが彼女を哀れみの目で見た。可哀想に。泥々じゃねえか。数秒間そいつのことを見ていた。相手も恥ずかしいからか顔を上げなかったが、意を決したのかばっと顔を上げ、口を開いた。



「べ……、べんきょう教えてください!!」
















なんやかんやで店につき、俺はチーズもんじゃを食べている。ハルがにわとりを抱えて女の事をずっとにらんでいたので、その口にあつあつのチーズもんじゃを突っ込んだ。警戒しすぎだろ。はふはふとしながらうまい、と言ってハルが再び口を開ける。その口に今度は少し冷ましたチーズもんじゃを入れてやった。雛の餌付けしてるみてえだ。
因みに彼女は夏目あさ子というらしい。そしてびっくり、クラスメイトだったみたいだ。この間佐々原の近くにいた奴だろうか。そういえばこんなの居た、気がする。うん。ちらっと夏目を見ると、彼女はびくびくしていた。



「ところでさっきから吉田くん多分弟さんがものっすごい睨んでくるんですけど。にわとりと」

「気にしないで。警戒してるだけだから」

「にわとりはご愛敬」



真顔で言うと少し、引かれた。腹立つなこの女。そこでぶた玉とめんたいもちを水谷が、キムチ天とカレーミックスを夏目が、海鮮もんじゃを俺が追加した。女の方が食べる量多いって……。
少し待つと頼んだやつが届いたので、俺は海鮮もんじゃを焼きはじめた。旨そうだ。



「それでさっきの話ですけど、今度の追試、落ちると来週補習になるんです。でもわたし、その日は大事な用事があって、絶対追試に落ちるわけにはいかないんです。そこで水谷さん、」

「お断りします」

「即答かよ」

「わたしもできることなら自分でなんとかしたいんですけど、」

「けど?」

「どうしようもない大バカ野郎で…!!」

「あ゛ー……、泣くな泣くな。」



夏目は泣きながら両手で顔を覆う。
水谷が見ている夏目の答案用紙を見てみると、ある意味素晴らしかった。だって、解答欄埋まっているのに0点。凄い。俺の真っ白よりも凄い。頑張ってるのに報われない感ヤバイ。



「……悪いけど私には関係ないし、バカだと自覚してるならおとなしく補習受けたら」

「冷たいな」

「じゃあ、そういうことで。あ、ごちそうさまです」

「奢らねぇぞ」

「……ごちそうさまです」

「……奢らねぇぞ」

「…………ごちそうさま」

「……ちっ、しょうがねぇな」



水谷がちらちらこちらを見ながら言ってきたので、奢らないつもりでいたが、両者引かず、結局俺が折れてしまった。俺は伝票を持ってレジに出す。レジのおばちゃんは、微笑んでありがとうございましたと言うと、レジを打ち出した。夏目がお金を差し出してきたが、断っておいた。ほら、水谷だけ奢ってっていうのもなんか悪いし。痛い出費になったが。
おつりを受け取って外に出ると、雨はみごとにやんでいた。



「お願いします、どうしても補習受けるわけには……、うぼげっ」

「……は?」



音に驚いて振り返った俺等は再び驚くはめになった。そりゃあもう驚いた。吐いた、夏目がもんじゃ吐いた。もんじゃだけに。意味がわからん。



「「「……大丈夫?」」」



全員して遠くから聞くと、そんな遠くから……と言われた。いや、だってよ……。



「なに、食い過ぎ? 無理して食うなよ」

「だって……」

「だって?」

「少食だとモテちゃうじゃないですか」

「は?」

「わたし、このとおりかわいいじゃないですか。だから男の人にモテちゃって、そのせいで女の子にいつも嫌われてたんです……」

「「「…………」」」



何、この女。この一言しかでない。そして俺の苦手なタイプかもしれない。俺も、ハルも水谷も、全員して哀れみの目を夏目にそそいでいる。
夏目はそんなことも気にせず、がさごそと鞄を漁りはじめた。探り当てたそれを引っ張り出すと、鞄から出てきた物は1つのノートパソコンだった。それの電源を入れて、とあるサイトにとんでいく。そこには高校生友の会と表示されていた。……ふむ。



「さっき話した大事な用事って、これか?」

「はい。わたしが参加しているコミュニティーの仲間とのオフ会なんです。顔も知らない人たちだけどわたしにとっては初めてできた友達なんです」

「……だから補習になりたくなかったのか」

「はい……」

((わかる……))



何か理解できるぞ、その気持ち。多分今俺とハルの気持ちは、わかる一択だろう。顔見なくても分かる。



「でも、お断りします」

「鬼」



夏目がショックを受けている傍で、ハルは彼女のパソコンを興味深く見ている。そして表情されたままのホームページを見て、目を輝かせた。



「ハルも行きてえの?」

「うん」

「……あー、夏目」

「はい」



夏目は振り向く。ちょっとショックを受けている表情だ。鬼に断られたからな。



「「勉強なら俺達が教えてやる」」

「ホントですか――」



夏目は嬉しさのあまりか、ピョンピョン跳んでいた。水谷は顔をしかめている。断った手前、気まずいのか。それともまた余計なことを、と思っているのか。後者な気がするが。
任せとけ、とハルが言った。



「その代わり、そのオフ会ってのに俺たちも連れてけ」

「それがねらいか」

「当たり」



水谷が呟く。しかもとてもとても呆れている。しまいには知らない、と責任放棄だ。まあ水谷には責任はねえからな。擦り付けるかもだが。まあ嘘だが。



「あっでもわたしのこと好きにならないでくださいね!! 迷惑です!!」

「「任せとけ、それはない(ねぇ)」」



夏目の自意識過剰な言葉に呆れてしまう。タイプじゃねえし、まず。まあ可愛いとは思うが。
いっちょ、オフ会の為に一肌脱ぎますかね。








11.夏目あさ子 END









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