からっぽ





最近雨ばかりである。雨は嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。でも雨ばっかりになると話は違う。雨続きになると気分はどんより。少しだけ、憂鬱である。窓際にある本棚に腰掛け、小さく溜め息を吐くと窓の外を見た。
放課後の図書室。そこで夏目とハルは追試の為の勉強していた。
ハルの問題式を書いてあらまびっくりいきなり答えになっちゃった、という鬼畜な教え方に夏目は泣きべそをかいている。いくら何でも、それじゃあ理解できないだろハル。ハルはできるかもしれないが。水谷も出来そうな気はするが。
しょうがない、と溜め息をもう一度吐くと、座っていた本棚から降りて、ハルの持っていたペンを引ったくった。



「いいか、これはまず、括弧を開くんだよ」



キュッキュッと音を鳴らしながらホワイトボードにペン先を滑らせ、途中式を書いてやる。所々軽く説明しながら、重要な所を赤ペンでマークし、書き込んでいった。



「だからこれはこうなるわけなんだが」



答えに辿り着き、曲げた人差し指の第二間接でトントンとホワイトボードを叩くと、夏目は目を輝かせた。



「分かったか?」

「はい!! とても分かりやすかったです!!」



わーい、と万歳して喜ぶ夏目。こいつ可愛いところもあんじゃねえか。喜んでもらえるなんて、な、なんか嬉しい。思わずにやける口元を手で隠し、ハルにペンを渡してバトンタッチ。ハルには何にやけてんだよ、と突っ込まれたので、にやけてませんー、と言い訳させてもらった。
そしてバトンタッチしたため、ハルの鬼畜講座が再び始まる。
泣きながら俺の名を呼び助けを求める夏目を横目に、水谷を見ると複雑そうな顔をしていた。
















「なにしてんの」



今日も雨。にわとりに向かって威嚇をしている水谷の背後から声を掛ける。すると彼女の肩はびくりと跳ね上がった。びっくりしすぎではないだろうか。後ろにいる俺を見ると、亜希か……と安堵の声を漏らす。



「悪かったなぁ、俺で」

「……ハルは?」

「夏目探してる」



刺々しい言い方をしてしまった気がするが許してほしい。そろそろ来るんじゃねえのか、と言い終えたタイミングで、上からハルの顔がぬっと出てきた。水谷、顔真っ赤。達磨かよ。



「シズク、あの女見なかったか」

「な、夏目さん? さぁ」

「まだこっちには来てないぜ」

「くっそー、どこいきやがった」

「べ、べ、勉強ははかどってる?」



その水谷の珍しい言葉に、警戒心丸出しのハル。ほんと、珍しい。明日は槍でも降るのか。思わず空を見上げるが視界に入ってきたのはもちろんどんよりした雲と雨粒だった。



「い、今さら代わろうったって、そうはいかねぇからな!!」

「狙ってねーよ」



警戒心丸出しのハルがまさか! という風に言い放つと、これまた水谷も真顔で言い放ってきた。まぁ、こいつが高校生友の会オフ会なんて狙うとも思えないが。オフ会行くのは俺達だ。
水谷が頬杖をつく。



「……そんなに行きたいものかね。あんたたちといい、夏目さんといい、人に嫌われようとそんなの気にしなければいいのに」

「……簡単にはいかないんだよ」

「へぇ」

「やっぱ、シズクはすげーな」


ハルが小さく、うっすらと笑う。そして水谷は再び顔を真っ赤にさせた。水谷からしたら、お前の笑い顔もすげえみたいだなぁ。破壊力的なイミでよ。



「シズクは空っぽになったこと、あるか?」

「は?」

「ないよなぁ、水谷は」

「空っぽで、亜希以外なにもない、真っ暗で。俺はそれが怖い」

「俺も……な」

「「でも今は違うな。水谷(シズク)が居るな」」



思わずぼーっと視界の先を見る。何もない。
真っ暗、真っ暗、だ。









12.からっぽ












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