熱と勉強
その日の放課後、ハルは夏目の勉強を見る、と残り、俺は何となく先に帰っていた。ぼーっとしながら歩いていたため、教室に傘を忘れてしまい、その事に気が付いたときには少し学校から離れ、びしょ濡れになっていた。
みっちゃんのところに寄ろうとバッティングセンターに寄り、何だその格好、と言われてタオルを被された。みっちゃんが着替えを探しにいっている間、いつものソファーに腰掛け、そこからの記憶が、ない。
次の記憶はベッドの上。泣きそうなハルと心配そうな顔をしている夏目、水谷の顔だった。水谷のそんな顔は珍しい。普段は鬼なのに。
なにしてんだよ。そう言葉にしようとしたが、声が掠れてるのか、出ない。喉がピリピリして、痛かった。話そうとすると、咳が出る。ハルがあわてて、コップを差し出し、俺に水を飲ませてくれた。冷たくて、心地いい。ふう、と息を吐き、ベッドへと身体を沈めた。
「……で、なにしてんの?」
少し掠れた、それでも先程よりマシな声を出して問い掛ける。水谷は少し間を置いてから、勉強、と答えた。あー、まあ、水谷=勉強だからな。
ほんの少し、適当な話をして、3人は部屋から出ていってしまった。おいてけぼりですか。まぁ、多分リビング辺りにでも居るのであろう。
ごろり、と寝返りをうって、もう一度、眠りについた。
次に目が覚めたのは日付が変わった頃だった。因みに水谷の「何でこれくらいの公式が覚えられないのよ!!」という怒鳴り声で目が覚めた。まだやってんのかよ。ベッドから床へぺたりと足を付け、リビングへと向かう。まだ少しふらふらするけど大丈夫だろ。
静かにドアを開けて隙間から中を眺めると、泣いている夏目がみっちゃん越しに見えた。うわ、地獄絵図。気まずい。中には入らず、隙間から声をかける。
「みっちゃん、」
「亜希……。もう大丈夫なの?」
「さっきよりかは」
手招きしながら、全く……と呟いているみっちゃんの脇をすり抜けて、夏目の隣に座る。ごめんみっちゃん、そんな悲しそうな顔しないでくれよ。
「あ、亜希く……、」
「この公式はこう覚えるといいかも」
そう言いながら夏目の手からシャーペンを抜き取り、覚え方を公式の上に書く。隣で夏目は目をうるうるさせて、そして飛び付いてきた。
「亜希くーん!」
「うわっ」
「ありがとうございます本当!ちゃんと覚えますね!大好きです!!」
きゃっきゃっと騒いでいる大好き安売り中の夏目に呆れつつ、覚えろよと他の公式の覚え方も少しだけ教えてあげた。水谷も結局一緒に教えていたので、途中からめんどくさくなって水谷にパスしたけど。スパルタすぎて夏目が泣きながら亜希くん助けて!!を呼んでいるのを笑ってスルーした。……俺一応病人だし。
面白いことに、夏目の勉強が終わった頃には日が昇りはじめていた。ハルがその頃に起きてきたので、おはようと声をかけると、目覚めたばかりの顔をふにゃりとさせて笑った。なんだ、この可愛い生き物は!!なんて言うと、みっちゃんにブラコンって言われるから、胸の奥へと押し込んだ。弟可愛い。でもブラコンじゃない。俺ブラコン違う。
その日は追試だったのだが、熱がまだある俺は学校には行けなかった。これで補習決定である。体調管理しなかった俺の自業自得だし、大人しく補習を受けよう。
3人と別れて、俺はベッドで再び眠りにつく。次に目を覚めたのは空がオレンジ色に変わる頃だった。
みっちゃんが作ったおかゆをふーふーしながらテレビを見ていると、リビングのドアがばんっ、と音をたてながら開いた。びっくりして見た先には夏目が仁王立ちしている。
「亜希君!私、やりました!!人生最高得点です!!」
「おー、オメデト」
バッとこれまた勢いよく眼前に突き付けられたテストの点数は32点。夏目にしては頑張ったから一応ほめてやる。夏目は本当に嬉しそうで、なんだか教えた甲斐があったな、と思う。よかったな、夏目。
余談だが、後でハルが持ってきたテストには100点、と書いてあったのだった。
13.熱と勉強
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