屋上で
鶏は佐々原が飼ってくれることになった。佐々原なら大丈夫だろ、多分。
そんなこんなで太陽が照りつける屋上。昼休みも終わりに近い時間だ。やる気のでない俺は、次の授業をサボるために給水タンクの裏に隠れて居たのだ、が。水谷と夏目が帰ってくれず、未だに屋上に居る。見つかったら連れていかれてしまうので、息を圧し殺しながら会話を盗み聞く。因みに下からはハルが水谷を呼ぶ声。水谷はハルから逃げているみたいだ。
「ミッティ、ハルくんが捜してますよー」
「そっとしといて。見つかったらまたきっとうるさいから」
「お疲れですねぇ。あっ、わたしなにか飲み物買ってきてあげます」
散々な言われようだなハル。少しざまあって思ったり、水谷このやろうって思ったり。夏目が飲み物を買いに自主的に屋上から出ていき、ドアの音が鳴り止むのと同時に屋上は静かな空間に成り代わった。しばらく待つが、あまりにも静かすぎるから、気になって給水タンクの影から除き込んでみると、水谷が壁に寄りかかって寝ていた。水谷が、寝ている。それも無防備に。気になる。寝顔、可愛いかな。水谷の様子を見ようと腰を上げたとき、キィとドアの開く音がした。夏目が帰ってきたのだろうか。思わず隠れてしまう。なんで隠れてんだ俺。いや見つかったら授業連れてかれるからだろ。うん。そう思いながら再び静かに覗き込んでみる。そこにはハルが、居た。じっと、いとおしそうに水谷を見るハルが。なんだかもやもやする。ぼーっと眺めていると、再び屋上の扉が開いた。入ってきたのは、ジュースを持った夏目である。ハルは振り返ると、人差し指を立てて唇にあて、ジェスチャーで静かにしろ、とアピールした。夏目は顔を赤らめながら頷くと、にこにこしながら屋上を出ていった。ハルは壁に寄りかかって寝ている水谷の頭を自身の膝へと転がす。羨ましい。
「なぁ、亜希。居るんだろ?」
「…………」
「亜希」
「あー、ばれたかー」
シカトするのも限界で。あまりにも此方を見てくるもんだから、耐えきれなくなって思わず出てきてしまった。ハルが俺を見てにこりと笑う。
「羨ましい?」
羨ましい、なんて。お前がそれを聞いてくるのか。思わずむっとしながら、別にと一言返した。それ以上は会話をしたくない。むかむか、もやもやする。
「拗ねるなよ」
「拗ねてねぇよ」
「わかってる、亜希がシズクを好きなことくらい」
「……はぁ? 何言ってんだ、お前」
そんなわけ、ない。そう言おうと口を開いたとき、水谷が身動いだ。ゆっくりと開く、綺麗な、瞳。
「よお」
「おはよ、水谷」
水谷は俺たちの姿を見るとぎょっと目を見開き、がばりと凄い勢いで起き上がった。そんなに驚かなくてもいいのにな。
「ハ、ハル!? 亜希!? いつのまにっ」
「ずっといたぜ、俺は」
「あーっ、授業っ!」
俺の言葉をスルーして、勉強第一の優等生水谷雫ちゃんは、授業をサボってしまったことに対して焦っている。そんな水谷の頭を、ハルは自分の膝へと押し戻した。
「なんで、起こさないのよ」
「んあ? だってすげー寝てるし、かわいかったから」
ハルの言葉を聞いた水谷の顔は凄い勢いで赤く染まった。季節外れの紅葉みたいだ。
面白くない。心の中で舌打ちをして、それを誤魔化すかのように、真っ青な空を見上げた。今日はすごく天気がいい。そよそよと気持ちのいい風が吹いてもう、サボり日和だ。そんな日和あっていいのかわかんねーけれども。
ふと水谷の方に視線を移すと、小さく笑っていた。思わず心臓が高鳴り目にしなきゃよかったと後悔しながら慌ててそっぽを向く。なんだこれ、病気、じゃねえよな、まさか。
「ハル、亜希」
「……ん?」
「私、2人に会えて良かった」
「そっか」
返した言葉は素っ気ないかもしれない。でも、物凄く嬉しい。それが、伝わればいいのに、なんて思う。頭でっかちの水谷には難しいかもしれねえけど。
「今まで勉強しか興味なかったけど、こうなったらとことん楽しもう」
そう言うと、水谷はハルを見上げた。嫌な予感がする。不味い展開か? 逃げる? そう思いながら腰を上げるが時すでに遅しってやつだ。
「私、ハルが好きだ」
その言葉を耳にすると、なんだかもやもやしたものが広がった。嫌な気分だ。それが何か、よく分からないまま、俺は立ち上がり梯子に足をかけて降りる。
「俺は邪魔みたいだな」
「亜希……?」
「帰る。先生に言っといて」
「に、荷物は?」
「ハルが持ってきてくれるだろ? めんどいならいい、置いといてくれりゃ」
それだけ言って扉に手をかけた。もうここには居られない。見てらんねえ。
扉が閉まるとき、ハルが無表情でこっちを見ているのが目に入った。水谷が俺を呼んだきがするけど、ごめん、今日はもう反応してやれねえよ。
14.屋上で
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