もんじゃ






ハルが唐突に言い出した。もんじゃ特集を持って、これに連れていけ、と。勉強している水谷は嫌、と一言だけ返した。相変わらず勉強中は冷たい奴だ。



「なんでだよ!! もんじゃだぞもんじゃ。どんなもんじゃっておまえ、」

「分かった分かった。ハル、俺と行こう。お兄ちゃんが連れていってやる。お兄ちゃんもんじゃ大好き」

「亜希は兄貴だろ! 俺は友達と行きたい! だからシズク連れてけ!!」

「何度も言ってるけど学校後は勉強したいの!!」

「なぁハル、俺と行こう。それで我慢」

「いやだー! シズク連れていけー!! もーんーじゃ!! もーんーじゃ!!」



永遠にもんじゃコールを続けるハルは、水谷にとってただのストレスとなるのだろう。ほら今不機嫌そうな顔をした。まだ放課後にもなっていないのにもっと酷い顔になるのだろうか。
昼休みも終わりそうだったので、茂みを掻き分けて窓際まで行くと、担任が居た。



「あら、水谷さん」

「サエコ先生」

「水谷、パンツ見えんぞ」

「ヒッ、よよよ、吉田くん」



ハルと俺の姿を目に入れた途端、担任は震え上がり吃りだす。パンツの見えた水谷は、余程恥ずかしかったのか、ばっとスカートの後ろを押さえた。おーおー、顔真っ赤。俺にも見えた。何色かは内緒だ。



「あ? なに見てんだテメェ」

「一応先生なんだからやめなさい」

「一応!?」

「威嚇しないの。チンピラか」



ハルは担任を睨み、担任は怯える始末。でも俺も担任あんまり好きじゃないからいいかななんて思ったりもする。だって初対面が凄かったから。初対面あれマジないから。ハルが担任を追い払おうとする。



「おまえは嫌いだ! どっか行け」

「賛成」

「あんた達もね」



追い払おうとしていた横で、ボソリと水谷が呟いた。ハルは水谷の襟首を掴むと、聞こえてると返した。どうせ水谷のことだから聞こえるように言ったんだろうけど。ちょーっとイラッとしたぞこのやろう。担任はがあわあわと焦りながら止めに入る。



「よ、よ、吉田くん。女の子は大事にしなきゃ」



先生の愛読書貸してあげるから、と担任はハルに本を手渡し、仲良くねーと言い残し逃げていった。ハルが読んでいる担任の愛読書本とやらを覗き込んでみる。どれどれ……。



「「その時……彼の手が優しく私を抱きしめ……きゃっ、どきどき……胸が高鳴……」」

「うぇ、ベタな恋愛小説かよ……。ん、ハル?」



ハルを見ると、本とにらめっこをしながら何かを考えている。ハル? ともう一度声をかけてみるとハルは水谷をぎゅっと抱きしめた。水谷は固まった。面白いくらいに固まった。
そんな水谷そっちのけで、ハルは再び何かを考え込んでいる。ていうかだな……。



「お兄ちゃんの前でそんなことすんなって言ってんだろうが、全く」























*












授業もSHRも終わった放課後。俺とハル、水谷は教室に残っていた。ハルは窓から外を見つめている。外からは楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてきていて、ハルがそれを羨ましそうに、じーっと見ていた。



「楽しそうだな……。あいつらこのあと、みんなで飯食ったり、ドッジボールしたりして過ごすんだろうな。いいなぁ、そういうの……シズク……」

「だから行かないって言ってるでしょ!!」

「そもそも俺と行きゃいいじゃん。駄目なのか?」

「亜希は兄貴だからな! 俺は友達と行きたいの!」

「だとさ。諦めの悪い。付き合ってやれよ」

「とにかく今忙しいの!」

「勉強で?」

「そう! そろそろ中間試験あるし」

「……べつにただもんじゃが食べたいんじゃねーよ」



ケッ、とハルはそっぽを向いてしまう。そして、少し悲しそうな顔をした。なにか、思うことがあるんだろう。



「友達同士は寄り道するもんだろ」

「もんじゃじゃなくてもいいんだな?」

「もんじゃは食べてみたい。それに……シズクと一緒に行きたいんだよ。シズクと亜希以外に目を合わせてくれる奴いねーし……」

「そーいや俺もお前と水谷以外あれ……だな」

「それはハルが睨んだりすごんだり暴れたりするからよ」

「俺は?」

「その兄だから」

「うわ、理不尽。ハルが睨まなきゃ、みーんな目ぇ合わせてくれたりして」

「ちぇー」



ハルは少し涙目で唇を尖らせた。ハル自業自得。しゃーない。俺は理不尽に巻き込まれただけ。しゃーなくない。俺が拗ねたい。



「新入生代表の挨拶あるでしょ。入試で1番だった生徒がするやつ」

「?」

「あぁ、あれって……。まぁ、いいか、気にすんな」

「……まあいいわ。私ね勉強だけは負けたことなかったの。負けないように、努力してたし。……だから中間では負けるわけにはいかないの。もんじゃなんか食べてる場合じゃないし」



水谷は新入生代表挨拶が出来なかったことが相当悔しかったのだろう。少し悲しそうだ。その新入生代表挨拶に心当たりはあるが、まあ言わないでおこう。そう思っていたら、いきなり水谷が叫び出した。なんか数学の問題がわからないみたいだ。ハルが覗きこんで指摘する。ついでに俺も横から覗きこんでみた。



「ああそれ。まずは交点の座標を求めるんだ」

「おい水谷、ここ間違ってるぜ。b=8じゃなくて4だろ」



水谷のすごい反応。なんで分かったんだって顔をしている。なんだか見ていておもしれえ。そのびっくりした顔からいきなり真面目な顔になったと思ったら、突然問題を出してきた。しかも英語。



「ずっとだましてたの? …………を英訳すると?」

「「 You have been lying to me all along? 」」



水谷は素晴らしく顔を歪めた後、いきなりがたりと立ち上がり、バタバタと片付けをはじめさっさと1人で帰って行ってしまった。俺とハルはそれを呆然と見送る。



「なんだあいつ?」

「わかんねぇ」

「ハル、もんじゃ食べにいこうぜ」

「シズク居ないからいい」

「…………おい」



思わず睨んでしまった。お兄ちゃん、ショックです。ハルくん反抗期。































「あっ、シズク!!」



翌日、学校に登校してきて早々、ハルは水谷を見つけたようだ。お前は水谷発見器でもついているのか。よし、名付けてシズクレーダーだな。水谷がいる方向を教えてくれる優れものだ。
ハルの声に反応した水谷は、ぴくりと震えると勢いよく振り返った。顔がすごい。酷い。どういうことだ。思わず手を伸ばすと振り払われた。



「おい水谷、昨日ちゃんと寝たのかよ。隈が凄い」

「チッ」

「はぁ!? テメッ、人がせっかく心配して……」

「亜希落ち着けって」



舌打ちされて思わずキレる。ハルに押さえ付けられどyどうと宥められた。いつもと立場が逆だが気にしてなんかいられない。落ち着いてられるかってんだ。こいつ人が心配してやってるのに舌打ちしやがってこのやろう……って。そう思っていると睨まれていた。なんだやんのかこら。



「なんだよ」

「悪いけど中間試験まであんたたちは敵よ。これ以上私の勉強のじゃましないで」

「そうかよ。はいはい、ご勝手にどうぞ」



ふん、と鼻で笑ってやると、ぷいっとそっぽを向かれた。こいつ、可愛くねぇ。ムカつくだけだ。ハルはこんなちんちくりん勉強バカの何処に惚れたんだ。今一つ分からねぇ。



「……勉強が、なんだってんだよ」

「ハル?」

「答えがあるもんなんか、簡単に決まってんだろ」



ハルのその台詞にカチンときたのか、水谷は凄い顔をして振り返った。いや、勉強頑張ってる奴にハルの言い方もよくなかったが水谷の反応もよくねえからな。というかハルの言っていることは一理あるし。



「そんなに俺達が嫌いかよ」



ハルがそう言って悲しそうな表情を浮かべた。それを見た水谷は少しびっくりしたのか、押し黙ってしまった。でも、もうかまってらんねえ。ハルがこいつのせいでこんな表情になるっていうんなら、俺はこいつからハルを引き離すだけだ。



「なんだ、嫌いなら早めに言えってんだよ。そしたら俺達ももう関わらない。気は使うなよ。別に、慣れてる。いくぞハル。喉乾いた」

「亜希っ…!」



俺はハルの腕を引っ張って歩き出す。あー喉乾いた。自販機いきてえ。ハルはいきなりでびっくりしたのか少しよろけていた。
何だかんだ気になってしまい、後ろをちらりと見ると、ハルの肩越しに、難しそうな顔をしている水谷が見えた。お前が嫌いだって言ったんじゃないか。嫌いだなんて、酷い話だ。










5.もんじゃ END










*前】【次#
ALICE+