黄金色の髪と紅の髪
ラヴィニアはうつらうつらとしていたことに気付いた。車窓の外を見ると、ロンドンのような街並みではなく、郊外ののどかな風景へと変化していた。
「うん……、少し寝てしまったのかしら。レナードはどこ?……あら」
ふと、自分の前の座席を見ると知らない少女が座っていた。彼女もまた、眠りこけているようだった。
その少女は、フワフワとした黄金色の髪を二つ結びにしており、白い陶磁器のような肌をしていた。壁に飾ってある絵に描いてあるような容姿だった。ラヴィニアは、その綺麗な黄金色の髪を羨ましいと思った。真っ赤な髪は、ラヴィニアにとってあまり好ましいとは思えなかったのである。今まで綺麗とか、美しいとか誉められたことがなかったのも一因であるが。目の前で見事な黄金色の髪をたまたまではあるが、見せられたことによって劣等感を募らせた。
「金色の髪に生まれたかったな」
ボソッと呟いたのが聞こえたのか、黄金色の髪の少女は「う……」と、くぐもった声をあげ、目を開けた。彼女の瞳は髪と同じ澄んだ黄金色をしていた。
「……ふあー、寝ちゃったわ。あ、あなたも起きたのね?さっき声をかけたけど、目を覚まさなかったから、ここに居させてもらったの」
起きたばかりのあくび混じりの声で、少女はここに居た経緯を話した。まだ幼く、ソプラノのように高い声だった。
「とりあえず自己紹介するわ。私はマルティナ・ヴィルヘルムス。今年ホグワーツ入学よ。ヴィルヘルムスは純血主義の家だけれど、私はそうじゃないからそこのところ宜しく」
純血主義とは何だろうか。ラヴィニアはそう思ったが、あまり良いことではないのだなと思うことにした。
「私はラヴィニア・アルフォード。同じく今年入学なの、宜しくね。……えと、マルティナでいい?」
「ええ、私もラヴィニアと呼ぶからおあいこよ。ああ、よかった。コンパートメントで一緒になった子が同じ新入生で」
ラヴィニアは、早速同学年の女の友人に恵まれた。仲良くなった女の子たちがおしゃべりするのは時間の問題。彼女たちはすぐに少女だけのお話の世界へと入っていった。
ホグワーツの制服へと着替えをしつつ、ラヴィニアは、マルティナと話していた。新しい制服を少し大きめに作ったため、袖が少し長かった。
ラヴィニアは、先程マルティナが言っていた純血主義というのを思い出した。
「そういえば、純血主義ってなんなの?」
「ああ、くだらない大人の思想よ。昔から続いてる魔法使いの血筋のことを純血というのよ。その代わり、魔法使いではなかったものをマグルというの。マグルの家系から生まれた子をマグル生まれとも呼んでるわ」
マルティナは苦々しそうに言った。
「もしかして……差別してるってこと?」
「そういうことになるわ。私のところ、ウィルヘルムは昔から続いてる家だったみたいだけど。父がウィルヘルム家次男で純血だけど母が半純血なの」
大人の難しい話だと、ラヴィニアは思い始めた。今の時点で一つ言えることは、ラヴィニアは純血でないため、純血主義者からは良い目をされないということ。
「ラヴィニアは、純血じゃないのね?」
「……多分そうだと思う」
「多分って?あなた、自分の生まれわからないの?」
マルティナは純粋な気持ちで訪ねた。決してラヴィニアの気持ちを損ねたいという訳でなかった。
「うん、私は…………孤児院育ちだから。親のこと知らないの」
ラヴィニアは、孤児院育ちということを言って良いか迷ったが、マルティナのことを信じて打ち明けた。
「まあ!そんな、……ごめんなさい。私ったら、あなたのことを考えもせずに。本当にごめんね、ラヴィニア。初対面だというのに」
マルティナは驚きを示したが、すぐにラヴィニアへと謝った。孤児院の育ちなら触れたくない過去があるんではないかと思ったからである。
「いいよ、気にしないで。初めてのホグワーツでの友だちだから、私のこと知ってもらいたくて」
なんか、ごめんね。重い話でと、ラヴィニアは付け足した。すると、マルティナはいきなり叫んで抱きついてきた。
「ラヴィニア!」
「うわ!」
「ああ……、なんて可愛いのかしら。私、こんなに人を可愛いと思ったことないの」
そう言って、マルティナはラヴィニアの髪を撫でた。すると、マルティナは彼女の髪が傷んで枝毛になっているのを見つけた。
「あらやだ。あなた、髪が少し痛んでるわ」
「え?」
「仕方ないわね、私が手入れして上げる。ああ、私たちの寮が例え違っても、私はあなたの部屋へ朝ごはんの前に行って、ヘアケアーをして上げるから待ってなさいよ。ヘアケアーのグッズなら持ってるから安心して」
「はい?マルティナ、そんなこと気にしなくて……」
「あまいわ、あますぎる!ラヴィニア、私の友達になったからには綺麗で美しい女性でなくては!!」
マルティナは、ここがコンパートメントということを忘れて、いきなり立ち上り、『可愛くて綺麗で美しいこと』について力説し始めた。ラヴィニアは、先程のお嬢様のようなマルティナがこんな激しく力説する子だとは想像していなかった。そして、それはホグワーツに着くというアナウンスが流れるまで延々と続いていたのであった。