冬の夢
その頃ラヴィニアは、図書室である本を読んでいた。記憶に関する魔法の本である。
だが、いくら読んでもその本の内容はラヴィニアには理解しがたいものばかりである。一時間以上はそんな状況のため、ラヴィニアは気休めにと机に突っ伏したが、うとうととして寝てしまった。
そして、彼女は夢を見た。自分の知らない人たちが出てくる夢を。
最初の夢の中には、二人の人がいた。
一人は白銀の髪をもつ女性。
もう一人は漆黒の髪をもつ男性。
二人とも容姿端麗で、同じホグワーツの制服を着ていた。だが、二人のネクタイの色は赤と緑で違っていた。女性は赤で男性は緑だった。二人は仲良さそうにしていた。場所は、ホグワーツの中庭だろうか、芝生が生えていた。
暫くすると、場面が転換しどこかの屋敷の部屋へと移動した。そこには、先程の白銀の髪の女性が地に座り込み、悲痛な顔で涙を流していた。その先にあったものは……誰かの死体。近くにはベビーベッドがあったが、中には血まみれの何かが存在していた。女性の後ろには真っ黒い何かが居て、無理矢理女性を抱き上げ、どこかへ消え去った。
場面はまた変わって、先程とは違う屋敷のようだった。中は黒を貴重としており、先の屋敷より陰鬱としていた。白銀の髪の女性は黒い布団のベッドで上体を起こしていた。先程よりやつれた容貌をしており、衰弱しているようだった。金色の髪の男性がやってきて、食事をするようにと丁寧な口調で述べた。だが、彼女はただ首を横に弱く振るだけであった。
しばらくして、入れ替わるように最初の漆黒の髪の男性がやってきた。彼はその頃より背が高くなっており、少し雰囲気が不気味なものとなっていた。彼は黒いローブをまとっていた。白銀の髪の女性は一瞥しただけでまたうつろな表情へと戻った。漆黒の髪の男性はその彼女の様子を見て、ベッドへと近付き彼女へとキスをした。そして、耳元でなにかを囁いた。だが、女性は知らぬ振りをしたままだった。
そこで夢は終わった。
ラヴィニアが目覚めると、顔が冷や汗で濡れており、酷く気持ちが悪かった。
「……なんなの?あれはいったい……」
漆黒の髪の男性の瞳が、最後に血のような赤い色に染まったのを、彼女は鮮明に覚えていた。
自分の過去と何らかの関係があるのか。それとも違う何か、か。
時計を見ると、夕飯の時間となっていた。
「マルティナたちに心配かけちゃう……。急いで寮に戻らなきゃ」
本を元の場所に戻し、図書室を後にした。寮へとつき、合言葉を唱える。中へと入ると、何かに突撃された。目の前にあるのは黄金色の髪。
「ひぐっ!」
「もう!どこへいってたの、ラヴィニア!?昼食になっても姿を見せないし、私あなたのことあちこち探したのよ!?」
何かとは、マルティナのことであった。どうやら相当心配させてしまったらしい。後ろの方では、やれやれといった顔付きのルームメイト。皆で探していたようだった。
「ごめんなさい。私、図書室で調べたいことがあって……そのままそこで寝ちゃったみたい」
てへ、と笑ったラヴィニアに、皆は呆気にとられていた。唯一、すぐ反応したのはもちろんマルティナ。
「てへ、じゃないわ!図書室なら図書室行くって一言は言ってちょうだい!」
夕食を食べるため大広間に行った後も、マルティナの母親のような説教は続いた。
「心配させないでよね……。私、本当に心配したのよ?」
「ほんとうに、次からは一言告げてから行くよ。寝たのは想定外だったの」
「今の季節寒いんだから、風邪でもひいたら……」
「はーいはい、もうそこまでにしなさい。いつまで説教じみたことしてるのさ。みっともないよ」
マルティナの説教をとめたのはアンジェリーナだった。マルティナはムスッとしたが、それ以上は言わなかった。アリシアもそれをみて安心したようだった。
「ラヴィニアもさ、次から気を付けてよね。この子の相手できるのはあなたぐらいよ」
アリシアはラヴィニアの耳元でこそっと告げた。それを聞いてラヴィニアはくすくすと笑った。マルティナは不審そうに見ていたが、アンジェリーナにまた注意されるのが嫌だったのでやめといた。
その夜、ラヴィニアは寝る前に昼間の夢を思い出した。謎の人物、謎の場所、そして――人の死。何故か懐かしいように思えたのであった。そして、あの漆黒の髪の男性。不思議と怖くなかった。いったい彼は誰なのか。私と何の関係があるのか。その理由を知りたいと思ったのであった。