夜中の大逃走
ラヴィニアにとって、この日は特になんともない日であった。普通に起きて普通に食事をとり、授業を受けて、と。何ら変わりない一日だった。
ラヴィニアは、マルティナ、アリシア、アンジェリーナたちと共に夕食を食べていた。アリシアとアンジェリーナは、どこかうきうきとした感じであった。マルティナが不思議に思って聞いてみた。
「どうしたの?二人とも、なんか気持ち悪いわよ。ニヤニヤしちゃって」
「ふふ、マルティナも同じ立場だったらわかるわ」
アンジェリーナがパンプキンスープを飲んだスプーンを手に答えた。
「百年ぶりの……、ねえ、秘密にしとかなきゃまずいわよね?」
アリシアが何かを言いかけたが、アンジェリーナに口止めしといた方がいいかと聞き、口止めをされた。そして、こそこそと二人で相談し、内容をアリシアが告げた。
「えーとね、クィディッチの新しい選手が決まったのよ。試合が始まるまで楽しみに待ってて。今年こそ優勝してみせるわ!」
マルティナはなんだ、とつまらなそうにした。
「そこまでウキウキする必要ないじゃない。新しい選手なんて、希望すれば入るでしょうに」
「マルティナったら、そんなこと言わないの」
ラヴィニアは、マルティナの言葉に注意をした。そして、アンジェリーナとアリシアに「新しい選手ってどんな人なの?」とたずねた。
「それを言ってはおしまいだからね」
「そうねー。まあ嫌でもわかる日が来るのよ、楽しみにしててよ。あと、試合の日は絶対見に来てよね。マルティナは高いところ苦手だからあれでしょうけど……」
アンジェリーナはマルティナをちゃかした。
「まあ!そこまで言うからには優勝杯は、グリフィンドールだけでなく私の為にも奪い取りなさい!全部の試合見に行ってさしあげますわ」
肩で切り揃えてある黄金色の髪を振り乱しながら、マルティナは宣言した。だが、試合当日となった日の朝に彼女は見に行くと宣言したことを、とても後悔したのであった。
その夜、ラヴィニアとマルティナは、談話室で過ごしていた。魔法生物飼育学のレポートをその日の内に仕上げようと思ったためである。
この教科は、3年生になってからの選択制で、魔法生物を取り扱うという授業。二人は前回の、この学問のレポート提出のとき、今までの知識とかけ離れていたもののため、上手く書けずに手間取っていた。そのために、今日出されたものは少しでも進めようと思ったのだった。
二人は、談話室の端の方でレポートを書いていた。すると、就寝時間をすでにまわっていたことにラヴィニアが気付き、マルティナに声をかけた。
「マルティナ、そろそろ戻りましょう。就寝時間とっくに過ぎてるわよ」
「うう、あと少し。あと少しだからちょっと待ってもらえる?」
「仕方ないわ、区切りのいいとこまでよ」
「区切りのいいところ、区切りのいいところまでね。すぐ終わるに決まってるわ」
マルティナが区切りのいいところまでやると言って聞かなかったので、ラヴィニアは仕方なく待つことにした。
ラヴィニアがマルティナに、自分たちの部屋に戻ろうと言ってから、軽く三十分以上経っていた。そろそろ眠たくなってきたので、ラヴィニアはいい加減にマルティナを連れて帰ろうとしたそのとき。女子寮の方から物音が聞こえた。
「誰……!?」
「!?」
現れたのは栗色の髪がフサフサとした少女だった。ピンクのガウンを着て、ランプまで持っていた。
「その、えーと……」
栗色の髪の少女は口ごもった。
「あなた、1年生ね?組分け儀式であなたのこと見たことあったわ。取り敢えず、ソファに座って。お茶があるから飲みなさいな。」
ラヴィニアは、組分けの儀式のときにみた、新入生の少女だと思い出した。ラヴィニアは、自分たちが元々居た場所の近くにあるソファを寄せて、3人でテーブルを囲んだ。マルティナはいまだにレポートを書いていた。
「私、1年のハーマイオニー・グレンジャー。ハリーとロンという二人の男子が、夜中に寮を抜け出そうという話をしてて……!抜け出したことが先生方にバレて、寮の点数減らされるのが嫌で私、……談話室で待ち構えようと下りてきたの」
ラヴィニアは、入学から早々に、規則を破ろうとしている生徒が居ることに驚いた。だが、それよりもハリーという少年が、あの生き残った男の子と称賛された少年が、規則を破ろうとしていることの驚きの方が大きかった。
「あの二人が?」
「そうなんです。あの、あなた方は……?」
ハーマイオニーと名乗った少女は、何故生徒が談話室に未だにいるのか謎であった。ラヴィニアはそんな彼女の質問に答えた。
「私は3年のラヴィニア・アルフォード、彼女はルームメイトのマルティナ・ヴィルヘルムス。談話室でレポートを書いてたら、こんな時間になってしまったの」
「こんな夜遅くまで!?」
ハーマイオニーは驚きで声をあげた。
「3年からの新しい科目だから、手間取っちゃってね。今日出されたものが、もう書き始めないと提出日に間に合わないかな、と思ったの」
マルティナに終わる目処がたたないので、ラヴィニアはハーマイオニーと暫く雑談をすることにした。
「ラヴィニア、区切りのいいところまで終わったわ!ごめんね、時間かかって……。って、その子誰?レポート書きに来た……わけないわね」
雑談をはじめてすぐに、マルティナが区切りのついたことを知らせた。どうやらマルティナは、ハーマイオニーが居たことに気付いてないようだった。
「初めまして、1年のハーマイオニー・グレンジャーです」
「3年のマルティナ・ヴィルヘルムスよ。ラヴィニア、……いいわね。この子将来性がある!後二、三年したら完璧淑女に……」
そう言って、マルティナは何かを考え始めた。ハーマイオニーはこの人は一体何なんだろう、と思ったに違いない。
ハーマイオニーはマルティナにも、女子寮から下りてきた訳を話した。マルティナは、ハリーとロンが下りてくるかここで試そうとラヴィニアに持ちかけた。ラヴィニアは、やんわり止めようとした。だが結局、ハーマイオニーと共に彼らを待つことになった。
そんなこんなで時計は11時半になろうとしていた。3人はランプを消すと、入り口近くの椅子の裏へと座り、ハリーとロンが下りてくるのを待ち構えていた。談話室は、暖炉の残り火の灯りのみで、真っ暗となった。