夜中の大逃走

暫くして、トン、トン、と、微かな足音が聞こえた。男子寮の方からだ。

足音の人物が、寮の入り口へと向かおうとした、そのとき。

「ハリー、まさかあなたがこんなことするとは思わなかったわ」

ランプをつけ、しかめ面のハーマイオニーが、椅子の影から姿をみせた。

「また君か!ベッドにもどれよ!」

ロンがカンカンな声で言った。

「本当はあんたのお兄さんに言おうかと思ったのよ。パーシーに。監督生だから、絶対にやめさせるわ」

容赦ない声で、ハーマイオニーが止めようとした。

「行くぞ」

ハリーが、迷惑そうな顔をしてその脇を通り抜けていった。

「待ちなさい!」

ハーマイオニーは追いかけて行った。ラヴィニアとマルティナはその場を動けなかった。

気を持ち直したマルティナは、「おいかけるわよ!」とハーマイオニーの後を追っていったので、ラヴィニアもあとに続いた。

「グリフィンドールがどうなるか気にならないの?自分のことばっかり気にして。スリザリンが寮杯を取るなんて私はいやよ。私が変身呪文を知ってたおかげでマクゴナガル先生がくださった点数を、あなたたちがご破算にするんだわ」

一息にハーマイオニーは言い切った。

「あっちへいけよ……って、何でラヴィニアまで!?」

ハリーが、後をついてきた彼女たちに驚いた。居たことに気付いてなかったらしい。

「マルティナと色々あって談話室に居てね。そしたらハーマイオニーから、あなたたちが抜け出そうとしてるって聞いたから、一緒に居たの。あなたたち、何があったか知らないけど、寮に戻りなさい。夜中に抜け出したことが先生方に見つかれば、ただじゃ済まないわ」

ラヴィニアは、二人に注意を促したが、そんなことを聞くような二人ではなかった。

「……ラヴィニアまで。でも、僕たちは行かなきゃいけないんだ。何と言われようと行くさ」

ハーマイオニーはまあ、と呆れたが、すぐに怒った顔になった。

「いいわ。ちゃんと忠告しましたからね。明日、家に帰る汽車の中で私の言ったことを思い出すといいわ。あなたたちは本当に……」

ぶつぶつと文句を言いながら、ハーマイオニーが中に戻ろうと後ろを向いた。すると、寮に入る合言葉を唱えるための肖像画の人物が居なかった。太った婦人は夜のお出かけで、グリフィンドール塔からハーマイオニー、ラヴィニア、マルティナの三人は閉め出されてしまった。

「さあ、どうしてくれるの?私はともかく、先輩方もなのよ!」

ハーマイオニーが、問い詰めた。

「知ったことか」とロンが言った。「僕たちはもう行かなきゃ。遅れちゃうよ」

ハーマイオニーはラヴィニアとマルティナと目配せをすると、ハリー、ロンの後ろにくっついていった。

「おいおい、嘘だろ?ついてくるなよ」

ロンは、女子たちが着いてきたことに気付いた。

「あそこに突っ立ってフィルチに捕まるのを待ってろって言うの?私たちが見つかったら、私、フィルチに本当のことを言うわ。私たちはあなたたちを止めようとしたって。あなたたち、私の証人になるのよ」

「君、相当の神経してるぜ……」

ラヴィニアも同じことを思った。ハーマイオニーはかなり……図太い神経の子だと。

「シッ。静かに。なんか聞こえるぞ」

ハリーが短く言った。嗅ぎ回っているような音がした。

「ミセス・ノリスか?」とロンがヒソヒソ声で言った。

音の正体はミセス・ノリスではなく、ネビル・ロングボトムという一年生だった。床に丸まりながら寝ていたが、五人が忍び寄るとビクッと目を覚ました。

「ああよかった!見つけてくれて。もう何時間もここにいるんだよ。ベッドに行こうとしたら新しい合言葉を忘れちゃったんだ」

「小さい声で話せよ、ネビル。合言葉は『豚の鼻(ピッグスナウト)』だけど、いまは役に立ちゃしないよ。太った婦人はどっかへ行っちまった」

「腕の具合はどう?」とハリーが聞いた。

「大丈夫。マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれたよ」

どうやら、彼は腕を怪我して医務室へ行っていたらしい。

「何で怪我したのかしら?怪我するような授業あったかしら?」

マルティナがヒソヒソ声でたずねた。

「飛行訓練で、箒がいうことを聞かなくて……。それで、高いところから落ちちゃったんだ」

彼は情けないという風に答えた。

「まあ、それは災難だったわね。私も箒は苦手だわ、あんな高いところに行くなんて信じられない」

「私も箒はね……、君も大変だったわね」

マルティナとラヴィニアは同感だというように笑った。

その後、ハリーたちはネビルを置いていこうとした。だが、怖がりなネビルが置いていかないでと懇願したので、ネビルも着いてくることになった。そして、六人の男女が、そろって夜中のホグワーツを歩くという謎の光景が広がったのであった。

四階のトロフィー室に、抜き足差し足で向かいやっと着いた。

ハーマイオニーの話だと、ハリーとロンは、スリザリンのマルフォイとクラッブという二人と、決闘をすることになっていた。だが、スリザリンの二人は数分たっても来る気配がなかった。

ロンが何かをささやいた、そのとき。隣の部屋で物音がして、六人は飛び上がった。ハリーが杖を振り上げようとした瞬間、誰かの声が聞こえた。

「いい子だ。しっかりと嗅ぐんだぞ。隅の方に潜んでいるかもしれないからな」

フィルチがミセス・ノリスに話しかけている。誰もが危ないと思った。ハリーが手招きをして、自分に着いてくるように合図した。ラヴィニアとマルティナも、彼らの後へと続いた。彼らは音をたてないようにしながら、フィルチの声と反対側へと急いで逃げた。間一髪で、フィルチがトロフィー室に入ってくるのが聞こえた。

「ああ、ラヴィニア!ついてこなければ……」

「シッ。大丈夫よ、マルティナ。ハリー、はやくここを離れましょう!」

マルティナが涙声でラヴィニアへそっとささやいた。ラヴィニアも同感であった。ここを離れようと、ハリーにコソコソと告げた。

「どこかこのへんにいるぞ。隠れてるに違いない」

フィルチのぶつぶつ言う声がする。

「こっちだよ!」

ハリーがそういったように聞こえて、ラヴィニアとマルティナも彼の言葉に従った。その方へ着いていくと、そこは鎧がたくさん飾ってある長い廊下であった。フィルチがどんどん近づいてくる感覚に襲われた。すると、ネビルが恐怖のあまり突然悲鳴を上げ、やみくもに走り出した。そしてつまずいてロンの腰に抱きつき、二人揃って鎧にぶつかりた倒れ込んだ。

ガラガラガッシャーン!

すさまじい音が城中に響いたようだった。

「逃げろ!」

ハリーが声を張り上げ、全員は疾走し始めた。

フィルチが後ろにいるかなど、確かめる余裕など彼らにはなかった。全速力であちこち走り回った。どこをどう行ったのか、もうわからなかった。タペストリーの裂け目から隠れた抜け道を見つけ、そこの先へと出ると、「妖精の呪文」の教室の近くだった。トロフィー室とはだいぶ距離がある。

全員息を上げていた。ラヴィニアは、こんなに走ったのは何年ぶりかと思うほどの走りだった。マルティナは、お嬢様とは思えないほど、床に寝そべってはあー、と喘いでいた。

「マルティナ、大丈夫?」

ラヴィニアは、マルティナの介抱へと当たった。もうダメ。死ぬ、などと、マルティナはぼそっとつぶやいた。

「フィルチをまいたと思うよ」

「だから―そう―言ったじゃない」

ハーマイオニーは胸を押さえ喘ぎ喘ぎ言った。

「グリフィンドール塔に戻らなくちゃ、できるだけ早く」

「マルフォイにはめられたのよ。ハリー、あなたもわかってるんでしょう?はじめからくる気なんかなかったんだわーマルフォイが告げ口したのよね。だからフィルチはだれかがトロフィー室にくるって知ってたのよ」

ハリーの顔は、信じたくないといった表情だった。

「行こう」

ハリーはそう言って戻ろうとしていた。だが、マルティナは回復していなかった。そのため、ラヴィニアは彼女を引っ起こそうと躍起にしていた。

すると、ハリーが歩いているところの教室からポルターガイストのピーブズが現れた。ハリーやロンがなにか言い合っているが相手はあのピーブズ。何が起こるかわからない。そして、ロンがどなったその瞬間。

「生徒がベッドから抜け出した!「妖精の呪文」教室の廊下にいるぞ!」

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