ハロウィーンの襲撃
スネイプ教授に注意をされたものの、ラヴィニアは彼ら二人を探さずに戻るなどできなかった。暫く辺りをうろついていると、とても普段とは違う異臭が、突然鼻をついた。思わず手でそれを塞ごうとしたら、目の前に大きな影が現れた。
その影は、トロールのものだった。トロールは天井につきそうなほど図体がでかく、汚れた肌をして、これまた薄汚いぼろ切れをまとっていた。
「…………っ!!」
ラヴィニアは急いで逃げようとしたが、足が震えて上手く立つことができず、へたり込んでしまった。トロールが手にしていたこん棒が、振り上げられた。遅い動きだったので、彼女は間一髪で体をひねって避けた。
ラヴィニアは、後ろの壁を使って、震える足で立つと、すぐ近くにあったところへ逃げ込んだ。だが、それは大きな間違いだったと気づく。
そこは、女子トイレで、行き止まりだったのだ。すると、なぜか人が居た。大広間に居なかったハーマイオニーだ。
「ハーマイオニー!なんで……」
「 ラヴィニアこそ……!後ろ危ない!」
後ろを振り向くと、四メートルの巨体はすぐそばに迫っていた。トロールがこん棒を振り上げた。
「きゃーーっ!」
ラヴィニアは頭を手で守りその場へしゃがみこんだ。恐怖で涙がにじんだ。こん棒はトイレの個室の方へと向かった。飛んで来た金具や破片が顔に辺り、血が滴ったのがわかった。更にまた、トロールがこん棒を振り、次はラヴィニアの右腕に当たった。 ローブの腕の部分が破け血がにじみ出した。鈍痛が右腕に生じて、 ラヴィニアは思わずうめき声をあげた。
ハーマイオニーはトイレの奥の壁にしがみつき、動けずにいた。トロールはハーマイオニーに目をやったのか、彼女の方へと近づいた。
「ハーマイオニー!うぅ……いたっ!」
ラヴィニアは杖を取り出そうとしたが、右腕に激痛が走り動かすことができずまた地へとへたり込んだ。水道が破壊され、水浸しになっており、冷たい水が肌をさした。
ハーマイオニーは恐怖で硬直していた。トロールが洗面台を破壊しながら一歩、また一歩近づく。
ああ、私は後輩を助けることもできない役立たずなのか!とラヴィニアが悲観したそのとき。
「こっちに引き付けろ!」
ハリーの声がした。
彼らは、壊されて吹き飛んだ蛇口やトイレの備品を拾ってはトロールに投げつけていた。ハーマイオニーの一メートル手前で立ち止まると、ドシンと床を揺らしながら彼らの方へ方向転換した。
ハリーの方を向くと、こん棒を振り上げて近づいた。
「やーい、ウスノロ!」
ロンが反対側から叫んだ。そして、手に持っていた金属パイプを投げつけた。トロールの肩に当たったが、固い皮膚におおわれているのかなにも感じてない様子だった。
トロールが気を取られていることに気付き、ラヴィニアは、身体中に響く鈍い痛みを我慢しながら、ハーマイオニーへと近づく。頭が痛みでおかしくなりそうだった。
「ハーマイオニー……。今の……うちに、逃げま……しょう……!」
左手を差しのべると、ハーマイオニーがつかみ返したので引っ張って立ち上げた。一瞬ふらっとしたが、何とか片足で持ちこたえた。どうやら、知らぬ間に右足を捻っていたらしい。
後ろでハリーとロンが何かをして、トロールにダメージを与えている。トロールが動く度に床がドシドシと揺れた。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」
ラヴィニアは、思わず目を点にした。なぜなら、このような所で使うような呪文ではない、浮遊呪文の言葉が聞こえたからだ。
トロールのこん棒が空中を高く上がっていった。一回転したかと思うと、ボクっといやな音をたてて、トロールの脳天へと当たった。ふらふらとトロールが揺れたかと思うと、ドスンとうつ伏せに倒れた。
ハリーのからだが震えているのがわかった。ロンが呪文を唱えたのだろう、杖を手に固まっていた。
「これ……死んだの?」
ハーマイオニーが震える声でたずねた。
「いや、ノックアウトされただけだと思う」
ハリーはそう言うと、なぜかトロールの鼻に刺さった杖を取り出した。ベットリと気持ち悪いのがついているのが見えて、 ラヴィニアとハーマイオニーは思わず目をそらした。
突然バタバタと足音が聞こえた。四人は入り口の方を見る。暫くしないうちにマクゴナガル先生、その次にスネイプ、クィレルと先生がやってきた。
クィレルは倒れ込んでいたトロールを見ると、ヒィと弱々しい声をあげた。
マクゴナガル先生がトロールに目をやり、すぐにハリーとロンを見た。ここまで怒った顔は誰もがはじめて見ただろう。唇はわなわなと震え、蒼白になっていた。
「いったいあなた方はどういうおつもりなのですか」
冷静だったが、怒りに満ちた声だった。
「殺されなかっただけでも運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるのですか?」
すると、ハーマイオニーが小さな声をあげた。
「マクゴナガル先生。聞いてください―二人とラヴィニアは私を探しに来たんです」
「Ms.グレンジャー!」
ハーマイオニーはラヴィニアに支えられ、一歩前に出た。
「私がトロールを捕らえに来たんです。私……私ひとりでやっつけられると思いました―あの、本で読んでトロールについては色々なことを知っていたので」
ロンは今までずっと持っていた杖を取り落とした。あの、規則にうるさいハーマイオニー・グレンジャーという少女が、先生に真っ赤な嘘をついているだなんて、と思ったのだ。
「ラヴィニアは、突っ走った私を止めに来てくれました。そして、そこの二人が私たちを見つけてくれなかったら、私たち、いまごろ死んでました。ハリーは杖をトロールの鼻に差し込んでくれ、ロンはトロールのこん棒でノックアウトしてくれました。二人とも誰かを呼びにいく時間などなかったんです。二人がきてくれたとき、私、もう殺される寸前で、ラヴィニアは怪我をしていて動けませんでした……」
三人は、そのとおりです、という顔を装った。
「まあ、そういうことでしたら……」
マクゴナガル先生は四人をじっと見た。
「Ms.グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」
ハーマイオニーはうなだれた。ラヴィニアは黙ったまま動けなかった。右腕と、右足は悲鳴を上げていた。
「Ms.グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。けががないならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」
ハーマイオニーはありがとう、と ラヴィニアに言うと帰っていった。彼女が見えなくなるとラヴィニアは、気が抜けたようにふらふらと倒れそうになった。ああ、身体中が重い……。彼女の右腕からは血がぽたぽたと、滴り始めた。すると、マクゴナガル先生がこちらを向いた。
「Ms.アルフォード。よく一年生を止めようとしてくれました。グリフィンドールには十点あげましょう。……まあまあ、そんなに、怪我をして!医務室まで歩けますか?……Ms.アルフォード?Ms.アルフォード!?大丈夫ですか!?」
『ああ、まぶたが重い……。そこに、いるのは誰?』
ラヴィニアは、遠のく意識のなかでそう思った。マクゴナガル先生が、ラヴィニアの名を叫んでいるのが最後に聞こえた。ラヴィニアは倒れ込んだ。右腕からは大量の血が流れていた。