再封印

私がハリーの姉だなんて、そんなこと……。でも、有り得なくはない。実際に、彼女は行方不明となっていた。でも、今となっては死んだということになっている。

それに、仮に彼女の姉だとしても、私は孤児院にどうやって行ったのかわからない。その記憶がない。孤児院にいくとしても、一人で行ける訳がない。当時は4歳、親か知り合いが一緒でなくては……。なら、連れていってくれた人間は?

そもそも、どうして私は自身の年齢が分かったのだろう?誕生日はわからないのに。院長に自身のことをたずねられたとき、私は年齢のことは答えたらしい。だから、ホグワーツに行くときに、魔法が関係しているのではないかと言ったのだ。

ああ、考えると頭が痛い。硬いハンマーに割られるような痛みが走る。トロールにやられたときより、体がだるい。いつもそうだ、このことを考えさせないかのように激痛が私を襲う。私の体はいったいどうなっているの……?

どうやって歩いたのかわからない。
気づくと、寮に戻っていたようで、私は合言葉を唱えて談話室に入った。

ああ、そこにいるのはマルティナ?

声に出したが、か細い声しか出なかった。

彼女の顔が、驚きを示していた。
だが、私の意思を保つのは、ここまでが限界だった。




私はまたも夢の世界に来たようだ。
その前に、そもそもここが夢の世界なのか怪しい。
だが、先ほどの頭の痛みやだるい感覚が無いことに気づいた。

また、例の少年がいる。
ほんとに彼は何者なのだろうか。

「そろそろ、君が何者なのか思い出す頃合いかな……。ねえ、君も思うでしょ?自分が何者で、どうしてここにいるのか。知りたくないかい?」

少年は私の意思を確認するかのように言聞いてきた。私は彼の言葉に答えた。

「確かに。私は、そのことを知りたいわ。でも、思い出そうとする度に、私の頭が痛む。まるで、思い出すことを拒むように」

少年はそれを聞くと、予想通りとでもいうかのように笑みを浮かべる。

「ふふ、それを聞いて安心したよ。僕の予想通りさ、君の記憶を誰かが封じているのは本当のようだとわかったからね」

なぜだか、私は彼の言葉に恐怖を感じた。どうしてだろう、私の過去のことを思い出せるのに、家族のことがわかるというのに。

彼が、記憶の扉の鍵を握っているのではないのか?いつからか、私はそう思うようになった。

少年が私の近くに移動してきた。少年は私の額に触れた。前のような火花は散らなかった。

「さあ、君の望む通りに記憶の封印を解いてあげよう。恐れることはない、君の長年の夢だったんだろう?」

彼の言うことは確かだ。私の望んだこと。だが…………。

「いやっ!やめて!」

私の口からは、違う言葉が出た。そして、彼の手を避け、後退りした。第六感とでもいうのだろうか、本能が拒否した。思い出してはいけない、と。彼に触れさせてはいけないのだと。

彼の表情が怒りのものへと豹変した。この人は親切でやっているのではないと、この時わかった。何か理由があるに違いない。私の知らない理由が。

「なぜだ、なぜ拒否する必要がある?君の望みを叶えてやろうとしたのに」

「私にもわからない。けれど、あなたに頼んではいけないんだと、そう感じただけ……!」

彼の瞳が赤く光った。すると、私は彼に首を絞められていた。

「く、るし……っ、は、な……して……!」

私は彼の腕に爪を立てたが、彼の着ているローブやらセーターやらで、肌に直接のダメージは与えられなかった。そして、生理的な涙が目からこぼれだした。

「僕がせっかく思い出させてあげようとしたのに、愚かな……。前と何も変わりはしないのだな。見た目は違えど、所詮同じか」

何を言っているのだ、彼は。意味がわからない。

ああ、息が苦しい。私は名前も素性もわからない男に、しかも夢の中で殺されるのか……?どうして私が……?

「さあ、ここで死ぬがいい」

そのとき、得たいの知れない光が私と彼を包み込んだ。彼はそれに驚き、私を離した。気道が元に戻り、私は咳き込んだ。

「ゲホッ、けほっ。……はあっ……なんっなの?」

「くそっ!忌々しいやつめ、次こそは……!」

そう言い残し、少年は私の目の前から消えた。いったいほんとに何が起こっているのか。

「ほんとに、手のやける人間ばかりで困るよ」

突然後ろから、謎の男の声が聞こえた。

振り替えると、見たこともない男が立っていた。緑色の髪に、真っ黒な衣服で身を包んだ男だった。男は私を見ると、ため息をついた。

「つくづく漬け込まれ易いことだ。何のために記憶を封じたのやら、全く意味をなさないではないか」

彼は今、何といった?記憶を封じた……?

「それはどういうこと?あなたが、私の記憶を封じたの!?」

私は彼の元へと駆け寄り、胸元を掴んでたずねた。

「……その通りと言えば、その通りです。最近やたらと封印が解けかかっているので、再封印に来たのですよ。本来ならば、あなたの意識が無いところでやるべきですがね。今回ばかりは邪魔が入っていたので特別措置です」

彼は気だるげそうに、丁寧な口調に切り替えて話した。

「再封印だなんて!どうして!?何で私の記憶を封じているの……?私が何をしたの!?」

私は立て続けに質問した。なぜ私の記憶を封じているのか。理由を問いただしたかった。

「やれやれ。また説明しないといけないようですね。単刀直入に申しますと、あなたはある女性の生まれ変わりです。人間は、前世の記憶を封じて新たに生まれ変わるのが常なのです。そこまでは理解できましたか?」

「生まれ、変わり……?前世の記憶を封じているの?」

私は、驚く以外何もできなかった。

「まあ、あなたの場合は幼少期の記憶まで手違いで封じてしまったのですがね。あなたのいう記憶とは、その頃のことでしょう」

当たり前だ。前世なんて今生きている私には関係のないことだ。

「私どもの手違いですから、幼少の頃の記憶は戻してあげましょう。ですが、前世の記憶は再封印させてもらいますよ。それが世の中の理ですから」

私はその言葉に頷いた。

「御理解いただけたようで助かります。では、再封印と記憶の返還を行います」

私は、彼のその言葉を最後に意識をとばした。只々、白い世界に浮遊するような感覚だった。

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