紅い少女

イギリスのとある孤児院にて

孤児院は、普通親が何らかの事情で育てることができなくなった子供たちがやってくる所である。年齢は生まれたばかりの赤子から、10歳過ぎの子供までいる。親の身勝手な都合で入れられた子供たちは大概心が荒んでいるが、このアルフォード孤児院にいる、ひとりの少女はどこか違っていた。

彼女の名前はラヴィニア。紅い髪に赤褐色の瞳を持ち、毛先がくるくるとしている可愛らしい少女。もうすぐ11歳になる。

ラヴィニアは、大人しく心優しい子である。その上面倒見が良いので、孤児院では、年下の小さな子に好かれている。だが、彼女と同年代以上の子からは、良い目で見られていなかった。そのために、軽いいじめを受けたこともある。

そんな彼女だが、幼い頃の記憶が一切ないのである。両親、家族、全てのことを思い出そうとしても何も出てこず、終いには頭痛が起こり、寝込んでしまうほどになる。

ラヴィニアが孤児院に入れられたときのことも曖昧で、誰とここに来たのか思い出せない。孤児院の院長は、余程酷いショックを受けたのだと思い、彼女をここに置かせた。名前もわからない彼女に、仮名ラヴィニアをあたえ、記憶が戻れば本来の名に戻すことになっている。



1989年7月、ラヴィニアの元へある1通の手紙が届いた。手紙は黄色みがかった羊皮紙の封筒で、切手が貼られていなかった。裏には紋章入りの紫色の蝋で封がしてあり、真ん中にHと記され、ライオン、鷲、アナグマ、ヘビが取り囲んでいた。宛名には

『アルフォード孤児院、三階の一番奥の1人部屋
ラヴィニア・アルフォード様』

とエメラルドのインクで書かれていた。

「こんな手紙、見たこと無い……」

ラヴィニアは、この謎だらけの手紙を開ける前に、院長のもとへと小走りで向かった。

「院長、こんな手紙が私のもとに……」

ラヴィニアは、おそるおそると手紙を渡した。

院長は、アナベル・アルフォードという名の50代の女性で、けばけばしいような風貌ではなく、きっちりとした人物である。プラチナブロンドの髪は後頭部でまとめてあり、グレーのスーツ姿で院長室に座っていた。

「ラヴィニアに手紙ですって?あなたに手紙を送ってくるなんて、この孤児院から里親に引き取られた友人ぐらいでしょうに。友人ではないの?」

院長は手紙を受け取ると、気難しい顔を更に気難しくした。

「この手紙……どこかで見たわね。最近ではなく、もっと昔に……」

院長は必死に思い出そうとした。ほどなくして、あぁ!と声をあげた。

「私の前の院長が、この手紙を持っていたんだわ。どこからのだったか、知らないけれど」

「そうなんですか!じゃあこの手紙は……いったいなんの手紙なのでしょうか?」

「開けてみなさい、ラヴィニア」

そう言って、院長はラヴィニアへ手紙を返した。

ラヴィニアが封をあけると、そこには入学許可届と書かれた紙が入っていた。

「ホグ……ワーツ?………魔法、魔術学校。院長……、これっていったい!?」

ラヴィニアは頭が真っ白になるほど驚いた。

「これは……、よくはわからないけど、ラヴィニアは魔法使い……ということなのかしら。いいえ、そうに違いないわ……!」

院長は普段では想像できないほど気持ちが高ぶっていた。手紙を穴が開くほど読み返している。

「私が……魔法…使い…!」

ラヴィニアの心は喜びと驚きで満たされたのである。

そして、封筒の中には他に何枚か入っており、学校で必要な道具のリストや、学校の先生が説明にやってくること等、諸々のことが書いてあった。

「ラヴィニア、あなたにはここの近くの学校に入ってもらう予定だったのだけれど、……あなたが望むのなら、このホグワーツ魔法魔術学校に行きなさい。魔法使いとわかった今、あなたの未来はいくつもの道筋にわかれてるのだから」

アナベル院長は、いつも以上に真面目な顔付きで告げた。ラヴィニアは、先程の喜びと驚きの気持ちがふっと消えた。

「自分の未来……」

魔法使いには魔法使いの仕事があるのだろか。私の覚えていない過去、それは魔法使いと関係があるのだろうか。両親は魔法使いだったなら、知ってる人がいるかもしれない。

ラヴィニアは、未知の世界への憧れにとらわれた。彼女の心のなかの不安、戸惑いというものはその片鱗を見せなかったのであった。

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