宝船の中で

!注意!
ぬら孫で、奴良組の初代が四国へと出入りに行ったということは、原作の五巻(俗にいう四国編)でちらりと出てくる程度ですが、今回はそれを参考に書かせていただきます。

原作では、三百年前じゃったかのう的なことをぬらりひょんたちが話していますが、それですと現代(リクオ世代)を2000年代とすると1700年前後となり、二代目の鯉伴があれ?なことになってしまうので……。原作を全て読んでいる方はわかると思いますが、百物語組編はどこにいった?となってしまいますから……。【百物語編(江戸時代の方)で、この紋所が目に入らぬか!とかいう所を読めば、1700年前後の話とわかりますので……。この紋所が云々というのは、某有名な水戸の黄色い門で知れ渡ってますから。】

以上のことから、玉の緒では四国への出入りを、珱姫と出会う前、つまり大坂城編の前、年代的には1500〜1550年の間とさせていただきます。ぬらりひょんと珱姫との出逢い、大坂城編につきましては日本史を参考にし、豊臣家が滅亡する大坂夏の陣があった1615年辺りを目安とします。











「いってらっしゃいませ!!」

「皆の衆、留守を頼んだぞ」

四国に行こうと言われて一週間後、ぬらりひょんは早速出発した。宝船という空を飛ぶことができる大きな船の形をした妖怪を呼んだことにより、四国へは1日あればつくそうだ。

「橘、どうじゃ?宝船からの眺めは」

奴良組の屋敷がとうに豆粒以下に小さくなってしまったころ、ぬらりひょんは橘に話しかけた。

「朧車には何度も乗ったことがあったが…………随分違うのう」

落ちないように手すりに捕まりながら、橘は答えた。心地よい風が吹き、髪や着物やなびく。

空は晴れており雲も少なく、鳥が飛び交っている。見晴らしがよく、地上にある家や屋敷、田園風景、山、丘や森が見てすぐにわかる。人の集まる城下町には、市が開かれており、活気があった。

「……人間は、本当に昔より増えたのだな」

低く小さな声で、橘はつぶやく。

「……そうじゃな。橘は、人間が嫌いか?」

嫌いだ、と。

そう一言ですませられるような、そんなものではなかった。

元々人間に興味はなかった。自分が生きて行く上で必要なら手をとることも、要らなければすぐに捨て去ることもある。そんなものだ。

己の母は、そのようなものに殺された。

憎しみが当時は勝ったが、あれは一部の人間たちの仕業である。もともと、人間とは昔から自分勝手な生き物だ。

だが、我が義弟は半分人の血が混じっている。母は、我が父が亡くなってから暫く思い詰めていた。そんなとき、人間の男と恋に落ちた。短い間ではあったが、人間だった義父のことは嫌いではなかった…………。母と義弟と妾と、仲睦まじく過ごす義父の姿を、おぼろげながら思い出すと、幸せ……だったと言えなくない。懐かしく感じるあの日々。

そのせいで、人間の全てを嫌いになることができない。

ーぬらりひょんへ返す言葉は。

ホゥと、息を吐く。

「どちらでもない。必要な手を取り、要らなくなれば切り捨てる。それだけの存在……」

蒼い空を見つめ、自分に言い聞かせるように答える。

「…………橘……」

ぬらりひょんへは、驚きと憐れみの目で彼女を見つめた。

まだ知らないことが多い彼女のこと。ゆっくり、ゆっくりと知り合っていきたいと思う。だが、知れば知るほど己だけの秘密のものにしてしまいたい衝動にかられる。彼女が消え去ったときが恐ろしいのだ。いつか、塵一つ残さずに、自分の手からすり抜けるように消えてしまう。そんな恐怖に襲われてばかりいる。

「どうしたのだ?ぬらりひょん」

疑問に満ちた顔で、顔を覗きこまれた。

「っ!……いや、何でもない」

ぬらりひょんは、焦って取り乱しそうになるが、体勢を立て直すとすぐに何もないと答えた。

「そうか?四国についてバテないように、今のうちに休みをとるがよい」

部屋の中に入ろう、そう心配そうに言った彼女に従い、ぬらりひょんは内部へと入っていった。



内部では、雪麗とお蓮が簡単な食事を用意していた。

「ぬらりひょん様、私どもでおにぎりを作ったのですが、おひとついかがですか?」

「おお、気が利くな雪女、濡女…………って、えっ……」

にこやかに笑い話しかけてくる雪麗。そんな彼女の隣に立つお蓮は、反対に申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる。

何故こうなったのだろう。

いや、流石は雪女といったところか。皿に盛られたおにぎりの約半分が、氷のように冷たく固まっているのであった。見た目は氷に包まれており綺麗に見えるが、食べるのには向かないだろう。

「お蓮……、これはいったい…………」

ぬらりひょんと一緒にいた橘は、きれいに雪化粧をほどこされた氷のおにぎりを手に取るが、あまりの冷たさに元に戻してしまった。

「…………」

ぬらりひょんはそれを見て、部屋で休むから水を一杯持ってくるように伝えると、自室に歩いていってしまった。

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