渦巻くもの

「……おいおい、これはどういうことだ?」

「…………妖怪の骸と……人間!?」

「いったい何が……?とりあえず急ぎ鴉天狗殿のもとへ!」


四国に着き、『準備万端、いざ出入りに!』という雰囲気だった奴良組一行。まず敵の情報を得るため、下調べに妖気がする方へ偵察部隊が様子を伺いにいったところ。その辺り一面が死体の山と化していたのだった。偵察に来た鴉天狗の部下たちは、その有り様に驚き立ち尽くしていたが、これはただ事ではないと思い、急いで本陣へと飛んでいった。


「辺り一面が妖と人間の死体だらけじゃと?何でそんな……」

報告を受けた総大将ぬらりひょんは、手にしたキセルを手近なところへと置くと、腕組をして座り直した。

「四国の情報は江戸へは流れておりませぬゆえ、何が起こってるかわかりません。ですが、確認したところ他の場所でも妖と人の骸が……。ただごとではないかと……」

鴉天狗は部下たちを従え、ぬらりひょんの前に座していた。

「ふむ……、これは厄介なところへ来てしまったかもしれんのう。緊急総会を開く、ヤツらを呼べ」

「はっ!」


そうして、部屋で待機していた奴良組幹部たちが会議のために集まった。

「さて、全員集まったな。鴉、早速だが説明を」

ぬらりひょんの一声で、鴉天狗は四国の現状を説明した。その内容に、集まった連中は皆驚き、ざわざわとし始めた。

「鴉、ここを仕切っているのは……」

ぬらりひょんが確認にと尋ねる。

「四国三大狸妖怪の一人、隠神刑部狸と聞き及んでおります。他は名を聞きませぬので、 こやつが大将かと」

「隠神刑部狸……か、どんなやつなんじゃろうのう」

そう二人が会話をしている間も、周りは四国で起こっている妖と人との戦について想像論を繰り広げていた。

「狒々、お前はどう考える?」

「儂か?儂はこれはただの小競り合いにしちゃあ、度が過ぎると思うねぇ。なんてたって、相手が人間だろう?」

「そうだな……」

ぬらりひょんは、近くにいた狒々に意見を聞いてみた。能面を被った大男は、いつものようにキャハハと笑うことなく真剣に答えた。

他の者に聞いても、同じような答えしか返ってこず、とうとう牛鬼にまわった。

「私は、これは人と妖が何らかの事情で戦っているとみます。ですが、目的がわかりませぬ故、これ以上は……」

「だいたい、今まで人間と妖が戦うだなんて聞いたことがねぇなあ」

一つ目が後に続ける。他の妖怪たちとこぞってそれにうなずいた。

「今日は……やむを得ぬ、ここで待機しよう。鴉、偵察部隊にもう少し詳しく様子を見て、四国で何が起こってるか探らせてくれ」

「御意!」

幹部連中は自身の部屋へと戻っていった。皆どこか不満足そうな顔をしていた。

「総大将、明日以降は……?」

木魚達磨は部屋に残り、これからの予定を組み直そうとした。

「偵察が帰ってくるまでどうしようもないのう。やたらに土足で上がり込んで負傷者を増やすのは得策じゃねぇ」

彼はキセルを片手にあぐらをかく。木魚達磨もむむ、と黙りこんでしまった。

「暇じゃのう、橘にでも会って気晴らしするか……」

そう言うと、ぬらりひょんはすっと立ち上がり部屋を去った。


「それで妾の所へ来たのか」

ぬらりひょんの頭を膝の上に乗せて座る女は、どこか不服そうな顔をしていた。

「そう膨れっ面するな橘。どうせことが終わればおめえに会うつもりじゃった。それが早くなっただけよ、むしろ喜べ」

「……それは置いといて、四国で何か不穏なことがあるようじゃのう。組は大丈夫なのかえ?」

彼女はぬらりひょんの言を無視して、話題を塗り替えた。彼はそれに怒りもせずその話題に乗っかった。

「ああ、妖と人間の死体があちらこちらに散らばってるんだと。人間同士じゃねぇ、妖と人間ってのがひっかかる」

橘はそれに更に顔をしかめた。

「何故人間が……」

「さあのう?ワシはこんな話聞いたことがねぇ。橘はねぇかい?ワシより長生きしとろう」

その質問に橘は表情を固くした。彼が何気ないつもりで言ったつもりだとわかってはいる。だが、自分や母が襲われたときのことを思い出してしまったが故に、思考回路が止まってしまったのだ。あのあとの、弟である彼の行動は凄まじいものがあった。

「……!橘!!」

「え、……っ!」

ぬらりひょんが声をかけ、ようやく反応を示した。彼は頭を上半身を起こし、彼女の顔を心配するようにのぞきこんでいた。橘はあまりの顔の近さに思わず頬を赤く染めてしまった。

「おい、大丈夫か。体調悪いんなら濡女か雪女か誰か呼ぶぞ?それとも、ワシに見惚れたか?」

わざと近づきながら唇の端を上げ、いやらしく笑うぬらりひょんを両手で思い切り押し返す。

「うわっ!」

突然のことに体勢を整えきれず、彼はドスンと音をたてて倒れた。

「……っテテ。橘や、少し加減をしてくれ」

「急に顔を近づけきたら嫌でも赤くなろう?からかうお主が悪い」

橘着物の袖で顔半分を隠しながら反論した。

それでもあまり痛くなかったのか、すぐにぬらりひょんは体を起こした。

「…はぁ、ともかく色々と厄介そうなことがありそうじゃ。橘はできるだけ中で待っていてくれ。ワシの帰る場所で、な」

ニカッと片目を閉じて笑う彼に、先程の恐れを忘れて橘は微笑んで「はい」と返した。

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