動き出す姉弟の歯車
「どうして!姉さんは純血だろう!?」
そう叫びながら、人垣を踏み分けてサミュエルは姉の元へ走りよる。そして、彼女の胸ぐらをつかんで詰め寄る。
「あなたは純血の家のものだ!どうして……」
「サミュエル、私は……」
突然の弟の行動に、マルティナは訳がわからなくなった。弟とは喧嘩ばかりして、とても険悪な雰囲気であったというのに……。いったいどういう風の吹き回しなのか、と思いを巡らせていると。
「なんだ、なんだ?何事だ?」
騒ぎを嗅ぎ付けたのだろう、管理人のフィルチがやってきた。
サミュエルは一応姉から手を離したが、その場から動かなかった。
そして、フィルチは悲しいことに自身の変わり果てた猫の姿を見つけてしまった。恐怖のあまりに、自らの手で顔を覆うその姿は痛々しかった。
「わたしの猫!わたしの!ミセス・ノリスになにが起こったというんだ?」
金切り声で彼は叫ぶ。
「おまえだな!」
フィルチは叫ぶと同時に、ハリーが犯人だとでも言わんばかりに彼を見た。
「おまえだ!おまえがわたしの猫を殺したんだ!あの子を殺したのはおまえだ!おれがおまえを殺してやる!おれが……」
「アーガス!」
ダンブルドアが数人の先生を従えて現場に到着した。そして、フィルチの猫をすぐに松明の腕木から外した。
「アーガス、一緒にきなさい。ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャーきみたちもおいで。ミス・ヴィルヘルムス、ミスター・アヴァロンは、先に医務室に行きなさい。いつまでも病人を抱えているのは辛いじゃろう、医務室でわしらが行くまで待ってなさい」
ダンブルドアが呼びかけた。すると、ロックハートが勇み立って進み出た。
「校長先生、私の部屋が一番近いです―すぐ上です―どうぞご自由に―」
「ありがとう、ギルデロイ」
そう言って、マルティナたちとハリーたちは別れた。こうして、三階の廊下での事件は一旦幕引きとなった。生徒たちはまばらになって寮へと戻っていく。
「……医務室に最初から行けばよかったな」
エドマンドは校長に連れられていく三人を見て呟いた。
「ええ、そうね……。何も起こらないと思っていたのに、どうなるかわかったものじゃないわ」
マルティナがやれやれといった風に言う。だが、彼女は忘れていた。自身の弟の事を。
「ティナー、何が起こったんだ!この僕に説明しろ!」
サミュエルは後ろから姉の腕をつかみ、問い詰めた。マルティナはまたも弟の行動に驚かされる。
「っ、どういう風の吹き回しなの?サミュエル」
「どうもこうもない!僕は……、僕はただティナーのことが心配で!姉さん、僕はずっと話したかった……」
そう言うと、彼はマルティナにぎゅっと抱きついた。
「はあ!?待ちなさいサミュエル!サム!」
「ああ、ずっとこうしたかった……姉さん」
そして、マルティナは思い出した。この弟が昔、仲良かった頃にどれほど自分に甘えてきていたか。何かというと、弟は姉に抱きつく癖を持っていたのである。
「あんた、何考えて……。ああー、もう……離れなさい!!」
サミュエルの髪をむしりとるようにつかんで、マルティナは彼を引き剥がした。べりべりと音がするかのようにサミュエルは彼女から剥がれた。
「……うう、酷いよ姉さん。昔はもっと抱きついてても良かったのに」
そう言う彼の目は涙を含んでうるうるとしていた。一方、マルティナは顔を真っ赤にしながら、息を吸っては吐いていた。
「おい、いい加減医務室に行かせろ」
空気と化していたエドマンドが、姉弟のやり取りをやめさせようと声をはさんだ。彼の声は怒りをはらんだ低いものであった。マルティナはマーガレットのことを思い出し、すぐに向かおうと言った。
「エド、マンド……はぁ、はあ、ごめん。サミュエル、あんたも来なさい。どうもお話ししないとダメみたいね……はあ、」
「…………そうだね」
かくして、グリフィンドールとスリザリンが並んで歩く不思議な光景がこのとき見られたのであった。