まさかの事実
「だが、パーセルマウスという能力を持つ者は、代々スリザリンの血を引く者のみである」
「それなら、何で彼女が……!?」
それが、両者の一致した考えであった。そのことを露も知らぬマーガレットは、未だに蛇と会話を続けていた。
「俺にもわからん。だが、スリザリンの血が入っているのか、それとも他に何か理由があるのか。いずれにしろ謎の声の持ち主は蛇であることがわかった。何か良くないことが起ころうとしているのは間違いない」
エドマンドが、謎の声の正体を突き止めたと言ったことに、マルティナは彼が何かしら隠しているのではないかと疑心を抱いた。
「エドマンド、あなたは……。あなたはいったい何者なの?」
一瞬戸惑ったが、ここで引くわけにもいかないとマルティナは気を引き締めて尋ねた。
「……いつか話せるときが来たら、そのときに教えよう。今はまだ、そのときではない」
神妙な顔で彼が答える。マルティナは、今回は身を引くことにした。あまり詮索するのも……と思ったのだが、やはり知りたいという気持ちが燻った。
「なら、一つだけ聞いていい?」
「内容によるが、取りあえずは聞こう」
マルティナは一つだけと、譲歩した。エドマンドはあまり良い顔をしなかったが、仕方ないとでもいう様に答える。
「あなたは、マーガレットをどう思う?」
「……はぁ!?どう思うっ?って、どういう意味で……」
想定外の質問に、エドマンドは頬を赤らめて言い淀む。
「ねえねえ、どうなの?」
マルティナは彼の反応を楽しむように、嬉々とした表情で問い詰める。エドマンドはそれから逃げるように一歩後退りする。
「いやいや、そんな、恋愛感情なんて持ってないからな。勘違いはよせって!」
「まあ、面白くないわ。なら、どんな子が良いの?可愛い子かしら、それとも綺麗な子?」
「そんなの話してどうするつもりだよ!?」
二人が脇で騒ぐのを横目に、マーガレットは蛇と会話を続けていた。
『あなた、これからどうする?なんなら、近くの森に連れていきましょうか?』
床に横座りして座る彼女のすぐそばに、その蛇は首をもたげて言葉を返す。
『そこには私が食べられそうな動物がいるのか?』
『どうだろう。ここの生徒は入ってはいけない規則だから、わからないわ』
禁じられた森に連れていこうとしたが、あそこにこの蛇が食べるものがあるかどうかわからなかった。魔法動物飼育学をとってはいるが、あれは魔法界の動物についてであり、このような蛇、犬や猫や鳥などはそこまで取り扱っていない。寧ろ、そこらにいないような危険動物を学んでいる。蛇は肉食であるが、種によって違いがあるだろう。と、マーガレットが考えていたとき。
『とりあえずそこの森とやらに連れていっておくれ。もし食べられるものがなければ、お主が私を養ってくれればよい話だ。元々私が住んでいた場所からここは遠いのだろう?』
蛇がひとつの提案を出した。
『そうね、まだ無いと決まった訳じゃないし。申し訳ないわね、あなたに非はないのに……』
『食べ物があれば何とかなるだろう。後は環境だが……それも様子見だ。1週間程したら、森の外に出てどうするか決めようではないか』
マーガレットは、その蛇が森で生きていけるか1週間ほど様子見することにした。何も問題なければそこで暮らしてもらい、無理ならばマーガレットが養うことにするという案を出した。
『蛇さんじゃ呼びにくいから……、名前をつけてもいいかしら?それとも、もうあるの?』
『野生の蛇に名前など無い。好きに呼ぶがいい。因みに私は雄だからな』
雄だと念を押されたことに少し驚きながらも、マーガレットは名前を考えた。
『シェーシャなんてどうかしら?どこかかの神話に出てくる蛇王の名から拝借したのだけれど』
『蛇王など、畏れ多いが……お主がそれで良いならそう呼ぶがよい』
『じゃあシェーシャと呼ばしてもらうね』
そのように話して(?)いると、マルティナから声がかかった。
「マーガレット、エドマンドが……」
「なあに?」
マーガレットは、シェーシャを左腕に巻き付けさせるとエドマンドの方へ向かった。エドマンドがソファーに座ると、マーガレットとマルティナも腰を掛けた。
「マーガレット、君はパーセルマウスという蛇語を話せる人ということがわかった。今現に蛇と会話をしただろう?それが何よりの証拠だ」
「パーセルマウス?」
「ああ、今まで他に動物と話すことができる者など存在しなかった。そのパーセルマウス以外はな。昨日、君が聞いたのは間違いなく蛇の語、パーセルタングだ」
マーガレットはいきなりのことに戸惑った。が、現に蛇と会話をしたことの方が驚くべきことであったため、そこまで混乱はしなかった。
「さてと。これで、彼女の言う謎の声の正体は、何かしらの巨大な蛇と見て間違いないだろう。だが、一体どこからわいたのか……」
エドマンドはまた考え込む。マルティナがその間にマーガレットに怪訝な表情で話しかけた。
「……ねえ、その蛇どうするつもりなの?」
「森に放そうかと思ってね。食べるのに困ったら、私が養うつもりよ」
ゾワリ、とした震えがマルティナを襲った。色白な顔が青ざめて更に白くなった。
「……まさか、マッジ。あなた……へ、蛇を飼うつもりなの?」
「ええ、だって生きていけないじゃない。それに、学校で暴れられても困るし」
そう言いながら、腕に巻き付いたシェーシャを撫でるマーガレット。マルティナは恐ろしいものを見たとでもいうかのごとく、ヒッと小さな悲鳴をあげた。
「いい?マーガレット。少しでもそ、そ……それを私に近づけてみなさい。け、けけ消し炭にしますからね!」
「え!?」
マルティナが蛇を睨み付けながら叫んだ。マーガレットは思わずすっとんきょうな声をあげたが、涙目でこちらを見るマルティナに、ああ、蛇が怖いのかとやっと理解した。マーガレットは、普通に会話を交わしたため、恐怖心をシェーシャに抱いていなかったのだ。
「ふふ、大丈夫よマルティナ。この子は襲わないわ」
そう笑顔で言った友人の姿に、マルティナは一抹の不安をぬぐい去ることができなかった。隣に座るエドマンドは、なにやらぶつぶつと呟いているだけで、こちらを一瞥もしなかった。
この日の夕方まで、マルティナは蛇を手にする友人に恐怖を覚えていたのだった。エドマンドについて聞こうとしていたことは、マーガレットがパーセルマウスという事実を知ったことにより、二人ともすっかり忘れてしまっていた。