緑と黄色

「な、んであなたが……!?」

マーガレットは、思わず後退りした。だが、場所が階段故に壁側に寄るだけだった。相手が下階の方に居るせいで、マーガレットがやたらに動けないのを良いことにじりじりとのぼってきた。貼り付けたように妖しい笑みを浮かべながら。

「フフ、そんなに驚くことかな?」

「……っ、私の友達以外に教えた覚えはないわ!」

「おや、僕はずっと前から知ってるんだけどな」

「何を言ってるの……?私はあなたなんか知らないわ!私とあなたはここの図書室で会っただけのはず」

マーガレットの脳内に、彼は危険だという警報が出た。だが、階段の途中でむやみに動いて怪我をするのは宜しくない。だからと言って、このまま彼の側にいるのもお断りである。周りによくない空気が立ち込めている。

「……忘れてるんだよ、君は。昔はよく遊んだりしたじゃないか」

「…………?」

「ああ、君は幼い頃の記憶もないんだったね」

「っ!?」

胸の奥で、鼓動が早くなるのを感じた。

何故、信頼する人にしか教えてないことを彼が知っている?よりにもよって、スリザリンの人間だ。グリフィンドールとスリザリンは犬猿の仲。仲の良いものなど一人もいない。

━相手は未知の存在-人間-だ。逃げなきゃ……。

そう思うが早いか、踵を返して階段を駆け上がり始めた。

後ろから何か叫ぶ声が聞こえたが、足を止めることはない。止めたら最後、逃げられない。そう感じた。



二つほど階を上ったところの踊り場で、誰かに衝突した。

「……わっ!ご、ごめんなさい!」

「いや、こちらこそすまない……って、ラヴィニアじゃないか」

そう言われて、ぶつかった相手の顔を見る。胸元にある黄色のネクタイはハッフルパフの証。

「……セ、ド……」

名前を呼ぼうにも、乾いたのどではろくに声を出せなかった。

「だ、大丈夫!?どこか強くぶつけたのかい?」

彼は声をかけながら、マーガレットの頬に手を添える。そして、流れていたものをぬぐった。

「……あぁ、私ったら。ごめんなさい、違うの、セドリック」

マーガレットは、自分が泣いていたことに気づいた。怒濤の勢いで階段をのぼってきた両足も、ガタガタと震えていて、立っていられずその場にへたりこんでしまっていた。

「顔色も悪い……、とりあえず立てるかい?そこの教室に入ろう」

彼の肩を借りて、なんとか近くの教室まで歩いた。セドリックは授業の後らしく、教科書を数冊抱えていた。何を聞くでもなく、ただ近くに座って見守っているだけだった。

一方、マーガレットはここまで恐ろしいものがあるのかと、身を抱き締めて震えていた。ここでセドリックに会わなければ、きっとあいつに捕まっていた。そんな恐怖がまとわりついていた。

「アクシオ」

ふと、彼が呟くようにして杖を振った。すると、ティーセットがどこからか現れた。そしてセドリックは彼女の方へとティーカップを差し出した。

「ハーブティーだけど、飲めるかい?他のが良いならそっちにするけど」

優しく尋ねる彼に首を横に振って、出された紅茶を口にする。ハーブの爽やかな香りが辺りに広がるような心地がした。



気がつけば、それを飲み干していた。同時に、自身が震えていないことに気づいた。抱き締めていなければ、その場に居座れなかったほどの震えが収まっていたのだ。

「……ごちそうさまです」

「良かった、落ち着いたみたいだね」

くす、とセドリックは微笑む。その笑顔が、彼女に暖かな温もりを与えた。

「ええ、ありがとう」

自然に声に出てた。それにセドリックは何ともないように返す。

「どういたしまして」

マーガレットに笑顔が戻った。ここまで穏やかな気持ちになれたのは久々かもしれない、と心の隅で思った。



「それにしてもラヴィニア、何があったんだい?僕とぶつかっただけで、あんな怯えたりしないだろう?」

ティーセットを片付けながら、セドリックは尋ねた。マーガレットは、何も言わず、無表情に床とにらみあっていた。

暫くどちらも動かなかった。先に動いたのはセドリックだった。

「言えないことなら、無理に話さないで。僕は無理強いする気はない。誰か相談できる人に話してくれればそれでいい」

それにマーガレットはサッと顔をあげた。

「い、良い……の?」

「勿論、話してくれたら僕は嬉しい。一人で抱え込まれるのは嫌だな。君に何があったのか、何か解決策を練れればそれでよし。練れなくても君の心が落ち着けばそれはそれでね。でも、話せないなら仕方ない。君が話せる人に話して、気を楽にしてほしいんだ」

━ひとりで抱え込むな

それは、グリフィンドール寮の友人たちからも言われた言葉。

込み入った話ゆえに、セドリックに話すのは気が引けたのだ。彼はこんなにも優しいというのに。

「ごめんなさい、あなたには話せない……。でも、いつか私が話してもいいと思えるようになったら、そのときは聞いてくださる……?」

申し訳なさそうな表情を浮かべながらマーガレットは尋ねた。

「もちろんさ、困ったことがあれば頼ってくれて構わないよ。正直に言ってあの決闘クラブのあと、君と友人になれたらいいなと思ってたんだ」

「そうなの……?そう思ってくれてるなら……是非宜しくね 」

「ああ」

二人はお互い手を出して握手を交わした。この日、マーガレットに他寮の友人ができた。

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