緑と黄色
「ラヴィニア!心配したのよ、ずっと戻ってこないんですから!!」
「ラヴィニア、何してたの?お昼も待ってたけど来ないし、もう夕方よ」
「ふふ、ボーイフレンドでもできたの?」
寮の自室に帰ってきたときの言葉である。上からマルティナ、アリシア、アンジェリーナの順である。
「……ごめんなさい。色々あって」
そういった瞬間、ふわふわとした何かに包まれた。それはマーガレットを抱き締めたマルティナだった。少しのびてきた彼女の金色の髪が頬にさわる。
「何かあったのかと……。あんな事件の後だし」
そう言われて、被害者が出たことを思い出す。先程のせいで、すっかり忘れてしまっていた。
「大丈夫?ボーッとしてるわ」
「え、ええ。お昼食べ損ねちゃったから……」
「やっぱり。ほら、この前買ったチョコいっぱいあるから食べて」
そう言って、アリシアが小包を投げる。それをうまくキャッチすると、分けてもらえないかと、思っていたチョコであった。
「アリシア……、ありがとう」
「ふふ、私もクッキーあげる」
アンジェリーナが便乗して渡してきた。こんがり焼けたクッキーの香ばしい匂いが辺りを包む。
「…………私のお気に入り、あげるわ」
そう言って、マルティナはパステルカラーのマフィンの入った袋を渡してきた。中にいくつか入ったものである。
「……!アンジェリーナ、マルティナ……ふたりともありがとう。三人に、今度何かお礼するわ!」
マーガレットは嬉しそうに声をあげた。ルームメイトの三人は、それぞれ笑っていた。
その日の夕食後、マーガレットはエドマンドを連れて禁じられた森の側に居た。
「ごめんね、エドマンド。レポートとかあるのに……」
「いや、構わないさ。昼間変なやつと出くわしたなら、尚更一人で行動するわけにはいくまい」
夕食前、マルティナとエドマンドに昼間何があったのか簡単に、だが事細かに説明したのだ。それを聞き、エドマンドはマーガレットとなるべく同行した方がいいと考えたのだ。
『相手が何だかよく知らないが、マーガレットの事情を知っている正体不明の男。なら、マルティナが太刀打ちできるとは考えずらい。なるべく俺も一緒に行動しよう』
今回は、禁じられた森にいる蛇のシェーシャの迎えに来たのだ。マルティナは蛇が嫌なようなので、どちらにせよエドマンドが来ることになっていたわけだが。
「……まだ来てないみたい」
「そうか。なら、暫くここで待とう」
シェーシャはまだ着いてないようなので、二人はそこで座って待つことにした。
何故だか、会話をすることなく時間は過ぎていた。どことなく居心地悪い感じがした。
マーガレットは、ふと思ったことを聞いてみることにした。
「ねえ、エドマンド」
「……何か?」
「エドマンドって、どうしてこんな危険なことに関わってくれるの?」
エドマンドは、予想してない質問に戸惑った。
「去年、トロールの事件のとき、私を追いかけてきたり、学年末のときは四階に居た私を止めようとしたり……。どうして?自分が巻き込まれるとか……考えないの?」
エドマンドは、どう答えれば良いかわからなかった。
━ 一度死んだから。なんて、言えるわけない。前の"僕"としての記憶がある、なんて言えない。
なら、どう言えば良い?
「失わないため、かな」
「失わないため?」
マーガレットは言い直す。
「そのうち話すさ。今は言えないけど」
そう言った彼の顔は、暗くて見えなかった。声からして笑ってるように聞こえるが、実際どうなのだろうか?
そんなことをしてるとき、カサカサと草が何かと擦れる音がした。
マーガレットは、思わず立ち上がって名を呼んだ。
「シェーシャ!?」
『おお、マーガレットよ、ここにおったか』
『ええ、迎えに来たわ』
そう言って、彼女はしゃがみこみ手を出す。シェーシャはそれにするすると這ってのぼる。首もとのローブまでやってくると、そこに胴体を入れて、首だけマーガレットの右側からのぞかせるようにした。
「さて、用がすんだなら早く戻るぞ。就寝時間までもうすぐだ」
「ええ、ごめんなさいね、エドマンド」
「構わないさ、それより走るぞ」
二人は夜の校庭を駆け抜けた。帰る途中、何も変なことにはあわずに済んだ。
そして、時は流れ流れて12月中旬となった。クリスマスまであと少し。