被害者は彼女
今年もバレンタインデーとなった。いつも通りチョコをあげたりもらったりと、微笑ましい光景が広がる、はずだった。
マーガレット、アリシア、アンジェリーナは目の前に広がる光景に吐き気を催した。
「……何このピンクの花とスカイブルーの天井」
アリシアは鬱陶しいとでも言うように元凶へと目を細めて向けた。勿論その元凶は、けばけばしいピンクのローブを来たロックハート。何だか教員席でのたまっているようだが、一部女子を除いて白い目で見られてることがわかっていないらしく、癪にさわるような大声で叫んでいた。
「ちょっと、紙吹雪が料理にのっかってるんだけど……」
アンジェリーナが、とるの面倒だわ、とぼやきながらそれを払いのけた。そんな中、一人だけテンションの違う者がいた。言わずもがな、可愛いもの、綺麗なもの、美しいものが大好きな彼女である。
「この花飾り可愛いわ!部屋に飾るのに一つ持ち帰って良いかしら?たまにはいいことするじゃないの、ロックハートの奴も」
キャイキャイと喜ぶマルティナに、思わず周りに居たグリフィンドール生は信じられないとでもいうような目付きで見た。だが、それを気にしないのがマルティナである。マーガレットはやれやれとため息をつきながらも、いつも通り彼女と朝食を取り合った。
さて、痛々しい朝の光景だけで済めば良かったのだが、某闇の魔術に対する防衛術の教授は、とんでもないものを学校内に放った。
「アリシア・スピネットに、直々にお読み申し上げたい一通の手紙がございます」
変身術の時間に突然現れた、気持ち悪い格好をしたキューピッドこと小人がアリシアの前に現れた。
「え?今授業中……」
「『いつもクィディッチの練習や試合で活躍〜〜』」
下手な告白よりもっと酷いものであった。アリシアは授業中顔を真っ赤にして過ごすことになった。
「マルティナ・ヴィルヘルムス様に〜〜」
「気色悪いわ、離れてちょうだい!ステューピファイ!」
昼休みに、マルティナの所に現れた小人は、彼女の放った失神呪文に倒れた。食べ終えた後だったので、彼女は憤慨して寮へと戻った。
「アンジェリーナ・ジョンソンに花束を送るよう言われました」
「えっ、あ、ありがとう……」
アンジェリーナに関しては、廊下を歩いている最中に大きな花束が送られてきた。小人はそれ以上何も言わずに去っていった。
「ちょっと、アンジェリーナ!何でそんな簡単に受け取ってるの!?」
隣に居たマルティナは、簡単に受け取るアンジェリーナと、簡単に離れていく小人が解せなかったようで、突っ込みを入れたようだ。
「ラヴィニア・アルフォードにこのようなものが送られてきました」
マーガレットは、まさか自分に送られてくるとは思わなかったので、びっくりした。だが、送られてきた中身を見てそれは更なる驚愕の表情へと変わった。
「……こんな大量のチョコをどうしろと?」
両腕で抱えきれない量のチョコを受け取った。いったい誰が送ったというのだろうか?そしてその後、別の小人から小さな白いリボンのついた黒い箱が渡された。差出人の名前もなく、ただその箱の中身が何なのか、と困惑するのみだった。
このような光景が、今日の朝から晩まで広がっていたのである。ホグズミードで購入したチョコを交換してはい終わり、となるはずだったバレンタインデーは、どこかの頭が年中お花畑の教授によって破壊されたのであった。
そして、マーガレットに送られてきた黒い小箱の中身は、小さなブローチだった。マーガレットのイニシャルが裏に刻まれていた。
「いったい誰が……?」
彼女の本名を知っているのは、マルティナ、エドマンド、ダンブルドア校長、マクゴナガル教授、スネイプ教授だけ。あとは孤児院院長だが、彼女がこのようなことをするはずがなく。
マーガレットはとりあえずそれを、鍵のついた机の引き出しにしまうことにした。見つかっても困るので、幾重にも布でそれを包んでから、奥底に入れた。
それからまた数週間が過ぎ、秘密の部屋の被害者も出なくなってきた頃のことだった。暫く姿を見なかったハーマイオニーに相談されたのは。
「急にごめんなさい、ラヴィニア。でも、図書館に足繁く通ってるあなたなら、頼りになると思ったの」
「いいのよ、ハーマイオニー。それにしても魔法生物だなんて、来年の予習でもするの?」
マーガレットは、ハーマイオニーに頼まれて図書館に居た。なにやら魔法生物について調べたいらしく、よくここに通っているマーガレットに頼み込んで手伝ってもらおうということだった。
それから三十分も経たない頃だった。
「それにしても、今日はクィディッチの試合あるのに……見に行かなくて良いの?」
マーガレットは少し離れたところにいるハーマイオニーに声をかけた。だが気づいていないのか、彼女は返事もせずにその場から動かない。それも何か不自然な様子で固まっている。
「ハーマイオニー?どうした……ひっ!?」
そこにいたのは、目を見開いて石のように固まったハーマイオニーだった。それを見つけたマーガレットは、わなわなと震えながら後退りした。彼女が手に持っていた本が、するりと手から落ちた。
そんな彼女の足に何かがあたった。何かと思い、ゆっくりと首をもたげて床をみると、何かキラリと光るものが落ちていた。
「こんなとこに手鏡……、……!?」
それを震える手で、そっと拾い覗き見る。じっとよく見てみると、その鏡にうつっていたのは金に光る瞳と黒い影だった。それを最後に、彼女は意識を飛ばした。