秘密の部屋と明かされる真実
ハリーとロンが寮から出ていったのを、エドマンドは一人静かに追いかけていた。彼は二人が話していたのをすぐ近くで聞いていたのだ。そして、これから秘密の部屋に向かうであろうロックハートに助言しにいくのを見越し、先回りして嘆きのマートルのトイレの入り口で静かに佇んでいた。
タタ、と足音が聞こえたと思えば、案の定ハリーとロン、取り乱した姿のロックハートが現れた。二人は驚いた顔でエドマンドを見た。
「な……んで、……エドマンドが……?」
エドマンドはその端正な顔に、ニヒルな笑みを浮かべて彼らを見た。
「少々気になることがあってね、俺も秘密の部屋に同行させてもらうよ」
彼の言葉にハリーはとまどった様子で口答えをする。
「秘密の部屋にはバジリスクがいるし……、危ないんじゃ」
「それをいうなら、年下の君たちの方が余程危険さ。図にのらないほうがいいよ、ポッター。それに、後ろの教授は使えないしね」
そういうと、三人を鋭い目線で一睨みする。それを見たロンは、蜘蛛を見たときのような顔をした。それと同時に四年生じゃ何もできないだろうにと、密かに思ったのだった。
ハリーは苦い顔をしながらも、エドマンドを連れてマートルのトイレへと入った。
そして、マートルに死んだときの様子を聞くと、これ以上の嬉しいことはないとばかりの嬉々とした笑顔で、状況を説明してくれた。話からして、使えない手洗い台が怪しいとみて、ハリーとロンは手洗い台を調べ始めた。ロックハートは怯えた様子でそれを見ていたが、エドマンドは無表情で立っていた。
暫くして、蛇口に蛇の形の小さな装飾を見つけたハリーが、蛇語を使って入り口を開けた。彼の口からシューシューとしたものが聞こえた。蛇口脇の蛇の装飾が光り、手洗い台が次々に移動し、手洗い台があった場所に大きな配管の穴が現れた。大人が一人入れるほどのものだった。
これが下まで続いてるのだろうことは容易に想像できた。すぐ、ハリーはこの中に入るのを決めていた。ハリーとロンは、ロックハートに先に入るよう言うと、彼を配管の入り口際に立たせた。嫌がる彼を、ハリーに続いてロンが一押しすると、ロックハートは滑り落ちていった。その後にハリーが続く。
「……父親そっくりだな」
ボソッとエドマンドが呟くのをロンは聞いた。だが、何を言ったかまで聞き取れず、先にいきたいのだろうか?と思い尋ねる。
「……えっと、先に行く?」
「いや、俺は最後にしよう。先に行くといい、友人がお待ちかねだろう」
「そ、そうだね。先にいくよ」
そういうと、ロンはぬめぬめした配管に入り込んだ。
暫くして、エドマンドも中に入る。ぬめついた暗く、急勾配の滑り台をすべるような、奇妙な感覚であった。四方八方にわかれる配管もあるなか、一番太いものをすべっているようだった。かなり深くまで来たと思うと、平らになった配管から放り出され、地下の床についた。
天井は想像以上に高く、地下なのかと疑問に思うほどであった。エドマンドがそう思いながら辺りを見渡していると、ハリーが呪文を唱え、杖に明かりを灯した。
「行こう」
ハリーが一声かけ、一行は暗い地下を歩き出した。湿った床を歩く度、ピシャッと音がなり、狭い空間に響き渡った。
暫く歩いていると、バリン!と音がした。ロンが何かを踏んだらしく、ハリーが杖先をその方向に向けたところ、それはネズミの頭蓋骨だった。エドマンドも杖に明かりを灯すと、床をよく見渡した。小動物の骨があちこちに散らばっており、彼らの足元も同様であった。
それからまた歩き続けたところ、大きな曲線を描いたものがあった。まさかバジリスクなのか、と思いゆっくりと息をひそめながら近寄る。各々がもしものときのため、目を細めながら近寄る様はとても奇妙なものであった。ようやく近付いてわかったのは、それがとても巨大な蛇の脱け殻だったということだ。六メートル以上あるそれは、小さな人間を脅かすのには十分すぎた。
「なんてこった」
ロンが青い顔で呟いた。すると、後ろでロックハートが腰を抜かしたらしく、尻餅をついていた。ロンか杖をつきだして立てと命じた。ロックハートは震えながら立ち上がったかと思うと、ロンに飛びかかった。ハリーが飛び出したが、間に合わず、ロンの杖がロックハートの手に渡った。エドマンドはため息をつきながらロックハートの近くを離れ、ハリーの後方へまわった。あのわざとらしいスマイルをしながらロックハートは高らかに話す。
「坊やたち、お遊びはこれでおしまいだ!私はこの皮を少し学校に持って帰り、女の子を救うには遅すぎたとみんなに言おう。君たち二人はずたずたになった無惨な死骸を見て、哀れにも精神に異常をきたしたと言おう。さあ、記憶に別れを告げるがいい!」
スペロテープでくっつけたロンの杖を掲げると、ロックハートは叫んだ。
「オブリビエイト!忘れよ!」
エドマンドは一声、「プロテゴ」と防御呪文を唱える。彼の前に淡い光の壁が現れた。だが、それは無意味なこととなった。
ロンの杖は小型爆弾並みに爆発し、天井から大きな音をたてて岩の塊が崩れ落ちてきた。エドマンドは走ってその場から離れる。轟音が響くのが収まると、目の前にその岩が積み重なり、立ちはだかるような高い壁を作り出した。エドマンドは、岩壁の付近にハリーがいるのを見つけた。
「ローン!大丈夫か?ロン!」
ハリーが大声をかける。狭い空間に響くその声が、向こうにも届いたようで、岩と岩の間から、くぐもったロンの返事が帰って来た。そして、ロックハートも向こう側にいるらしく、ときたま悲鳴が聞こえた。ロンが何か仕掛けているようだ。エドマンドは仮にも教師にそんなことを……と思ったものの、この岩壁を作ることになった原因故に、何とも言えない気分であった。
そんなことを考えてる間に、ハリーは先に進む決断をした。ロンはそのあいだこの壁を崩すことに専念するようだ。
「覚悟は決まったな」
エドマンドが口を挟む。ハリーは挑戦するような目付きで、震えるからだを押さえつけて頷く。
「フン、邪魔者が居なくなってちょうど良い。ここから先も、パーセルマウスのお前が居なくては話にならんだろうからな」
邪魔者がロックハートだろうことはハリーにもわかった。
エドマンドと二人、くねくねと蛇のような道を奥へ奥へと進む。ハリーは彼が一緒だということが不幸中の幸いだった。あまり、仲がよいとは言えないものの、一人でも仲間がいることが嬉しかった。一人では怖くて進めなかったかもしれないからだ。エドマンドは、この先にいるであろう者のことを考えており、ハリーのことは眼中になかった。今の己の力が、彼の者に通じるか不安であったのだ。
そうして、随分な距離を歩いた先に、壁が見えた。二匹の蛇が絡まった彫刻に、大粒のエメラルドがその目にはめ込まれてあった。エドマンドは隣にいる少年をみやる。咳払いをしたその少年は一呼吸してそれを唱えた。
『開け』
低く、蛇のようにシューシューとかすれた音がハリーの喉から出た。
その壁の蛇の彫刻がわかれ、するするとすべるように壁がわかれていった。ここまで来たからには、もう後に引くことはできなかった。唾を飲み込むと、ハリーは震えるその足を踏み出した。
隣に立つエドマンドは目を閉じ、意識を集中させたとこでまた目を開き、その蒼い瞳で前方を見やる。左右対になった蛇の柱が前に続いている。意を決して、彼は部屋に足を踏み入れた。床を踏む足の感覚と、右手に握った杖の感触だけが、彼の意識を明確にする手段だった。