秘密の部屋と明かされる真実
暗い空間ながらも、目が慣れてきたのか杖先の光りだけでも遠くまで見えるようになった。 最奥に年老いた猿のような顔に、長いひげの魔法使いの石像があった。
「ジニー!」
ハリーが床にうつぶせに横たわったジニーに一目散に向かった。エドマンドは辺りを見渡す。視界の端で黒い影が闇の中でうごめくのを見つけた。ハリーは杖を投げ出してジニーを仰向けにしており、それに気づいていない。声をかけるも彼女は青白い顔のまま目を覚まさない。そして。
「その子は目を覚ましはしない」
黒い影が、すぐそばの柱に持たれて姿を現す。背が高く、黒い髪の少年だった。エドマンドは背に冷や汗が流れるのを感じた。この少年は普通ではない、そう感じ取った。
「トム―トム・リドル?」
ハリーが少年に声をかける。その名前にエドマンドは目を見開き、2、3歩後退りした。それから自身の記憶を辿る。正しければ、その人物は……。エドマンドはその衝撃に暫く動けなかった。
黒い髪の少年はエドマンドを一瞥するものの興味がないというように、ハリーに目を向け会話をしている。その会話の内容から、ジニーの手に彼の日記が渡り、それに日記をつけるジニーの魂がリドルに吸われ、力がなくなってきた彼女の代わりにリドルの魂を注ぎ込み始めた。その結果、ジニーの体はリドルに乗っ取られ、秘密の部屋を開けて次々にマグル生まれの生徒を襲ったということのようだ。
そして、リドルはハリーから奪った杖を持ったまま空中に自身の名前の文字を書く。そして、杖を降ると、その文字を並び替えた。そこに現れたのは。
「ヴォルデモート卿……」
「反応を見るに、そこの彼は僕のことを知っているようだね……。ハリー、わかったね?」
リドルは自身の名前について語る。彼はサラザール・スリザリンの血を引く母親を捨てたマグルの父を、この上なく恨みに思っているのがよくわかった。それと同時にエドマンドは、目の前の人物が過去の己が一心不乱に憧れ、畏れ敬い、崇拝して……失望した人物だということを再認識した。
そして、どこからか音楽が聞こえてきたと思うと、近くの柱の上に炎が燃え上がった。その中からダンブルドアの不死鳥、フォークスが現れた。フォークスは、足につかんでいたボロボロの組分け帽子をハリーのもとに落とす。それを見たリドルは、ダンブルドアがくれたものはそれだけか、と高笑いをした。
エドマンドは、リドルがいつバジリスクを出すのか、と危惧していた。そして、とうとうハリーとの会話も終わりを告げるようだ。リドルはハリーから大きな石像へと顔を向ける。そして、シューシューと音をたてて何事かをしゃべる。ハリーが顔色を変えたことから、恐らくバジリスクを呼んでいるのだろうことがわかった。
大きな石像の口がだんだんと広がり、中にうごめく何かがいるのが見えた。エドマンドはズルズルと音をたてて這い出てくるそれが、バジリスクだということを瞬時に理解した。
リドルはハリーへとバジリスクをけしかけた。ハリーは目を閉じながら後ろへ後ろへと逃げる。目を細目ながらエドマンドはリドルの方へと寄る。リドルは紅い瞳でエドマンドを見た。蒼い瞳と紅い瞳から発せられる目線が交わる。
「さて、君はいったい何者だい?僕のことを知っているようだけど……」
「俺はエドマンド・アヴァロン。あなたが忌み嫌うマグル生まれのグリフィンドール生さ」
自嘲するようにエドマンドは言う。
「ふうん、マグル生まれの、……ねぇ。その割には閉心術を心得ているじゃないか、僕が開心術を使っても何も見れないのが良い証拠さ。純血一族ならまだしも、マグル生まれができるというのかい?」
エドマンドは、心に侵入しようとするリドルの開心術を、閉心術を使うことによって避けていた。だが、これは容易くできるものではない。なんども訓練を受けた者だけがなせるものである。
「……"俺"はエドマンドだ。だが、"俺"の中に存在する"僕"はエドマンドではない。"僕"はレギュラス、レギュラス・A・ブラック。純血のブラック一族の生まれさ」
エドマンドはリドルから視線をそらさずに言い切った。
彼も、マーガレットと同じく生まれ変わったも同然の人物であった。
「ブラックだと?……フフ、ハハ、アハハハ!」
リドルはこれ以上の可笑しいことはないとばかりに、笑いはじめた。暫くして笑いが収まると、目尻から涙をぬぐうそぶりを見せた。
「はぁ、君ほど面白いことを言うのも珍しいよ。フフ、君がブラックの生まれだといいながら最初にマグル生まれと言う。何が本当かは知らないが……君が僕の邪魔になることだけは確かなようだからね、ここで消えてもらおうじゃないか」
そう言うと彼はハリーの杖を出し、前に構える。エドマンドも自身の杖を握り直し、構えた。
「さあ、魔法使い同士の決闘方法はわかるだろう?ハリー・ポッターはバジリスクと戦っている、邪魔するものは一切ない」
リドルは、お気に入りのおもちゃを見つけた子供のような、だが口元だけが歪んだ笑みを浮かべる。エドマンドは視線をそらすことなく彼と対峙する。冷や汗がまた背を流れる。二人だけの空間と化したと思ったそのとき。
バジリスクだろうものの悲鳴ともとれる声が、秘密の部屋全体に響き渡った。
「まさか!?」
冷静沈着だったリドルが、驚いた顔で声の発生源を見やる。そこには、バジリスクの体が横たわっていた。そして、太く長いバジリスクの牙を持ち、ダラダラと血を流すハリーの姿があった。彼はふらふらとしながらこちらへ歩いてきた。だが、力尽きてその場に崩れ落ちた。そんな彼のすぐ隣に不死鳥のフォークスが降り立つと共に、傷口のところに頭をもたげた。
リドルはエドマンドから興味を失ったらしく、ハリーのもとへ嬉々として歩いてよった。エドマンドは緊張が解けたと同時に、体から力が抜けて膝をついた。己の体が震えているのがわかった。
そして、深く息を吸って吐く。幾度か繰り返してハリーを見やった。彼の目の前にリドルが立っていた。そして、ハリーの元へ不死鳥が黒い日記をポトリと落とす。そこからの流れは早かった。あれほど苦しめられた日記の本体に、ハリーが手にしていたバジリスクの牙を突き刺す。耳をつんざく悲鳴が実体化していたリドルからあふれでた。バジリスクの牙が刺さった日記からインクが滝のように流れ出た。リドルは身をよじりながら悶え、まばゆいばかりの光りと共にその場から消え去った。
「はぁ、はぁ、……終わった?」
ハリーは、呆然としながら、無意識に言葉を発していた。エドマンドは、ゆっくりと立ち上がり、その日記を手にした。
「分霊箱を一つ……破壊できたか」
ボソッと彼はそう言うと、まだ横たわったままのジニーを見やる。彼女はうめき声をあげながらも、目を覚ましたようだ。ハリーは彼女の名を呼びながら駆け寄る。ジニーはかすれた声で、日記に操られていたと弁解しているようだった。
それから、三人で元のトンネルへと戻った。ロンが崩した岩壁を通り抜け、忘却術の逆噴射被害にあったロックハートを連れて、不死鳥のフォークスに捕まり、嘆きのマートルのトイレへと無事に戻ってきたのだった。