少女の帰還
秘密の部屋の事件も解決し、石になった者たちも回復し元に戻った。その日のホグワーツの宴会は、全員パジャマ姿で夜通し続いた。
「ラヴィニア!!ようやく、ようやく戻ったのね!」
マルティナが、石化から回復したマーガレットに抱きつく。マルティナは涙をポロポロと流しながらきつく抱き締めた。アリシアとアンジェリーナもそこに加わり、四人がきつく抱擁を交わした。そして、マーガレットは久々の食事を頂いた。
お腹がふくれたとこで、マーガレットは皆にまた謝った。彼女が悪いわけではないものの、とても心配をかけたことに違いはなかった。
「みんな、心配かけてごめんなさい。でも、不思議な気分だわ。数週間も経ってる感覚がないの……」
眉を下げてマーガレットが話す。
「仕方ないわよ……。あ、それとビッグニュースよ!」
アリシアが息を荒げてアンジェリーナに目を向ける。
「そうそう!ハリーとロン、それにエドマンドが今回の事件を解決したから、一人二〇〇点ずつグリフィンドールの点を増やしたの!寮対抗優勝杯、二年連続獲得だわ!」
アンジェリーナは顔を紅潮させながら朗報を告げた。
「更にね!マクゴナガル先生が、期末試験を中止にしてくれたのよ?これ以上嬉しいことはないわ!」
マルティナは先程のしんみりとした雰囲気を吹き飛ばす勢いで話した。
「そうなの!?授業途中から受けてないから、どうしようかと心配してたの……良かった……」
ホッとしたと同時に、マーガレットは黒髪の少年を探した。蒼い瞳を持つ彼は、すぐ見つかると思ったが、この賑わいの中では難しいようだ。
「ねぇ、エドマンドはどこかしら?」
マーガレットはキョロキョロと辺りを見渡す。それのマルティナが答えた。
「え?彼ならフレッドとジョージに絡まれてたのをさっき見たけど……。ねえ、アリシア」
「そうね……でも彼のことだから、逃げたんじゃない?ほら、こういう騒ぎは好まないでしょ。それに今日は大分遅くまで騒いでるからね〜」
「……だよね。私、彼に用があるから探してくるわ」
そう言って、赤毛の少女は席を立ち上がっていった。
「やっぱ談話室に戻ってたのね、エドマンド」
そうマーガレットが呼び掛けると、談話室の彼の居場所となった隅のソファにエドマンドは座っていた。
「……おかえり、マーガレット」
彼は微笑みながら、手にしていた書物を閉じた。
「あなたも秘密の部屋まで行ったんですってね。マルティナたちから聞いたわ。凄いじゃないの。今日のヒーローの一人なのに、下に居なくて良いの?」
マーガレットは彼の反対側の席に座る。久しぶりの座りなれたソファの感覚は、とても居心地がよかった。エドマンドは気を利かせて彼女の分の紅茶を魔法で用意した。久々のベルガモットの香りは、彼女の心に安心を与えた。
「……やっぱああいう騒ぎは苦手だ。それに、俺はあの部屋でこれといったことをしていない」
そう言って、エドマンドは秘密の部屋での出来事を思い出す。あれほど、己が緊迫した状況に置かれたのは初めてと言っても過言ではない。毒蛇の王、バジリスクを目の前に死を覚悟さえした。そして、トム・リドルことヴォルデモート卿の過去と対峙したあのとき。自分がまだまだ貧弱ということをこの上なく思い知らされた。
手にした空のカップを静かにテーブルへ戻す。
「俺はまだまだ未熟だってことが、よくよくわかったよ」
苦笑いを浮かべて彼は近くの窓を見上げる。窓から差し込んだ月明かりが、彼の顔を照らす。マーガレットは、エドマンドがこれほど儚い存在のように思えたのは初めてだった。なぜかそのまま月明かりに照らされながら消えゆくように思えて仕方がなかった。
「どうしたのエドマンド……?今日のあなた、どこか変だわ」
マーガレットは、心配そうに尋ねる。
「……そう、だな。今の俺は変だよ……いや、昔からそうだな」
クックッと一人笑うエドマンド。マーガレットはこんな彼を見たことがなかった為に、どうすればいいのかわからなかった。
「なあ、マーガレット?俺が転生した男だなんて言ったら笑うか?」
酷く歪んだ笑みで彼は尋ねた。あまりのことに、マーガレットは驚きを隠せなかった。
「……え?」
彼が何を言っているのかわからなかった。暫くの無言の後、彼は両手で顔を覆った。
「……駄目だな、今は情緒不安定すぎて何言ってるのかわからない。沢山のことがあって整理できないんだ……」
マーガレットは、縮み込む彼をただ見ていることができず、立ち上がり彼に駆け寄ると、そのまま彼の前にしゃがみこんだ。
「エドマンド、何があったかわからないけど……。でも、抱え込まないで相談してって言ったのはあなたじゃない。……その、私でよければ聞くから、エドマンドも悩みを打ち明けて、ね?」
マーガレットは幼い子をなだめるように語りかけた。彼は指の隙間からそっと下を覗き見る。懇願するように上を見上げるマーガレットの顔が見えた。
「…………そう、そうだな」
エドマンドは右手をそのままに天井を見上げ、左手をぶらりと落とす。そのまま彼は言葉を続けた。
「"俺"の中にさ、もう一人いるんだよ。"僕"が"俺"の中にさ。"俺"が幼い頃に死にかけた時があって……、その時にレギュラス・ブラックっていう、もう一人の"僕"が、エドマンドという"俺"に転生したんだ」
マーガレットは、彼の言葉を理解しようとした。それでも追い付けないものがあった。だが、彼が話し終えたとき、少し彼の緊張がほどけたような感じがした。
「だから、"俺"は"僕"の記憶を引き継いでいるんだ。そのために、色んな知識や経験が他の人より多かったんだ……。でも、今日のことで、それは所詮思い上がりに過ぎなかった、ということがわかったのさ」
そう言ったエドマンドの目から熱いものが流れ出た。
それから暫くの間、マーガレットは何をするでもなく、彼の言葉を静かに聞き続けた。彼は彼なりに苦しんでいたのだということを、彼女はこのとき知った。彼に悩みごとなんて無いように思っていたのだ。
そして、三十分経った頃。エドマンドがようやく落ち着きを取り戻したとき。
「なあ、このこと、マルティナに言うなよ。アイツが知ったらとんでもないことになりかねん」
ふてくされた様子で話す彼だが、言葉に毒は含まれていなかった。
「ふふ、言わないわ。こんな大事なこと」
マーガレットは、今まで謎に思ってた彼の行動のすべてが、このとき明かされた謎によって繋がったのがわかった。
「ねえ、エドマンド」
「なんだ?」
「ありがとう、今まで色々と助けてくれて」
これまでで一番の微笑みと共に、マーガレットは感謝を述べた。
「……どういたしまして」