少女の帰還
「良いのじゃな、マーガレット。これで君の存在は揺らぐことのないものとなるぞ?」
今年度最後の日、校長室でダンブルドア、マクゴナガル、スネイプの先生方三人とマーガレットは、彼女の生存を魔法省に届け出るか否かの事について話していた。
マーガレットは、これ以上ハリーとの間に壁を作りたくない。という気持ちと同時に、彼が苦しんでいるときに支えられないばかりか、ただ見ていることしかできない現状を、これ以上耐えるのが辛かったのだ。
「マーガレット、この先に辛いことも苦しいこともいくらでもありましょう。それと同じぐらい嬉しいこと、楽しいことも必ずあります。……私はあなたの決めたことに口出しする気はありません。自身の決めた道を、悔やむことなく前に進んでくれることが私の願いです」
マクゴナガルは母のように微笑みながら告げた。スネイプも同意だとばかりにうなずいた。
「それならばマーガレット、この夏休み、想像以上に忙しくなるだろうことが予想される。ハリーとも後々面会することになろう。更にこれから先、どのように暮らすかも話さねばならなくなるじゃろう。大丈夫かね?」
マーガレットは、両手を握りしめてはいと、力強く答えた。
「……迷いはないようじゃな。マクゴナガル先生、ハリーを連れてきておくれ。魔省に言う前に、先に話しておこうと思うのじゃ」
「わかりました」
そう言うと、マクゴナガル先生は早足で校長室を出ていった。
「我が輩はもうここに居なくても宜しいかな……?」
黙っていたスネイプ教授が、ダンブルドアに声をかける。マーガレットはグリフィンドール寮生ながらも、この教授にはとてもよくしてもらっていた。母を知っているが故のことだったようだが、どうも弟のハリーに関しては逆のようだ。何故だか辛くあたったり、減点をするようだ。マーガレットは何が原因なのかわからなかった。
そんなことを考えているうちに、スネイプ教授は校長室を出ていった。それからすぐに、マクゴナガル教授がハリーを連れて戻ってきた。
「あの、ダンブルドア先生……。お話って?それに、ラヴィニアは何でここに?」
ハリーは呼ばれた訳がわからないとばかりに疑問を尋ねた。
「ハリー、まずは君に言わねばならんことがある。落ち着いて聞いてくれ」
ダンブルドアは優しい目で彼を見る。ハリーはそれにどう言葉を返せば良いのかわからず、神妙な顔で聞き続けた。マーガレットは、少し離れたとこに居るマクゴナガルの隣に移動した。いざというと、どこか心が落ち着かないのだ。
「まずは、……そうじゃの。君のお姉さん、マーガレット・ポッターが見つかったのじゃ」
「……え!?本当ですか?姉さんはずっと行方不明で、しかも死んだって……そう聞きましたが」
ハリーは信じられないことが起こり、興奮せずにはいられなかった。自身の姉が生きているかどうか、それはわからない。死んだとされてるが、それは見つからなかったが故のこと。幼い子供が、当時猛威を奮っていたヴォルデモート卿に抵抗できるはずなく、殺されて当然である。その例外が一人いて、それがハリーな訳だが。
「そうなのじゃよ、ハリー。じゃが、驚くことに彼女は生きていたのじゃよ。そして今、君の隣に居るのじゃ……のうマーガレット?」
「え?だって、そこにいるのは……」
ハリーは、そう言ってマクゴナガルの隣に居る少女を見やる。一年のとき、みぞの鏡を見たときに見えた姉の姿とうりふたつだった彼女。だが、うりふたつなだけで、全くの別人だと思ってた。
「ラヴィニアが、マーガレット姉さなの……?」
ハリーは驚きに驚き、もう何が何なのかわからなかった。
「ハリー、ずっと言えなくてごめんなさい。私が、マーガレット、マーガレット・ポッターよ」
マーガレットは震える足で前に進み出て、ようやく真実を話せたことに涙を流した。
「本当に、本当に…………姉さんなの?……嘘じゃないの?」
そう言ったハリーを、マーガレットは何のためらいもなく抱き締める。
「嘘じゃないわ、ハリー。色々と事情があって今ま黙っていたの、本当にごめんなさい」
「姉さん、マーガレット姉さん……!」
姉弟は、涙を流しながら強く抱き締めあった。ダンブルドアはそれを微笑ましく見守った。マクゴナガル教授は、目から溢れた涙をハンカチでぬぐっていた。
暫くして、二人はようやく離れた。すると、ハリーは一番の疑問を姉に尋ねた。
「でも、どうして今まで教えてくれなかったの?」
「それはワシから説明しよう。マーガレット、こちらの椅子に座りなさい。ハリーはそっちじゃ」
ダンブルドアが椅子をだし、座るよう促す。二人はそれぞれに腰を掛けた。
「まずはどこから話そうかのう。長くなるから、くつろぎなさい。堅苦しくしていては疲れてしまう」
それから、ダンブルドアは彼女が記憶喪失のために、両親やその他、幼い頃の記憶が無くなっていたことを明かす。それからはずっとマグルの孤児院で育ち、マグル生まれのラヴィニア・アルフォードとして生きてきたことも。それからハリーが入学してきて、みぞの鏡の話を聞いたとき。それが記憶を取り戻す鍵となった。
「そこで彼女の生存を明かすこともできたと言えばできた。じゃが、記憶を取り戻したばかりで情緒不安定なときに、魔法界の好奇の目線に晒されるのは望ましくない。十年も行方不明になっていた上に、あのポッター家の娘じゃ。どうしてその好奇の目線を逸らせられるかのう」
本人の意思が固まるまで、それは秘密裏にしとくことが決まったことをハリーに話し、彼の疑問は解決した。
「そう、だったんですか……。でも、僕一人に教えてくれても……!」
「ハリー、それも彼女の意思じゃ。記憶が戻ったとはいえ、すぐに君を弟だと思うことはできなかったのじゃよ。そんな不安定な心持ちで君と接するのは、マーガレットにとって厳しいものがあった。そこを、理解してくれぬか?」
ダンブルドアは諭すように話す。ハリーは何とも言えぬ気持ちだったが、無理やり納得させた。それよりも、姉が生きていて、すぐ近くに居たことが嬉しかった気持ちが大きかった。
「さて、ワシから話せるのはこのぐらいじゃ。この先、夏休みはお互い忙しくなろう。これからは姉弟仲良く生きていきなさい」
「はい、ダンブルドア先生、ありがとうございました」
「ありがとうございました 」
校長室からの帰り道、姉弟はだんまりとしたまま歩いていた。今となって、何を話せば良いのかわからなかったのだ。
「ねえ、ハリー」
ようやく、マーガレットが話しかけた。
「何?姉さん」
「……その、これからはこんな姉だけれど、何か困ったことがあったら頼ってほしいなって……。もちろん、それ以外のことでも良いからさ。……えっと、つまり普通の家族として接したいの」
しどろもどろながら、彼女は言いたかったことを伝えた。
「……そう、だね。僕も、姉さんといっぱいお話ししたい」
ハリーは嬉しそうに笑った。
「本当?良かった……!でも、まだ他の人に話してないから……帰りの列車、一緒には乗れないの。だからハリー、まだロンとハーマイオニーにも秘密にしといてね。そうね、家に帰ってから、手紙のやり取りをしましょう。孤児院の院長とも話さなきゃいけないから……」
マーガレットは、これからのことを考えて、やるべきことは沢山あることを改めて思い知った。