赤く冷たい氷
今日も、女子たちがこそこそとくだらない話をしている。私はそれを聞きながしながら、スリザリンとレイブンクローが合同の魔法史の授業を受けていた。
「トムは今日もカッコいいわね!」
「ああ、あの人が彼氏なら誰もが羨むわね」
「でも、彼に釣り合う容姿端麗、成績優秀な子なんて。……居るには居るけどあの子は、ねぇ」
容姿端麗、成績は全てOの優秀、寮はレイブンクロー。
彼女の名はメアリー・アルフォード。
だがしかし、1つ欠点がある。
マグル生まれということだ。
そんなことは関係ない、という人はよく居るが、ここの連中は血筋をとても気にしている。
「あの子が純血生まれなら誰も文句言わないでしょうにねえ。フフッ、かわいそうに」
本人に聞こえるようにスリザリンの女子が言った。
授業中だというのに、ビンズ先生は気にしていないようで、ひたすら教科書を読んでいた。
私は彼など気にしていなかった。
ただ、私より上がいるのだなと思っただけ。
だが、彼は私に興味を持ったようで。
「やあ、メアリー。今日も、また魔法史の教科書を読んでるのかい?」
今日もまた、話しかけてくるのだ。
赤く、それでいて冷たい氷のような瞳で。
私をその瞳に映すのだ。
「こんにちは、リドル。あなたも暇なら読みますか?魔法史を」
「遠慮しとくよ。それより、今から散歩しないかい?良い場所見つけたんだ、そこでお話したいんだけど……」
彼は、柔らかい表情で私を誘った。
私はいつも彼の誘いを断り続けている。
だがなぜか、このときは断れる気がしなかった。
彼の雰囲気が、いつもと違うことに気づいた私は、いつもの通りに断ろうとした。だが、からだが思い通りに動かなかったのだ。ふわふわと、心地良い空間に連れ去られたように頭のなかがぼわーっとしてきた。
ああ、これは……インペリオ―服従の呪文―ではないか……。
彼の顔を目で見やると、狂った人のように、歪んだ笑みでこちらを見ていた。
気付いたときには、口から言葉が紡がれていた。
「かまわないわよ、リドル」
避け続けてきた彼に、私は為す術もなく捕らわれた。
次に気づいたときに、私はどこか見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
怪我をしたようすはなく、からだに、痛みはなかった。
だが、手首に枷がはめられていて、ベッドから離れることができなかった。杖もローブに入っていないことから、彼が奪ったことは明白だった。
「お目覚めかい?メアリー」
「Mr.リドル……、何の冗談かしら?こんな手枷まではめて、私を逃がさないつもり?」
足を動かそうとしたところ、足首にも何かがまとわりついていたことに気づいた。
いったい、何のために?
「僕はね、ずっと君を見てたんだよ、二年生になってから。学年次席の君のことをね」
リドルは語り始めた。
「どこかで君は僕より劣っている。それは間違いないこと。だが、君は僕にたいして悔しがろうとも、憎しみの念を持つことも、尊敬の念を持つこともしなかった」
……何が言いたいのだこの男は。
「君は僕に関心を1つも向けなかった。僕にたいして何の関心も!」
私は彼の言いたいことがここでようやくわかった。
「あなたは、……私に興味を持って欲しかったの?」
彼は背を向けていたが、こちらを振り返った。相変わらず、赤く光り、冷たい氷のような瞳は私をうつしていた。
「……話が早くて助かるよ、メアリー。僕は確かにそうだった。だから、このような部屋に二人きりにした」
そう言って、彼は私に近づいた。ベッドのすぐ脇まで迫った。私は後ろに下がることも、まして近づくこともしなかった。
「こうすれば、君は僕のことしか頭に入らなくなるだろう?」
ああ、彼はなんて……愚かなのだろう。
学年首席なのに、こんな幼稚な方法で私を捕らえようとするなんて。
「ねえ、僕のことだけを見てよメアリー。僕のことだけ君の蒼い瞳にうつしてよ」
彼は私を抱きしめ頬に口付けながら囁いた。
リドル、あなたがそんなことを言うのならば。
あなたの赤く冷たい氷のような瞳に
私だけをうつしてちょうだい