あ、無理。

 ペンライトを振れていない会場の様子を見て静かに頷く。あんなもの、事前情報があっても動きが止まる。死んでしまう。人選だって然る事ながら、殺人曲と名高いMOON NIGHTのせいにしてとサ・ヨ・ナ・ラ Summer Holidayを続けて流すなんてどう考えても無理。うちの事務所のアイドル達は凄いなあ、と眺めていて、眺めようとしていても、だって、こんなもの。

「あ、むり、すき……」
「プロデューサー……」

 口に手を当てて噛み締めていたら、既に出番の終わった北村さんや東雲さんがわたしのことを見詰めている。ごめんなさい、と思いながら落ち着こうとして深呼吸した。わたしはファンではなくプロデューサーで、アイドルではなくてその裏方だ。特定の反応を晒してしまうのは宜しくない。
 それは充分理解しているのだけれども、どうしたって、いや、そもそも。北村さん達のカレイドTOURYTHEMも、東雲さん達のサ・ヨ・ナ・ラ Summer Holidayだってとても素敵で、自分の語彙力では言い表せないくらいに輝いていた。だからこれは、もしかしたら、惚れた弱み、というか。所謂、そう言うものなのではないか、と思っていて。いやみのりさんしか目に入らないとかそういうことではないんだけど!

 歌が流れて、踊って、やっとペンライトが緩やかな動きを見せてきた頃、この曲が殺人曲と言われる所以の箇所に差し掛かる。ファンの皆さんはともかく、少ない回数ではあれど初見ではないわたしまで心臓が止まりそうだ。音楽が流れる。姿が、ポーズが揃う。静かになる会場。――来る。

「おいで」
「うっ」

 流し目、伏し目がちになった瞳、ぐっと客席を見つめる人、様々ではあるけれども、その全てがあまりにも心臓に刺さる。

「心臓止まった……」
「心拍蘇生しますか?」
「宜しくお願いします……」
「……駄目ですね」

 顔を抑えようとして、ふと動きが詰まる。プロデュースしているアイドルの雄姿は見届けなければいけないという使命感に追われて心臓を抑えながらもアイドルの立つ舞台に目を向けた。呻き声を上げた挙句に心拍蘇生も断ってしまった東雲さんに申し訳なさを覚えつつも、ぐ、と息を吸い込んで光の当たるステージを見た。

「あっやっぱり無理」
「プロデューサーちゃん、深呼吸!Let’s Suu……」

 わざわざ深呼吸をさせてくれた舞田さん、ごめんなさい。ありがとうございました。

★★★


「プロデューサー!」
「み、みのりさん」

 顔を赤く染めたプロデューサーに手を伸ばす。俺だけ見ていてくれたらなんて嫉妬はご法度だけど、それなら嬉しいな、なんて思いながら微笑んだ。

「どうだった、俺達のムンナイ」
「すごく、……すごく、素敵でした」

 そうはにかんだプロデューサーが愛しくて、思わず小さな体を抱き込む。

「ああもう、プロデューサー……可愛い、勘弁して」
「あの、」

 続きはライブが終わってからじゃないとね、と自制心が囁くから、名残惜しいけどプロデューサーのからだを緩やかに離す。続きは家で、とプロデューサーの耳元で小さく転がせば、ぴくりと肩を震わせて頬を染める。りんごみたい、と思いながら行ってきますをした。

「みのりさん!」
「何、プロデュー……」
「行ってらっしゃい、」

 だからこんな爆弾投げられるなんて思ってなかったんだよね。まさか(頬だけど)キスされるなんて思ってなかった。本当、帰ったら覚悟しててよ、春。