Have a nice day!

 薄暗い事務所。
 月明かりが窓から入り込み、チープな光を灯す電球がわたし達を照らす中、みのりさん、誕生日おめでとうございます、とそう言いながら、わたしは桃色の、両手に抱えるのがやっとの大きさの花束をみのりさんに渡す。
 桃色のと宣ったのは比喩でもなんでもなくて、本当にピンクの花が多いのだ。個人カラーがそうであるからと言って全てがピンクでもバランスが悪いので、差し色にいくつか白い花を入れてある。
 ピンクの薔薇、ピンクのルピナス、濃桃の胡蝶蘭、紫のラナンキュラ、ピンクのチューリップ、白いカスミソウ、そして、白いユキヤナギ。慎ましくも華やかに添えられた葉が多くの茎を支えていて、その姿はどこかユニットの中で輝いているみのりさんにも見えた。

「おめでとうございます、みのりさん」
「ありがとう、プロデューサー」

 どうかみのりさんのこの一年が良き一年になりますように。なんて格好つけながら笑えば、みのりさんも緩やかに微笑む。みのりさんは、今日で31歳になった。とはいえ、この若々しい美人は一見すると三十路を超えたようには到底見えそうもないのだけれど。

「これ……ふふ、ユキヤナギ以外は幸福を意味する花ばかりだね」
「やっぱり、バレちゃいましたか?」

 花束を受け取った手のまま、みのりさんは花を覗いて一つずつ花を確認してはそう言った。それで当たっているのだから、やはり元お花屋さんはすごい。みのりさんの言った通り、ユキヤナギを除いた全ての花は幸福を意味する花言葉があるものばかりを選んだ。

「ユキヤナギは誕生花、かな」
「当たりです」

 そしてユキヤナギは、三月二十二日の誕生花だった。全部バレちゃいましたね、とみのりさんの顔を見あげれば、みのりさんは少し目を丸めた後、花束を片手に持ち替えてわたしの頭をゆるく撫でた。それに首を傾げながらも、わたしは本命のプレゼントにみのりさんがいつ気付くかなとわくわくして待つ。みのりさんは花を見ているうち、ひとつ違和感のある花を見つけた様子で、その花に手を伸ばした。

「これって……」
「それはみのりさんの、Beitの、このプロダクションのアルバムです。幸せな記憶を、手元に置いておけるように」

 その花びらの中には小さな鍵が入っていて、花束に隠れたユニットカラーの装丁をしたアルバムのキーになっている。我ながら自信作だ。公式でファンに届けられなかったもの、プライベートで撮った写真、その種類は様々だけど。

「……好きだなあ」
「分かります。やっぱり笑顔が沢山だと――」
「春のこと」

 え、と。思わず無様な声を捻り出したわたしに、優しげなみのりさんの声は続ける。

「ねえ、春。もう一つだけ、プレゼント貰っていい?」
「えっと、用意したものはそれで全部」
「俺、春が欲しいな」

 謳うように、笑って。いつの間にか呼び方が「プロデューサー」からわたしの名前になっていることに気付く。わたしの頬の熱さから予想すれば、きっと今、わたしの頬はりんごのようになっているのだろう。だって、そう。
 アイドルへの恋心に気付かれているなんて、万が一、億が一にも思わないじゃないか。それに、両想いなんて!

「わたしがみのりさんへのプレゼントになれるなら、いくらでも」

 焦燥を隠せないなりに、わたしはわたしで、平静を保とうとする。でもきっと、これは決定事項なのだろう。

 だって今日は、みのりさんの誕生日なのだから。