ヴァルキュリアに向けて


 俺の世界は、羽純を中心に回っている。
 第一次侵攻の時、俺の家族は死んだ。皆死んだ。復讐をしてやろうと思った。だからちょっと怪しかったけど、あいつらと戦える技術を持って、それを授けてくれるボーダーに入った。俺はメキメキと技術を伸ばしていったし、肩慣らしにいくつかの隊だって渡った。けれど三輪とか俺みたいな、そういう、所謂「近界民はすべて敵なので思いっきり殺そう」という類の思考をしていて且つ、その為の力を手に入れた隊員は多くなかったから、少し居心地が悪かったのも、事実だ。
 それを見兼ねた太刀川さんが、俺に紹介したい人がいる、と言って、俺の運命を結んだ。それが────

「あなたが御滝旬くん? わたし、七々原羽純って言います。宜しくね」

 当時12歳だった羽純と、15歳だった俺の、出会い。


 ────羽純の方は、無事三雲修と合流出来たみたいだ。気掛かりなのは、烏丸達が遅くなったことだけど。……まあ多分、小南ちゃんを迎えに行っていたんだろう。もう大丈夫なはずだ。それは置いておいて、俺の方だけど。

「知歳」
『はいよ』
「風間隊の援護に行く。狙撃の場所を割り出して」
『おー、了解』

 風間隊は諏訪さんを食べたラービットの片付けをしていて、俺も安心して通り過ぎようとしていた。けれど、そろそろ。

「新手が出てきても、可笑しくないんだよね……」

 知歳から送られてきた視覚情報を元に、風間隊が居るビルの向かい側へ潜り込む。今回の討伐は菊地原の聴覚が頼りだろうから、カメレオンは使わない……と信じたい。そもそも、カメレオンくらいは見分けられる。何故なら羽純がスパルタだったから。あの地獄には戻りたくない、と息を吐きながらライトニングを準備して、通信を繋ぐ。

「風間さん」
『! 御滝か。向かいに居るのか?』
『御滝先輩、なんで来たんですか? 正直足でまといなんですけど』
『こら菊地原……』
「ごめんね、菊地原。これでもヘルプに来たつもりなんだけど……。向かい側に居ますよ。そちらの相手は、どうやら黒のようですが?」

 ────この会話から分かるように、そう。風間隊が向き合っているのは、黒髪の角付き。正直あまり心配はしていないが、風間さんでは威力が足りないかもしれない。カメレオンを使っても援護が出来る狙撃手は居た方が良いだろう、という判断だ。

『菊地原の聴覚を共有している。どうやら相手のトリガーは風刃のような潜らせるタイプ、且つ風刃よりも動きが遅いものだ』
「……成程、それは厄介な」

 けれど、風刃よりも遅く、そして潜らせるタイプならば、その些細な音も、菊地原ならば聞き分けができる。これは助けなんて要らなかったかもしれないなと思いながら、構えは解かない。

「……! 動いた」

 ミシリ、とあちこちが軋む音がノイズになって俺の耳に届く。ライトニングのスコープを覗いては、動いている風間さんを邪魔しないであろう場所に目星をつけて、撃つ。……でも。

『トリオン体、活動限界。緊急脱出』

 風間さんが、飛んだ。俺はSEとかそういうものを持っていないし、スコープを覗いても風間さんが屈んだところしか見えなかったので、よく分からなかったけど……。でも風間さんに気を引かれてこちらのことは気付いてない。

『離脱しろ』
『……了解』

 ……ここは俺も、風間隊にノって引いた方が良さそうだ。

「羽純、知歳」
『はーい』
『ああ。羽純、風間さんが飛んだ』
『……おっと? ……、そっかー。蒼也さんが飛んじゃったかー』
「さっきまで風間隊の援護に居たんだけど、俺、これは本部に報告……っていうか、」
『本部に向かうだろうから、あっちに居る諏訪隊の援護して来てよ』
『暴れられたらこっちも困るしな』
「御滝、了解」
『いざとなったらアステロイドでも撃ちなよ。トリオン量だってあるし、コントロールも上手いんだから』
『嫌味に聞こえるんだが?』
『やだなあ、気の所為気の所為』
「っ、……はは、羽純に言われると自信が出てくるのは何でだろうな。まあ、俺は俺の全力を尽くしてくるよ。羽純も知歳も、気を付けて」
『気を付けるよ』
『お前もな、旬』