forget me not


 俺が本部に着いたのは、本部に先程の黒が侵入した、ちょっと後だった。

「―――知歳!」
『旬、』

 通信室、研究室。黒トリガーは本部を暴れ回りそれまでに2人、殺されてしまったと聞いた。俺が遅れてしまった所為も少しあるのかと思うと気は重いけれど、俺の光=c…羽純に言われたことなのだから、最後まで遂行するのが俺の役目であり、意思だ。それに優秀なオペレーターである知歳が無事なら、どうとでもなる。

『、旬?』
「……いや、なんでもない。知歳、オペレーションを頼む」
『出水、了解。……そうだ羽純』
『ん? なあにちーくん』
『諏訪さんの解析が終了した。あの人はもう大丈夫だ』
『……ほんと、後で説教だからね、諏訪さん……。旬、諏訪さんと協力して黒トリガーを宜しく』
「御滝、了解」

 解析が終了した諏訪さんと隣合って立つ。「後で羽純から話があると思いますよ」「げ、マジか……。今回は俺のミスだもんな」なんて諏訪さんの潔さを垣間見つつ、来る黒トリガーを見据えてアイビスを出した。右手にアイビス、右目にスコープ、そして左手には―――

通常弾アステロイド、セット」

 「御滝お前、射手もやんのかよ……!?」という諏訪さんの声をバックに、俺は口角を釣り上げる。羽純に教えて貰ったこの技術で、負ける訳にはいかないからだ。

「やりますよ諏訪隊、準備」
「おうよ」

 黒トリガーにその散弾を打ち込む。けれど、相手にとって大したダメージではない。確か風間さんとやっていた時に液状化していた。

「こんなん弱点なんかあるのかよ……!?」
「ある。トリオン体である以上、伝達脳と供給器官は必ずある。常に体内を移動させて、的に当てさせないようにしているだけだ。端から端まで虱潰しに行け。諏訪達のトリガーはそれに適している」
「風間さん! どうです、うちの知歳。エンジニアもこなせる敏腕オペレーターなんですよ」
『恥ずかしいから辞めろ旬』
『とても素晴らしいと思いますよ、出水さん』
『……ありがとうございます、三上さん』

 顔を手で抑え、赤面しているであろう知歳を想像して微笑ましくなる。知歳も俺と同じように羽純に掬われた人間ではあるが、盲目的な俺とは違って、知歳は周囲にも目を向けられる。特に恋なんかは羽純の方が年下なのに知歳の恋を応援しているくらいだ。とはいえ知歳の好きな人というのは未だ聞いたことがない。もし出来たら、ぜひ俺にも紹介して欲しい。
 迫ってくる黒トリガーから退きながらもそんなことを考えていると、後ろのドアが開いている。そしてここは訓練室。羽純に誘導されたから共に居るだけだったけど、成程。良く考えてある。流石諏訪さん、と言ったところか。
 先程ぶっ刺された諏訪さんが、訓練室の起動とともに修復されていく。驚く黒トリガーを横目に、諏訪さんは落ちたタバコを拾った。

「何がどうなってんのか、分かんねえだろ。間の抜けた阿呆面晒しやがって……。来いよ、ミスターブラックトリガー。お望み通り遊んでやるぜ」
「ミスターブラックトリガーって……諏訪さんすごい面白いですよ。あとで羽純と赤坂さんに言っておきますね」
「おら、話の腰折るんじゃねえ。気合い入れろ」
「勿論ですよ。ねえ、俺の徹甲弾ギムレット?」
「……ほんと七々原隊お前ら恐ろしいな」

 諏訪さんの挑発って安っぽいよなあ、でもその安っぽいところがイライラしちゃうんだよな、と喧嘩を吹っかけられている黒トリガーを見る。案の定相手は牙を諏訪さんに刺したけど、すぐに復活する。何故ならここは訓練室、それだけで説明は十分だ。
 とはいえ、やはり敵も頭は回るらしい。その牙を訓練室の壁に突き刺すと、仕掛けがあるのはこの部屋だと推理していた。

「ご名答。けど分かったところで、てめえにゃどうにも出来ねえけどな。大人しくぷるぷるしてろ、スライム野郎が」
「やっぱり諏訪さん今日冴えてますね。羽純と赤坂さんに諏訪さん語録増えたって報告しないと」
「だから話の腰を折るんじゃねえっつってんだろ!」

 秘匿通信が繋がった。まあ、敵を前にして早々口に出す人間も居ないだろうが。

『考えましたね、諏訪さん。訓練室ならトリオンも尽きないし、相手を分析できる……。誰の入れ知恵ですか?』
『お前さっきからめちゃくちゃ失礼だな。……とりあえず、ぶっ倒すのはこいつを丸裸にしてからだ。俺らはスライム野郎がコンパネに気付かないように、程々にこいつの相手すんぞ』
『トリオン体がパネルに触れると開いちゃいますもんね。了解です』

「さあ、ゲーム開始だぜ!」

 ほんと、こういう時は頼り甲斐あるのになあ。俺と旬は羽純に掬われて、羽純は太刀川さんと赤坂さんに掬われて。その赤坂さんの手を取ったのは、この人だから。頼れるのは、良く知っているけれど。