輝きの在処


 黒い門が開いた。わたしたち、避難しているC級の上で。わたしは急いで前に出る。……本当に、やってくれる。落ちてきたのは新型五体で、三雲は京ちゃんの号令でハッとしたらしい。左手にギムレット、右手に羽月を構えて、前方に立った一体をぶち抜く。シールドを展開した三雲をちらと見て、弧月を持った京ちゃんが「この道は駄目だ。迂回して別の道から本部へ向かえ」と言った。
 確かにこの新型の量はC級や三雲には厳しい。さて、上手く退却出来るかな。

「エスクード」
「京ちゃんナイス!」

 トマホークを出来るだけ早く、鋭く。そして弾を大きく。弾道をリアルタイムで引く。そうするだけで、新型なんてひび割れてしまう。ただ他の何体か後ろに行った。早く向かわねば。そう思った瞬間だった。

「な、な……っ、これ、これ!」

 見覚えのある弾数、弾道のアステロイドが降り注いだ。わたしがこれを見間違えるはずがない。東さんたちのところにいた人型を倒した後、こっちに来てくれたのか……!

「おー、っら!」

 上から飛び降りてきた米屋先輩と緑川。所謂槍バカ≠ニ迅バカ≠ネ訳だけど、この二人とセットで弾バカ≠ニ呼ばれる男が一人いる。それこそがわたしの元弟子であり先輩であり、今までずっと大喧嘩をしていた―――

「よー、京介。先輩が助太刀してやるぜ、泣いて感謝しろよ?」
「泣かないっすけど、感謝はしますよ。な、羽純」
「こうくん何でいるの。ばか。ばか」
「照れ隠しか? 相変わらずだなお前、可愛いし」
「うるせ〜っ! 集中しろ弾バカ!」

 出水公平、という、A級1位の射手である。

「C級を基地まで逃がします。迅さんの指示です」

 「迅さん!?」と歓喜の声を上げる緑川は、流石迅バカと言ったところか。迅くんを好きになったって報われることがないのを知りながら犬みたいに絡みに行って、迅くんが絆されそうになっていることを知っているわたしとしては、緑川は結構恐ろしいんだけどな。

「敵を引き付けてください」
「了解。アステロイド!」

 是、と京ちゃんの言葉に返して放つアステロイドの火力は高いし、弾数も多い。コントロールもきちんとしてる。流石1位の天才射手、と思いながら、わたしもそれを援助するようにトマホークを飛ばす。片手でギムレットを、もう片方でトマホークを生成して、それを合成すると、こうくんは驚いたようにこちらに目を向けた。

「は!? 合成弾プラス合成弾とか……お前やばいな」
「実戦に出すのは初めてだよ、合成弾の考案者さん。ギムレット、プラス、トマホーク!」

 通信先の、大規模侵攻にあるまじき微笑ましき気配と、目を見られるこの環境には緊張を覚えるけど、その他は別に問題ない。通常通りだ。「ほら、着いてこい!」と言ったこうくんに着いていくように新型が別方向を向く。こうくんにばかりしてやられるのも不満があるので、もう一体くらいは斬っておきたいところだ。

「ってなわけなんで、米屋先輩一体貰いますねー」

 羽月をひらりと翳して一振り。新型に刃が刺さったと同時にその一瞬のみブレードを太くして、カッ捌く。

「おーおー、絶好調じゃん」
「こうくんにばっかしてやられるのもカッコつかないので。緑川も宜しくね」
「了解っす、羽純先輩」

「気を抜くな修、まだ数で負けてる! 三人……と羽純が足止めしてくれても、まだ何体か抜けてくるぞ! ……すまない羽純、修達を頼む」
「わたしを誰だと思ってるの京ちゃん、わたしは七々原羽純だよ。当たり前でしょ、守ってみせるよ」

 逃げ惑うC級、それを見てひとつ、息を吐く。三雲は危なっかしい。なんていうか、人間にあるまじき自己犠牲精神だ。死にたくない気持ちはあるだろうけど、それよりも他人を助けたい気持ちが勝ってしまうんだろう。玉狛にはややこしい人しか集まらないんだろうか? 角付きにやられた欠片と地面が吸い付く。わたしは舌打ちをしてそちらに向かおうと、したところで、新型に阻まれた。

「邪魔……だっ、つーのっ!」

 羽月の峰をお腹に打ち込み、倒れ込んだところで振り下ろす。お兄さんほどではないが、結構な早業だ。わたしも鼻が高い。さて、三雲の方に―――。

『トリガー臨時接続』
「アステロイドぉ!」
「……なっ、」

 アステロイドの弾数が尋常じゃない。匡貴くんの前でこんなことを言えばお前も尋常ではないと怒られてしまうかもしれないが、本当にすごいのだ。このトリオン量は、きっとちーくんをも超えている。そしてあのアステロイドが飛んだ方向には、こうくんが居るはずだ。

「次は正面のやつだ、来るぞ!」
「アステロイドプラスアステロイド……ギムレット!」
「トマホーク」

 こちらに来たこうくんのギムレットに、わたしのトマホーク。次に高火力の攻撃が来る時の補助としては、完璧を通り越していると自負している。

「今だ、……アステロイド!」

 それにしても、本当に千佳ちゃんのトリオン量は凄いな。新型の全壊を確認して、漠然とそう思った。

「おいメガネくん、お前何者だ? トリオン半端ねーな」
「玉狛支部の、三雲修です。こっちは同じ玉狛の 雨取千佳と、本部所属の夏目さん。さっきのは僕のトリオンじゃなくて、千佳のトリオンを、僕のトリガーで撃っただけです」
「ど、どうも……」
「わたしは本部所属の七々原羽純でーす。三雲たちは京ちゃんの大事な後輩だから、ちゃんと守ってね? 出水せーんぱい」
「無理矢理口閉ざすぞ羽純。つか、雨取千佳……って、玉狛のトリオンモンスターか! おれは出水。おれらで新型を片付けようぜ。撤退戦のつもりだったけど、上手くやりゃ全部殺せそうだ」

 ……だから、油断せずにC級逃がした方が良いって言ってんのに……。ほんと馬鹿だよねこうくんって。何かを感じたらしい千佳ちゃんの様子を見て、心の中で罵倒する。わたしは千佳ちゃんの視界を共有するように同じ方向を見た。

「どした、チカ子」
「……鳥」

 そう呟いた千佳ちゃんの言った通り、そこには確かに、薄透明な鳥が飛んでいた。あの色。いきなり来た生物カッコカリ。十中八九、トリオンで構成されたものと見て間違いない。そして、その中心には。

「人型、近界民」

 黒い角の、人型近界民が立っていた。