トリオンで出来た鳥が空を泳ぐ。魚は空を群れで飛んでいる。この生き物に触るとキューブにされるというのは、今目の前で見た通りだ。……京ちゃんにも頼まれたのに、易々とC級をキューブにしてしまった。少しの後悔と怨恨が滲む。それに、あの緑の曲線。
「緑川が飛んだ。京ちゃん無事?」
『触るとキューブにされるというのは分かっているか』
『羽純お前誰が飛んだか良く分かるな。武器もキューブにされた。しかも新型と連携して来やがる』
「ひぇ〜……、なんて厄介な。こうくんトリオンいける?」
「おれは余裕。お前は?」
「わたしも全然余裕だよ。じゃあやることは決まってるよね」
「分かりきったこと言うなよ。メガネくん! 女子連れて逃げろ!」
「それじゃあわたしも逃げることになるんだけど、こうくん」
「ふざけろ。ハウンド」
「まあそうだよね〜。ハウンド!」
一瞬の後悔。反省するのは全てが終わったあとだ。今は他の子達を逃がすことに専念しよう。それがわたしに任された仕事だから。……それに、こうくんとわたしの相性は頗る良いらしい。わたしはそんな感覚しないけど、周りから見ればそうだって言われることが多いから。
「ひよこ一匹通すかよ」
「駄目だよこうくん、ちゃんと魚も通さないって言わなきゃ」
「良い腕だ」
余裕そうな相手を見て違和感を感じ、こうくんを見る。こうくんの足に登ってるのは、……ヤモリ?トカゲ?
「こうくん足! シールドっ」
トリオンを全てキューブにするんだからほぼ意味なんて無いんだけど、それでもこうくんの右足は守り切った。両足守れなかったのは申し訳ないけど……。
「サンキュ羽純、助かった」
「ちゃんとしてよこうくんってば。……にしても、……一筋縄じゃいかないよね」
「高い火力、繊細なトリオンのコントロール、……ランバネインと撃ち合っただけのことはある。それにその女のトリオン量も多い。火力やコントロール、果てはサポート。どれをとっても完璧と言っていいだろう」
「派手な鳥はフェイントかよ。意外とやらしーじゃねえか」
「……来るよ、こうくん。準備して」
褒められたのは純粋に嬉しい。実際、こんな状況で、こんな立場でなければ、わたしは喜んで笑っていただろう。けれど笑っていられる立場でも、そんな和やかな状況でも無いのが事実だ。こうくんの片足は無いし、新型であれば楽勝だけど黒トリガー使いの人型となれば少しの不安がある。お兄さんだってさっさと片付けてお昼ご飯食べたいって言ってたんだから、いざとなれば、わたしのやることは決まってる。
身を呈しても、C級を逃がして、キューブを全部持ち帰って、この戦争を止めないと。
ふと後ろの視界に、横道へ入る三雲が見えた。耳の通信機を叩いて秘匿通信を入れようとしたけど、今回に限ってノイズが酷い。ちーくんの声も聞こえない。駄目だよ三雲、今アステロイドを撃ったって意味がない。
「っ、待って三雲、待って!」
「アステロイド!」
「メガネくん、」
「三雲の馬鹿……!」
トリオンで出来たものを全てキューブに変えるその生き物は、当たり前のように三雲の放ったアステロイドを全て相殺する。
「戦術は拙いが、やはり驚異的なトリオン量だな」
「! 逃げて千佳ちゃん、だめ、早く! っ間に合わない、シールド!」
低速散弾を放った三雲と、普通の人が使うよりも分厚くて安全なシールドを千佳ちゃんに被せるわたしだったけど、それよりも早く相手の鳥が千佳ちゃんを啄む。
「千佳ちゃん!」
そうしてわたしが動く暇のないまま、千佳ちゃんはキューブになった。……ああ、もう。京ちゃんに頼まれたこと、ひとつも果たしてない。だからわたしはだめなんだって、分かってるの?