月と羽衣


 一足先にこの場を離れた迅くん。行くぞ、という准くんの合図で、出水・秀次先輩・米屋先輩の前に立ちはだかる、わたし達。

「また会ったね、出水」
「先輩、を付けろクソ師匠」

 出水をおちょくるように、そう言葉を投げかける。案の定、出水の眉は上がっていて。

「嵐山隊。何故玉狛に加勢する。玉狛は近界民を使って何を企んでいる……!」
「玉狛の狙いは正直良く知らないな。迅に聞いてくれ」
「何だと?」
「近界民をボーダーに入れるなんて普通は有り得ない。よっぽどの理由があるんだろう。迅は意味の無いことはしない男だ」

(時々やるけど……)

 激昂する秀次先輩を見る。第一次の時、姉を殺されたんだったか。迅悠一の自分勝手な取捨選択に翻弄された一人。そう考えると憐れみも湧いてこないことはないのだけど、迅くんが今までどうやってサイドエフェクトと付き合ってきたのかを知っているから、それも少しだ。

「納得がいかないのなら、迅に変わって――俺達が相手になるぞ」

 准くんがそういった刹那、出水の両手にトリオンが現れる。相変わらず膨大な量のトリオンだ(匡貴くんに聞かれたら嫌味かと言われそうだが)。

「さっさと始めようぜ。早く終わらせて、太刀川さんのところに加勢しなきゃいけないからな」
「バカ弟子はまーた調子に乗って……」

 けれどこの感じ。違う。全攻撃フルアタックではない。わたしの勘がそう言っている。

「っ佐鳥!待って!」

 その声と同時、佐鳥は出水を射撃する。案の定出水はそれを防いでいて。全攻撃フルアタックと見せかけての全防御フルガードなんて、厭らしい手を使ってくるものだ。

「なーんちゃって。佐鳥みっけ」

「陽介、スナイパーを片付けろ」
「了解!」

「木虎!」
「カバーに入ります!」

「ほーんと、クソ生意気な弟子だよなあ……」

 わたしは藍ちゃんを目で追いかけながら、無意識下に口角を上げていた。出水たちの方に向き直って、そして、

「メテオラ!」

 メテオラを放った。今のうちに、と准くんととっきーに目線を向ければ、二人は頷いて壁の向こう側へ。時を同じくして、空に曲線が掛かった。

「迅さんじゃないですよね」
「迅くんは黒トリガー使いだから、ベイルアウトは備わってないよ」
「ああ。……それに、迅はあれくらいでやられるような奴ではない」

 こそこそと会話をするわたし達。准くんが迅くんに向ける信頼の感情が重すぎて、こっちが心配になってくるんだけど……。大丈夫なのかな、と思いつつ、もう一本の曲線を見る。

「流石迅、有言実行だな」
「ですね」
「……まあ、迅くんと風刃、だからね」
「俺達も担当した分はしっかりこなすぞ」
「了解です」

 最上さん大好きな迅くんが、最上さんと一緒に居て、負けるはずがない。手にバイパーを出しながらそう思う。出水のバイパーを仕込んだのはわたし。センスは確かに出水自身のものだけど。弟子に仕込んだ技を覚えていない師匠は、居ない。

「バイパー!」

 出水とバイパーとわたしのバイパーが打ち消しあう。あちらのバイパーに混ざったハウンドも共に打ち消されて、准くんととっきーは走る。けれども、秀次先輩の鉛弾が准くんに命中してしまって。

「准くん!」
「気にするな羽純!」

 准くんの目の前には憎き出水が立っていて。その指で銃のかたちを作り、トリガーを引くモーションをした。

「よーしよし、シールドごと削り倒してやる」

 そんなことさせませんけど、と青筋を立てながらも近くの壁に隠れる。出水はアステロイドを放ったが、准くんはテレポートで出水の後ろへ回る。准くんの銃、そしてとっきーの銃が出水を追い詰める。辛うじてシールドは出せているようだ。わたしはグラスホッパーで射程に入らないギリギリの場所まで浮かび、出水にアステロイドを撃った。出水からは少量トリオンが漏れ出す。

「削られたのはどっちかな」
「うるせーな」

 そもそも弾の数はわたしの方が上回っているし、兄さんから射手のイメージを受け継いだのもわたしなのだから、わたしは負けてはいけないのだ、と、分かっているのだけど。

 ぱりん、とガラスの割れる音が聞こえて上を向く。ベイルアウト寸前の米屋先輩と、丸々出水の射程に入っている藍ちゃん。

「弾バカー、出番だぞー!」
「誰が弾バカだ!アステロイド!」

 勿論藍ちゃんもシールドを貼るが、面積も強度も足りない。その前に、とっきーが躍り出た。

「とっきー!」
「時枝先輩!」

「マジか……」

 准くんは自慢そうに笑っているけれど、……うん。やはりとっきーは流石である。しかしそれからすぐ、とっきーのシールドを張っていない首筋の部分を、誰かが撃ち抜いた。

「とっき、……当真先輩か……!」

 とっきーは藍ちゃんの手を引っ張って、わたしもサイドエフェクトの大気変動でその早さを加速させる。藍ちゃんは片足持っていかれただけだ。

「すみません嵐山さん、先に落ちます。……羽純」
「……とっきー」
「あと、宜しくね」
「、うん」
「ベイルアウト」

「とっきーと木虎の片足か。まあ損はしてないな。後宜しくー。ベイルアウト!」

 とっきーと米屋先輩。二本の曲線。……あれ毎回思うんだけど、本当に流れ星みたいに帰るよね……。そういえばわたし、今回帰還するところ、どこの設定なんだろう。

「すみません、嵐山先輩。詰めを誤りました」
「反省は後だ、まだ終わってないぞ。……羽純」
「なにかな准くん」
「まだ無傷だな?」
「……そうだね。だから准くんの期待には応えられると思うな」

 わたしが前に出ての銃撃戦。サイドエフェクトをフル活用すれば貫通なんて関係ないどころか、後ろから貫通しそうな弾を加速させることだってできる。ギムレットを放ちながら二人の盾になって。

『羽純、路地に入る』
『了解』

 二人が入った細い裏道に、続けて入る。

「路地に入ってこないってことは、持久戦に持ち込むつもりでしょうか」
「んー、まああのメンツなら確実に違うよね……」
「それなら有難いんだけどな」

 准くんは手を通信機に当てる。

「賢!まだ生きてるよな」
『はいはーいコッソリ生きてますよー』
「……何やってるんですか、佐鳥先輩」
「藍ちゃん、スマイルスマイル〜。で、何やってんの佐鳥?」
『えっ羽純まで佐鳥に冷たいの……?っ、この辺マジで射線通んないんだってー!』

 当真さんも珍しく距離取ってないし、と。

「はー……、考えるのめんどくさいな……」

 空閑先生の為だから、もうちょっと頑張ろう、と思いつつ、わたしは准くんたちの会話に耳を傾けるのだった。