佐鳥が精度を上げたレーダー情報によると、出水と秀次先輩は迅くんの方へ向かっているらしい。……こういう時、ちーくんが居ない不便さを感じてしまう……。ちーくんなら一発!なのに、レーダーを使わなきゃいけないんだもんな。
『三輪先輩と出水先輩はそうすねー。当真さんはバックワームを着ているから分かんないっすけど』
「罠ですね」
藍ちゃんが間髪入れずそう返す。藍ちゃん、やっぱり頭の回転が早くて宜しい。頭のいい子は嫌いではない。一学年差しかないという突っ込みは要らない。
「100%、私達を釣り出すための誘いです」
「だろうな」
「……けど、放っておく訳にもいかないでしょ、准くん」
「ああ。迅に任された相手だからな。……綾辻!」
『はい、嵐山さん』
「ん?……あ、綾辻ちゃーん!この辺りの狙撃ポイント、洗い出して欲しいな」
『ふふ、了解しました』
可愛い。流石ボーダーの広報担当。トップクラスの容姿と声にオペレーションの才能。天は綾辻ちゃんにいくつの才能を与えたもうたのか……。ほんと仕事出来る美人って超良くない?引っ張りだこでしょ、どこに行っても。嵐山隊ほんと顔が良くて戦闘出来てって凄いよな。マジで。
「賢、木虎、……羽純」
「うん、准くん」
「……働いてもらうぞ!」
准くんはわたしがそんな考えをしているとも知らずに、ドヤ顔をしながらそんな宣言をするのだった。ほんとにごめんな准くん不真面目なこと考えてて……。『羽純集中』「ハイ、とっきー」とっきーなんでわたしの考えてること分かるの。こわい。
「さーて、折角出水を打ち倒せる機会を後回しにしたんだから、ちゃんとやり遂げたいよね、これは」
准くんは今矢面に立って出水や秀次先輩と対峙しているはずで、わたし達はそれを囮にして、とある人を討つわけだ。
「罠だって分かってても追ってこなきゃならねえのが、正義の味方の辛いところだな」
……そうだね、当真先輩。あの二人に見えない一瞬、サイドエフェクトを発動してダメージをより緩やかなものにしながら同意する。正義の味方ってそういうものだと思うよ。兄さんだってそうだったんだもん。守るために、騙されたフリをしてでも、勝ち目がなくても、立ち向かわなきゃいけないんだよ。正義の味方、って。わたしは、そんなものにはなれないけど。
「テレポーターの移動先は……」
当真先輩。射線に入った、撃てる、と思ったでしょ。
「……ざーんねん。サヨナラ、当真先輩」
バックワームを着た藍ちゃんの背中に引っ付きながら、わたしはアステロイドを心臓部分に放つ。藍ちゃんは当真先輩の頭を、足から生やしたスコーピオンで一閃した。
「おいおい、なんでお前がこんなとこまで登ってきてんだ?さっき片足を――」
「――そんなの藍ちゃんならどうとでもなるんだけど、ねえ、当真先輩。とっきーの恨みはおっきいよ」
「なんだよ、やるねえ……」
そうして
とっきーの恨みは晴らしたよ……!そう思いながら天を見上げる。当真先輩の存在って大きくて、わたしも旬が居るから楽に戦える部分も出てくるの自覚してるから、やっぱりスナイパーって居るだけで安心したり、戦況が変わったりするの。だから。
『嵐山ぁ!』
通信の先で、秀次先輩が叫んでいる。でもね。わたしの友達って、優秀な子が多いんだ。玉狛の京ちゃん。サポートの天使、とっきー。それと。
「OKOK、今度は当てたぜ、出水先輩」
唯一無二のツインスナイパー、佐鳥。
「広い場所で戦ったのは失敗だったね」
両手に手早くギムレットをセットして、それをまた合成する。わたしの右手には、ギムレットとギムレットを合成した弾が準備されていた。
「げっ……バケモンかよ……」
「ギムレット、プラス、ギムレ――」
『羽純ちゃん』
「――綾辻ちゃん?」
それを放とうとした瞬間。綾辻ちゃんからの通信が入って、二つの曲線が飛んでいく。お兄さんと蒼也さんが飛んだらしい。わたしの新しい技のお披露目は後回しだ。
「っか〜!負けたか……」
「不完全燃焼なところはあるけど、まあそれは追々。綾辻ちゃんありがとう、お疲れ様」
『いいえ。羽純ちゃんも強かったわ、ありがとう』
「っていうか迅さん6対1で勝ったの?太刀川さん達相手に?」なんて出水の声が聞こえるけど、当たり前だ。年季が違うし、先程も思ったけれど。迅くんが、迅くんの大好きな最上さんと一緒に居て、負けるわけがないのだから。
「任務達成ですね」
「ああ」
「強かったね、藍ちゃん」
そう言って藍ちゃんの頭を撫でれば、藍ちゃんは頬を赤く染めた。……後輩って可愛いよね……。「嵐山さん見ました〜?オレの必殺ツインスナイプ!」と言いながらそばに来た佐鳥も、まあ……可愛い、の部類だろうか……。
「木虎、賢、良くやった。羽純もな」
「ついで感凄いな」
「充と綾辻も、良くやってくれた」
「無視かよ……」
出水と言い争っている藍ちゃんの肩に手を置いて顔を出す。「任務失敗お疲れ様、クソ弟子」と笑えば、「アステロイドぶち込んでやろうかアホ師匠」と返されてしまって。
「出水せんぱーい、オレのツインスナイプ――」
「うるっせー、帰れ」
出水にあしらわれている佐鳥の頭を撫でて「かっこよかったよ」と褒めれば、佐鳥の機嫌はすぐ直った。ちょろいぞ、佐鳥!
後ろで秀次先輩が話している。その内容を聞けば、あれ、と思うのも当然で。もしかして秀次先輩、迅くんが家族を亡くしていることを知らなかったりするんだろうか。
「迅だって近界民に母親を殺されているぞ。五年前には師匠の最上さんも亡くなっている」
准くんは言った。そしてわたしに一瞬アイコンタクトをとる。はくり、と閉じたわたしの口。わたしは目を落とす。
「羽純も――そうだ。兄を殺されている。親しい人を喪う辛さは良くわかっているはずだ」
あんなサイドエフェクトを持っていながら、母も、最上さんも殺された迅くんの方がよっぽど辛いはずで。わたしなんかそれに及ばなくて。なのに、そこに並んでも、良いんだろうか。わたしが、並んでも。
――あ、秀次先輩すごい顔してる。