思った以上にダメージが入っていたらしいわたしのトリオン体は、その一撃で崩れた。ベイルアウト機能のない黒トリガー。崩れた幻覚。兄さんは居ない。吐き気がする。幸いにも近界民は4体にまで減っていた。――わたしは、死ぬなら弟子を守って死にたいと思っていたから、もしかしてそれが今なのではないか、と生身の姿で思う。
「羽純、……っトマホーク!」
ガン、と大きな音がして、近界民は崩れ落ちた。頻繁に模擬戦をする訳ではないし、最近だと周りに邪魔されてばかりいたから、間近で出水の攻撃を見るのは久し振りだ。
「……上手くなったね、出水」
「お前、いい加減にしろよ」
「、出水?」
わたしは出水に賞賛の声を投げかける。けれども返ってきたのは、怒りを我慢しているような、震えた声。
「勝手に単独遠征に行った時も」
――出水だけじゃなくて、匡貴くんや望ちゃん、お兄さんにもめちゃくちゃ怒られた時のやつだ。
「弟子を守るのが師匠だからとかなんとか言って、おれを守ってベイルアウトした時も」
――お兄さんが不在で、わたしが駆り出された時の防衛任務での話だ。
「本部のトリガーの下に、なんかを隠してるのも」
――四月、つまり、兄さんの黒トリガーの話だろうか。
「何でお前ばっかりおれらのこと守ってんだよ……っ、おれにも守らせろよ!」
「出水、」
力の抜けた身体を起こされながら、けれど確かに、詰られている。
「お前に、羽純に話し掛けられた時から、おれは――」
「いず、……こうくん」
ごめんね、とでも言うように、わたしは彼の頭を撫でる。歪ませていた顔をもっと歪ませたこうくんは、諦めたような声色になって。
「ごめんね、こうくん」
「っ、わかんねーよ。守らせてくれよ。なんでそんな顔で笑うんだよ……!」
「んー……癖、かなあ」
そう笑えば、こうくんは一瞬息を止めて、また、吐き出す。そして一拍置いて、耳を赤くして、叫んだ。
「好きな女に守られて、嬉しい男が居るかよ!」
「、は――」
それは充分、わたしの呼吸を止めることも出来る衝撃だった。
「出水公平、とか」
だって、有り得ないって、わたしはそう言ったのに。――違う。わたし今、こうくんを好きになっちゃ駄目な理由ばっかり探してる。顔を赤くしたこうくんと同じくらい赤くなっているであろうわたしの顔。口を開こうとしたその時に、青いジャケットがわたしの視界を阻んで、横からは嫌味ったらしい低音が聞こえた。
「羽純」
「羽純、来い。説教だ」
「迅く、え、匡貴くん!?」
黒いスーツに身を包んでいるということは、換装しているということ。そんなトリオン体の匡貴くんに生身のわたしが引っ張られれば、抵抗できるはずもなく。迅くんとこうくんの方を振り向けば、迅くんはわたしに手を振りながら笑っていて、こうくんは少し、顔色を悪くしている。
「、こうくん! あの、……今度! ちゃんと答えるから!」
そうこうくんに叫べば、こうくんはわたしの方を向いて頷いた。迅くんの笑みが深くなったのと、匡貴くんがわたしを掴む力が強くなったのだけが、少し気掛かりである。