するり、と、いとも簡単に、羽純の銀糸に触れれば、触れた先から零れ落ちていく、それ。ふわりと揺らぐ髪を見つめる出水公平の瞳には、首を傾げる羽純が映っていた。
「……こうくん?」
ぱちくり。羽純が遺伝だと語る不思議な色をした瞳が、星のように瞬く。輝きの強い緑と空の青に煌めきを混ぜ込んだような、星の色。なにかの魔力を抱いているような、そんな。出水は羽純と出会ってこの方、この瞳に囚われていて、そしてそれを、苦とは思っていなかった。
「こうくんってば」
「……、なんだよ」
「何回も呼んでるんだけど……どうしたの?体調悪い?」
やっと返事が返ってきたと思えばなんだよとは、それはこちらの台詞である。そう思っている羽純は、出水の瞳が、そう。好きだ。釣り上がった猫目。柔らかな色。何より、羽純を呼ぶ時、その目はかたちを変え、ゆるやかなものとなるのだ。羽純はそれが好きだった。今も、ずっと。
「体調は悪くねーけど」
「じゃあ何があったの、……あ。綾辻ちゃんでしょ」
「は?」
「今日発売の雑誌。可愛かったよねえ、綾辻ちゃん……分かるよこうくん、君も男の子なんだもんね……」
見当はずれなことをつらつらと並べていく羽純に、出水はため息をつく。相変わらずこいつは変わらないな、と、そう思って、呆れ半分で息を吐く。あとの半分は、所謂、愛しさ、とかいう類のものだ。羽純は変わらない。良く分からないところで自分に無頓着になるのも、自分を責めるくせも、無理をするところも。けれどそれが羽純ならば、出水は受け入れる。受け止めるほどの腕っ節には、未だ至っていないことを分かっているから。自身の隊の隊長、俗に言う、羽純のA級セコムに言われたことを思い出す。お前に羽純は守れないだろうけど、という言葉から始まった言葉を、出水は心に刻んでいる。何があっても羽純と共に歩むのだと。それが約束出来たのなら、俺は認めると。羽純はそんなことは知らないし、自分がやりたいことを全力でやっていて、昔の後悔が消えていない、それだけで。そう、言うならば、出水公平という男は、羽純と共にこれからの人生を過ごすのだと、自分勝手に決意しただけなのだ。いつか羽純を繋ぎ止めて、羽純を守れるようになってみせる、と、そう決めた、それだけだった。愛しさの衰えることを知らないように煌めいた羽純の瞳をもう一度見れば、羽純はまた、首を傾げた。
「なあに、こうくん」
「いーや、」
羽純は羽純だな、と思って。そう呟いた出水に、羽純は瞳を開閉させた。どういうことだろう。口角を上げて楽しさの感情を滲ませる出水。不思議そうにそんな出水を眺める羽純。出水は銀糸をするりと撫でた。――嗚呼、愛しい。愛しいな、と。
なお、彼らがそんないちゃいちゃをしている場所は本部の廊下であって、本部に一定数存在する羽純見守り隊からの連絡があって駆けつけた二宮匡貴に羽純をカッさらわれた挙句、迅悠一に笑っていない目を向けられることを、出水公平はまだ知らないのであった。