リアリティとはほど遠い


「忍田さ〜ん」

 市街地の前、警戒区域のぎりぎり内部。空に浮かぶトリオン兵、バドをアステロイドで撃墜しながら、本部との通信をONにして応答を待つ。わたしが旬くんとちーくんに仕事しろと言ったものの、それぞれ他の隊が固まっている以上、わたしたちが離れるのは如何程か。わたしたちならばいけるだろうが、上層部に仰いでおかないと後がうるさい。例えば、そう。根付さんとか。

『羽純か。どうした』
「七々原隊七々原羽純、市街地前に現着しました。……ん? なんか悩んでる感じですか?」
『いや、問題ない。七々原隊はお前と御滝で分かれて市街地に近界民が侵入するのを食い止めろ』
『本部長! 七々原隊はまとめて本部へ置いておくべきでは?』
「……良いですよ。わかりました。本部に何かあった時にはどうにかしてそっち行くので」
『七々原隊御滝旬、市街地前現着。殲滅を開始します』

 やっぱりそういう意見は出てくるか。一度上層部に通信を繋いでいて良かった、本当に。繋いでしまえば、忍田さんが擁護してくれるし。……胃が痛くなってしまったのなら申し訳ないけど、忍田さんが今胃を痛めているのは慶お兄さんの所為なのでわたしには関係ないな!
 さて、旬くんも到着したみたいだし、今のところ問題はない。数が多いだけで、正規隊員が隊を組みながら倒せば余裕だろう。加えて、ボーダーの隊員は多数。南西や西は黒使いの月くん、それから迅くんがやってくれるらしい。そこまで深刻に考えてやることもないだろう。迅くんが三雲くん達の方に行くとしても、そのフォローは月くんがやるだろうし、問題はないはずだ。B級隊員ならメインの司令塔になるのは東さんだろうから、フォローに行く場所を教えて貰おうか。そう思いながらバムスターを斬り捨てる。今日もいい子だ、わたしの羽月。

「東さん、聞こえる? 羽純だけど──」
『忍田さん、羽純。こちら東。新型トリオン兵と遭遇した。』

 新型? 新型って、あの新型だよね。新しい型。これは──困った。迅くんの危惧してたことそのいちはこれっぽいね。ばり、という音がしてバムスターの方へ振り返る。「ちーくん、」と小さな声で囁いた。『分かってる』「流石」ちーくんは少しPCの音をさせると、解析の準備が整ったと言わんばかりの息を吐いた。

『サイズは3m強、人に近いフォルムで二足歩行。小さいが、戦闘力は高い。特徴として、隊員を捕らえようとする動きがある。各隊警戒されたし。以上』
『隊員を、捕らえる……?』
『旬構えろ!』

 忍田さんがそう言ってちーくんが叫んだそのタイミング、旬の方にも新型が出現したであろうその時と時間を同じくして、わたしが倒したバムスターを蹴破って来た新型。それに向かって、羽月を逆手に構える。左手にはアステロイド。右手には逆手の羽月と、下から出てくるアステロイドの弾。

「ギムレット!」

 目を狙ってギムレットを打ち込み、腹に潜って羽月で一刀両断する。ぱらり、と崩れた腹の中には、成程。気持ちの悪い虫の体のようなアームが内蔵されていた。

『良いか東、お前を目印にしてこれからB級を南部方面に集結させる。増援が着くまで、上手く凌いでくれ』
「忍田さん、こちら七々原です。東さんの言っていた通りの新型と遭遇、撃破しました。装甲は腕や背中・頭が硬く、瞳はレーダーになっています。一番柔らかいのは腹部。また、腹内部には隊員を捕らえるためであろうアームが内蔵されていました。うちの出水に解析をさせています。以上」
『流石早いな、羽純。了解した。東の所へ向かうB級を援護しつつ、他に援護を求めている隊があれば救出へ迎え』
「了解」

 ……結構大雑把だ。

「旬、そっちは?」
『問題ないよ。羽純が腹部狙えって言ってくれなかったら危なかったけど』
「そう、なら良かった。ちーくんは?」
『……、あいつに閉じ込められると、トリオン体が維持出来なくなって……緊急回避も無理になるらしいな。クソ、面倒臭え』
「とりあえず把握したよ。ちーくんは解析を続けて、わたしと旬は東さんの所に集まるB級を援護。もしA級とかに咄嗟に頼まれたらそっちもちゃんとやること」
『『了解』』

 諏訪さんが新型、……ラービット、だっけ。ラービットに食われたらしいけど、そっちには風間隊がヘルプに出た。士郎くんが居るので、装甲のどこがやりやすいのかは分かるはずだ。わたしの光≠フ唯一無二を食べたんだから、わたしがその新型をチョンパしたかったんだけどな。
 今出てるのは、嵐山隊に風間隊……、慶お兄さんはもしかしてお餅食べてた? 当真先輩も本部に居たよね、確か。月くんはさっさと更地にしちゃったみたいだし、うーん……これは。見つけたB級と黒トリガーを身につけた遊真を見て苦笑する。ビルが立ってるから狙撃手が攻撃しやすい場所だけど、弾数が少ないと装甲が剥がれないから、どちらにせよ。

「居た、茶野隊!」
「な……七々原さん!」
「人型近界民が!」
「人型近界民……嗚呼、彼か。彼、味方だよ。安心して」

 遊真が結構ダメージを与えたであろう新型一体、向こうにうろちょろしてるもう一体。遊真はどうにかなるとして、ダメージのない新型は三雲くんと茶野隊が危ない。

「新型はわたしがやるから、茶野隊は東さんの所に」

 言いかけたその時、近くにあったビルの上から、弾が降り注いできた。煙が晴れてそこに居たのは、赤い隊服──嵐山隊だ。

「とっきー!」
「羽純、前見て前」

 仲良しの友達が来たことにテンションが上がって、ついトマホークなんて使ってしまったけど。ダメージがあった方の新型は嵐山隊、とっきーに前見てと言われた方の新型はダメージなんて全く蓄積していない真新しい方だ。

「そんな、七々原先輩だけでですか!?」
「──羽純は、強いよ」

 三雲くんの驚いた声、とっきーのわたしへの信頼の声。全てが、心地いい。羽月からアステロイドを、左手にはキューブのアステロイドを出して、合わせる。

「ギムレット!」

 わたしのSEである大気変動を利用して、ギムレットを──そのままの威力、速度で、腹に──。そして横に、羽月を一閃。完全に沈黙したことを確認して、とっきーの方に振り向いた。

「とっきー、准くん、藍ちゃん、こんにちは」
「絶好調だな、羽純!」
「こんにちは、羽純先輩」

 今日も嵐山隊の顔はいい。うむ。