眠りにつく煌めき


 双子の兄のことが嫌いだった。努力して、努力して、努力して、どうにかあいつに追いつこうと思ったのに、いつまでも追いつけなくて。あいつが面白そうだってボーダーに入るから、俺もあいつを追い掛けてボーダーに入ることにした。あいつは凄い勢いでC級からB級へ駆け登り、挙句の果てA級の隊にまで入ってしまった。アステロイド、メテオラ、バイパー、ハウンド。トリオン量こそ俺の方が多かったけど、コントロールはあいつの方が上手かった。悔しかった。狙撃も、俺には向いてない。やっと攻撃手に辿り着いて、B級二人をいっしょに緊急回避させられるようになった頃には、あいつはもう、合成弾なんか編み出していて、ナンバーワン射手の二宮さんに頭を下げられていた。

「たすけて……おにいちゃん……!」

 任務があった。女の子を助けようとした。足は動いた、気合いもあった、けれど。

「たすけて……!」

 俺の足は間に合わなくて、女の子は、居なくなった。足の止まった俺の代わりに、少し遅れて、アステロイドが打ち込まれる。あいつだ。兄だ。────天才肌の、出水公平。

「俺、……俺は……」
「何ぼさっとしてんだ知歳! 早くトリオン兵の所行って倒してこい!」

 例えばそこで、俺を心配してくれていたなら。例えばそこで、女の子の心配をしてくれていたなら。例えばそこで、そう。もう少し優しい言葉を掛けてくれていたなら。俺は、もうちょっと、頑張れたのに。

「緊急、回避」
『ベイルアウト』

 最後に残ったあいつの驚いた顔は傑作だった。久しぶりに胸がすいた。でも。

「俺に、戦闘員はもう無理だ」
「戦闘員が無理なら、オペレーターなんかどう?」

 知らない声に、ふと振り向く。いいや知らない声なんかじゃない。有名人だ。銀髪にグラデーションの瞳。古株の、本部所属。七々原、羽純だった。

「オペレーター……俺が?」
「君は頭がいい。加えてトリオン量も類まれ。平行して思考するのは得意じゃない? そんな君はうちにピッタリ。今までオペレーターはわたしが兼任してたんだけど、そろそろ頭がこんがらがってきちゃったから。どうかな、……出水知歳くん」

 出水弟、ではなかった。俺の、俺だけの名前を呼んでくれる、俺の。


 俺の、光=B

「っ、知歳さん!」
「おーおー、来たな? 諏訪隊。諏訪さんを寄越せ」

 いつの間にか、開発室に歓迎される存在になった。うちの隊のトリオン量は基本高い方だ。隊長の七々原が21、旬が12。俺は元々鬼トリオンとかなんとか呼ばれてたが、32。玉狛のトリオンモンスターも居るから、今はトリオンモンスター予備軍らしいが。開発室で解析用のトリオンを貸して、自らもそれを解析するということを続けていた結果だろう、と思っている。それが今、俺の光の役に立っているのなら、万々歳だ。
 俺の光≠ヘ七々原で、七々原の光≠ヘ赤坂さんと太刀川さんだ。そんな赤坂さんの唯一無二である諏訪さんをキューブにされて、七々原はさぞ遺憾だろう。お前の分まで、俺が。お前の光≠フ唯一無二を、俺が。

「俺が、元に戻してやるよ」