寂しい花奈さん(20)


 最近、彼の事を考えるだけで顔が熱くなる。
 こんな私は彼になんか見せられない、なのに、またあの感覚が襲いかかるんだ。
 私を罵る幾多もの声が、私を否定する私の声が。
 いやだ、いやだよ、やめて。
 それでも、声は止む気配がなく大きくなる。
 こわい、こわい、こわい。
 でも、あなたに助けを求めたら、真っ赤な私を見られてしまう。
 そんな私が「たすけて」なんて言ったら、あなたはきっと私を拒むだろう。
 目に見えてる結末だ、あなたに拒まれるくらいなら、何も思われずに死んだ方がずっと幸せなのだから。

 どさり。
 もういやだ、ひとりはいやだ、こわい、こわいよ。
 嫌われたくない、裏切られたくない。
 寒い、悲しい、寂しい。
「こんな私でも、たすけてよ……神様。」
 涙はまた、流れなくなっていた。

「花奈さん、久々にお酒飲む?」
「大丈夫。」
 愛するあなたに嫌われたくないから。
「最近、花奈さんがいなくて寂しいなぁ。」
「……そう」
 私だって寂しい、でも嫌われたくない。
「もしかして、照れてる?」
「そんなわけない」
 逃げなきゃ、逃げないと、こんな私見られたくない。
「ふふ、こんなに顔赤くしちゃってる。」
 ふいに目を逸らす、どうせ目を合わせたら傷ついてしまうのだから。
「花奈さん?」
 名前を呼ばれる度に切なくなる、こんなにも大好きなのに。
 あなたは私をどう思ってるの?
 教えて、教えて。
「……お酒、飲もっか。」
「…………嫌だ。」
 本当は飲みたい、飲んで全てを話したい、話してほしい。
「大丈夫だよ、俺は花奈さんを嫌いにならないから。」
「本当に?」
「うん、こんなかわいい子嫌いになれないよ。」
 なんで、そんな言葉を信じてしまったんだろう。
 なんで、それを喉に流し込んでしまったんだろう。
 結果なんて、目に見えてるのに…………。

「…………」
 強いアルコールが身体中を回り、ふわふわとした感覚に襲われる。
 久々の温かさに、私はなぜか涙を流した。
「寂しかったね、ごめんね。」
「なんれ……あなたが謝るの?」
 呂律まで怪しくなってる。
「思う存分泣いていいよ、甘えていいよ。
もう、1人じゃないんだから。」
 私はしばらく、彼に抱きつき大泣きしてしまった。
 ようやく泣きやんだところで、またお酒を飲む。
「お酒、美味しい?」
 余裕が少し出来たのか、甘い香りを楽しんだ。
「……うん。」
「よかった、花奈さんが嬉しそうで。」

「…………ほんろぉに、きやいにならないの?」
 酔いは回ってるのに呂律は全然回ってない、甘えたいからか距離を少し近づける。
「もちろんだよ、嫌いになんてなるわけない。
むしろキスしたくなるくらい大好き。」
 胸が熱くなる、私もあなたとキスがしたい。
 私はじっと、彼を見つめる。
「したいの?」
「……したい。」

 ……二人はちゅっと唇を重ねた。
 この瞬間で、時が止まればいいのに。
 私は耐えきれずに抱きしめると彼も私を抱きしめた。

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