こっそり一人酒


 今日は無性に酒が飲みたかったのか、空になった缶が並ぶ。
 視界もダブってるし俺もさすがにこれ以上はやばいと思ったのか立ち上がろうとするが、平衡感覚をほぼ無くしたのかすぐにどさっと崩れ落ちてしまう。
 まぁ、涼が寝てるのをこっそり見計らって飲んだ天罰がくだったのだろう。
 瞼も重く、頭もかなりマヒしてるらしくそれが眠気に感じてしまう。
 ともあれ匍匐前進でもなんでもいいから、布団に向かわないと涼に怪しまれる…………空の缶は涼が起きる前に始末すればいいし、潰れるなら潰れていいからベッドで潰れてくれ。
 この手はあまり使いたくなかったのだが、俺はふよふよと浮きなんとか寝室へ辿り着く。
 そっとドアを開けベッドに向かうとそこには目を開けて俺を待つ涼がいた。
「花奈さん?どうしたのこんなに酔っ払って……」
 俺は逃げようとしたが涼に手を掴まれる。
 そして、そっと背後から抱きつかれ、身動きを取れなくすると自分のベッドに酔い潰れ寸前の俺を座らせたのだった。
 涼は隣に座りふらふらしてる俺を見て少し困ったような笑顔をした。
「──眠そうだね、花奈さん。」
「うん…………ねむ……いぃ……」
 涼は怒ってる気配を見せずに、こっくりこっくりと眠りそうになってる俺を見てくすくすと笑う。
 少し安心した俺は涼の膝に倒れ込み、涼の顔を下から見た。
「気持ち悪くない?大丈夫?」
 そこは大丈夫だと言おうとしたがふにゃふにゃとした呂律の回らない喋りで返してしまう。
「大丈夫なら良かった……。」
 ほっとした顔の涼は、すっかり赤く熱くなった俺の頬に手をあてる。
 高熱になってたのか、普段は温かい涼の手がひやっこく、気持ち良く感じた。
 それが顔と右目に出ていたようで、涼は両手で俺の頬を挟んだと思いきやふにふにとしてくる。
「今回は花奈さんのほっぺをふにふにの刑で許してあげるよ。
でも、今度そうなったら……酔いが醒めた後に恥ずかしくなるくらい甘えさせるからね?」
 罰になってないじゃないかと思いつつ冷たい水を喉に流し込んだ俺は涼に頭を撫でられながらゆっくりと眠りに落ちた。




 ────やってしまった。
 本当なら1杯で止めるつもりがかなり飲んでしまった。
 まだ酒が残ってるのかふらふらと洗面所に向かう。
 鏡にふと視界を移すと案の定、だるそうな顔だった。
「まぁ……あんだけ呑んだらそうなるよな……。
うぅ、今日が休みで良かった……。」
 地に足をつけるのすら面倒くさい。
 酒が消えるまでの辛抱だと言い聞かせ、ふよふよと浮き始める。
 やはりこれが本来の状態なのか、今まで小走りに近いペースだったのをゆるめに戻すくらい、いや今までアスファルトの上を立たされていたのが布団の上で寝転がるくらい楽になる。
 歩くのは嫌じゃないし好きなのだが、二日酔いの時は楽をしたい思いがどうしても先行する。
 涼に甘えたい気持ちは山々だが、こんな状態になるくらいなら酔い潰れ寸前になるまで飲まない方が吉だろう。

 ──あぁ、こんな憂鬱な気分を紛らわすためにも一刻も早く──恥ずかしくなるくらい──涼に甘えたいよ。

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